episode2 エンジェル
読んでいただきありがとうございます。
頑張ります。
そうなのよ、東山君の事は小さい頃からの付き合いで彼の事なら何でも知ってるんだからね。
小さい頃の東山君は背も低くて弱っちい男の子だった、小学校に上がって集団登校でもみんなに付いて行けず、一人遅れて泣きながら歩いている彼の腕を引っ張って一緒に登校した事もあったっけ。
さすがに小学校も高学年になると一緒に過ごすことも少なくなってきたけれど、相変わらずチビでいじめられていた頃もあった、そんな弱虫東山君も中学から高校にあがるにつれて身長もぐんと伸び、それに合わせるかのように態度も急に成長して気が付くと成績優秀の真面目な堅物君になって、今はもう東山君をいじめるやつはいないだろう。
今回の私が見た天井グルグルの紫な世界は何だったのかしら、只の勉強疲れでは説明がつかない、何かとんでもない事が起こっているのかもしれないって思う。
東山君に何があったのか、この私が付き止めてやろうじゃないのよ!
先ずは放課後、帰宅部な東山君の後を付ける、尾行といっても私の家とはすぐ近くだしずっと同じ方向だから何も問題ないけれど。
いつものように、ただ帰り道を歩いているように見えるかもしれないけれど、でもぼんやりと歩いて元気が無い、いつものスタスタと歩く東山君じゃない。
住宅地を離れ、家もまばらになり人気のない道をひたすら進む、元気は無いがただ歩いてるだけじゃん、ただ歩いてるだけの東山君をただ見てるだけの私って一体……。
尾行しようなんて張り切ってみたのはいいけれど段々つまんなくなってきた、こっそり監視して何があったか探ってやろうなんて私の性分じゃなくってよ、いっその事直接話しかけて問い詰めてやる、それで何か悩みでもあるっていうなら、ぱぁ~っと解決してやろうじゃないのよ。
そう思って声をかけようとした時だった、東山君は急に進路を変え右の道に入って行った、そっちは帰り道じゃないのに。
何事だろうと急ぎ足で後を追いかけて角を曲がると、そこに東山君が立っていた。
「げ!」
私が後を付けていたのを知っていたのか、待ち構えるように、腕を前で組んで私を見下すような目をして立っていたのだ。
「あ、あの……ええっと」
変な汗が出た、その眼付が怖い、思わず後ずさりかける私に近付いてきたかと思うと突然腕を掴まれてその体を引き寄せられ、他人様の家の塀に背中を押し付けられた、突然の事だったのでビックリした、顔が近い。
「後を付けるような真似をして、何のつもりかしら?」
――……ら?
今の何、オカマ語⁉それによく見るとさっきまでのぼんやりした様子から変わって、口角がにやりと上がって瞳が怪しく光り、妖艶なオーラまで漂わせている。
逆に怖い!
「ちょ、離して!」
力一杯抵抗しているのに、凄い力で腕を掴まれて離れてくれない、東山君ってこんなに力強かったんだ。
掴まれているのと反対の手で思いっきりひっぱたいてやろうとしたら、その手を振り払われて今度は頬を掴まれた。
「あなた、若くて本当に美しいわね」
「はひ?」
褒められたけど、嬉しくない、頬が痛い!
「その美しさを永遠にものにしたくはなぁい?」
頬を掴む手に力が入ってグリグリと締め上げられた、口をぶにゅっとされてこれじゃぁせっかくの美人が台無しじゃない!
「い、いいれふ、あらひは普通のおばぁひゃんになりまう」
口がくちばしになったから上手くしゃべれなかったけれど、何とか伝わったのか頬の手が少し緩んだ。
「そう、それは残念ね」
表情も少し和やかになって、これで解放されるかと思ってほっとしたら。
「だったらあなたの若さをちょうだい‼」
一気に目が吊り上がって今まで見た事も無い表情になったかと思うと、頬を掴んでいた手で今度はお腹を掴まれた。
「‼」
一歩間違えればセクハラ行為だよ‼なんていう隙も与えてくれない、東山君の手が少しぷっくりしたお腹の肉ごと胃袋までねじりこまれ体の中から何かを搾り取られるような嫌な痛みと感覚に襲われた。
「ちょっ、痛っ、離して……」
抵抗しようにも力が入らない、体の力が抜けてゆくような感覚に襲われる、何が起こってるの⁉
ヤバイ怖い。
「誰か……助け……」
足に力が入らなくなって、立っていられなくなる。
「その子から離れろ‼」
なんだか遠くの方で声がしたかと思った次の瞬間にはバチン‼と目の前で何かが大きくはじけたように私の体はバランスを崩してよろけてしまった。
「あいたた……」
痛むお尻をサスサスしながらうっすら眼を開けると、もうここには東山君の姿は無く、道の向こうに飛ばされたかのように倒れていた。
何が起こったのか解らないけれど、倒れていた東山君がゆっくりと起き上がろうとしている、
立ち上がった東山君がこっちを向いて睨み付けた、私は足がすくんで動けない、やばいかもしれないと思った瞬間、誰かが私の前に立つ背中が見えた。
夕日の逆光で誰なのかよく解らないけれど風になびくブレザー、その制服はうちのだ、同じ学校の男子生徒なのかしら、よく見たら東山君の足元に通学用のカバンが地面に投げ出されて中の教科書たちが散乱している、どうやらこの人が東山君に向けて勢いよくカバンを投げつけたらしい。
「誰?」
「大丈夫、ケガは無い?」
ちょっとハイトーンで可愛い初めて聞く声かも、その声の主はそう言いながら少し振り返っただけで、もう東山君の方に向いていた。
「ケガは無いけど、足に力が……」
何とかして立ち上がろうとしたが足がふらついて思うように力が入らない、ここから少しでも離れないといけないのに。
ええ、逃げるわよ、逃げますわよ。
壁にもたれた体勢で何とか立ち上がる事は出来た、見知らぬ男子生徒の背中に庇われるようにそのままゆるゆると逃げようとした足元で、何かが破裂したような衝撃が。
「きゃっ‼」
驚いてまた尻もちを付いてしまった。
「大丈夫⁉」
男の子が駆け寄ってくれたが、目の前で何かがスパークしたように突然眩しくなり思わず目を閉じてしまった。
足元に来たような衝撃は無かったものの、聞こえて来たのは庇ってくれた男の子の軽いうめき声、驚いて目を開くと右手首を押さえている彼が。
手の甲から腕にかけて押さえている左手の指の間から血が滲みだしている。
「ちょっと、血が出てんじゃん大丈夫なの?」
急いでカバンからハンカチを出そうとしたが、ハンカチは何処だ、確か此処に入れたハズなのに指先が震えて上手く出せない。
「だ、大丈夫だから、僕に触らないでっ‼」
「え?」
触るなときつく言われて、背中に振れそうになった指先を思わず引っ込める、だけど触るなって何?
尋ねる間もなく、東山君がこっちに向かってゆっくり近付いて来る。
顔色がどす黒くなって真っ赤になった目も口も吊り上がり、いつもの東山君じゃない、恐い。
右手の傷口からはまだ血がにじみ出て地面にいくつもの血痕が。
「東山君もいい加減にしなよ、この子ケガしてるじゃない‼」
しかし東山君は聞いちゃいない様子だった。
「今の彼に何を言っても無駄だよ、完全に憑りつかれちゃってるから」
「へ⁉」
憑りつかれ、って、何に?
やっぱ、お化けか何かに?
そんな事を聞く間もなく男の子は東山君に首を抑えられ、つるし上げられてしまった、小柄だからすぐに足が地面から浮き上がって。
「ぐっ――」
苦しそうなうめき声が彼の口から洩れる。
やばい、やられちゃう!
「夏樹‼」
そう思った瞬間、また違う誰かの声が聞こえ、その方向から何かが飛んで来て、東山君の腕に当たって弾けた。
東山君の腕を離れて、地面に崩れ落ちる男の子に駆け寄ったのは知った顔だ。
「羽澄君⁉」
羽澄君が何でここに?
「大丈夫か夏樹‼」
羽澄君は夏樹と呼ばれた男の子に、寄り添うようにしゃがみ込むと、ゲホゲホと苦しそうに息を吐きだしている彼の背中をさすってあげている、しばらくすると呼吸も落ち着いて来たのか大きく息を吐くと。
「ありがとう冬夜、もう大丈夫だよ」
元気な顔を見せた。
「ってお前、ケガしてるじゃないか‼ちょっと待ってろ‼」
そう言って羽澄君はポケットからハンカチを取り出して腕に巻いてあげている、こんなに動いている羽澄君初めて見たかも。
「ちょっと、何がどうなってるのよ!」
私の事も少しは心配しろ、こっちだって足に力が入らないし何が起こったのか解らなくて頭の中が混乱してるんだから。
すると羽澄君は私の方を向き、今まで以上に厳しい表情を向けられた。
「奴には関わるなと行ったハズだ、おまけに夏樹にまでケガさせてどういうつもりだ、好奇心旺盛なのも大概にしろ‼」
「――は?」
何で私が怒られなきゃいけないのよ。
「ケガさせたのは東山君の方でしょ、何で私が……」
そういえば東山君の姿が見えない。
「奴なら逃げた」
「だったらなおさら悪いのは東山君の方じゃない、私だって被害者なのよ‼」
私の訴えも聞いてくれず、羽澄君は散らばったカバンの中身を丁寧に集めカバンにしまうと、夏樹君の体を支えるように立ち上がっていた。
「帰るぞ、夏樹」
おい、無視かよ。
「ちょっと待って、私を置いて行く気なの?」
私だって足が震えて上手く立つことだってできないのに。
「お前は奴にHPを吸い取られただけだ、家に帰って飯食って寝たらすぐに全回復する、心配するな」
「あ、そうなんだ、じゃぁ大した事は無――」
って、何だそれ!
何よHPってゲームのしすぎじゃないの⁉吸い取るとかって意味わかんないよ。
「だからって今こんな場所に置き去りにしないでよ!」
この扱いの差は何?
「そうだよ、僕の事は大丈夫だからせめて家まで送って行ってあげようよ」
「でも夏樹……」
「この子だって一応か弱い女子なんだから」
あ、夏樹君も何気に酷い。
「……仕方ないな」
「仕方ないじゃないでしょ、男子だったら一応か弱い女子を助けるくらいの事はして欲しいわよね」
羽澄君は軽く舌打ちして、へたり込んでいるわたしに手を差し出してくれたので、なんとか立ち上がる事が出来た、でもまだ全身だるくてヘロヘロだよ。
「おんぶしてやろうか」
「自分で歩けますっ!」
一応か弱い女子なんだから、羞恥心くらいあります。家まではまだ距離があるけれど、必死の思いで何とか歩いた。
「これに懲りて、もう余計な事に首を突っ込むんじゃない」
「解ってるわよ、私だってもう二度とあんなひどい目にあうのはゴメンだわ‼」
ここまで来れば家はもうすぐそこだと言って二人と別れて家路につく。
あぁ今日は散々な目にあった、めちゃくちゃ疲れた、お腹空いた、夕飯までまだ時間あるのに。
玄関のドアを力なくそっと開ける、中から煮物のいい匂いがした。
「ただいまー」
「おかえり凛子、遅かったじゃない」
うわ、帰り道の途中で東山君にかかわっちゃっただけで遅いって言われたよ。
「どこ行ってたの?」
エプロン姿にお玉を持ったままの母は私と時計を見比べて質問攻めにする。
「どこ行ってたの」「何で遅くなったの」「何していたの」「誰と一緒だったの」「何考えてるの」母はいつもそうだ、ちょっと友達とタコ焼き屋に寄ってしゃべくったり、本屋で寄り道したりするだけで遅いだの何があっただのとしつこく聞かれて正直嫌だ。
今日は何処にも行ってないよ、学校帰りの道をいつも通り帰って来ただけだよ、そこでちょっとあーいう事があっただけで……。
どーでもいいジャンそんな事何でそんな事まで報告しなきゃいけないの。
それで反抗すればしたで母の小言が始まる。
めんどくさいなぁ、私だって友達と学校帰りにスタバに行ってもいいじゃない、ちょっと買い物に行ってもいいじゃない。
しかし、今日のことはどうだろう、帰り道に東山君に襲われてHPを奪われた処に見知らぬ男子生徒とクラスメイトの羽澄君に助けられたと正直に言っていいのかしら、それで母は「それは大変だったわねぇ」っていうと思うか?納得するのか?「何訳のわかんない事言ってるの大体あんたは(以下割愛)」と終りなき小言が始まるに決まっている。
「そんな事よりお母さんお腹空いた~今日のご飯は何?」
「ちょっと、話はまだ終わって無いわよ」
私的には始めたつもりは無いけれど。
とにかく今はお腹空いてるの。
お父さんは今日も帰りが遅いらしい、ずっと帰りが遅い、下手すると帰って来ない日もある、だからお母さんもいつも機嫌が悪い、お父さんが家に居たら居たでいつもお酒呑んで酔っぱらってウザいから居なくていいけど、おかげでお母さんの小言が私に向かうのだけは勘弁してほしいよね。
「そんなに食べると体に悪いわよ」
ご飯三杯目をお替わりした私にまたブチブチ、だってこっちはHPを取られてお腹空いてるんだもん。
「ほら野菜もちゃんと食べなさい」
幼稚園児じゃないんだから、ちゃんと食べてるよぉ!
「そればっかり食べないで他のも順番に食べなさい」
好きなんだからいいじゃない、あぁもううるさいなぁ。
「はいはい、ご馳走様」
こういう日は口答えせずさっさと風呂に入って寝るのだ。
「宿題はちゃんとやったの?」
あぁもう、うるさいなぁ。
うるさいのは無視する。
ご飯を食べたおかげで少しは回復できたHPをこれ以上減らしたくはない、明日出来ることは明日すればいいじゃん、宿題だって明日ノートを見せてもらえばいいのだ。
それにしても、今日の東山君といい、助けに来てくれたあの男の子、それから羽澄君、あれは一体何だったんだろう、指先から破壊光線だなんてホント馬鹿げてる――……。
お布団に横たわって目を閉じて、再び開いた時にはもう朝だった。
おかげですがすがしい朝を迎えた。
HPも完全復活。
よし、今日も素敵な一日の始まり~
読んでいただいてありがとうございました




