episode10 My Way
読んでいただきましてありがとうございます。
次の日のお昼休み、私たちは屋上で高見沢君と落ち合った。
メンバーは私と東山君と、結局高見沢君に丸め込まれて私たちの協力を得る形となった羽澄君。
今日もいい天気だ、五月の風はまだ心地よいけれど日差しは昨日よりもきつくなった気がする、もうすぐ死ぬほど暑い夏がやってくるぞと、空が脅しをかけているようだ。
私たちは日差しから隠れられる場所を陣取りお弁当を広げながらまずは今までの事をまとめてみた。
池下君は、突然誰かに操られるように体の自由が利かなくなったと言っていた。
という事は木村さんが突然窓から転落したのも誰かに操られたものだとする可能性が高い、犯人は同じ奴の仕業とみていいだろうと羽澄君は言う。
「人を操るとか、そんなこと出来る人がいるの?」
「知らん」
私の問いかけは羽澄君はいともあっさり返された。
「だが可能性は無いとも言い切れない、強力な力を持つカメムシなら、あるいは」
「という事は、その……俺に取り憑いていたあのカメムシが、誰かの体に入り込んでその体を媒体にして池下や木村さんを操ったという事か、そんなことができるのか?」
「正確には東山に取り憑いた奴はあの場で駆除されてしまったから、少なくとも同じやつではないが、その同等か仲間である可能性は高い」
「正体は解らなかったの?」
「お前が踏んづけて殺したからな」
「酷い、私が悪いみたいに言わないでよ」
あの後あの靴は余りにも臭くて洗っても匂いが取れなくて、母にも小言を言われて結局捨てちゃったわよ。
「見た目も中身もただのでっかいカメムシだったもんね」
高見沢君が無邪気に話すが、あの時の状況を思い出して気持ち悪くなった、でもお弁当のから揚げは美味しい。
「池下が突然暴れ出したときは、またあのカメムシが乗り移ったのかと思ったが、どちらかというと凜が東山の気に中てられていた時みたいだった」
「私の?」
私が、おかしなことになっていた東山君と目が合った時に、背景が紫っぽい世界になったあの時の事、確かあの時も羽澄君に背中を押されて助かったんだった。だから池下君も助かったのね。
「じゃぁ、カメムシに操られている人も、気配とかで解るんじゃないの、東山君の時みたいに?」
私のその言葉に、羽澄君は少し顔をしかめ、そしてしばらくの沈黙の後、静かに語り始めた。
「……正直に話すが、東山に何かが取り付いていただなんて判らなかった、最後まで何も感じなかった」
「へー?」
「教室に入った時、凜の体に不気味な紫の煙のようなものがまとわりついているのが見えた、得体の知れない変な気に中てられているのだと思って、それくらいなら俺でもその気を祓う事は出来たが、あのあと詰め寄られるまで東山の異変に気付かなかったんだ」
「そうなんだ、何だか意外」
「冬夜は、目に見えるものにはとことん強いけど、隠れちゃったものを感じるのは苦手なんだよね」
「じゃぁ、私が東山君の異変に気付かなかったら、もしかしたら東山君はただの女装趣味子さんだと思っただけかも?」
「その可能性は高い」
「それはまことに不名誉な事だ」
あの時の東山君の姿を思い出してみるが、やっぱりものすごく似合っていない、気が付いてあげてよかった。
「凛のおかげで、東山自身にとんでもないことが起こっているのは理解できたが、それが何なのかは実際この目で見るまでは何をどうしていいのか解らなかった、だから凜を危険な目に合わせてしまったのだが……」
「あぁ、東山君に押し倒されたこと?もう全然気にしてないよ」
「……俺も本当に記憶が無かったとはいえ、申し訳ないと思っている」
「東山君まで、分かってるから気にしないで、私も東山君の事何とも思ってないから」
「それはありがたい」
「お互いの気持ちが分かったところで凜ちゃん、凜ちゃんは今回は何の異変も感じないの?」
「ぎく」
前回、東山君の異変に気付いたのは、そういう意味でのいわゆる霊感が働いたわけでも超能力があったわけでもなかったのだ。だから誰かが何かに取り憑かれてるかもと思ってクラスのみんなの様子を思い起こしてみたものの、全く見当もつかない。
「これ以上期待してやるな、東山の時はたまたまこいつが馬鹿だっただけだ」
「失礼ね、その馬鹿のおかげで東山君女装事件が解決したんじゃない!」
「そんな不名誉な名前を付けるな!」
その時、お昼休みをの終了を告げるチャイムが校内に響きわたった、さぁ早く戻らないと、私も立ち上がってパンパンした時、足元に一本のボールペンが落ちていることに気が付いた。誰のだろう、拾い上げてみると軸の茶色い木目調の立派なペンだった、見るからに高そう、男子たちはもう階段の手前まで行っており、高見沢君が私を呼んでいるのが聞こえる。
私も足を速めて男子たちの元に急ぐ、落としたのはきっとあの三人の中の誰かだ、早く渡して五時間目の授業に備えなきゃ、今日は英語だ、前回の――
「しまった!宿題やってない‼」
大変だ大量に出ていたんだ!完全に忘れてた!
あきれ顔の男子たちをおいて全力で教室に戻っても、時すでに遅しだったことは言うまでもない……。
放課後になった、今日は何事も無く無事に過ぎた。
英語の授業で玉砕した私は、先生からさらに倍の宿題を申し付かり、しかも明日までにやって来いと。
これはすぐに帰ってやっつけないと好きなテレビが見れない。クラスに漂う怪異現象の事も気にはなるが、早く帰って宿題をしなきゃいけないと羽澄君に訴えると、東山君も勉強のために図書室に行きたいと言っていたし、今日は何も起こらなかったから大丈夫だと思うと言われて、今日のところはこれで解散となった。
じゃぁまた明日、と校門で羽澄高見沢兄弟と別れてしばらくしてから気が付いた、どさくさに紛れて制服のポケットに入れたままになっていた立派なボールペン。
どうしよう、あの二人の物だったら、今から走れば二人に追いつく、明日でもいいのかもしれないが、返せるときに返しておかないと無事明日忘れずに渡せる自信が私には無い。
来た道を少し戻って右に進路を変えるとあの二人の帰り道。
いたいた、仲よさそうに話をしながら歩いているよ、そんな二人の後姿を見た私の胸を可愛いいたずら小鳥がついばんだ。
後ろからそっと近づいて脅かしてやろう。
電柱の柱に、門扉の影に、路上駐車の車の影にコソコソと隠れながら脅かすチャンスをうかがっていると、高見沢君の声が聞こえてきた。
「ねえ冬夜、今度その、堕ちてケガしたって言う女の子のお見舞い行かない?」
すると羽澄君は、すこし渋い顔を高見沢君に向けている横顔が見えた。
「お前は気にしなくてもいい、その話はするな」
「でもせめて顔の傷だけでも!」
「駄目だ‼」
思いっきり怒っている、ただのお見舞いに何をそんなに怒ることがあるんだろう。
「でもそれじゃぁその子がかわいそうだよ、顔の傷なんて一生消えないんだよ?女の子なのに」
「駄目だと言ったらだめだ!お前は二度とその力を使うなと言ったはずだ!」
仲の良い兄弟みたいな二人なのに、すごく怒っている羽澄君が怖いと思って、ここはもう話しかけずにこのまま帰ろうかと思った時、お約束通り一歩下がった左足が何かを踏んづけて、私の存在が緊迫した二人にバレることになってしまった。
「どこから聞いてた?」
「えっと、ここで……」
「場所の話じゃない!俺達の話どこから聞いていたんだって聞いてるんだ‼」
「え、っと、お見舞いに行くとかどうとか」
「忘れろ!」
「へ?」
「いいから今の会話すべて忘れろ!お前もその話はするな!」
「凜ちゃんは悪くないだろ、そんなに怒らなくてもいいじゃないか冬夜ぁ」
「夏樹は黙っていろ……頼むから」
忘れろと言われて忘れられるものでもないよ、もうこの兄弟意味わかんない、お見舞いに行きたいなら行けばいいじゃん!
去ってゆく二人を見送りながらだんだんと腹が立ってきたよ、この間身を挺して協力したってのに酷い、何であそこまで突き放されなきゃいけないの、と思いのたけを東山君にラインしたらまた既読無視だよ。
どいつもこいつももう、知らないんだからっ‼
お腹もすいてきたし、意味わかんないしプリプリしながら家路を急いでいると。
「アー、チョットイイデスカァ?」
後ろから声をかけられた、ふんわりした長めの青い髪を後ろで束ねて、オレンジのシャツにピンクのジャケットと赤いパンツ姿の背の高い男性だった、年はいくつくらいかな、よく似た感じのいとこの兄ちゃんが三十代前半だから、きっとそのくらいだろう。
「コノ近くにバス停はアリマスカァ」
変な片言の発音、どこかの国の人かな、服のセンスも凄いし。
「バス停なら、ココを真っ直ぐ行って三つめの角を曲がると、やまぶき歯科って大きな看板があるからそこの近くにあります」
「オウ、コレハ親切ナおねいさん、ドモアリガトウ」
腕を握りしめて感動してくれた。
そのあとは別れを惜しむように何度も何度も振り返って、三つ目の角を曲がっていった。
何だ変な人……。
読んでいただきましてありがとうございました。
小説を書くというのは本当に楽しいです。




