魔王との戦い・呂里馬場の視点
玉座には誰かが座っておる。魔王役のわりにはわりと小柄な男じゃ。近づいていくと、目の前にウィンドウが。「警告 これから現れるレベル99の冒険者に、それが低レベルであることを決して知られてはならない」じゃと……。
思い出したわい、あやつは雄烈栄。最弱冒険者オレツェーじゃ。あやつが魔王役ということは、皆は苦戦しているふりをしながら思い切り手加減する必要があるということじゃ。おのれ杉輝め、かように難しい戦闘をアドリブでやらせるとは、なんという無茶振りじゃ。
雄烈は薄笑いを浮かべてゆっくり立ち上がりおった。
「この難攻不落の魔王城をたった5人のパーティーで突破するとは、なかなかやるじゃねーか」
「入り口を入るとゴールなのに、どうやって突破に失敗するというのじゃ」
「ククク、あんなダンジョンなど存在しねーと同じとでも言いてーのかよ。好きだぜ、そういう威勢いーの。よっし、このレベル99の魔王オレツェーが直々に相手をしてやるぜ」
「最後の戦い、気を引き締めていくよ!」
怜の掛け声で皆身構えておる。わらわは普段通り少し離れた所で実況じゃ。魔王が低レベルであることを言わぬように注意せねばのう。
「ついに迎えた最後の戦い、敵は魔王オレツェーじゃ。攻守バランスの良い魔法に加えて剣技にも注意が必要じゃが、わらわの鑑定スキルをもってしても全貌を把握できぬ底恐ろしさを秘めておるようじゃ。皆、心してかかるのじゃぞ」
いきなり倒してしもうてはいかんし、手を抜いておることが見破られてもいかん。うかつに手出しできず、皆、雄烈を遠巻きにして出方をうかがっておる。
「皆慎重に様子をうかがっておる中、魔王が先手をうって魔法を放とうとしておる。あれは『氷の槍』じゃ! レイがすかさず防御魔法で打ち消しおった!」
「ほう、あの攻撃を正面から防ぐとは、さすが俺に戦いを挑むだけのことはあるな」
氷の槍など、怜は日頃から無数に撃ちまくっておる。あんなのを防げぬ魔法使いなどおらぬじゃろうが、雄烈にとっては渾身の一撃なのじゃろう。
「魔王の強烈な一撃を受け流せずに真正面から受けてしもうたレイ、はたして無事なのじゃろうか?」
わらわがそう言うと、怜は急に苦しそうな顔をして膝をついた。
「やはりかなりの負担がかかっておったようじゃ。カナエルが回復しにかかっておる。その間にココロが攻撃を仕掛けておるが、果たして当たるのじゃろうか?」
心はわざと狙いを外して攻撃しておる。
「いや当たらぬ、猛烈なパンチとキックを魔王がすべてかわしておる! 完全に見切られておるようじゃ。ココロの回し蹴り! これもかわし、魔王がココロの背中に斬りつけたあ!」
心は構えを崩しておらぬ。というか、痛そうな顔もしておらぬ。斬撃が弱すぎて、斬られたことに気づいておらぬのではなかろうか?
「魔王に斬られたココロ、痛みをぐっとこらえて、なお闘志満々じゃ!」
心は急に痛そうな顔をして、腹を押さえてうずくまりおった。
「うあああ、痛い!」
斬られたのは背中じゃぞ。まあそれより、皆やりづらいのはわかった。何かこう、ダメージは全然無いくせして見た目だけものすごい必殺技とか無いものかのう。何か良いアイテムでも持ってなかろうか、まくりを鑑定してみるのじゃ。おお、「見掛け倒しの剣」なるものを持っておるではないか。その中身は剣では無うて、懐中電灯と発煙筒じゃと。こりゃ都合良いわい。
「魔王の圧倒的な強さの前じゃと、今までの戦い方は役に立たぬようじゃ。これはいよいよマリーの持っておる光の聖剣の出番なのではあるまいか?」
このヒントでまくりは察してくれたようじゃ。見掛け倒しの剣を取り出して、鞘からゆっくり引き出そうとしておる。
「出たあ、伝家の宝刀、光の聖剣じゃー!」
煙が出てきておる、発煙筒が作動したようじゃ。
「見よ、鞘からただならぬ霧があふれ出ておる。立ち込める白い霧の中、まばゆく光り輝く刀身が現れおった……なんということじゃ、鞘の5倍はあろうかという巨大な光の刀身じゃ!」
無論そんな刀身など無いわい、懐中電灯の光が煙に当たって光の棒のように見えておるだけじゃ。
「さあ、鞘を打ち捨てて大きく振りかぶり……お? どうしたことじゃ!? 魔王が倒れておる!」
まくりが投げた鞘が雄烈にクリーンヒットしたようじゃ! たったそれだけでHPが激減して気絶しておる、どんだけ弱いんじゃー! まずいのじゃ、治癒魔法をかけてやらねば! カナエルよ、なんとかするのじゃ!
「これは地に伏した姿勢で発動させる、精神を支配する魔法じゃ! まずいのじゃ、カナエルが魔王に操られておる! 魔王はカナエルを人質にして、光の聖剣を使わせぬつもりじゃ!」
うむ、カナエルが雄烈に駆け寄っていったわい。治癒魔法をかけておる、わらわの意図をよう察してくれたのう。とはいえ煙が薄まってきておる。これでは見掛け倒しの剣が使えぬ。なにか別の策を考えねば……。
「力が、欲しいか?」
誰じゃ? どこからか男の声が聞こえてくるのじゃ。
「実況者ロリバーよ。汝は魔王を打ち破れる力を秘めている。我が汝の眠れる力を解放してやろう」
「このドラマはあやつら4人の成長物語じゃぞ。わらわがあやつらの代わりに魔王を倒してどうするのじゃ」
「それは違う。このドラマは汝が主役だったはずだ。思い出せ」
そういえば、わらわが主役の冒険物語としてこの企画が始まったのじゃった。
「汝がかっこよく戦って物語をすっきり終わらせる必要があるのだ」
「そんなの……恥ずかしいではないか」
「視聴者は汝が恥ずかしさをこらえてチャレンジする姿を望んでいる」
そなたは誰なのじゃ。しかしまあ、ここで引き受けておけば、わらわの動画チャンネルの登録者が増えそうじゃのう。
「わかったのじゃ。何をすればよいかのう?」
「汝のスキルに『急成長』が追加されている。大人の姿に変身して真の力を解放するのだ」
なるほど、真の力を解放したら魔王より強かった、という話の流れじゃな。これならあっさり魔王を倒しても説得力がありそうじゃ。
「この魔法は、『ゆめゆめきらきら、おっきくなあれ』と大声で唱えれば発動する」
「恥ずかしすぎるのじゃ――!! 子ども扱いするでないわボケ――!!」
「男の我が恥ずかしさをこらえて唱えてみせたのだ! ベテラン幼女を自称する汝が出来んとは言わせんぞ!」
皆、戦いをやめてわらわに注目しておる。この状況をわらわが打開する事を期待しておるようじゃ。雄烈よ、そなたまでわらわに期待を向けるでないわい。
「ロリバーさん。私の願い、あなたに託します。どうか魔王を討ち取ってください」
怜が出番の終わった仲間の顔をして言うておる。1回も攻撃しておらぬのに。
「ココロのぶんも、頑張って」
むう、心からせがまれると断りづらいのう。
「ロリバーさん……あなたが最後の希望です……」
まくりよ、そなたは攻撃を受けておらぬじゃろう! なんで瀕死なのじゃ!
ええい、情けないやつらじゃ! わらわがなんとかせねば!
「ゆめゆめきらきら、おっきくなあれ!!」
わらわの手足が伸びていっておる。体も大きく……これがわらわの大人姿……? 怜よりも背が高いではないか。……いや、心よりも高く……なんじゃと? どこまで大きくなるのじゃ?




