episode4 ファイト
読んでいただいてありがとうございます。
雨が降らないので、お庭のお花の元気がないです。
でも雑草はなんであんなに元気なんだろう。
次の日も教室ではいつも通りの光景が広がっていた。
あの後、羽澄君に付き合えと言われてびっくりして、じゃぁ明日なと言われて曖昧に返事して、うやむやのまま家に帰った。
東山君をあのまま置いてきたことに後から気付いたけれど、今はまた何事も無かったかのように席に着いている、それはそれでいいのだけど、問題は羽澄君の方。
付き合えって言われた、あの羽澄君に。
いや、確かに顔はイケメンの部類に入るし悪くはない、好みかと問われれば悔しいかな好みだよ、性格だってあのつっけんどんで根暗で陰気な見た目の割に結構情に厚いところもあるし弟思いだし、そういうギャップも悪くはないよ。
羽澄君が私の事そういう目で見ていたことも、そこは正直悪い気はしない、でもそれで私は好きかと言われればそれはちょっと待ってまだ心の準備が。
昼休みになった。
昨日帰り際「明日の昼休み屋上に一人で来い」と言われていたので覚悟を決めて一人お弁当箱を抱えて屋上へと続く階段を登る。
教室を出る時羽澄君はもうすでにいなくて先に行って私を待ってるのだろうか、とは言っても気持ちはまだ揺らいでいて、なんて返事をすればいいのか答えに辿り着けないでいる。
こういう時は何て言えばいい、まずはお友達から、なのか?良いのかこんな曖昧な気持ちのままで返事をしても……。
心臓の鼓動が早くなる。
ドアを開けるときにはもう、うるさいほどのドラムロールが。
「凜ちゃーん、こっちこっち!」
屋上の扉を開けると、なぜか高見沢君の元気で可愛い無邪気な声が聞こえたのでそっちを見ると、二人ですでに弁当を広げて座っていた。
「遅いじゃないか、すぐに来いと言っただろ⁉」
「あ、うん」
「無理言わないの冬夜、女の子は色々とする事もあるんだから、ねっ凜ちゃん⁉」
「うん」
「さぁさぁ、凜ちゃんもここに座って、でも嬉しいなー凜ちゃんが協力してくれるなんて」
「うん……」
「目の前を勝手にウロチョロされたら邪魔になるからな、だったら俺の言うとおりに動かしておく方がましだ」
「もう、冬夜ったらぁ、すぐそういう冷たい言い方するんだからぁ、凜ちゃんも気にしなくていいからね?」
「……うん」
はいはい、どーせアホですよ私。
付き合えって、東山君の異変を解決するのに付き合えって事なのよ、友達同士で言う「ちょっと買い物付き合って~」とか「今からご飯に付き合って~」とか「一緒にトイレに~」とか、そういう類のものだった、ええ知ってましたとも。
「でもやっぱり冬夜は凜ちゃんの事が気になってたんだね、昨日だって凛ちゃんと別れた後学校に忘れ物したから先に帰ってろって言うもんだからさ、そっか、こっそり凜ちゃんを助けに行ってたんだねー」
「な⁉」
マジですか羽澄君、やだもうなんだかんだ言ってやっぱり私の事気に――
「ばーか、忘れ物を取りに行こうとしたら変な格好の東山を見つけたから後を付けただけだ」
夏樹ちゃんの冷やかしにも似た話に表情一つ変えない羽澄君はやっぱり羽澄君だった。
私のこと気になる訳ないですよね~、少しは勉強しましたよ神谷凛子は‼
気を取り直して、改めて三人で作戦会議。
「東山の中に乗り移った奴は学校にいる間は大人しくしているが、放課後に本性を現す、なら今日も何かしでかす気だ」
「今日は何をするつもりなんだろうね……」
日に日にその行動がエスカレートしているようなので、想像するとちょっと怖いんですけど。
「それよりも東山君がおかしくなった原因っていうか、誰に取り憑かれたのかとか、そもそも何でこんな事になったのかぜんぜん判んないんですけど?」
「安心しろ、それは俺にも分からない」
安心しろって言われたから安心したけど、何かを考えている羽澄君の横顔は真剣そのものだ。
羽澄君は最初から東山君がおかしい事に気が付いていて、そこに私が首を突っ込んできたものだから、巻き込みたくなかった、いやもしかすると邪魔になると考えていたのかも、だからわざと突っぱねるような事をして。
羽澄君なら東山君を助けられるという事なのだろうか、助けられるんだろうな、だって不思議な破壊光線出して悪者をやっつけることが出来るんだもんな、でもそんな羽澄君が協力しろって言うのだから私にだって何か出来る事があるんだよね。
最初は好奇心でしかなかったけれど、真剣な羽澄君を見ていると何とかして協力してあげたくなる、こうなったらとことん付き合ってやろうじゃないか‼
そう決意していると、羽澄君がこっちを見た。
「昨日の東山の様子でなんか気づいた事とかあるか?」
気付いたことですか、としばらく考えてみた。
「女装が似合ってなかった」
「それは俺でもわかる」
それ以上何も言わなかったが、その目は「そんなことを聞いてるんじゃない」と言っている。
そんなこと言われたって他に気付いたことっていっても……。
「あ、そうだ、下着は男ものだった」
「下着?」
「だから東山君がもし何か誰か別のものに操られていて、それであの女装だとしたら何で男物のパンツなんだろう、って思った」
「お前は、今どんな下着をつけてるんだ?」
「普通のかわいいパンツだよ」
「だよな」
「ちょっと冬夜、女の子に何聞いてるんだよ」
横で聞いていた高見沢君が顔を真っ赤にしているよ。
パンツの話はそんなに恥ずかしい事じゃないと思うけど?
確かに今ここでスカートめくってパンツ見せろって言われたら絶対嫌だけれど、見られて恥ずかしい下着を履いている訳では無い、赤いイチゴ柄で可愛いお気に入りのパンツだ。
私の思う恥ずかしい下着とはむしろ男物のブリーフとかお婆さんが履いているようなベージュの大きいやつとかを言うんじゃないかな、逆に何も履いていないってのもすごく恥ずかしい。
だから、東山君を操っている何者かがいたとして、そいつが単にワンピース好きの中途半端なヘンタイさんならともかく、女だから女の恰好をしていたいなら青い派手な柄のボクサーパンツは選ばない。
「それが唯一残されていた東山の理性かもな」
「どういうこと?」
「操られながらでも無意識に男物パンツを選んだってことだね?」
意味が解らないでいると高見沢君がわかりやすく話してくれた。
なるほど、得体のしれない奴に操られてる者の唯一の抵抗――なんて考えてみるとカッコよく聞こえはするけど、女装相手にカッコいいとかどうよそれ……。
それはともかく、操られてると聞いて一つ思い出した。
「口の中に小さい光が見えた」
「光、どんな?」
押し倒されて、大きく開いた口の中に小さな赤い光のようなものが二つ、口の中、と言ってもその時私が見たのは、普通に口の中ってのが見えたんじゃなくて、歯も舌も何もないただ真っ暗な闇があってその中に赤い光が二つ、不気味に光っていたのだ、今考えると何で口の中があんなに真っ暗だったんだろう。
そう説明する私を羽澄君はパンツの時よりかなり真剣な顔で聞いてくれた。
「そいつが東山を操ってるって事か」
「マジで?」
恐っ、やっぱあれは目だったの、私はそいつを見ちゃったっての⁉
あの目から想像するに、きっと不気味な姿の悪魔のようなモンスター。
うん恐い、そんなのが東山君の中に住み着いているのか、恐すぎる。
「神谷」
「何?」
腹の中の空洞に悪魔が暴れている図を想像してその不気味さに震える私に、羽澄君が話しかけてくるので、何気に返事をする。
「もう一度東山に押し倒されてくれ」
「無理!‼」
そんなセリフをさらりと言うな、冗談じゃない!
「この間みたいに破壊光線でも出してドピューンってやってやっつければいいじゃない!」
「それは出来ない」
「何でよ!」
「これは東山の中に乗り移った何者かの仕業だ、体内に潜んだ敵が何者かがわからないうちに、いくら攻撃しても東山自身が傷つくだけで中の奴には何の効果も無い、東山の体が再起不能なまでに破壊されれば中の奴もダメージは受けるだろうが」
「うわ、役に立たない破壊光線」
「うるさい、馬鹿!」
だから乗り移ってるそのものを引きずり出さないといけないという訳なのね、悪かったわね馬鹿で。
今まで東山に憑りついている奴の正体が見えなかったのは体の奥底に入り込んでいるからなのだろう、全く気配を感じないし攻撃も効かないと羽澄君は言った。
「取り出す方法として東山君にもう一度押し倒されろ、って事?」
「それが一番手っ取り早い」
押し倒した時口の奥から顔をのぞかせるその瞬間を狙って捕まえるという事なのね。
「安心しろ、押し倒すのはあいつに乗り移った何者かの仕業だ、東山自身がお前に何かする訳では無い」
「……」
それなら大丈夫か。
「だったら、ちゃんと助けてよね⁉」
「あぁ、もちろんだ」
そんな昼休みの作戦会議を終えて教室に戻ると、やっぱり東山君はぼんやりとそこに居て、この後放課後に現れる操られた東山君に押し倒されろ、って言われたものの何をどうすればいいんだろう、後のことは羽澄君に任せていいとして……
やばい少し緊張してきちゃった、これじゃぁ授業に集中できないよぉ。
「授業をちゃんと聞いていないのはいつものことだろうが」
羽澄君に馬鹿にされた。
馬鹿にされついでに東山君の机を見るともうそこには彼の姿はすでに無く、いつの間に先に帰ったんだろうと思いながらでも私たちはそんなに急いで後を追うこともしなくていいので、途中で高見沢君と合流して、正門前に来た。
さぁあとは家路を進むだけ、この帰り道途中のどこかに東山君はいるかもしれない。
いやきっといる。たぶん。
「ちゃんと僕たちがついてるからね、心配しないで」
かわいい高見沢君が頼もしく見えた。
「わかってるな、いつも通りに帰るんだ」
「わかってるわよ、子供じゃあるまいし」
「お前のことだから、いつ東山が出てくるかと気にしすぎてキョロキョロしそうだからな」
「ゔ……」
羽澄君に指摘されて改めて気づいた、私のことだから、気にしすぎて周りをキョロキョロしながら歩きそう、東山君だけじゃなく通りがかりの人たちにも怪しい人に見られそうだ、危ない危ない。
「わ、判ったわよ、いつも通り、平常心で帰るわよ」
「……やけに素直だな」
「私はいつでも素直ですわよ!」
こっちは体張って囮になろうってのに、素直になっていないと羽澄君に助けてもらえなくなるでしょうが!
読んでいただきありがとうございました。
雑草という名の植物はない! と、有名な一説がありますが
私にとって、引っこ抜きゃなきゃいけない植物は雑草なんだいっ!




