episode3 NEW
読んでいただいてありがとうございます。
教室に着くと、きのう、何事も無かったかのように東山君が自分の席に座っている、入って来た私にも見向きもしない。
羽澄君もいた、相変わらず自分の席に座って静かに窓の外を見ている。
いつもの光景だった。
昨日の事は無かったことになってるよ。
それならそれでいいけど、私には何も関係ないし、もう関わりたくないからもう無視してやる。
宿題のノートだって、売店のコロッケパンを条件に写させてもらったから完璧っと。
そうして何事も無いまま無事に学校での一日が過ぎてゆき、いつものように下校時間になった。
東山君に何があろうともう私には関係ない、羽澄君のことだってもう知らない、そう思いながら玄関で靴に履き替えていると、突然可愛い声に呼び止められた。
「ちょっと待って、昨日のお姉さん!」
お、お姉さん?
ビックリして振り返るとそこには一人の男子生徒が立っていた。
「あ、えっと、昨日の……?」
可愛いクリクリお目目の可愛い、少々くせっけの茶髪君、昨日あの時最初に助けに来てくれた男の子夏樹君だ、人懐っこそうな雰囲気をかもし出しながら心配そうな顔を向けてくれる。
「昨日はびっくりさせてゴメンね大丈夫だった?」
なんて素直で可愛いんでしょ、私の事一切無視して無かった事にしようとしていた羽澄君とえらい違いだわ。
「ええ、もう大丈夫、ありがとね」
「そう、よかった」
にっこりと笑った顔も可愛い。
この子は何者なんだろう、羽澄君とどういう関係なのかな、まさか弟って事は無いよな、いくらなんでも。
「あ、ゴメンね、まだ名前聞いてなかった、僕は一年D組の高見沢夏樹よろしくねっ!」
あ、苗字が違う、やっぱ兄弟にしては似さなすぎだと思った。
「私は、神谷凛子」
「へぇ、凜ちゃんていうんだ良い名前だね」
先輩に対していきなりちゃん付け。
「昨日冬夜に名前を尋ねたんだけど教えてくれなくてさぁ、やっぱ女の子の名前を言うのって恥ずかしいのかなぁ、冬夜ってば照れ屋さんなんだから」
「て、照れ屋さんって……」
高見沢君は屈託なく笑うが、クラスでも孤立しているクールでボッチな羽澄君の事だ、私の名前なんて覚えてなかったんだきっと。
高見沢君とは途中まで帰り道が一緒だった。
私より背が低くて小柄な高見沢君、歩くたびにフワフワと揺れる髪と時折私を見上げるまん丸な目がかわいらしい、これは女の子だけじゃなく男にもモテそう――イヤイヤ何考えてんのよ私。
思わず頭に浮かんだ雑念を打ち消すようにフルフルと頭を振ってから改めて高見沢君を見た、前髪を掻き分けた右手に巻かれた包帯が痛々しい、昨日東山君に付けられた傷だ。
「高見沢君こそその手、大丈夫なの?」
「あ、これね、もう大丈夫だし只のかすり傷だってのに、冬夜が大げさに包帯巻くもんだからさ」
照れくさそうに笑うが、その包帯は羽澄君が巻いたって事なの?すごく綺麗に巻かれてるんですけど?
「高見沢君って、羽澄君とはどういう関係なの?」
「へ?」
キョトンとした顔をされた、え?何?何も知らないことがそんなにおかしな事なの?
「あー、冬夜から何も聞いてないのか、ま、そうだよなー」
「うん何も聞いてない、って言うか会話すら一切ないし」
「冬夜とは今一緒に暮らしてるんだ」
「一緒に?」
こんなかわいい子とクールな陰険イケメンが同棲だなんて、お姉さん、つい良からぬ想像をしてしまいそうよ。
「冬夜が小さい頃に、両親が事故で死んじゃったんだって、それで僕のお父さんが引き取ったんだよ」
僕のお父さんは冬夜のお父さんにすごくお世話になったんだって、と高見沢君は言う。
「へー、そうなんだぁ」
でもあの堅物で根暗な奴と一緒に住むって、大変なんじゃないかなぁと思っていると。
「でも冬夜はすっごく優しくしてくれるから僕は本当のお兄ちゃんみたいに思ってるんだ、今日も心配そうに包帯巻いてくれたし」
「ぶ……」
思わず吹き出しそうになった、ブラコン⁉羽澄君ってばもしかしてブラコンなの⁉
夏樹君のケガを心配しながらきれいに包帯を巻いてあげている羽澄君、いつものボッチクールで冷酷な彼からはちょっと想像できないんですけど。
「何がおかしい」
「ひやぁっ!」
すぐ後ろで声がしたのでびっくりして振り向くとそこには、例のブラコン兄貴羽澄君、いつも以上に不機嫌そうな表情で私を見下すように立っていた。
「うわ、出た!」
「人を化けもんみたいに言うな、夏樹もこいつに関わるなと行ったハズだぞ!」
「えー、だって心配だったんだもん」
「昨日も言った通り、こいつは単純な奴だから飯食って寝たら今日はもう元気になっただろ!」
「うん、本当にそうだったから安心したよ」
あ、何気に酷い兄弟だぁ。
「でも冬夜だって凛ちゃんの事心配してたじゃない」
「え?」
「な⁉」
「だってあの後、凜ちゃんと別れた後もちゃんと玄関まで帰れたか心配で後をこっそりつけたんだから」
「はぁ?」
別れ際、こんなとこまで送らせやがってとか言っておきながら、何こいつ⁉
「ば、馬鹿夏樹、お前!」
顔を真っ赤にしている羽澄君とは逆にいたずらっ子のような天使の笑顔で「だってホントの事だもぉん」なんて可愛い高見沢君、何この可愛い生き物二人――。
今日はもう家まで送ってくれなくても大丈夫だし、じゃぁ、僕たちこっちだからと言う高見沢君と羽澄君と別れて、私は一人家路に急ぐ。
羽澄君って、とっつき難い性格で気難しい奴だと思ってたけど、弟思いだし意外に優しいところもあるし、男前だし結構いい奴じゃね?それにこいつ友達少ないみたいだから、そんな羽澄君の意外な顔を知ってるのは、クラスでも私だけなのよねきっと。
なんだかちょっと楽しくなってフフフ~ンなんて鼻歌まで出て来た、つられてカバンを振りまわしたらはずみで、路上に止めてあった車にボコンと当ててしまった。
うわぁ、大きめのいい感じの黒塗り車だよヤバイヤバイ、傷とか入ってないかしら誰にも見られてなかったかしら、ゴメンナサイ逃げろ!
焦って逃げたら、向こうに見知らぬ女の人が立っていた。
「‼」
一瞬、この車の持つ主なのかしらん!となったが、この女性――。
赤い長袖ワンピース、真っ赤な口紅にこれでもかと太くて青いアイラインに、どピンクなチークというまるでマジックで書いたのかと思うような派手派手お化粧に、黒い長い髪が凄―く不自然に頭に乗っている、脛から下はがに股だしすね毛が濃ゆい!
そんな恰好で誤魔化しているようだけれどすぐに解るその顔はどう見ても東山君だった。
「なっ、何してんの⁉」
声がひっくりかえったくらい驚いたというか、昨日はおかま語であんな事があって、今日は完全におかま姿になって何なのよそれ、全然似合ってないよこいつ何考えてるの!
すると東山君は、薄気味悪い笑顔を見せて、強引に私の手を掴んできた。
「ちょっ、何、離して‼」
「昨日は逃がしちゃったけど、今日は逃がさないわよ」
東山君がキモイ、捕まれた腕が痛い、振りほどこうにも解けない、それどころか雑草まみれの空き地に連れ込まれて強引に押し倒された。
「だ、誰かっ‼」
助けを呼ぼうにも口を押えられて上手く声が出せない。
昨日はHPを奪われてフラフラになったのに今日は貞操の危機て、そんな私悲惨過ぎる悲しすぎるー。
東山君が覆いかぶさってきた、黒い長い髪が顔にかかる、無機質な作り物の髪なのにまるで生き物のように纏わりついてくるのが気持ち悪い、その上ビジュアルがこんなだから尚更怖い!
口をふさいでいた腕を解かれたものの、恐怖で声が出ない。
「あんたの若さを私に頂戴――」
同い年のくせに何言ってるのよ!なんて抵抗する事も出来ないまま東山君は私の顔のすぐ目の前で大きな口を開けて迫って来る、やだ、喰われる‼
思わず目をギュウっとつぶったその瞬間、私を押さえていた腕の力が抜けて体が不意に軽くなった、何事かとそっと目を開けると目の前に東山君の顔がゆっくりと降りてくるかのように近付いて来て。
そのまま私の顔を素通りして、ぐったりと倒れ込んだ。
「?」
後頭部に大きなたんこぶ、そこからプシュゥ~と煙が立ってる。
助かったのかしら⁉
恐る恐る顔を上げると、そこに羽澄君が立っていた、角を突き出すように通学かばんを持って。
やっぱり助けに来てくれたの、でもどうしてと、聞きたい事はいっぱいあったけれど、羽澄君はそんな私を蔑んだような目で見降ろした。
「いい加減にしろよお前」
やっぱり羽澄君は可愛くない。
「あれほど関わるなと言ったはずだ!」
「わっ私だってもう関わりたくなかったわよ、でも東山君の方から、急に押し倒して来たんじゃない!」
「だが無抵抗で無防備だったのはお前だ」
今回のはあまりにも理不尽じゃない?私はもう関わりたくないって思っていたのに。
「誰も助けてぇなんて言ってないけど……一応礼は言うわよ」
なんか腹立つけど、助かったわけだし、そう思って精一杯の感謝の気持ちを言ったつもりなんだけど羽澄君はそんな私を横目で見た後プイットと顔を逸らし背を向けられた。
何その態度ムカつく‼人がせっかくお礼を言ってるのに~
「お前、こいつに気があるのか?」
羽澄君は、カツラも吹っ飛んで黒いワンピースがめくれ上がりみっともなくうつ伏せで倒れたままになってる東山君を、親指で指さしながら私の方を振り向いて言った。
「あ、ある訳ないでしょ、こんなオカマ野郎‼」
東山君とは幼馴染だけども、仲良しかと言われればそんなこともなかったし、そういう気になったことは一度もないし、そんなこと考えた事すらなかった、しかも今回の事でそんな気になる事はたぶん恐らく一生ないだろうと此処で誓える。
すると羽澄君は私にずいっと近付いて。
「だったら付き合え!」
前髪の隙間から見える羽澄君の目がギラリと光った。
「はい?」
読んでいただきありがとうございました。




