episode11 鬼と化し
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変な人のことは置いといて、今日もさわやかな朝になりましたよ。
宿題もちゃんとやって来たし、これで怪しげな術を使う犯人が分かればいいんだけどな、なんて思いながら教室に入ると、私の机に上に何やら小さな紙切れが。
ノートの端を手でちぎったような紙、何か書いてある。
シャーペンで書かれた、きれいな字だ。
『昼休み 一人で 体育倉庫の裏に来い』
「……」
果たし状⁉
もしかして私、決闘を申し込まれた?
誰だろうと教室を見回して、ふと視線を感じたような気がする。何これ恐い、思い思いに楽しそうにしゃべっているクラスメイト達。
うわどうしよう、どの子もその子も犯人に見えちゃう、笑っているように見せかけて、心の中で私のことを睨んでるかも、そんな気味の悪いモヤモヤが教室の中に充満している。
どうしよう、冬夜と東山君に相談しようか、いやいやダメダメ、二人はカメムシに操られた犯人も捜さなきゃいけないのに、こんなところで私の決闘を応援している場合じゃないはず。
よし、こうなったら自分で何とかしよう。
とはいっても決闘って、何するんだろう。
口喧嘩はしたことがあるけれど、リアルガチの喧嘩はしたことが無いよ、スポーツだって自信ない、もちろん学力で勝負しても負けは見えている。
どうしよう、見なかったことにしてバックレようか。
ダメダメ、そのあとの反撃が怖いわ。
こうなったら、何とか話し合いで解決するしかないわ。
あれこれ考えているうちにお昼休みになった。
「凛子ぉ、今日お弁当食べに、保健室に行くよ、一緒に行こ!」
げ、こんな日に限ってお誘い、最近ずっと行ってないから行きたいなぁ、洛ちゃん先生のお手製マカロン食べたいなぁ……いやダメダメ、今日はこれから私、クラスの誰かと決闘に行かなきゃなの。
「ごめん、今日はちょっと用事があってダメなの、また今度誘ってねぇ」
そう言って、ちらりと羽澄君と東山君の様子も伺ってみたが、特に何の反応もないので、よし、いざ出陣‼
校舎内はたくさんの生徒で賑わっていたが、薄汚い体育倉庫の裏手に来るとそこはもう静かで、遠くに聞こえる喧騒が逆に物寂しさを感じる。
雑草を踏みながら決闘の相手が来るのを待つ、いや、願わくは誰も来ないことを祈りつつ、でもその願いは、近づく足音にかき消された。
うわぁ、マジで来たよ、どうかこわもて番長みたいな怖い人じゃありませんように、と祈りつつ振り返るとそこには一人の女子生徒。
大きな眼鏡に肩まで伸びるおさげ髪。クラスの人だと思うけど、この人は確かえっと……。
「内藤、さん……?」
内藤さん、そう、内藤さんだ。普段からあまり関わったことのない人だけど、いつも静かに目立たない場所にいる人だけど、でも果たし状をくれたのは、内藤さんってことなのね?
私の前で立ち止まった内藤さんは、まっすぐ私を見据えてきた。
睨まれてる、その目が怖いんですけど。
「あ、ああの、私に、その、何か用、なの?」
穏便に済まそうとして、近づいてくる内藤さんに優しく声をかける、とたんに眉間にもしわが寄る、何怒ってるの、ますます怖いんですけど。
「私から高橋君を取らないで」
「は?」
「私知ってるのよ、高橋君が、あなたのこと好きなの」
「へ?」
「あなたさえいなくなれば、高橋君は私のもなのに」
「ちょっと待って意味がわからない、なんでそういう思考になるのよ」
弁解しようとしたその瞬間、いきなり突風が吹いた、私の周りにだけ竜巻が起こったかのように、激しい風圧が私を襲う、やばい、スカートがめくれる‼
両手でスカートのすそを抑えようとしたが、その時にはもう内藤さんの伸ばした手が私の首を締めあげた。
「あんたさえいなくなれば‼」
何が起こったのかわからず、とりあえず何とかその手を振りほどこうとするものの、内藤さんの手が強すぎてびくともしない。
「お前さえいなくなれば!」
息ができない、これ本気のやつだ、やばい!
首がグッと持ち上がっていく、つま先立ちになってしまう、内藤さんにこんな力が、と思ったら、内藤さんの背後からいくつもの黒い手が見える。
私の首を捕まえているのはこの黒い手だ、この手どこかで見たことあるような。
「あんたなんか死んでしまえばいいんだわ!」
無理無理無理、まだ死にたくないよぉ、誰か‼
意識が遠くなりかけて、まぶしい光に目がくらむ、首の力が緩くなった。
あぁ、もうここは天国なのね、神様が私を迎えに来てくれたのかしら、お母さんごめんなさいあなたの娘は、あなたの考えているような破廉恥なことを何もできないままこの世を去りますざまぁみろ。
と思ったとたんに、お尻に衝撃が走った、思い切り地面にお尻をぶつけたようだ、痛い。
お母さんに、ざまぁ!なんて言ったから地獄に落とされたのかしら、これぞまさに天国から地獄。
「何を言っているのか知らんが、大丈夫か神谷?」
「あぁ、地獄に東山君にそっくりな鬼がいる」
東山君に似た鬼は、尻餅をついている私を見下ろしている、バカにしたような目がむかつくんですけど。
更に「大丈夫か!」と言いながら駆け寄ってくるのは羽澄君にそっくりな――。
「って失礼ね、ここが地獄じゃないってことくらい、バカな私でも解るわよ!」
思わず二人に怒ってしまった。
「それより何よ、助けるんだったらもっと早く助けに来てよ、もう少しで死んじゃうところだったんだから‼」
「だったら、どこへ行くかをちゃんと俺たちに伝えてから行くんだな、お陰で校内をあちこち探す羽目になった」
東山君に言われてハッとなった、もしかして本当に探しに来てくれたんだ、こっちは理不尽な八つ当たりみたいに怒っちゃったというのに。
「お前が弁当を置いてどこかに行くなんてよっぽどのことだと思ったからな」
羽澄君の減らず口にも腹が立たない、さっき内藤さんの背後に見えたあの光は、内藤さんを止めるために放った破壊光線だったんだ。
当の内藤さんは、ちょっとびっくりしただけのように見えるが、お陰で助かったんだ。
「その、ごめんなさい、二人ともカメムシの犯人を捜すのに忙しいのに、勝手な行動して」
しおらしく謝ってみた。
「何を言ってるんだ、カメムシに操られている本人なら今目の前にいるではないか」
「嘘~ん!」
東山君にそう言われて、相変わらず恐ろしい目つきでこちらを睨んでくる内藤さんを改めて見る、内藤さんがカメムシに操られているなんて信じられない。
「だって、内藤さん眼鏡してるじゃない!」
「「馬鹿かお前‼」」
目を真ん丸にして驚いた表情の東山君と、眼を細くしてあきれた様子の羽澄君、二人の声がハモった。
「な、何よ二人して、そんなバカバカ言わなくてもいいじゃない!」
「馬鹿だから馬鹿と言ったまでだ、内藤の変わりようは、誰の目にも明らかだ」
東山君が眼鏡をクイッと上げる、奇麗に伸びた中指がむかつく。
「そう言われれば、確かに、内藤さんの体から、東山君の時みたいに、黒い手みたいなのがいくつも出てたけど……」
「それもカメムシに操られている証拠だろうが!」
「危ないっ‼」
二人の会話を遮るように、羽澄君の声が響いた、見ると内藤さんの体が宙に浮き、私に向かって黒い手を勢い良く伸ばしてきた。
羽澄君にタックルされて、何とかよけることができたけど、黒い手は地面に大きく突き刺さ去っていた、あんなのに刺されたらもれなく死んじゃう。
黒い手を地面から引っこ抜いている間に、何とか立ち上がった私たちに第二波が襲い掛かる。羽澄君に手を引かれて何とかよけることができたものの、内藤さんは空中に浮いたまま私を睨みつけて、黒い手はそう簡単に逃がそうとはしてくれなさそう。
あの目は完全にイッちゃってる目だ、怖い。
「随分と人間離れした動きをするんだな」
「言っときますけど、羽澄君だって随分人間離れした人間だと思うわよ」
呑気なことを言っているが、私の膝はもう限界だった、
「下がってろ、凛」
私を一歩下がらせて羽澄は、腕から出した光を剣の形に変え、襲いかかる内藤さんの腹にその剣を突き刺した。
剣は内藤さんの体をつらぬき背中を貫通する、そしてその切先には、いつぞやに見た大きな黒いタマムシ、じゃなかったカメムシが刺さっていた。
剣はそのまま光が蒸発するように消え、内藤さんの体は地面に崩れ落ちた。
「内藤さん‼」
思わず駆け寄る、ケガの具合は、傷は?
抱き起こすと青白い顔になって完全にぐったりしている。
大変な事になった、羽澄君が人を殺したとか。しかも学校で。
「何も殺す事無いじゃない!」
「殺したわけじゃない、中に巣食っていたカメムを刺しただけだ、傷口が塞がればすぐに目が覚めるだろう」
「そうなの?」
あ、ホントだ息があるし傷口がみるみる治っていく。
「随分と人間離れした動きをするんだな……」
東山君が、驚いた表情でこっちを見ている、そうか、羽澄君の破壊光線を初めて見るんだ。
光の剣みたいなのをブシューって出して、一気にカメムシを串刺しに……って。
「だったら東山君の時も最初からそうしたらよかったじゃない、囮になったり押し倒されたりとか、結構怖い目にあったってのにぃ!」
「あの時は奴の正体がわからなかったから、どうすれば倒せるか解らなかったんだよ、東山と対峙して初めて、敵の特徴とか倒し方が分かったんだ、許せ」
「それにしては随分と雑な倒し方になったのね」
「雑とかいうな、豪快と言え」
ぐったりしていた内藤さんが目を覚ました。
「あ、あれ……ここは?」
「安心して、ここは学校だよ」
内藤さんの優しい目はもう誰も睨もうとしない、よかった。
詳しい説明は後でゆっくりするからと、とりあえず内藤さんを保健室に連れて行ってあげた。
保健室にはやっぱりみんないて、洛ちゃん先生と一緒にお弁当を広げてワイワイやっていたけれど、内藤さんが貧血で倒れちゃったと言ったら、みんなで心配して、みんなの看病を受けて、ようやく休ませてもらえることになった。
去り際に羽澄君が内藤さんだけにそっと。
「よかったら、放課後にでも、少し話がしたい、いいか?」
「え、で、でも……」
少し不安気な様子の内藤さんだったが、私も一緒だから大丈夫だよ、というと、安心したようにうなずいてくれた、よかった。
内藤さんは五時間目が終わるともう、元気な姿を見せてくれた。
読んでいただきましてありがとうございました
凜ちゃんのお弁当友達はみな、仲が良くて、もしクラスで虐めなんぞあろうものなら、団結して撲滅して、いじめられた子もいじめた子も、みんな仲良しに巻き込んじゃうような、そんな理想的で愉快な女子たち設定にしてます。
そんな風に導いたのは、保健室の洛ちゃん先生なのよ。




