episode15 笑顔
お読みいただきありがとうございます。
そんなこんなでお昼休みも終わり、放課後になって高見沢君も合流したことで、必然的にいつものメンバーで人気のない教室に集まっていた。
「もしかして、また新たなカメムシが誰かの体に乗り移っていたりするんじゃない?」
ふと思いついたことを言ってみた、制服はもう夏の装い。
「その可能性は十分あるかも」
東山君から千琉ちゃんへの流れからすると、もうすでに誰かの体に入り込んでるかもしれない、誰だろう、そもそもカメムシはなぜこのクラスを襲う?
だけど、どうすれば見分けられるのかな、東山君の時みたいに眼鏡外すとか、もっとわかりやすくいてくれればいいのに、と叫ぶと。眼鏡?と千琉ちゃんが目をしばたかせて言った。
「そういえばあの頃、東山君から異様なオーラが出ていたよね」
「え、千琉ちゃん、もしかして気付いてたの?」
「うん、でもまさかあんなことになってるとは思わなくて、近寄るのが怖かったし、ごめんなさい無視してた」
「無視て……」
「気持ちはわかるよ、頭はいいけど普段から目つきが悪くて性格悪くて人に対して厳しそうだったもんね東山君、今では頼りになるけど」
「軽くデスるのはやめてくれ」
「でも千琉ちゃん凄いね、凛ちゃんはともかく、肝心の冬夜だって誰もヒガ先輩の異変に気付かなかったんだから」
私たちの無毛なデスりあいにも気にせず、羽澄君だけは冷静だ。
「それで、今は何か感じないか、このクラスに、いや他のクラスでもいい、ほんの些細な変化とか、感じないか?」
「えっと、今は特に何も……」
「何にも感じないってことは、もうカメムシはいないって事?」
全部やっつけちゃったってことかな、最初から二匹しかいなかったとか、そもそも何でこの二人がカメムシに操られたのか、何がしたかったのだろう、疑問は尽きない。
「事の発端は、謎の老人に箱をもらったのがきっかけだった」
羽澄君の言葉に、東山君と千琉ちゃんがうなずく、その時の様子をもう少し詳しく教えてほしいといわれ、考え込む二人。
「私はあのころ、高橋君に片思いしていて、でも何もできなくて占いに頼ってみたら、凛ちゃんと付き合ってるなんて結果が出て落ち込んでいた時だった」
「それを言うなら、俺もあの頃はちょうど、得意だったはずの科目なのにテストの結果が思わしくなくて落ち込んでいた時だった」
二人ともに共通点があるんだそれを見抜けるあのご老人はすごいな、会った事無いし、会いたくないけど。
「なるほど、共通点は落ち込んで精神が不安定な頃だった、そこに付け込んだ、ってことかな?」
夏樹ちゃんが分析する、何かを考えているときの夏樹ちゃんは、人懐っこい瞳から怪しげな光が見えるみたいに鋭く光る。かっこいいな。
「付け込まれたんだ」
「ほら、催眠術にかけるにしても、精神が不安定なほうが操れるっていうじゃん」
「へー、でも共通点があるのに、内藤さんはオカマにならなかったし眼鏡も外さなかったよ」
「もうその話はしないでくれ」
「そもそも女子が女装してどうするんだよ」
「じゃぁ、女子は男装?」
「だからその話はもういいって」
「千琉ちゃんの深層心理に付け込んで凛ちゃんを襲ったんだったら、ヒガぴょんは女装したいと思ったきっかけとかあったの?」
「ある訳ないだろう、さりげなくヒガぴょんって呼ぶな!」
「おかまさんになるのが夢だったんでしょ」
「お前人の話を聞いていたか?」
話はそこで行き詰ってしまった、充電の切れたスマホみたいにほんの数秒教室内が静かになる。沈黙に耐えられない私は思い切って言った。
「でも、千琉ちゃんがもう不思議な気配を感じないって言うんだったら、もう何も起こらないんじゃないかな?」
でもみんなの反応は薄い。
「……だといいんだが、やっぱり気にはなる」
「謎のカメムシと爺さん、それと龍聖会がもし関係あるんだとしたら放っては置けないような気がする」
東山君と千琉ちゃんが乗り気になっている。
「だって、そのせいでクラスの子に怪我をさせてしまったのに、このままじゃ許せない」
眼鏡越しでもよくわかる決意のこもった眼をする千琉ちゃん、内気で優しいだけじゃなくて、友だち思いなのが見て取れる。
そして眼鏡をきらりと光らせる人がもう一人。
「俺は、俺にあんな恥ずかしい真似をさせた仇を取りたい!」
そう、だね、頑張って……。
次の日は土曜日、いつものごとく、母のどこ行くの攻撃をかわして出てきた先は町の図書館。
気合の入った東山君と千琉ちゃんのためにも、龍聖会のことをもっと調べるために、皆で図書館へ行こうという事になったのだ。
何を調べるというのか、図書館だから難しい本とか読むのかな、そういう話はぶっちゃげよくわからないから来ても役に立つのだろうかと思ったりもしたが、いやいやこの神谷凛子、きっとなにかのお役に立てるはず。
入口の前で待ち合わせて、いつもの五人みんな揃ったところでいざ行かん!といったところで後ろから急に声をかけられた。
「おやぁ、そちらの仲良しさんたち、ちょっといいデスかぁ!」
間の抜けたような声に、片言おかしな話し方。振り返ると立っていたのは、原色を何色も重ねた派手な柄のパンツに、赤地に何とも言えないような派手なイラストが描かれたシャツを着た若い男性だった。
この人どこかで見たことある、顔は覚えてないけれど、その派手な格好はこの間通りすがりにバス体の場所を聞いてきた人だ。
「この間の変な人だ、あのあとバスには乗れました?」
「はーい、今軽くデスった親切なお嬢さん、この間はドモアリガト、君のおかげで完ぺきだったヨ」
何語⁉
みんなが口々に誰?知り合い?とか聞いてくるので、この間バス停の場所を教えてあげただけの人だよと紹介した。
そんな人が何でここにいるのかと、訝し気に見たのは羽澄君、いきなり見知らぬ変な人が声をかけてきたのだから怪しむのも無理もない、こんな服装だし国籍不明だし。
「ハーイ、そんなに怖い顔しないでぇ、僕の名前はレイオット。実は僕は君たちに会うためにマラチャッカ王国からやってきた王子なのです‼」
「マジで⁉本物の王子様なんて初めて見た!」
「そんな国は存在しないよ!」
「「え、無いの⁉」」
天才東山君のツッコミに私と王子様だけが反応した。
どういう事、じゃぁこの人はどこの国の王子様なの?
「マラチャッカ王国が存在しないのなら仕方がない、実は今人を探している、協力してくれないか」
バス停探しの次は人探し、しかもキャラが変わった。さすが王子。
気付いたら私以外のメンバーは、私を見捨ててさっさと図書館に入ろうとしている。
「ちょっと、私を見捨てて行かないでぇ!」
「そうだとも、若いうちは人助けをしておくものじゃ」
みんなに追いついた私と王子様だったが、王子様は「写真だけでも見てくれんかのう、見るだけは只じゃ」と、また違うキャラになって皆の前に一枚の写真を出して見せた。
その人物を隠しカメラで撮ったような、何気ない日常のワンショットな画像だった、数人の人物に囲まれて真ん中に知らないおじいさんに焦点が合っている。
茶色い中折れ帽をかぶり、白いひげを蓄えた少し小柄で、和服姿の眼光鋭い爺さんだった。
しかし、それを何気なく見た東山君と、千琉ちゃんの顔色が変わった。
「あの時のじいさん!」
「え⁉」
驚いた。みんなも一斉に驚いてる。
「凄~い、王子さまは何でも知ってるんだね」
「バカの事は置いといて、これはどういうことですか!」
いつになく東山君の目が厳しい、
「これはこれは、自己紹介が遅れたね、僕の名前はレイオット、その名の通り名探偵さ」
「すごーい、王子様の次は名探偵、じゃぁ麻酔銃とかもプシュンって出来るの?」
「お前はもう黙ってろ‼」
怒られた。
「俺は今、とある組織を調べているんだが、調べている途中で、とんでもないことが分かって来たんだ」
「とある組織!?」
爺さんの写った写真をヒラヒラさせながらだから、バカな私でもどこの組織の事か大体想像はつく、でも何でとか、いろいろ聞きたいけれど、口をはさむとまた怒られそうなのでここは黙っておこう。
「ところで、羽澄冬夜というのは、君のことかね」
レイオットさん、その人は東山君です。
「羽澄冬夜は俺だ」
「ほう」
名乗り出た羽澄君をレイオットさんは、品定めでもするように上から下からじろじろと眺める。
「お前があの羽澄さんの息子かぁ、すっかり朴念仁に成長しちまって」
「親父の事知ってるのか」
「僕人参?」
「おや、高見沢の旦那から何も聞いてないのかい?」
「いえ……何も」
「僕人参って何?」
「そっか、で、君は?」
「高見沢夏樹です」
「へぇ……あの旦那が……」
「ねぇねぇ、人参がどうかしたの?」
「何なんですか、あなた」
「まぁ、詳しい話はここではできないな、場所を移そう」
「冬夜君は人参だったの?」
「うるさい黙れ!」
また怒られた。
お読みいただきありがとうございます
派手な服装、特に、そんなのどこに売ってるの!? って言いたくなるような服を着こなしているキャラが、大好きだったりする。




