episode12 Little Little Voice
読んでいただきありがとうございます。
放課後、また例のごとく夏樹ちゃんとお勉強するという体で、居残りOKとなった私。
早速お昼休み食べ損ねたお弁当をつまみながら、羽澄君と夏樹君東山君以外誰もいなくなった教室で、内藤さんの話を聞くことになった。
話によると、公園で一人でいるところに、見知らぬおじいさんがやってきて、小さい箱を差し出したという。
気味が悪くてその場に置いてきたところまで東山君の時と全く一緒だ。
「内藤さんもそのカリなんチャラのせいで開けちゃったのね?」
卵焼きもぐもぐ。
「かり……なんちゃら?」
「お前はもう喋るな」
うぅ、ふりかけの塩分がしみ込んだご飯もおいしいのに。
内藤さんの場合は、カバンを開けた拍子に、置いてきたはずの箱が転げ落ちて、そのはずみで蓋が開いたのだそうな。
拾おうとした時に中身が見えた。
「まるで箱の中に真っ暗で広い宇宙が広がっているみたいだった、その宇宙の中に赤い点が二つあって」
そこのところまで東山君と一緒だ。
「でも、そこから先の記憶がないの、なんだか紫色みたいなもやもやした気味の悪い世界にいるみたいで、あれからもう何日もたってるのよね……?」
「そうだな、池下の時からだと、丸三日以上は経っているかもな」
「そんなに……」
「内藤さんは、ずっと眼鏡かけていたし、女装もしなかったから、分かんなかったんだよね」
お弁当美味しかった、
「り……神谷を狙ったことに何か心当たりはあるか?」
「そ、それ、は……」
羽澄君の質問に、少し言葉を濁すようにうつむく、心当たりといえば、さっき何か言っていたようだったけど。
「さっき言っていた高橋君って?」
「え、高橋、くん……?」
内藤さんの顔が真っ赤になる、やっぱり高橋君が絡んでいるんだ、内藤さんには記憶が無いというけれど。
「高橋がどうかしたのか?」
羽澄君の躊躇ない質問に観念したのか、内藤さんは下を向いたままボソボソとだけど話してくれた。
内藤さんは、高橋君に片思いしていたのだった、でも内気な性格のせいで、告白どころか近づいて話しかけることすらできないでいた、でも、思いだけは募っていく。
「そんな時、親が信仰している宗教の教団から、どんな占いもよく当たるという水晶玉を買って来たというので、こっそり占ってみたの」
高橋君が好きなのは誰――と。
すると不思議なことに、水晶玉の表面にうっすらと文字が浮かび上がる。すべてを読み取ることはできなかったが、うっすらと読み取れたのが『 みや りん 』の文字。
「へぇ、宗教って、占いで何でもわかるんだ」
「宗教にもよると思うが」
何気ない私の感想に東山君が突っ込む。
「うん、親が勝手にやってるだけなんだけどね、カメムシみたいなのをシンボルにして拝んでるの」
カメムシ……なんか最近どこかで見たことあるような……。
「なるほど、それで神谷凛子だと思ったわけか、なら聞くが、池下と木村には心当たりがあるのか?」
「池下君と木村さん?」
カメムシを無視した羽澄君の躊躇ない質問が続く、そうだ、内藤さんはまだこの二人に何があったかは知らないんだ。
内藤さんはしばらく考えて、全く心当たりがないと答えた。
「池下君と木村さんに何かあったの?」
「内藤さん、実はね――」
池下君と木村さんの事を話しておいたほうがいいのかもと思い、口を開きかけた私を、東山君が遮った。
「同じ経験者でもある俺から話そう」
そう言って、この三日間に起きたこと、池下君と木村さんの身に起きたことを、包み隠さず話した、もちろん東山君自身の身に起きたことも、そしてその時自分はどういう状態だったかもすべて。
「私のせいで、池下君が、それに木村さんも怪我を……」
落ち込む内藤さんを慰めるかのように、羽澄君が言った。
「それは内藤さんが気に病むことではない、悪いのはすべて己の中にとりついた変な虫のせいだ、俺たちはその虫の正体を探っている、良かったら協力してもらえないか」
「えっ⁉」
「ええぇっ⁉」
一つ目の「え」は内藤さん、そして二つ目の「えぇ」はこの私だ。
「ちょっと何、私には散々かかわるなとか言っておいて、内藤さんには最初から協力しろ下さいって何それ、差別ぅ‼」
「うるさい、こうやって実害も出ている……俺の手だけでは負えなくなってきたんだ、部外者がギャーギャー騒ぐな」
「部外者って何よ、私がいなかったら何にもできなかったくせにぃ!」
「お前のおバカ行動に振り回されてもいたけどな!」
「おバカって何よ、バカで悪かったわねぇ!」
「あぁ、バカだからバカって言ったんだ、バカにはもう用はない!」
「まぁまぁ、凛ちゃん落ち着いて、冬夜も言い過ぎだよぉ」
夏樹ちゃんが止めに来たけど、バカバカと連呼されて私の腹の虫は収まらない、どうしてくれようこの馬鹿羽澄。
「あ、あのぉ」
そんな中内藤さんが口をはさんできた。
「私、その、協力しろと言われても、何をしていいかわかんないし、羽澄君や東山君のこともあまりよく知らないし……だから、神谷さんがいてくれると、その、心強いかな……って」
さすが内藤さん!
「ほら見なさいよ、私だってこんなに役に立っているじゃないのよぉ!」
内藤さんの肩に手を回して、大威張りで高笑いしてやった。ざまぁみさらせ、神谷凛子は最強なのよ。
「よっ、凛ちゃんかっこいい!」
そんな私に、夏樹君が調子を入れる、さすが夏樹君!
「……勝手にしろ」
羽澄君がそっぽを向いて、悔しそうにつぶやいた。それを見てふと肝心なことを思い出した。
「っていうか、高橋君って誰?」
その場にいた全員がずっこけたことは言うまでもない。
「羽澄の前の席に座っている奴だ、いい加減クラスの顔と名前を憶えてやれ」
あきれ顔の東山君に言われて思い出した、いつぞやの、初めて羽澄君に話しかけた時、ここ俺の席って言ったチャラい系男子⁉
記憶をグリングリンと巡らせてみたけれど、後にも先にも、彼と話をしたのはそこだけだったような気がしますけど⁉
「まったくもって眼中になかった」
そんな私を見て安心したのか、内藤さんが「くすっ」と吹き出した、そして今まで溜まっていたものを吐き出すように、吹っ切れたように笑い出したのだ、半分涙も混じっているけれど、だからつられて私も一緒になって笑う。夏樹君も笑った。
「占いなんて、しょせん占いよね……」
涙を拭きながら笑う内藤さんは可愛い。
その日はここで解散となった、東山君はもう少し勉強してゆくといって図書館に行ったので、帰り道は途中まで内藤さんと一緒だ。
二人で歩いていると、内藤さんが言った。
「ねぇ神谷さん、その、木村さんの怪我ってどのくらいなの?」
あぁ、やっぱり気になるよね。
「うぅん、私もよくわかんないけど、体の方はもうしばらくの入院で大丈夫みたいなことは聞いたかな……」
「そう……」
「気になるんだったら、お見舞いに行こうよ!」
「うわびっくりした!」
後ろから突然声をかけられた。いつの間にか夏樹君が私たちのすぐ後ろに立っていた。
「ど、どうしたの、夏樹君」
「びっくりさせてごめんね、でも前から気になってたんだ、僕だけ一人行っても怪しまれるからさ、一緒に行ってくれると嬉しいな、病院もこの近くだし、行こうよ」
「え、でも羽澄君は?」
「冬夜の事なら大丈夫だよぉ、今のうちに、行っちゃおう!」
夏樹君てば、凄く張り切って今にも私たちを引っ張って駆けだしそうだ、そういえば、以前その話で羽澄君と喧嘩していたんじゃないのかな?
でも、お見舞いに行くのは悪いことじゃない、近くだというし、内藤さんも、もちろん私も心配していたからちょうどいい機会だ。
私たちは行くことにした、木村さんのお見舞い。
読んでいただきましてありがとうございます。
東山君家は、サラリーマンのかなり出世コースにいるお父さんと、自宅の一室でお料理教室を開いているお母さん。
東山君自身は長男で、下に同じ顔した三人の弟妹がいて、末っ子で小学生の妹が、ご近所の凜ちゃんのことが大好きで、大人になったら、凜ちゃんみたいになると言っては、兄を悩ませている。
という設定を、今思いつきました




