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マーヴェリア帝国物語<二つの国と二人の皇女>  作者: 北村えり
第四章 巡り合う太陽と星
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第48話 幸運の青い鳥

「今日は、お休みです!」


朝日が差し込む司令官室で、

クリスティはルリスティの執務机へ両手をつき、声高らかに宣言した。


机の上には、朝早くから処理していたらしい報告書が何冊も積まれている。

その中央で書類へ目を通していたルリスティは、

驚くこともなく静かに顔を上げた。


「はい。伺っています。」

「じゃあ、どうしてお仕事をしているの?」

「急ぎの分だけ、先に片づけておこうかと。」


そう答えて書類へ視線を戻そうとしたルリスティの手元を、

クリスティがすかさず押さえる。


「駄目。今日は一枚も読ませません。」

「ですが、これは今日中に確認を――」

「それも駄目です!」


きっぱりと言い切られ、ルリスティが僅かに目を瞬かせた。

やがて助けを求めるような視線が、

司令官室の入口に立っていたジェイクへ向けられる。


「マルセリア大佐。」

「残念ですが、俺もクリスティさんに賛成です。」

「大佐まで……。」


ジェイクは机へ歩み寄ると、ルリスティの指から羽根ペンを抜き取った。


「急ぎの案件は、俺と副官で処理します。今日は休んでください。」

完全に逃げ道を塞がれ、

ルリスティは諦めたように小さく息を吐いた。


「……分かりました。それで、今日は何をするのですか?」

その言葉を待っていたのだろう。クリスティの顔が、ぱっと明るくなる。


「街へ行って、お買い物をしよう!」

「必要な物でしたら、兵站部へ申請すれば――」

「そういうお買い物じゃないの。」


クリスティは机の向こう側へ回り込み、ルリスティの手を取った。

「お店を見たり、美味しい物を食べたり、気に入った物を買ったりするの。」

「それに、私も同行する必要があるのでしょうか?」


「もちろん!」

「何故です?」

「私が、ルリスティと一緒に行きたいから。」


あまりにも真っ直ぐな答えに、ルリスティは言葉を失った。

クリスティはその顔を覗き込み、少しだけ不安そうに眉を下げる。


「……行きたくない?」

「いえ。嫌というわけではありませんが。」

「なら、決まりね!」


たちまち笑顔を取り戻したクリスティに、

ルリスティはもう一度、小さなため息をついた。

ジェイクは二人の護衛として同行することを告げ、残された書類を引き受けた。


こうして共和国最年少の辺境防衛軍司令官は、

半ば強制的に一日仕事から引き離されることとなった。



砦の近くに広がる街並みは、

クリスティが知る帝都の城下町とはまるで違っていた。


大通りの両側には黒い石造りの建物が並び、

その軒先では昼間でも魔導灯が淡い光を放っている。


魔導銃の部品を扱う店や、厚手の防寒具を売る店。

その間には色鮮やかな布地や装飾品を並べた店があり、

どこからか焼き菓子の甘い香りも漂ってきていた。


通りへ出た途端、

クリスティは目に入るものすべてが気になるらしく、

忙しなく周囲を見回した。


「あの大きな看板のお店は?」

「魔導具店です。一般家庭で使う物から、軍用の簡易部品まで扱っています。」

「じゃあ、その向こうは?」

「あちらは焼き菓子の店ですね。」

「行きたい!」


言い終わるより先に足を速めたクリスティへ、

ルリスティが慌てて声を掛ける。


「クリスティ、走ると危ないですよ。」

「走ってないよ。少し急いでいるだけ!」

「それを走っていると言うのでは?」


ルリスティに追いつかれ、クリスティは楽しそうに笑いながら菓子店へ入った。


店内には、蜂蜜をたっぷり塗った焼き菓子や、

木の実を練り込んだパンが所狭しと並んでいる。


「これ、前に食べたお菓子に少し似てる!」

クリスティが楽しそうに陳列棚を覗き込んでいると、

奥から出てきた店主がルリスティの姿に気づいた。


「トリウリッド司令官!」

「こんにちは。」


私服姿の司令官を見るのがよほど珍しいのだろう。

店主は目を丸くしながら、ルリスティを珍しそうに見つめた。


「今日は街の視察ですか?」

「いえ、今日は――」

「遊びに来ました!」


ルリスティが答えるより早く、クリスティが胸を張る。

店主の視線が、信じられないものを見るようにルリスティへ戻った。


「司令官が……休日に街へ?」

「そんな歴史的な事件のように驚かないでください。」

ジェイクが苦笑しながら言い添える。

「もっとも、俺も初めて見ましたが。」


「マルセリア大佐。」

咎めるように名を呼ばれたものの、 ジェイクはまったく気にした様子がない。

そのやり取りが可笑しくて、クリスティは声を上げて笑った。


三人分の蜂蜜菓子を包んでもらうと、

店主は代金を受け取ろうとせず、ルリスティへ笑い掛けた。


「司令官の分は結構ですよ。いつも街を守っていただいていますから。」

「お気持ちはありがたいですが、それはいけません。」


ルリスティが財布へ手を伸ばすより先に、クリスティが硬貨を差し出した。

「今日は私がご馳走します!」


「ですが、そのお金は大佐から借りたものでは?」

冷静に指摘され、クリスティの手が止まる。

「……帝国へ帰ったら、ちゃんと返します。」


「では、今のところは俺が司令へご馳走していることになるのでは?」

少し後ろからジェイクに指摘され、クリスティはしばらく考え込んだ。


「それなら帝国へ帰れたら、大佐にも私の自慢のお菓子をご馳走します。」

「それは楽しみです。」

「大佐まで、クリスティへ便乗しないでください。」


呆れたように言いながらも、ルリスティはそれ以上断ろうとはしなかった。


クリスティは嬉しそうに硬貨を店主へ渡すと、

三人分の紙包みを大切そうに受け取った。


店を出るなり、紙包みを開いて蜂蜜菓子を取り出す。


「せっかくだから、歩きながら食べよう。」

「食べ歩きをする習慣はありませんが。」

「私にもなかったけど、今日から始めればいいの。」


先に一口かじったクリスティの顔が、見る間に輝く。

「美味しい!」

あまりに嬉しそうな様子につられ、ルリスティも恐る恐る菓子へ口をつけた。

蜂蜜の甘さと、香ばしく焼けた生地の風味が口いっぱいに広がる。


「どう?」

期待に満ちた顔を向けられ、ルリスティは小さく頷いた。


「……美味しいです。」

「でしょう?」

自分が作ったわけでもないのに、クリスティは得意げに笑った。


その時、二人の横を通り過ぎた女性が、ふと足を止めた。

「失礼ですが、司令官とはご姉妹なのですか?」


ルリスティとクリスティが、同時に振り返る。

「いいえ。」

「違います。」

返事まで綺麗に重なった。


互いに顔を見合わせた二人へ、女性はますます不思議そうに首を傾げる。

「そうなのですか? 髪も瞳も同じで、

お顔立ちも本当によく似ていらっしゃるから。」

「そんなに似ていますか?」


クリスティは、どこか嬉しそうにルリスティを見た。

ルリスティも困ったように視線を返したものの、

今度は否定の言葉を口にしなかった。


少し後ろを歩いていたジェイクは、

並んで立つ二人を見比べ、静かに目を細めた。



それからもクリスティは、気になる店を見つけるたびに足を止めた。

青い布地を見つければルリスティの肩へ当て、

装飾品の店では一つひとつを興味深そうに覗き込む。


見たことのない食べ物を見つければ試したがり、

気づけばジェイクの両手には、いくつもの包みが提げられていた。


その中で、クリスティは小さな露店の前に並ぶ髪飾りへ目を留めた。


木製の台の上に、小さな青い鳥が二羽並んでいる。

深い青色の羽に、光を受けて輝く硝子の瞳。

翼を広げた姿は、今にも空へ飛び立ちそうだった。


「可愛い……。」

クリスティが、そっと一羽を手に取る。

「青い鳥ですね。」

隣から覗き込んだルリスティへ、露店の老女が穏やかに目を細めた。


「この辺りでは、幸運の青い鳥と呼ばれているんだよ。」

「幸運の青い鳥?」

「大切な人へ、幸せを運んでくれる鳥さ。」


老女は、クリスティの手の中にある髪飾りへそっと触れた。

「離れ離れになってしまった人たちを、

いつかもう一度巡り会わせてくれるとも言われている。」


その言葉に、クリスティの指先が止まった。


奈落の歪みへ飲み込まれる瞬間、必死に伸ばされた手。

遠ざかる中で、初めて聞いた声。

――クリスティ!


「もう一度、巡り会わせてくれる……。」

クリスティが小さく呟く。


その隣では、ルリスティも黙って青い鳥を見つめていた。

誰かの姿が浮かんだわけではない。

それでも、胸の奥に懐かしさにも似た温かさが広がっていく。


しばらく二羽を眺めていたクリスティは、

何かを決めたように顔を上げた。


「これを二つください。」

「二つともかい?」

「はい。ルリスティとお揃いにします。」

「私もですか?」

突然話を向けられ、ルリスティが僅かに目を見開く。


「うん。きっと似合うよ。」

「ですが、私は普段、髪飾りを身につける習慣がありません。」

「軍務の時につけてとは言わないよ。お休みの日だけでも駄目?」


クリスティの声が僅かに弱くなる。

ルリスティは青い鳥と、期待と不安が入り交じったクリスティの顔を見比べた。


「……休日だけでしたら。」

「本当?」

「はい。」

「よかった!」


たちまち笑顔を取り戻したクリスティに、ルリスティの表情も僅かに緩んだ。

代金を支払うと、

クリスティはルリスティの真っ直ぐな白銀の髪へ、青い鳥をそっと留める。


「動かないでね。」

「これでよいですか?」

「うん。すごく似合ってる。」


ルリスティは少し照れたように髪飾りへ触れたあと、もう一羽を受け取った。

今度はクリスティの柔らかな髪を傷めないよう、慎重に留めていく。


「できました。」

「お揃いだね!」


嬉しそうに身体を寄せるクリスティの隣で、

ルリスティも自分と同じ髪飾りを見つめた。

二人の白銀の髪の上で、二羽の青い鳥が並んで揺れる。


「よく似合っているよ。」

老女は目を細めながら、二人を見つめた。

「幸運の青い鳥はね、一人で幸せを運んでくる鳥じゃない。

大切な人を、連れてきてくれる鳥なんだよ。」


柔らかな風が通り抜け、

白銀の髪の上で二羽の鳥が小さく羽ばたくように揺れた。


少し離れた場所から二人を見守っていたジェイクの胸に、

これまで抱いていた疑問が再び浮かぶ。


同じ白銀の髪。

同じ紫水晶の瞳。

そして、同じ十九歳。


二歳以前の記憶も、実の両親のことも知らないルリスティ。

遠い帝国から、黒淵に生じた空間の歪みを通って現れた皇女。

偶然と片づけるには、重なるものがあまりにも多かった。


けれど今は何も口にせず、

お揃いの青い鳥をつけて笑う二人を静かに見守った。



街を一通り歩き終えた頃には、太陽が西へ傾き始めていた。

通りに並ぶ魔導灯にも、

一つ、また一つと夕暮れを迎える明かりが灯っていく。


砦へ戻る道へ向かおうとしたところで、ルリスティが足を止めた。


「クリスティ。帰る前に、少し寄りたい場所があります。」

「ルリスティが行きたい場所?」


クリスティの顔が、途端に明るくなる。

「行きたい!」

「まだ、どこなのかも言っていませんが。」

「ルリスティが行きたいところなら、どこでもいいの。」


迷いのない答えに、ルリスティは少し驚いたように目を瞬かせた。

「……そうですか。」


「どこへ行くの?」

「砦の近くにある丘です。」


ルリスティは街の外へ視線を向けた。

「幼い頃、父がよく連れていってくれた場所なんです。」



丘へ続く道の両側には背の低い草が広がり、

夕暮れの風が吹くたび、一面が波のように揺れていた。

先を歩いていたクリスティは、広がる景色に気を取られ、小石へ足を引っ掛けた。


「あっ。」

身体が傾くより早く、ルリスティがその手首を掴む。

「大丈夫ですか?」


「うん。少し景色を見ていただけ。」

「景色だけでなく、足元も見てください。」


ルリスティが安堵しながら手を離そうとすると、

クリスティは逆にその手を握り返した。


「このまま手をつないで行こう。」

「子どもではないのですから、一人で歩けるでしょう?」


「私だって子どもじゃないよ。」

「では、何故つなぐ必要があるのです?」


クリスティは、当たり前のことを答えるように笑った。

「ルリスティと、つなぎたいから。」


ルリスティは一瞬だけ迷ったものの、やがてその手を握り直した。


二人は手をつないだまま、並んで丘を上っていく。


少し後ろから二人を見守るジェイクの目には、

その姿がどう見ても仲の良い姉妹にしか見えなかった。



丘の頂上へ辿り着いた時、太陽はちょうど山の端へ沈もうとしていた。

「わぁ……。」

クリスティが、目の前に広がる景色へ息を呑む。


眼下には辺境の街と砦。

その向こうには、大陸を分断する黒淵が長く横たわっている。

さらに遠く、その先には、今はまだ見ることのできない帝国がある。


「綺麗……。」

丘には、長い年月を経て色褪せた木製の長椅子が置かれていた。

ルリスティとクリスティが並んで腰を下ろし、ジェイクは少し離れた岩へ座る。


しばらく沈みゆく夕日を眺めたあと、ルリスティが静かに口を開く。

「幼い頃、父がよくここへ連れてきてくれたんです。」

「クラウスさんが?」

「はい。」

遠くの街を見つめながら、ルリスティは懐かしそうに目を細めた。


「訓練で失敗した時や、髪や瞳の色をからかわれた時。

それから、父と喧嘩をした時にも。」


「そういう時、クラウスさんは何て言ってくれたの?」

「何も。」


意外な答えに、クリスティが隣を見る。

「何も聞かずに、ただここで隣に座っていてくれました。

それだけで、不思議と気持ちが落ち着いたんです。」


クリスティは、砦へ来たばかりの頃を思い出した。

眠ることのできなかった夜。

ルリスティは何も問い詰めず、ただ近くにいてくれた。


「似てるね。ルリスティと、クラウスさん。」

ルリスティが驚いたように目を瞬かせる。

「私が、父と?」


「うん。私が不安だった時、ルリスティも何も聞かずに隣にいてくれたでしょう?」

クリスティはそう言って、穏やかに笑った。

「きっと、クラウスさんから教わったんだね。」


ルリスティはすぐには答えなかった。

やがて夕日に染まる街へ視線を戻すと、その口元へ小さな笑みを浮かべる。

「……そうかもしれません。」


しばらくして、ルリスティは髪で揺れる青い鳥へそっと触れた。

「父が亡くなってからも、時々ここへ来ていました。」

「一人で?」

「最初の頃は。」


ルリスティはそこで言葉を切り、少し離れた岩に座るジェイクへ視線を向けた。


「最近は、マルセリア大佐が本を持ってついてくることもあります。」

「ついてくるとは、人聞きが悪いですね。」

「頼んだ覚えはありませんので。」


淡々と返すルリスティと、まったく悪びれないジェイクを見比べ、

クリスティは楽しそうに笑った。


クリスティが楽しそうに笑う中、ルリスティは夕日に染まる街へ視線を戻した。


「司令官になった日も、難しい判断をした日も、

誰かを守ることができなかった日も、ここへ来ました。

ここにいると、父が今もどこかで見ていてくれるような気がしたんです。」


夕暮れの風が、三人の間を静かに通り抜ける。

クリスティは何も言わず、ルリスティへ少しだけ身体を寄せた。

二人の肩が触れる。


不思議そうに横を向いたルリスティへ、クリスティは何も尋ねなかった。

ただ、クラウスがそうしていたように、静かに隣へ座っている。

しばらくして、ルリスティは張りつめていたものを解くように、ふっと息を吐いた。


「……不思議ですね。」

「何が?」

「父が生きていた頃以来です。

こんなふうに、朝から一日中、何も考えずに遊んだのは。」


「そんなに久しぶりなの?」

「休日にも書類を整理していましたので。」


少し離れた場所から、ジェイクの深いため息が聞こえた。

「だから何年も前から、きちんと休んでくださいと言っていたんです。」


「大佐は休日になると、私を訓練へ連れ出すではありませんか。」

「あれは仕事ではありません。身体を動かすのは休息です。」

「その理屈が通用するのは、大佐だけです。」


あまりにも真顔で返すルリスティに、クリスティは思わず笑い声を上げた。

ひとしきり笑ったあと、改めてルリスティへ向き直る。


「今日は、楽しかった?」

ルリスティは一瞬だけ、今日一日の出来事を思い返した。


蜂蜜菓子を食べ、いくつもの店を回った。

お揃いの青い鳥を買い、クリスティと手をつないで丘を上った。


命令も、判断も、誰かの命を背負う責任もない。

ただ、十九歳の少女として過ごした一日。


「はい、とても楽しかったです。」


ルリスティの顔に、柔らかな笑みが浮かぶ。

その答えに、クリスティの表情が輝いた。


「じゃあ、また遊ぼう!」

「また、ですか?」

「次のお休みも。」

「次の休日がいつになるかは――」


「二週間後です。」

少し離れた場所から、ジェイクが間髪入れずに答えた。

「司令の予定は空けておきます。」


「大佐。」

ルリスティが咎めるように振り返る一方で、

クリスティは嬉しそうに小指を差し出した。


「じゃあ、二週間後ね。約束だよ。」

ルリスティはその仕草を少し不思議そうに見つめたあと、同じように指を絡める。

「……はい。約束です。」


夕日の向こうに横たわる黒淵を見つめながら、クリスティが嬉しそうに続ける。


「それから、帝国へ帰ることができたら、今度は私がルリスティを案内するね。」

「帝国を、ですか?」

「うん。薔薇の砂糖菓子も、果実のタルトも食べてもらいたいし、

皇城の庭も見せたい。街のお祭りにも一緒に行こう。」


一つずつ指を折りながら挙げ、最後にクリスティは満面の笑みを浮かべた。

「アークファイントにも、お父様にも、兄様たちにも、ヴィオ姉様にも。

みんなにルリスティを紹介するの。」


ルリスティは、黙ってその言葉を聞いていた。

クリスティが思い描く未来には、まるで当然のように自分がいる。


「私が帝国へ行っても、よいのでしょうか?」

「もちろん!」

クリスティは、少しも迷わなかった。


「一緒にお菓子を食べるって、約束したでしょう?だから、絶対に一緒に行こう。」


クリスティは、ルリスティの手を取った。

昼間のように強引に引っ張るのではなく、

大切な約束を手渡すように、そっと指を重ねる。

ルリスティも、その手を静かに握り返した。


「楽しみにしています。」

「うん!」


二人は並んで、夕暮れの向こう側を見つめた。

白銀の髪には、同じ青い鳥。

大切な人を、もう一度巡り会わせるという幸運の鳥。


けれど二人は、まだ知らない。

自分たちこそが、十七年前に失った大切な人と、

すでに巡り会っていることを。


◇ 


少し離れた場所で、ジェイクは二人の後ろ姿を見つめていた。


ルリスティが笑う姿なら、これまでにも何度も見てきた。

この丘で本を読んでいる時。

持ってきた焼き菓子を分け合った時。

他愛のない軽口に、僅かに表情を緩めた時。


けれど、一日中何の責任も背負わず、

ただ十九歳の少女として笑う姿を見たのは、これが初めてだった。

夕暮れの風に、二羽の青い鳥が小さく揺れている。

ジェイクは、静かに口元を緩めた。


「……クラウス司令官。娘さんは、ちゃんと笑っていますよ。」


誰にも聞かせるつもりのない声で、そっと呟く。

返事はない。

ただ丘を吹き抜ける風だけが、その言葉を遠い空へ運んでいった。


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