episode16 怪獣
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私たち五人は、レイオットさんに連れられて、見るからに高そうなデザイナーズマンションにやって来た。
「俺達の住んでるマンションじゃねーか!」
羽澄君が言う。
「おや、これは何と言う偶然!」
「へぇ、羽澄君家というか夏樹君の家はレイオットさんと同じマンションだったのね」
そして王子の案内で連れてこられた部屋は。
「まんま俺ん家じゃねーか!」
「おお、なんという偶然!さぁさ、遠慮せずに上がり給え、そしてカギを開けておくれ」
「じょ、冗談じゃねぇぞ、怪しい奴を家に入れるわけには!」
抵抗する羽澄君に、レイオットさんが何か耳打ちしたように見えた、多分そうなんだろうな、驚いた表情を見せた羽澄君は、急に大人しくなって玄関のキーを回す。
みんなでぞろぞろと入っても充分余裕で座れるリビングのソファー、清潔感漂う白い壁大きなテレビに飾り棚、天井には大きなプロペラがくるくる回っている。
「広いねぇ、流石だねぇ」
「ホント、うちとは大違い、うらやましい~」
部屋をきょろきょろと見回す私と、同じように見回しているレイオットさん、横から東山君が「貧乏人の子か」とあきれた様子で見ている。きっと東山君の家も広いんでしょうね。
「何か入れる、少し待ってろ」
この家の主、羽澄君が対面式のキッチンへと向かうと、「僕も~」と続く笑顔の夏樹君。
「あぁやってみるとあの二人、本当の兄弟みたい」
と、千琉ちゃん
「どこが~」と突っ込んでみたけれど、カウンターの向こうに並んで立っている二人は、なんとなく顔も似ているような気がしないでもないな。特に口元とか。
コーヒーのいい香りがしてきたので、私も何か手伝おうとカウンターに近付いた。
「冬夜ぁ、何であんな奴家に入れたのさぁ、僕あの人なんか胡散臭いから苦手」
夏樹君の声だ、私が近づいたことに気づかない。
「あいつ、俺に言ったんだ、両親の死の真相を知りたくないか、って」
「そんなこと言ったの?」
「あぁ……」
さっきの耳打ちは、この話だったのかしら、でも何で羽澄君の両親の真相って、何でそのことをレイオットさんが知ってるんだろう?
「あ、あぁお前か、何だ?」
羽澄君と目が合った。
「何か手伝うよ」
「そうだな、お前はこのまま向こうで、大人しく座っていてくれ、それが一番の手伝いだ」
わぁ酷い。
手伝わなかったおかげで、無事コーヒーもみんなに行き渡り、一息ついたところでみんなの目線がレイオットさんに向かう。
「一つ確認したいんだが、この爺さんを知っていたという君たち、という事はこの爺さんから箱をもらって、何か不思議なことが起こった、そういう事だね?」
東山君と内藤さんは、素直にうなずく。
そして記憶がない間の、二人の身に起きたことを、羽澄君と夏樹君とときどき私で話していった。
「さて、何から聞きたい?」
話が終わると改めて皆に向き直るレイオットさん。
テーブルを真ん中に二人掛けと三人掛けのソファーがエル型に並んでいる
二人掛けのソファーにレイオットさんが座り、三人掛けには内藤さんと東山君と高見沢君
羽澄君はどうするのかと思ったら、高見沢君の横の肘あてにお尻を乗せる形で座った、長い脚が強調されてかっこいい。だから私はレイオットさんの隣に座っている。
「あの爺さんは、何者なんですか?」
まずは東山君。
「何者か、と聞かれたら、何者なんだろうね、と答えるしかないんだよね」
「あの箱は何なんですか、あのお爺さんは何で私たちにあの箱を渡したんでしょうか?」
続いて千琉ちゃん。
「それは、あの爺さんを捕まえて聞くしかないだろうね」
「そう……」
何かを知っているのに、答えをはぐらかしている、そんな感じにも思えるレイオットさんの答えだ。
「カメムシの時の
千琉ちゃんは、私を狙って呪いをかけていたはずなのに、私自身に全く効果がなかったのは、何で?」
デリカシーのない羽澄君の答えより、私がそんなものに負けない強い力の持ち主だと言われるかなと期待して聞いてみた。レイオットさんは自信満々で答えてくれた。
「ほら、バカは風邪ひかないんじゃなくて、風邪をひいたことに気付かないって言うじゃないか、それと同じことかもしれないね」
「わぁ酷い」
「何で僕たちに近付いたんですか?」
夏樹君が質問する。そこでレイオットさんの表情が少し硬くなった。
「だって、君たちが調べようとしている答えに一番近付いているのは、この俺だと思うんだよね」
「どういうことですか!」
「ちゃんと答えてください」
みんなが口々に言う、ちょっとざわざわした空気の中、レイオットさんは羽澄君をまっすぐ見据える。
「みんなの疑問に答えるためにも、羽澄冬夜君、きみの両親の話をしてもいいかね?例えば、亡くなった時の状況とか」
「俺がまだ幼いころに事故で亡くなったと聞いています」
「県警本部巡査部長、羽澄清吾、それが君のお父さんで間違いないね」
「はい……」
「高見沢君のお父さんも同じ仕事だよね」
「……はい」
訝し気な表情を隠そうともせず、高見沢君が静かにうなずく。
すごい、二人ともお父さんがお巡りさんなんて、ドラマ見ているみたいでかっこいい、って、でも羽澄君のお父さんは亡くなったんだ、うかつなことは言わずにここは見守っていよう。
「ちなみに羽澄巡査長が無くなった、その経緯は聞いてるかい?」
「いえ」
「だったら、俺から話していいのかなぁ」
「じらさないでください、今回の事と何かつながるがあるんですか、だから俺たちに近付いた、そうなんでしょ⁉」
ソファーの膝あてにいたはずの羽澄君、いつの間にか床の上に正座して、レイオットさんを見上げている。
レイオットさんは飲みかけの、ぬるくなったコーヒーを飲みほしてから、羽澄君に目線を合わせてから、ふっと目をそらし、長いまつげを自慢するかのように目線を下に落とす。
「それは、羽澄巡査長が、平和な街をパトロールがてらパトカーで流していた時の事だ、何気なく目についた一人の男、おそらくなんてない通りすがりの一人だったかもしれない、ところが羽澄巡査は、その男にただならぬ気配を感じた」
「気配?」
「いや、気配というには少し語弊があるかもしれん、警察官の感ってやつか、とにかく怪しいなと感じて職務質問することにした、最初は大人しく受けていたんだがな、突然豹変して隠し持っていたナイフで襲われた」
「襲われた、って、刺されちゃったって事⁉」
「あぁ、すぐに病院に運ばれたが、間に合わなかった……」
「そんな……」
部屋の中をもの悲しい空気が流れる、酷い、あまりにも酷すぎる。
「犯人はその場ですぐに逮捕された。だが取り調べでは、刺したことを全く覚えてないという、その上おかしなことを言っていたんだ」
「おかしなこと……?」
「ある日、見知らぬ爺さんに小さな箱をもらった、と」
めちゃくちゃ聞いたことある話やん‼
「刺したことは大勢の目撃者もいるし、そいつの犯行であることは間違いないんだが、箱をもらってからは記憶がないなんて、警察としてはそんな話は信じられないという事で、そいつは今も服役しているが、最後まで否定していた」
にわかには信じられない話だが、実際爺さんに箱をもらってから不思議なことが起こった人がここに二人もいる。
「じゃぁ、俺の親父を殺したのは、この爺さんって事なのか」
「まだはっきり決まったわけではないがな、でも、箱を渡した人物がこの爺さんだという可能性は極めて高いと見た」
「その、羽澄の親父さんを刺した犯人にこの写真は見せたのですか?」
「残念ながら、僕は警察の人じゃないんでね」
「父が殺された時、警察はいつも二人一組で行動すると聞いています、もう一人の、父と一緒にいた警官は何を?」
その人が何かを知っているんじゃないかと、レイオットさんに詰め寄る。
「あ、あぁ、あまりに突然の事だったから、あの場に誰がいようと防ぐことはできなかったと聞く、それに相方を責めるな、あいつは今回の事件には全く関係ない人間だ、それなのにあの場にいた責任を取って、彼の一人息子を引き取ってこんな立派な高校生に育て上げたんだからな」
「え⁉」
羽澄君と夏樹君が思わず顔を見合わせる。
「まぁ、その話はあとでゆっくりすればいいさ、それよりも問題なのはこの爺さんだ」
再びあの爺さんが映っている写真を取り出す。
「この写真は、聖龍会があるとうわさされている建物から出てきたところをとらえた一枚だ」
「この爺さんと、龍聖会が、関係あるって言うんですか?」
「その可能性は高い、なにしろ朴念仁、君のお母さんが熱心な信者だったからな」
「そ、そんな、まさか……」
その事は羽澄君自身も知らなかったらしく、明らかに動揺している様子だった。
次にレイオットさんの視線が、千琉ちゃんに向けられた。
「ちるちゃんって言ったっけ、親が龍聖会だっていう」
「はい、私はそんな宗教信じていませんけど」
「ちるって、どんな字書くの?」
「漢数字の千と、王へんに流れるのこっち側」
人差し指で空中に字を書いて見せる千琉ちゃんを、納得したような表情で見つめる。
「この琉の字は、龍聖会の信者に多い名前だね、教祖の名前にもこの琉の字が使われていてね、それにあやかろうとする親が多いんだよ」
「私もそう聞いてます、だからこの名前、あんまり好きじゃなくて」
羽澄君も「そういえば俺の母さんにも琉の字が」なんて言っている。
でもそんな羽澄君は、急に何かを思いついたらしく、顔を上げてレイオットさんを見た。
「何でそんなことまで知っているんですか、本当にあなたはいったい何者なんですか⁉」
「もうすぐわかるから、怒んないで」
それでもレイオットさんはのんびりとした口調だった、この人に緊張感というものは無いのだろうか。
読んでいただきましてありがとうございました。
天候の不安定な日々が続きます。愛犬たちを連れて「さぁ、わくわくお散歩だぁ!」って行った直後に、ザーってなるのは結構悲しいものがある。




