神実況者、追放される・麩酒杉輝の視点
つまらない。何も無い異世界でゼロから街を発展させていくのは楽しかったが、軌道に乗ってしまったらあとは惰性で発展していくのでつまらない。イタズラを仕掛けて動画を撮るのも楽しかったが、やることがマンネリ化してきてつまらない。心もだんだん俺に甘えずに自立するようになってきてるのでつまらない。何か俺の情熱を注ぎこめる対象が必要だ。俺の力作。代表作。単発のネタ動画じゃなくて、たくさんの工夫を込めた長い脚本を書いて……それはドラマだな。うん、ドラマを撮りたい。
ロリババアのほうも動画の再生数が伸び悩んでいるのを気にしていて、新たなステップアップが必要だと言ってきた。よし、チャンスが巡ってきた。俺の新たなチャレンジのスタートだ!
「ようし、今度はドラマを撮らないか」
俺は台本に沿った冒険譚を自分たちで作りたいとロリババアに提案した。
「わらわの動画チャンネルじゃぞ。杉輝が脚本を書いたら、それはもう杉輝チャンネルではないか」
俺のチャレンジは終わった。いくら全身全霊の力作を完成させても、投下先の動画チャンネルが新しく立ち上げたものだったら、誰も見てくれないじゃないか。知名度を得るためにどれだけ動画を撮らないといけないんだ。ロリババアめ、いつも自分の思い付きを俺たちに押し付けてくるくせに、俺が頑張って考えた提案は簡単に否定しやがって。くそっ、どうやったらロリババチャンネル内で俺の企画を通せるんだよ。ロリババアは何がしたいんだよ。いっそのこと、あいつをイタズラのターゲットにしてやろうか。
「じゃー神様が主役やってよー」
心のその言葉が、まさにジグソーパズルの欠けたピースだった。ロリババアが主役のドラマ企画。当然、あいつはいい気になる。視聴者はそんなロリババアを見て、「調子に乗りやがって」と不満を持つ。そこにイタズラを仕掛けてロリババアに恥をかかせる。俺たちも視聴者も大満足、ロリババチャンネルの人気は急上昇。ロリババアにとっては笑われることで人気が出る「芸人的においしい話」だろう。
「それだ! ロリババアが主役の冒険物語なら、ロリババチャンネルにふさわしい動画になるぞ」
「なんじゃ、わらわが冒険者になるというのか」
ロリババアはずいぶん渋い顔をしている。
「ええい、やめじゃ。実況者のわらわが台本通りに戦うなど、茶番が過ぎるわい」
お前はイタズラのターゲットなんだから茶番をやってればいいんだよ。あ、茶番が長すぎると視聴者が離れてしまうか。イタズラを抜きにしたドラマ自体が面白くないとな。
「ねー杉輝、主役の神様が台本を無視して実況するお話を書いてよー」
心、今日のお前は天才か! 基本アドリブで、主役以外が話の流れを誘導するドラマ。これならロリババアは調子に乗るし、視聴者はハプニングを楽しめる。
「よーしわかった! 全部アドリブの主役が実況しながら冒険する話を書いてやる」
俺は脚本を書き始めた。主役が全部アドリブということは、話がどう転んでいくかはわからない。決められるのは舞台と登場人物とシチュエーション。会話については各シーンの序盤だけ台本に書いておいて、途中からは大まかな方向性を与えておくだけでいいだろう。主役の行動によって方向性が分岐するようにするのも良さそうだ。
イタズラするならやっぱりエロい事がいいよな。それなら主役パーティーは女の子ばっかりなのが絵面的に良さそうだ。それからライバルパーティーも用意しよう。
話の冒頭は追放だ。ここで主役が周囲から評価されていないのを見せつける。ロリババアはイラっとしながら感情移入してくるはずだ。それから主役が実はすごい奴だとみんなで持ち上げる。だんだんいい気になって調子に乗ってくるはずだ。そのあたりでちょっとしたエロイベントを発生させていこう。そして最終決戦で主役に頼らざるを得ない状況にする。持ち上げられすぎて気が大きくなってるロリババアは、ここで普段ならやらない行動に出る。そこで最大のエロイベント発生! ロリババアが赤っ恥をかいたところで終了だ。
話のあらすじが出来たところで、怜と心に見せてみた。エロイベントについては省いてある。
「わーいいなー、冒険者役やりたーい」
よかった、心はすごく面白がってくれた。
「おお、ぜひやってくれ。俺はお前たちに主役パーティーをやってほしかったんだ」
怜は渋い顔をしている。
「これって、私たちが裸になったりしない?」
気づかれてしまったか。長いこと一緒にやっていると、俺の意図は見抜かれてしまうな。
「大丈夫、お前たちの裸が映るようなことはしない。心の裸が映ったら俺は虫にされてしまうしな」
俺が怜の裸を見ないとは言ってないし、ロリババアの裸を映さないとも言ってないからな。
「わかった、私も出演していいよ。ほかに誰が出るの?」
お、意外と素直に引き受けてくれた。助かる。
「まずカナエルに声をかけるけど、ほかは知り合いに適当に声をかけてみる」
「じゃ、私からも声かけてみるね」
そのあとカナエルを誘ったら、かなりノリノリでOKしてくれた。ビッチを自称してるこいつなら、エロいイタズラにも全面的に協力してくれそうだ。
それから百合園町の谷原佳奈子に誘いのメールを送ったが、断られた。あいつが出てくれたらそれだけで画面がエロくなるんだが、やっぱりあの巨大おっぱいを引きずって冒険するのは無理があるか。
少しして、出演してくれる女の子を怜が見つけてきてくれた。茂手まくり。百合園町の温泉で会った子じゃないか。あのときは俺が女の姿だったから、俺だと気づかれていない。百合園町に住んでるのは前世が男だった奴ばっかりなんだよな。きっとエロい事にも協力してくれるだろう。
色々準備を進めて1か月、ようやく撮影を始める日が来た。冒険者ギルドの一室に協力者が集まってくれている。
「みんな、協力ありがとう」
怜は台本にあまり納得いってない様子だ。
「台本にはそれぞれのシーンの始めのほうしか書かれてないけど、ほんとにこれで大丈夫なの?」
「ああ、途中からは役になりきって会話を続けてくれ。お前たちを信じてる」
「任せておけ」
そう言ったのはダンジョン交渉人・根越瑛太。俺は今まで面識無かったが、心やカナエルは会ったことあるらしい。
「俺は今日のために最初のシーンの会話の流れを10パターン以上シミュレーションしてきた」
すごいな、交渉人って。
「助かる。会話に詰まりそうなときは糸口を作ってくれよ」
少ししてロリババアも到着し、カナエルの合図で撮影開始した。まずは俺のセリフ。
「お前をこのパーティーから追放する!」
まさか俺がこの定番セリフを言う事になるとは感慨深い。もしかしたらいつか婚約破棄なんてセリフも言う事になるかもな。
それからみんな次々にロリババアを非難するセリフを言ってくれた。言われ放題のロリババアは頭に血が上っている。
「誰のおかげで動画の人気が出たと思うておる! そなたこそ、なぜ悪役令嬢が勇者パーティーにおるのじゃ、アクヤ・クレージョー!」
さあ始まったぞ、アドリブの流れ。
「あらあ、わたくしは魔法の才能を買われて、魔法使いとしてここにいるのですわ。あなたは何の戦闘能力をお持ちでして?」
悪役令嬢っぽくていい返しだ、数寄透。
「実況には互いの戦力の分析が重要じゃ。わらわは高度な鑑定スキルで能力を見抜くことができるのじゃ」
「戦力を分析した結果を、あなたは脳内で敵を倒すのに活用していらしたのかしら」
俺が考えてた以上に非難してるぞ、すごいな数寄透。
「ええい、こんなパーティーはわらわのほうから願い下げじゃ! とっとと出てってやるわい! 後になって後悔しても知らぬぞ!」
ロリババアは走って出て行ってしまった。俺が追い出す前に自分から出て行ったけど、次のシーンにはつながるからこれでいい。
「はいカットですぅ。これでいいですかぁ?」
「ああ、オッケーだ。次のシーンの撮影に行こう。心、走ってロリババアを捕まえてきてくれ」
根越がなんかうなだれている。
「俺、アドリブを1つも言ってない」
「十分な仕事をしてくれた。お疲れ様」
「なんで私に様付け?」
怜が聞き返した。俺は「お疲れ様」と言ったんだ、「大塚怜様」とは言ってない。
「神様捕まえてきたよー」
心が戻ってきた。気絶したロリババアを引きずってる。
「『捕まえる』ってのは、呼び止めて連れてきてくれたらよかったんだ! 仕留めてどうすんだよ!」
気絶してしまったからには仕方がない、とりあえず宿屋に運ぼう。くそっ、次のシーンにつながらなくなったじゃないか。台本を書き直さないと。




