実況者の戦い・呂里馬場の視点
さて、次の収録場所であるダンジョンに着いたのじゃ。わらわは皆の戦闘を見ながら普段通りに実況するかのう。
「何か近づいてくる。これは、羽音!」
よかろう、実況開始じゃ。
「レイがモンスターの気配に気づきおった。気を付けるのじゃぞ」
姿を現したのは大きな蜂のモンスター2匹じゃ。
「出おったあ、ジャイアントビーじゃあ。毒針には注意が必要な相手じゃが、一番やっかいなのは攻撃をかわすすばしっこさじゃ」
そう言うておるうちに心が突進していきおった。
「いきなりココロが突撃! パンチを繰り出すも、当たらぬ当たらぬ! ココロも素早いのじゃが、敵の素早さはココロを大幅に上回っておる。どうするにゃんこそば同盟、敵を引き付けて攻撃の隙を突くことができるじゃろうか?」
怜が氷魔法を放ちおった。
「レイの『凍てつく嵐』が炸裂じゃ! じゃが敵までの距離が遠くて当たらぬ! カウンターでジャイアントビーの毒針がレイに突き刺さったー!」
まくりが何やら魔道具を取り出しておる。
「ここでマリーが出した箱は何じゃ? 素早すぎる敵の動きを封じるものが入っておるのか? マリーが箱を振りかざし……レイを刺したままのジャイアントビーに殴りつけたー! 魔道具の使い方、それでよいのかー!」
もう1匹のジャイアントビーは心を刺しまくっておる。
「その間にココロがやられておる! おお、刺されながらも敵を捕まえおったぞ。両手でつかんだまま、膝蹴り! 決まったあああ!」
「皆さんお疲れ様ですぅ」
カナエルが怜と心に回復魔法をかけておる。まくりがわらわに近づいてきた。
「私たちの戦い、どうでした?」
「ぐだぐだじゃのう。各々が何も考えずに勝手に暴れまわっておるだけじゃ。せっかくのポテンシャルを全然活かせておらぬわい」
「そうですよね。経験が足りないから、連携なんてどうすればいいかわからなくて……」
わらわも教え方がわからぬ。困ったのう。
「実況をよく聞いてみたらどうですかぁ?」
カナエルが口をはさんできおった。おそらく台本に書いてあるのじゃろう。
「さっきの実況、私たちがどう行動したらいいかをちゃんと言ってましたよぉ。よく聞いてぇ、今度はその通りに行動してみましょう」
なんと、わらわの実況が戦闘の役に立つというのか?
次のモンスターが近づいてきておる。わらわはさっきと同じように実況するのじゃ。
「今度はアルマジロ型のモンスター、ロックボールが現れおった。回転しながらの突進は攻撃力も防御力も高いのがやっかいじゃ。大盾で突進を止めれば攻撃の隙ができるのじゃが、そんな事のできるタンクはおらぬこのパーティー。果たして魔法か魔道具で突進を止められるのじゃろうか?」
すぐにまくりがカバンから魔道具を取り出しおった。心は突撃せずに様子をうかがっておる。うむ、皆わらわの実況に従うておるのう。
「さあ、ロックボールが丸まって突進してきおったぞ。おっ、マリーが網を投げ……かかったあ! 敵を網の中に捕らえることに成功じゃあ! ロックボールの側面に攻撃の隙ができておる。さあココロがダッシュして……頭にキック! これは強烈じゃ! たまらず腹を見せるロックボール、隙だらけじゃ! この隙に攻撃魔法が決まるじゃろうか? レイが魔法を唱えておる。これは……『裁きの雷』が決まったあああ! やりおった、見事な連携攻撃が成功じゃ!」
連携がきれいに決まって敵をあっさりと倒しおった。皆うれしそうじゃ。
「やったー! うまく倒せたよー!」
「この戦い方なら私たちも強い敵と戦える!」
「これからは実況を聞きながら戦いますぅ」
わらわの実況でこんなに戦い方が良くなるとは、嬉しいのう。そして皆がわらわの言葉に従うて動いておるのが気持ちいいわい。
おや、またモンスターが現れおった。またわらわが実況で皆を導いてやるかのう。
「おっ、またモンスターじゃ。ゆっくり現れおったのは、鬼じゃ! 攻撃力が高いが素早さが低い相手ゆえ、金棒の一撃をくらわぬように気を付けながらヒット&アウェイ、すなわち一撃入れてすぐに距離を取るのが有効じゃ」
心は敵から距離を取ってゆっくり歩いておる。そして敵の真後ろに来たところでダッシュ!
「ココロが突撃! 背中にキック! いい一撃が決まってすぐに後退、これでは敵は反撃できぬ。うまく手玉に取っておるのじゃ」
うむ、言うた通りじゃ。そうじゃ、何を言うても従うてくれるか試してみるのも面白そうじゃ。
「敵は鬼。鬼に効くアイテムといえば豆じゃ」
まくりがアイテムを探しておる。いくら魔道具士といっても豆は用意しておらぬじゃろう。
「おや、カナエルが何かをマリーに手渡しておる。あれは豆じゃろうか? おやつとして用意しておったのじゃろうか? マリーが振りかぶって、投げたのじゃ」
豆を投げたのは良いが、無言なのは良くないのう。
「豆を投げるときには掛け声があるじゃろうに」
「鬼は外――!」
ちゃんと従うてくれておる。真面目じゃのう。
「威勢よく投げておる。もっとかわいさがあると良いのじゃが」
まくりは作り笑顔で豆を優しく投げおった。
「鬼は~外! 福は~内!」
「おお、かわいいのう。皆でやれば華がありそうじゃ」
4人そろって笑顔で豆まきじゃ。
「「「鬼は~外! 福は~内!」」」
「4人で豆まき、かわいいのじゃ! たくさんの豆を浴びて鬼は弱る……わけなかろう! 豆が効くなど嘘じゃ! 鬼の金棒攻撃! レイはギリギリかわして、金棒を奪い取って投げた――はぐわあっ!!」
痛いわい! わらわの顔に金棒が命中じゃ!
「私たちにおかしな事させないで!」
「うう、レイの激しいツッコミでわらわが大ダメージなのじゃ。えーと、その間にココロとマリーが鬼をボコっておる。なんか倒したようじゃ」
怜がわらわの前まで来てきつい視線を向けてきておる。
「この怪力魔法使いめが、わらわの頭蓋骨が砕けそうだったのじゃ」
「こっちは命を懸けて戦っているんですから、ふざけないでください」
「悪かったと思うておる。つい調子に乗ってふざけてしもうたわい。次からはちゃんとやるのじゃ」
「カット!」
急に後ろから声がしたので振り返ると、杉輝がおるのじゃ。
「なんじゃ、おったのか」
「俺は監督だからな」
「そなたが監督じゃったのか。監督はカナエルかと思うたわい」
「あいつは俺が出演してるときに監督を代わってもらってただけだ」
こやつがカットしたということは、わらわがふざけたせいで撮り直すのじゃろうな。
「いい動画が撮れた。今日の収録はこれで終わりだ、おつかれー」
「これで良いのかい!」
どういう台本になっておるんじゃ、まったく。




