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マーヴェリア帝国物語<二つの国と二人の皇女>  作者: 北村えり
第四章 巡り合う太陽と星
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第45話 家族の証

先日の戦闘から数日が過ぎた。


辺境防衛軍本部には、いつもの日常が戻りつつあった。


訓練場からは魔導銃の乾いた発砲音が響き、

兵士たちはそれぞれの持ち場を行き交っている。

黒淵を目前にした最前線である以上、完全に穏やかな日などない。


それでも、砦を包んでいた緊迫した空気は、

少しずつ薄れていた。


クリスティもまた、共和国での暮らしに馴染み始めている。

帝国へ帰りたいという思いが、薄れたわけではなかった。


父のこと、兄たちのこと、姉のこと。

そして――アークファイントのこと。

思い出さない日はない。


けれど、見知らぬ天井の下で目を覚ますたび、

ここがどこなのか分からなくなるようなことはなくなった。


廊下ですれ違えば、兵士たちが気さくに声を掛けてくれる。

オリビアは毎日のように身体の状態を確かめ、

食事を残せばすぐに気付く。


そして。

「昨夜は眠れましたか?」

朝になれば、決まってそう尋ねてくれる人がいた。


「はい。昨日はよく眠れました。」

そう答えると、ルリスティは安心したように微笑む。

「それならよかったです。」

ほんの短いやり取り。


けれど今では、それが一日の始まりになりつつあった。



その日の昼下がり。

クリスティは、司令部棟の裏手にある小さな庭へ出ていた。


訓練場や正門から離れたそこは、砦の中でも比較的静かな場所だった。


辺境の風にも耐える小さな花々が揺れ、

木陰には簡素な卓と椅子が置かれている。


卓上には、温かな紅茶と焼き菓子。


ルリスティは会議のため席を外しており、

今日はジェイクが付き添っていた。


護衛として付き添ってはいるが、

本人は少し離れた木陰に腰掛け、分解した魔導銃の手入れをしている。


この数日。


ルリスティと並んで砦の中を歩いていると、

すれ違う兵士たちが、

二人を見比べるような視線を向けることがあった。


無遠慮に見つめられるわけではない。

けれど、その視線にはクリスティも気付いている。

紅茶を一口飲んでから、ふとジェイクへ目を向けた。


「マルセリア大佐。」

「はい?」

ジェイクが顔を上げる。


「少し、お聞きしてもよろしいですか?」

「俺に答えられることなら。」

クリスティは少し迷ってから、自分の髪へそっと触れた。


「こちらへ来てから、

時々ルリスティさんと似ていると言われるんです。」

ジェイクの手が僅かに止まる。

「……まあ、同じ髪と瞳ですからね。」

否定はできない。


「やはり、共和国では珍しい色なのでしょうか。」

「かなり珍しいですね。」

ジェイクは手元の銃へ視線を戻した。


「司令以外で、そのどちらかを持ってる人は、

少なくとも俺は見たことがありません。」

「そうなのですね。」


クリスティは、白銀の髪をひと房すくった。

「帝国でも珍しい色ではありますが、全くいないわけではないんです。」

「そうなんですか?」

「はい。白銀の髪を持つ方も、紫水晶に近い瞳を持つ方も、

少数ですがいらっしゃいます。」


かつて皇族から臣籍へ下った者の血筋などにも、

そうした色が残ることがある。

それ以外でも、どちらか一方だけなら稀に現れるのだと、

クリスティは説明した。


「ただ――」

白銀の髪を指先で撫でながら、クリスティが続ける。

「この二つを、生まれながらに併せ持つとなると意味が変わるんです。」

「意味ですか?」

「はい。」

クリスティは、ごく当たり前のことを話すように頷いた。


「マーヴェリア皇族として皇城に生を受けた者は、

聖霊の加護を受けて生まれるとされています。」

ジェイクの指先が止まる。

「……聖霊。」

共和国では、馴染みのない言葉だった。

クリスティもそれを察したらしく、簡単に言葉を補う。


「帝国では古くから、マーヴェリア皇族は代々、

聖霊の加護を受ける一族だと考えられているんです。」

そして、その証として、白銀の髪と紫水晶の瞳を持って生まれる。


「白銀の髪と紫水晶の瞳。

この二つの組み合わせを、帝国では『皇族色』とも呼びます。」

「――皇族色。」


ジェイクは、思わずその言葉を繰り返した。

聞き覚えがある。

いつだったか、

ルリスティと二人で、帝国について記された古い本を読んだ日。

そこに確かに、同じ言葉があった。


――マーヴェリア皇族には、

代々『皇族色』と呼ばれる特有の色彩が現れた。


けれど、肝心の箇所が欠けていた。

何色なのか。

何をもって、皇族の証とするのか。

二人でページを眺めながら、結局分からないまま本を閉じた。


『どんな色なのでしょうね。』

あの時、ルリスティは、

自分の白銀の髪を肩へ流したまま、何気なくそう言っていた。


ジェイクは、ふと顔を上げた。

司令部棟の二階。

開いた窓の向こうを、書類を抱えたルリスティが横切っていく。


白銀の髪。

紫水晶の瞳。

(……あれが、皇族色。)


以前読んだ本の欠けた一文と、毎日のように見ていた現実が、

今、初めて繋がった。


ジェイクは再び手元へ視線を落とす。

一つ。

また一つ。

分解していた魔導銃の部品を、元の位置へ戻していく。


「……マルセリア大佐?」

不意に呼ばれ、ジェイクは顔を上げた。

「はい?」

クリスティが、こちらをじっと見ている。


「何か、気になることがありましたか?」

「……どうしてです?」

「皇族色のお話をしてから、少し考え込んでいるように見えたので。」


気付かれたか。

ジェイクは、内心で小さく息を吐いた。


そういえば。

この皇女は人の顔や名前だけでなく、

僅かな表情の変化までよく見ている。


「よく見ていますね。」

「そうでしょうか?」

「ええ。結構。」


かちり。

部品を一つ、銃身へ収める。


「大したことじゃありませんよ。

少し、思い出したことがあっただけです。」


嘘ではない。

ただ、その先に生まれた疑問まで、

今ここで口にすることはできなかった。


ジェイクは再び魔導銃へ視線を落とす。

まだこちらを窺うクリスティの視線には、

気付かないふりをした。


「もちろん、色味には一人ひとり少しずつ違いがありますけれど。」

クリスティは、そんなジェイクの内心など知る由もなく続ける。

「父も、兄たちも、姉も。皆、この二つの色を持っています。」


「……皆、同じ色なんですね。」

「ええ。」

クリスティは嬉しそうに微笑んだ。


「帝国では皇族の証ですけれど、私にとっては……。」

少し考えて。

「家族の証、という方が近いかもしれません。」


家族の証。

その言葉が、妙に耳へ残った。


ジェイクは再び、窓の向こうへ視線を向ける。

白銀、紫水晶。

――両方。


(いや。)

すぐに、自分の考えを否定する。

まだ何も決まっていない。

帝国ではそうなのだ。

それだけの話だ。


百五十年間、両国の行き来は完全に途絶えていた。

帝国が、共和国のすべてを知っているわけではない。

向こうでは、

この二つの色を併せ持つ者が皇族に限られるとしても、

共和国で同じ特徴を持つ者が生まれる可能性まで、

否定されたわけでは――。


「この色のせいで、幼い頃は少し困ったこともありました。」

クリスティの声に、思考が引き戻される。

「困ったこと?」


「城下町へお忍びで出る時、そのままではすぐに気付かれてしまうんです。」

懐かしそうに笑う。

「髪を染めたり、瞳の色を変える魔術具を使ったりしていました。」


「皇女様も大変ですね。」

「ふふ。本当に。」

「今でも?」

何気なく尋ねると、クリスティは頷いた。


「ええ。十九になった今でも、さすがにこの姿のままでは難しいですから。」

カチ。

小さな金属音がした。

ジェイクの指が止まる。


「……十九?」

「はい。」

クリスティが目を瞬く。

「つい先日、十九歳の誕生日を迎えたばかりなんです。」

「…………。」


十九歳。

ジェイクは黙って、手にした部品を元の位置へ戻した。

ルリスティも十九歳だ。


(いやいや。)

同い年の人間など、世の中にいくらでもいる。

十九歳だから何だ。

珍しい髪が同じで、瞳も同じで、顔立ちが似ていて、年齢まで同じ。

ただ、それだけだ。


「マルセリア大佐、大丈夫ですか?」

「はい。」


ジェイクは何事もなかったように、再び銃を組み始めた。

手だけは動く。

何百回と繰り返してきた作業だ。


頭が全く別のことを考えていても、指先は勝手に正しい部品を選んでいく。

今だけは、その習慣がありがたかった。


「でも……。」

クリスティが、司令部棟へ目を向けた。

「実は、こちらへ来てからずっと不思議だったんです。」

ジェイクは嫌な予感がした。


「何がです?」

「ルリスティさんも、私と同じ二つの色をお持ちでしょう?」

「……ええ。」

「共和国では、どちらもほとんど見かけないのですよね。」


「そうですね。」

ジェイクは、銃から顔を上げなかった。

「この間、司令部棟の中を案内していただいた時に、

歴代の司令官のお姿も拝見しました。」


その一言で、

次に何が来るのか何となく分かってしまった。

「ルリスティさんのお父様は、同じ色ではありませんでしたよね。」

「……そうですね。」


クラウス・トリウリッド。

肖像に描かれていた男は、

ルリスティとはまるで異なる色をしていた。


「ですから、

もしかするとお母様から受け継がれた色なのかしら、と。」

クリスティは、少し考えるように首を傾げた。


カチ。

ジェイクの手が、今度こそ完全に止まった。


「…………。」

「マルセリア大佐?」


何と答えればいい。

父親から受け継いだものではない。

――そもそも。

ルリスティとクラウスには、血の繋がりがない。

その事実を、クリスティは知らない。


十七年前。

クラウスは二歳の少女を保護し、

『俺の娘だ』

そう告げただけで、その出自について何も語ろうとはしなかった。


母親が誰なのか。

なぜルリスティがあの色を持って生まれたのか。

ジェイクにも、分からない。


「……その辺りは、俺にも分かりません。」

結局、そう答えるしかなかった。

「そうなのですね。」


クリスティは、それ以上踏み込まず素直に頷いた。

けれど、その表情には僅かな疑問が残っている。

無理もない。

今しがた自分で説明したばかりの皇族色を、ルリスティも持っているのだから。


そして、その疑問をさらに深くする事情を、ジェイクだけが知っていた。


十九歳。

十七年前。

二歳。

クラウスに保護された少女。

そのクラウスとは、血が繋がっていない。

実の母親も不明。

二歳以前の記憶もない。

白銀の髪。

紫水晶の瞳。

皇族色。


そして。

奈落の歪みに飲み込まれ、黒淵のこちら側へ現れた皇女。

十九歳。

白銀の髪。

紫水晶の瞳。

マーヴェリア皇族。


(……待て。)

一つなら偶然。

二つなら、まだ偶然と言える。

三つでも――。


(いや、三つでも結構おかしいだろ。)

思わず、そんな考えが浮かんだ。

ジェイクは眉間へ指を当てたくなるのを堪える。

何個重なれば、偶然ではなくなる?


ちょうどその時。

再び窓の向こうへ目を向けると、

廊下を歩いていたルリスティが、部下に何かを言われて足を止めた。


少し困ったように眉を下げ、柔らかく笑う。

ジェイクの視線が止まる。

目の前では、クリスティもよく似た表情で紅茶を飲んでいる。


(似てる。)

最初に会った時から思っていた。

けれど、珍しい髪と瞳を持つ者同士だから、そう見えるだけなのだと。

そう思っていた。


今はもう、それだけでは、自分を納得させられなくなりつつある。


ジェイクは視線を落とした。

一つだけ。

まだ確かめていないことがある。


それはむしろ、

ここまで浮かんだ考えを否定してくれる材料になるはずだった。


そうだ。

姉妹なら。

クリスティ本人が、その存在を知っているはずだ。

ジェイクは少し迷ってから、口を開いた。


「……クリスティ殿下。」

普段より改まった呼び方が、自分でも意識しないまま口をついた。

「はい?」

ジェイクは、組み上げかけの魔導銃へ視線を落としたまま尋ねる。

「妹はいないんですよね?」

クリスティは、意外そうに一度瞬きをした。


「妹ですか?いませんよ。」

あまりにも自然な答えだった。

「兄が二人と、姉が一人。私は末っ子です。」

「……そうですか。」


ジェイクは小さく頷いた。

クリスティに妹はいない。

――本人の認識では。


そこまで考えた瞬間、

ジェイクは自分で浮かべた言葉に眉を寄せた。

(……待て。)

そんな考え方を始めたら、何でも都合よく繋げられてしまう。


けれど、先ほどまで並べていた事実は、一つも消えていない。

(もし……。)

そこまで考えて、ジェイクは思考を止めた。


「マルセリア大佐?」

まただ、クリスティが、じっとこちらを見ている。

「……何でしょう。」

「どうして、妹のことを?」

「ああ。」


さて、どう誤魔化す。

ジェイクはほんの一瞬だけ考え、

いつもの調子へ戻るように肩を竦めた。


「クリスティさんと司令、よく似てるでしょう?」

「ルリスティさんと?」

「ええ。司令に似た妹でもいるのかと思いまして。」


「そういうことですか」

クリスティの表情が、ふっと和らいだ。

「もし妹がいたら」

少し考えるように首を傾げてから。

「きっと、可愛がってしまうでしょうね」


かちり。

最後の部品が収まった。

「……でしょうね」

ジェイクは、完成した魔導銃を見下ろした。


いつの間に組み上げたのか。

途中から、ほとんど覚えていなかった。


それでも銃は、何の問題もなく元の姿へ戻っている。

長年の訓練というものは恐ろしい。

頭の中がこれだけ混乱していても、手だけは仕事をしていたらしい。


「綺麗に組み上がるものなのですね。」

クリスティが興味深そうに、完成した銃を眺める。

「……ええ。」

ジェイクは、自分でも妙に感心しながら答えた。


「慣れてますから。」

本当に、慣れていてよかった。



しばらくして。

会議を終えたルリスティが庭へ顔を出したため、

ジェイクはクリスティを任せ、一足先に司令部へ戻ることにした。


庭を離れ、司令部へ戻る途中。

ジェイクは、廊下の窓辺に立つ二人の男へ気づいた。

ガレスとクルトワだった。


二人の視線は、先ほどまでジェイクがいた庭へ向けられている。

そこでは、クリスティとルリスティが、

並んで何かを話していた。


「……似てるな。」

ガレスが、庭を見ながらぽつりと呟いた。

「ええ。」

クルトワも否定しない。


ジェイクの足が、ほんの少し止まった。

ガレスがこちらへ気付く。


「何だ、大佐。」

「……いや。」

ジェイクは二人を見て。

もう一度、庭へ視線を戻した。


「やっぱり、そう見えます?」

「お前も気になってたのか。」

「まあ……。」


クルトワが、眼鏡の位置を直す。

「むしろ、気にならない方が難しいでしょう。」

「……ですよね。」


それ以上、誰も何も言わなかった。

二人が言っているのは、ただ外見がよく似ているという話だ。


けれどジェイクには、もう、それだけの話には聞こえなかった。

小さく息を吐く。

少なくとも。

最初に感じた違和感そのものは、自分一人のものではないらしい。



その日の夕方。


クリスティを客室へ送り届けたルリスティが司令室へ戻ると、

ジェイクはすでにソファへ腰掛け、報告書へ目を通していた。


「マルセリア大佐。」

「お疲れ様です、司令。」

いつもの声、いつもの表情。


ルリスティは、自分の机へ向かいかけて。

ふと足を止めた。


「……何かありましたか?」

「何がです?」

ジェイクが顔を上げる。


少し考えるように、ルリスティが彼を見る。

「何となく、いつもと違うような気がして。」

「…………。」

ジェイクが、僅かに目を見開いた。

今度は、自分が見抜かれる番だった。


「気のせいですよ。」

「そうですか?」

ルリスティはしばらく彼を見つめていたが、

それ以上問い詰めることはせず、机へ向かった。


積まれた書類を確認し、椅子へ腰を下ろすと、

羽根ペンを取り、いつものように仕事を始めた。


ジェイクは、その横顔を黙って見つめる。

白銀の髪。

紫水晶の瞳。

昼までなら、ただ、ルリスティの色だった。

今は、

――皇族色。

――聖霊の加護。

――皇族の証。

――家族の証。

知ってしまった言葉が、勝手について回る。


しかも、その答えは、以前ルリスティと一緒に読んだ本に、

すでに半分だけ書かれていた。


『どんな色なのでしょうね。』

そう言った本人が、その色を持っていた。

「…………。」

聞こうと思えば聞けることはいくらでもある。


司令。

――二歳以前のことを、本当に何も覚えていないんですか。

――クラウス司令官から、あなたを見つけた時の話を聞いたことは。

――その髪と瞳について、何か言われたことは。

――実の母親について、何か知っていることは。

けれど、どれも口にはできなかった。


今あるのは、まだ推測だけだ。

それに、クラウス・トリウリッドは、ルリスティにとって父親だ。

血が繋がっているかどうかなど、彼女にとっては何の意味もない。

今も心から敬い、愛し、迷った時には、その言葉を思い出す。


そんな彼女へ根拠もないまま、

あなたの父親は、

あなたの出生について何かを隠していたのではないか。

そんな問いを、軽々しく投げることはできなかった。


「……マルセリア大佐。」

呼ばれて顔を上げると、

ルリスティが羽根ペンを持ったままこちらを見ていた。


「先ほどから、何度もこちらをご覧になっていますよね。」

どうやら気付かれていたらしい。

「数えてたんですか。」

「気になりますから。」

そう言って、ルリスティが少し首を傾げる。


その仕草に、昼間のクリスティが重なった。

(……またか。)

ジェイクは、僅かに目を細めた。


意識し始めたせいなのか。

それとも、本当に似ているのか。

昼間までは気にも留めなかった仕草まで、

今は妙に目についてしまう。


ルリスティはそんなジェイクの様子を窺うように、

僅かに眉を寄せた。

「何か変ですか?」

「いや。」


ジェイクは小さく息を吐き、改めて彼女を見る。

夕陽を受けた白銀の髪。こちらを見つめる紫水晶の瞳。

もう、昼までと同じようには見えない。


「改めて、珍しい色だなと思っただけです。」

「私の髪ですか?」

「髪も。目も。」

ルリスティが瞬きをして、今更何を言っているのだと言いたげな顔をした。


「……今更ですか?」

「今更です。」

しばらくジェイクを見つめたあと、ルリスティは呆れたように小さく息を吐く。


「変な大佐ですね。」

「よく言われます。」

「私は初めて言いましたけど。」

「そうでしたっけ。」


ルリスティはもう一度だけ不思議そうに彼を見てから、

再び書類へ視線を落とした。

ジェイクは、その白銀の髪をしばらく黙って見つめていた。


ジェイクは、もう何も聞かなかった。

聞けなかった。

クリスティにも、

『本当に妹はいないんですか』

もう一度尋ねることなど、できるはずもない。


何より、もし本当に、

二人が自分の想像通りの関係だったなら。


それは、

二人の人生そのものをひっくり返す話になる。

ジェイクは、静かに目を伏せた。


今日の昼までは。

同じ白銀の髪。

同じ紫水晶の瞳。

よく似た顔立ち。

それだけでも、十分すぎるほど奇妙だった。


けれど、今は違う。

――その二つの色は、皇族色。

――クリスティも、ルリスティも十九歳。

――ルリスティは十七年前、二歳でクラウスに保護された。

――そのクラウスとは、血が繋がっていない。

そして、

『妹はいませんよ』

何の疑いもなくそう答えたクリスティの声。


一つひとつなら。

まだ、何か別の理由を考えられたかもしれない。

けれど、すべてを並べれば、どうしても同じ疑問へ辿り着く。


(……クラウス司令官。)

もう会うことのできない男へ、胸の内で問い掛けた。

(あなたは、いったい何を知ってたんですか。)

答えはない。

聞ける相手もいない。


目の前ではルリスティが、何も知らず書類を処理している。

クリスティもまた、自分には妹などいないと信じたまま、

この砦で過ごしている。


二人が知らない何かに、

もしかするとジェイクだけが、先に気付き始めていた。


まだ、確信ではない。

ただの疑念だ。

偶然だと、そう言い切ろうと思えば、まだ言える。


――けれど。

それを信じるには、

重なるものが、あまりにも多すぎた。

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