episode9 革命道中
読んでいただきありがとうございます。
次の日もいい天気だった。
あれから羽澄君を捕まえようと何度も試みたものの、朝の登校時も休憩時間ももうそこには羽澄君の姿は無く、でもちゃっかり授業中はちゃんといて、仕方がないからお昼休みに思い切って屋上まで行ってみたものの、高見沢君すら見つからず、私絶対避けられてるって思ったら余計に意地になってくるのだけれど、やっぱり午後の授業は眠くなって、放課後こそは絶対に捕まえてやればいいか、今はこの心地よい陽気と今日は男の先生の催眠術のような声に身を任せて――。
その時突然前の席にいた女子生徒、木村さんが机を思いっきり叩きながら立ち上がったから思いっきり目が覚めた。
「い、嫌っ、やめて‼」
彼女は両手で顔を覆い隠すようにしながら、教室の一番前の席まで駆けて行き教壇の前を横切ったかと思うとそのまま一番前のガラス窓に頭から突っ込んだのだ。
先生が止めるのも間に合わず、ガラスの割れる音と、クラス中の悲鳴が上がる中、木村さんの体は外へと落ちてしまった。
一瞬の出来事だった。
ここは二階、窓に駆け寄り下をのぞくとその子は教室の真下、中庭に倒れていた。
私達が教室を出て中庭についたころにはもう、事故を知った他の先生や生徒たちであふれかえり現場は騒然となった。
いったい何が起こっているのか、やじ馬たちの間から見えた彼女は、駆け付けた保険の先生に介抱されて、どうやら命は無事な様子だったが。
見たところ顔に大きなけがをしているらしい、自分の血ならともかく、ひとの血を見るのが苦手な私は思わず顔を背けてしまったけれど。
やがて救急車がやって来てその子は運ばれていった。
このあとはもう授業にならなかった、しばらくしてパトカーがやって来た。
「それで、木村さんは突然立ち上がったのね?」
「は、はい……」
「それまでの様子に何か怪しいものは感じなかったのね?」
「はい……」
当時の様子を再現するのだという事で、自分の席に座ったまま女性の警官に優しく事情聴取というものを受けている私。
もちろん他のクラスメイトにも話は聞いてはいるのだけれど、席がすぐ後ろだという事で特に私には念入りに話を聞いている様子だった。
ただでさえこの非常事態、クラス中に動揺が広がっている中で、お巡りさんと話をするなんて初めての事だし何も悪いことをしていないはずなのに緊張する。
だからあえて女性の警官なのだろうけど、それに私の一言で何か事件解決の糸口が見つかるかもしれないというこの状況なのに私は何も答えられなかった。
だって、その瞬間まで私の意識は夢の中で……。
私からも何も解らないと悟った女性警官は最後に優しくありがとうと言うと、彼女が落ちたその窓から下をのぞき込んでいた男性の私服刑事さんに近付き話しかけていた。
ガラスは完全に割れてしまい今はもう窓枠しか残っていないが、ガラスはかなり頑丈に出来ていたはずだ、そこに頭から突っ込んだかと考えるだけで恐ろしい。
あとは、憔悴しきった様子の先生のかわりに校長先生から今回の事に関しての注意事項を聞いて私たちは解放された。
夜のニュースでは、誤って転倒して転落したという不幸な事故として報道していた。
でもあの時はどう見ても自分から突っ込んで行ったように見えた。
何で警察はそんな発表しかしないのだろう、もしかしたら世間を騒がせて学校の評判を落としたくない教育委員会とかいう組織からの圧力なのか。
もしかしたら陰で何か陰謀めいた事でも行われているのだろうか、どう思う?なんて思いのたけをたくさん東山君にラインで送ったら 既読はされるものの返事がない、東山君も相当冷たい奴。
次の日登校すると、いつもと変わらないクラス、でもなんだか空気が重い。
前の席は空いたままだ。
担任の先生が、昨日の木村さんの様子を話してくれた、今はまだ集中治療室にいるが一命はとりとめた、皆は心配しなくていい、直ぐに良くなるから、そう説明しただけで普通に授業が再開された。
何かおかしい彼女に何が起こったのか。
何かが起こったことは間違いない。
「ねぇ、何で昨日のライン無視したのよー」
羽澄君を捕まえるのをあきらめた私は、今度はお昼休みに自分の席でお弁当片手に過去問を広げている東山君に詰め寄った。
「ライン?」
詰め寄ったのに東山君ってば過去問から視線を落としたまま気のない返事を返してきた。
「そうよ、昨日だけじゃない一昨日もよっ、いっぱい送ったでしょ⁉返事くらいくれたっていいじゃない‼」
眉間にしわを寄せながら私の話を聞いていた東山君は、ため息をつきながら中指で眼鏡をクイってすると、カバンからスマホを取り出し画面を開いて見せてくれた。
「もしかしなくとも、ここに書かれてある『東谷な君』とは、俺の事か?」
「はぁ?」
それは一昨日からの私が東山君に送ったラインの画面。指さした場所には確かに『東谷な君』との文字が。東山君と打ったはずなのに。
「そ、それくらいの間違い誰だってあるじゃない……それくらい理解してよ」
「『もしかしたら境界がいい愉快が組織がりがりもしかしたら組織ながらの圧量なのかしらもしかしたら陰で何か陰法ほい持ってがことでもあるのかしら♪』って、何だこれは?」
続けて送った文章も読み上げてくれる東山君だったが、何それ何の呪文だと画面を見せてもらったら、確かに私が送ったやつだ。
「もしかしたら教育委員会とか言う組織がもしかしたら圧力をかけているのかそれとも陰で何か陰謀めいた事を……」
「解るかっ!」
正解を語る私に向けて東山君の怒号が響く。
「もう一度自分で読み返してみろ、君からのラインは理解不能だった、誤字脱字変換ミスだと理解したうえで解読しようとしても難解な単語、主語述語のまったく存在しない支離滅裂な文章、いや文章にすらなっていない文字の羅列。挙句に最後に『どう思う』と聞かれても俺は何と答えればいいのか、もしこれが入試問題に出たとすれば全員不合格間違いなしだ」
「そ、そこまで言わなくても……だって、言いたいこといっぱいあったし、思うこともいっぱいあったし、だから勢いで文字を打って確認せずそのまま送っちゃったことは認めるけど、そこまで怒んなくったっていいじゃない」
「先に怒っていたのはお前だ」
「だからゴメンて」
文章が駄目なら今ここで思ったことを話せばいいじゃないとばかりに、ラインでは伝わらなかった思いのたけを話して聞かせた、東山君は静かに聞いてくれた。
「お前はしゃべりも支離滅裂だな」
「何でよ」
「教育委員会はともかく、この学校が陰謀に巻き込まれてるとか宇宙から侵略されるとか、何だそれは?」
「あ、私、宇宙人の侵略とか言ったっけ?」
「……もしこの俺が世界的に優秀な安楽椅子探偵だとしても、お前みたいな助手がいたら、事件は永遠に迷宮入りだな」
「安楽死探偵?」
「……頼むから俺をこれ以上イライラさせないでくれ」
イライラはともかくとして、言いたいことは全部話せた、私の考えは伝わったように思う。
「とにかく今日の放課後は何としてでも羽澄君を捕まえてやるから東山君も協力してね、もし羽澄君が駄目なら高見沢君を人質にとってもいいから」
こうなったら東山君も巻き込んでやる。
やがてお昼休み終了のチャイムが鳴る、騒いでいた他の生徒たちも各自自分の席に着き始める。
私も、東山君に放課後の事くれぐれも頼んだわよと念を押してから自分の席に戻ろうとしたその時、ふと怪しい視線を感じた、何だろうと思って振り返ると、同じクラスの内藤さんが私をじっと見ていた、ような気がしたけれど、目が合う瞬間ふいと顔を逸らされた。
内藤さん、私の斜め前の席に座り、普段からあまりなじみがない子だった、おさげで黒縁眼鏡でいつも自分の席に座って静かに本を読んでいる子だったし目立たない存在だし。
なんで今内藤さんの視線を感じたんだろう、気のせいかな?
ともかく無事午後の授業が終わって、帰りの支度もそこそこにパラパラと散らばり始める生徒たちの中からターゲットロックオン!
「捕まえたわよ羽澄君!」
今まさに教室を出ようとした瞬間だった、制服の袖口を捕まえて離さない私を、羽澄君はものすごく迷惑そうな顔で見下ろす。
私はすかさずスマホをかざした。
「ライン交換しよう!」
「持ってない」
「じゃぁ家の電話番号教えて」
「いやだ」
私の腕を振りほどいて廊下へと消えようとする羽澄君、逃がすまいと追いかける私。
「待ちなさいよ!」
徐々に早足になる羽澄君、負けじともっと早足になる私。
玄関先の靴箱の前で再び捕まえる事が出来た。
「私の話くらい聞いてよ、この間からの池下君や木村さんの事件、羽澄君なら何か知ってるんじゃないの?」
「知らん」
「何でよ、東山君の時は助けてあげたじゃない、今回もちゃんと助けてあげてよ!」
「俺は何も知らん、そんな事でいちいち俺を巻き込むな‼」
びっくりした、あの無口でクールな羽澄君が怒鳴っている。
「ひ、人助けしようって言ってるのに何怒ってるのよ!」
でもここで負けるわけにはいかない。でも靴を履き替えて去ろうとする羽澄君を追いかけるハズが、自分はまだ靴を履き替えるのを失念していた、急いで履き替えるのにもたついて上手く履けない、このままじゃ逃げちゃう。
「まってよ、羽澄君ってば!」
「確かにこいつの行き過ぎた突拍子もない言動は目に余るものがあると思うが、俺は俺でこの間助けてもらった礼もしたい、俺に協力できる事があったら言ってくれ何でもするぞ」
羽澄君の前に立ちふさがる格好で玄関前に立っていたのは、東山君だった。
「何だ今度は東山まで、俺は話す事なんてないぞ」
それでも東山君の横をすり抜けて出て行こうとする羽澄君を今度は私が捕まえた。靴もちゃんと履いたしもう離さないわよ。
「このまま何もしないで放っておいたら、ほかにもひどい目に合う子が出るかもしれないじゃんよ!」
「だからって何でお前らに話す必要がある?」
「話す必要があるかどうかは、お前の話を聞いてからだ」
「そうよ、羽澄君が一人で何とかしようとしているんだったら私達まで巻き込んでくれたっていいじゃない」
私だけじゃなく今回は東山君も味方になってくれた、これは大いに心強い。
「そうしないと、こいつが本能と好奇心の赴くまま勝手にうろちょろして、最悪の結果になるとも限らない」
「どういう意味よそれぇ!」
味方だと思った東山君にデスられた。
「思ったことを言ったまでだ」
「確かに、それは最悪だ……」
羽澄君まで、私を何だと思ってるのよ全く……東山君の時もそうだったけど、勝手に動き回られるとそんなにウザいの⁉
「もう、いい加減諦めなよ冬夜」
その時後ろからかわいらしい声がした、その声は高見沢君だ、私たちの話をずっと聞いていたのか、ニコニコしながら立っていた。
「はーい冬夜に凜ちゃん、それとおかまのお兄ちゃんも!」
「その呼び方はよせ、俺の名は東山丈一郎だ、おかまではない」
「うん、僕の名前は高見沢夏樹、夏樹って呼んでねヒガ先輩」
「ヒガ……」
高見沢君ったら、こんな頭いい秀才君を前にしていきなりヒガよばわりして、やっぱこの子将来大物になりそうだわ。
「冬夜だって、一人でどうしていいのか解らなくなっていたんじゃない、今回は凜ちゃんだけじゃなくて、頭のいいヒガ先輩まで協力してくれるって言ってるんだから」
「ちょっと待て冬夜の弟、ここはちゃんと東山先輩と呼ぶべきではないのかね?」
「えー、せっかく友達になれたのに堅苦しい呼び方より楽しい方がいいじゃない、何ならヒガぴょんって呼んでもいいけど?」
「ヒガぴょん……」
あまりにも可愛くて似合わなさすぎて思わず吹き出しそうになったら、隣にいる羽澄君も同じように吹き出しそうになっていた。私たちものすごく失礼なクラスメイトだね、面白いから許して。
「分かった……好きにしろ」
ヒガぴょん効果絶大。って何の話。
読んでいただきましてありがとうございます。
今、外はすごい雨です。各地で災害のニュースを耳にするたび心が痛みます
皆様もどうかご無事で。




