勇者パーティー・呂里馬場の視点
それからは週に2日ほど撮影をして1か月ちょっと。劇中では半年が経っており、物語はいよいよクライマックスじゃ。
今日の撮影場所は魔王城ということじゃが、本当にばかでかい城が建っておる。
「いつの間に建てたのじゃ、こんなでかい城」
「俺と怜で昨日建てた」
杉輝が誇らしげな顔をしておる。画面上でパーツを指定していくだけとはいえ、この大きさを2人で造るのは大変じゃったじゃろう。
「じゃあ今日の撮影始めるぞ。3、2、1」
にゃんこそば同盟の5人で魔王城を見上げるシーンじゃ。
「ついに来ましたぁ、魔王城ですぅ」
「みんな、行くよ」
魔王城に入ろうとしたところで、後ろから杉輝の声がしおった。
「ちょっと待ったあ!」
ブレイブアックスの4人が揃うておる。
「お前らが俺たちより先に魔王を倒しに行くなんて、どんだけ俺たちをバカにすれば気が済むんだ!」
杉輝は怒り心頭のようじゃが、こやつらとは最初のシーン以来共演しておらぬ。バカにしたシーンなど無いはずじゃ。
怜が冷静に答えおった。
「私たちはバカになんてしてません」
「ふざけんな! お前らごときが動画サイトで俺たちより人気取ってるのは、俺たちをバカにするためだろ! それに魔王を倒すのは選ばれし勇者の役割なのに、俺たちに無断で魔王を倒そうとするなんて何考えてるんだ!」
顔を赤くしてまくしたてる杉輝を、放が制しおった。
「要するに、自分より格下だと思っていた人たちに人気で超えられちゃって実力でも超えられそうだから、妬んでるんだよ」
根越が放の肩に手を置いて言いおった。
「やめろ、ホール。わかりやすく説明するとギーテルの馬鹿さが際立ってしまうだろ。交渉は俺に任せろ」
根越は怜をにらみつけながら間合いを詰めてきておる。
「俺たちとお前らのどっちが実力が上か、戦って決着つけないとあの馬鹿が納得しないんだよ。俺たちと勝負しろ」
「そんな、私たちには戦う理由がありません」
まくりの訴えに、皆もうなずいておる。
「もし勝負を断ったらな……」
空気が張り詰めておる。
「ギーテルがお前らのパーティーに加入するぞ!」
「みんな! 戦うよ!」
「「「お――!!」」」
皆の即答につられて、わらわも「おー」と言うてしもうた。杉輝は台本を書くときに自分を道化役として書いたのじゃな。なかなか粋な事をしおるわい。
「結局みんな俺をバカにしてるじゃねーか!! ココロ、お前は俺と一緒のパーティーがいいよな?」
「え? そんな事ないよ?」
心は真顔で答えておる。演技じゃ無うて素に見えるのじゃが、よいのじゃろうか。
「くそ――っ!!」
さて、わらわはいつも通り実況を始めるのじゃ。ブレイブアックスはわらわの古巣という設定じゃが、話の流れ上は敵ということじゃろう。にゃんこそば同盟の肩を持つ実況が良かろう。
「さあ、魔王城の前で始まろうとしておるのは人間同士の戦いじゃ。我らがにゃんこそば同盟が立ち向かうのは、勇者パーティーとも呼ばれておるブレイブアックス。魔法使い2人と戦士と盗賊という、魔法の火力重視のパーティーじゃが、戦士ホールは防御不可能な穴あけスキルを持っておって注意が必要じゃ。奴の手の届く範囲に近づくと即死じゃぞ」
これだけ言うておけば皆警戒するじゃろう。心も放から距離を取って様子をうかがっておる。
「先制攻撃はレイの氷魔法。すかさずアクヤが炎魔法で応戦じゃ。大規模な魔法の打ち合い、互角か……いやカナエルの防御魔法が弾いておるぞ。いやこれは目くらまし、盗賊ネゴシが奇襲をかけてきておる!」
こうやって敵の動きを実況してやれば、不意打ちをくらわずに済むのじゃ。そしてまくりがこっそりやっておる動きは黙っておいてやるのじゃ。
「ネゴシのナイフ攻撃をココロが防いで、そのまま近接格闘に持ち込みおった! これは武闘家ココロに有利じゃ。おーっと、ホールの身に何かが起きておる。これはマリーの捕縛罠じゃ! 魔法を目くらましに動いておったのはマリーも同じじゃったー! 身動きできぬホールにレイの氷魔法が降りかかっておる!」
ちょっと前まで新人じゃったパーティーが成長したものじゃわい。勇者パーティーの3人を手玉に取っておる……って、1人足りぬ。杉輝はどこじゃ?
「茂れ、トレントの蔓!」
わらわの背後から杉輝の声が! 地面から何かがたくさん出てきおったぞ!
「うわわあ! ギーテルの奇襲じゃあ! 地面から無数の蔓が絡みついてきおるぞ!」
足元から蔓が絡んできて、わらわは持ち上げられてしもうた。身動きがとれぬ。
「にゃんこそば同盟の皆も絡めとられておる。これは女が恥ずかしい目に遭う触手! 変態ならではの魔法じゃ! なんかアクヤも絡めとられておる、敵味方関係なしかあ!」
手も足も出ぬ状態で恥ずかしいポーズをとらされるわらわを、杉輝がニヤニヤ見ておる。何するつもりじゃ!
「くっ、なんたる屈辱……。じゃがわらわは屈したりせぬぞ!」
杉輝は向こうを向いて怜のほうに走っていきおった。
「あっ、こら待つのじゃ! わらわにエロい事をしたいのではないのか! このまま放置か!」
身動きできぬ怜に、杉輝がゲスな笑いを浮かべて近寄っていっておる。そんなに若い娘が良いのか! わらわじゃって見た目は若い……いや若すぎるかもしれんのう。いやそんな事はどうでもよいのじゃ、実況せねば。
「動けぬレイにギーテルの魔の手が迫っておる。もしや、これは冒険者ギーテルとしてじゃのうて、杉輝監督として仕組んだ罠じゃろうか? やりすぎじゃぞー!」
次の瞬間、杉輝が吹っ飛んでいきおった!
「なんと! レイが蔓を無理やり引きちぎってパンチじゃあ! まさかこんな力業で魔法を打ち破るとは、レイは本当に魔法使いなのじゃろうか! ギーテルに大ダメージが入って、皆が蔓から解放されたのじゃー!」
おっと、喜んでおる場合ではないわい、皆解放されたばかりで隙だらけじゃ。根越のやつがカナエルに忍び寄っておる。
「カナエルの後ろ! ネゴシが身をかがめて、カナエルの足元目がけて突進じゃ!」
根越の叫び声が。
「まいりました――っ!!」
「スライディング土下座じゃ――! ネゴシが負けを認めて、にゃんこそば同盟の勝利なのじゃ――!」
杉輝の個人的な怒りで始まった戦いじゃ、杉輝がやられてしもうては戦いを続ける理由も無かろう。戦いは終わりじゃ。なんかノーサイドの雰囲気になっておるわい。
じゃがわらわたちは魔王を倒しに来たのじゃ。これからこの巨大な魔王城のダンジョンを攻略せねばならぬ。気合を入れなおして、魔王城の入り口をくぐると――
「な、なんということじゃ……ここは、玉座の間じゃ――! ダンジョンなど無うていきなりラスボスではないか! どうなっておるのじゃ!」
後ろから怜の声が。
「長いダンジョンを攻略する場面なんてドラマとして面白くないんで要らないってことで、魔王城の中は玉座の間しか造らなかったんですよ」
どうりで短期間で魔王城を完成させられたわけじゃ。




