【第91話】ケイタの恩返し1(1) 納品
職人ギルドから帰宅すると、またもやお客さんが待っていた。
「こんばんは。杖屋です」
「こんばんは。お久しぶりですね」
目の前には杖屋の前掛けをした青年がいた。
「オーダーメイドの指輪が納品されましたので、ご報告に参りました」
「おお、思ったより早かったですね」
「それは主人もそう言っておりましたよ。それで納品はいつにしましょうか」
「ええと、そうですね、少しお待ちください」
完全に油断してた。
だって、半年くらいって言われていたからね。
まさか2か月で仕上がって来るとは。
「クリフトさん、実は・・・」
「はい」
俺は隣にいたクリフトさんに、簡単に説明した。
かなり先の話だと思って、一切話をしていなかったから最初からだ。
今までの恩返しの1つとして、教会のみんなに指輪を送りたいと考えている。
思ったより早かったけど、完成したのでみんなに渡したい。
あと、ちょっと手間だけど、使い方の説明と個人認証の登録をやりたいので出来ればみんな一緒に。
・・・という感じの事を伝えた。
「またそんなことを・・・」
「安いものではないので差し出がましいとは思いますけど、皆に何かしてあげたくて。
収納の指輪はあったら便利だと思うし、それにもう買っちゃっています」
「わかりました。ありがとうございます。
では明日の昼過ぎにしましょうか。明日は全員いますし」
「わかりました」
「かしこまりました」と青年。
当然、杖屋の青年にも今の会話は聞こえていた。
「では、明日の昼過ぎにこちらにお持ちしますね」
「今日の明日で、急で申し訳ないですね。よろしくお願いします」
「ケイタさんなら大丈夫です、では主人にはお伝えしますね」
「認証の件も、お願いしますね」
「はい、大丈夫です」
杖屋さんには事前に話してあって、個人認証を出張サービスして貰うことになっていた。
ぞろぞろと、教会の人達が杖屋に入っていくのも目立って仕方が無いだろうという事で。
これらはすべて、トレント素材の未払い分から相殺されることになっている。
話が終わると杖屋の青年は帰っていった。
「夕食まで少し時間ありますよね、ちょっと、明日の事でメリーさんに話をして来てもいいですか?」
「ええ、どうぞ。もしよかったらごはんにも誘ってあげてください」
「分かりました」
「じゃあボクはここにいるにゃ」
「わかった、じゃあちょっと行ってくるね」
「きをつけてにゃ」
◇◆◇◆◇◆
収納の指輪プレゼント計画。
実はメリーさんも一枚かんでいる。
俺は足早にメリーさんのお店へ向かった。
チリンチリン
「あら、ケイタさん」
「メリーさん、お仕事、今日もお疲れ様です。」
「ありがとう~」
労いの言葉を掛けるとメリーさんは座ったまま、にっこりと笑った。
「例のオーダーメイドしてた収納の指輪が明日のお昼過ぎに来ますよ」
「まあ! わかったわ。 よーし・・・」
メリーさんは気合を入れた。
「と言っても、準備は終わっているから、明日は説明だけなんだけどね」
俺はそう言いながらメリーさんの頭を撫でた。
「えへへ・・」
「クリフトさんが、ご飯どうかって」
「おお! それはうれしいわ!」
メリーさんはあっという間にお店を閉めた。
「では行きましょうか」
「はーい」
俺はメリーさんにベタベタとまとわりつかれながら教会へと向かった。
夕食を頂いた後、雑談タイムの準備中にクリフトさんが明日のお昼の話を手短にしてくれる。
「明日はお昼を頂いた後なんですが、ケイタさんからみなさんに、プレゼントがあるそうなので、少し残る様にお願いします。」
クリフトさんの説明に皆が沸く。
ちょっとお疲れ気味だったシスターさんたちも元気な顔になった。
「やった~」 「なんだろう」
「うーん、またジュースかな?」
「ジュース!」 「ジュース来た!」
あっという間にジュースコールが沸き起こった。
「わかりました、待ち時間とかあるし、ジュースもつけましょう!」
「「「おおー!」」」
ジュースは予定外だったけどまあいいだろう。
でも手持ちがあれだから、明日の朝、首都のジュース屋さんを回って見るか。
こうなったら全種類、コンプリートだ。
◇◆◇◆◇◆
翌朝。
むに
「はっ」
柔らかくて、しっとりしたものがほっぺに当たって目が覚めた。
「あ、起きちゃった? あっ」
俺はメリーさんを抱き枕にする。
「もう~ おもちちゃん、来ちゃう時間よ?」
「来たら解放します」
そういって柔らかくていい匂いがするメリーさんを堪能する。
しばらく二人でもぞもぞした後に、エリア洗浄を唱え部屋ごと綺麗にする。
「今日は朝からジュースも買いに行くんでしょ?」
「ん。そうですね、今日は西側にも足をのばします」
一瞬気を取られた隙に、するりとメリーさんに抜け出されてしまった。
「ふふ。ご飯の準備をするわね」
「手伝います」
俺はやっと体を起こし、ベッドから抜け出した。
◇◆◇◆◇◆
午後、首都の中でジュースを買いまわって、メリーさんと合流してから教会に向かった。
ついてみると既にお昼の準備は終わっており、皆が揃ったので、少し早いけど昼食をとることになった。
とてもおいしいウィンナーと野菜の具沢山スープと癖になる焼きたてのバターパンだった。
食後にはさっそく、
今日お出しするジュースは首都の街で買ったものなので、珍しさはないと思いますが・・・
とか言いながら少し小さめのコップにジュースを注いでいく。
「ケイタさ~ん、杖屋の方がお見えになりましたよ」
「あ、了解で~す」
俺は立ち上がり玄関に迎えに行った。
杖屋の主人と昨日連絡をくれた青年の2人がいた。
「こんにちは」
「こんにちはケイタさん、お久しぶりです」
「今日はよろしくお願いしますね」
「ええ、お任せください」
俺が杖屋の2人を連れて食堂に入ると、にぎやかだった食堂がシンとなった。
皆が俺と杖屋の主人を、ちょっとどきどきした感じの顔で見ている。
「みなさん、昨日ちょっと、クリフトさんから説明してくれたとおり、
これから皆さんにはある指輪をプレゼントしたいと思います」
いつもならやった~、とか、言ってきそうだったけど人前だからか
みんなは行儀よく、俺の次の言葉を待っている。やればできるんだなと、どうでもいい事を考えてしまう。
「ええと、収納の指輪と呼ばれるもので、俺がいつも使っている、この指輪と同じものです」
俺は手の甲をみんな側に向けて指輪が見えるようにした。
みんなは少しざわっとしたけど、なんとか頑張って俺の言葉を待っている。
「ただ、俺の付けてるような、無骨なデザインの指輪だと、
みんなには似合わないかなと思って、
これなら馴染むかなって、俺が勝手に思うイメージで、
ちょっとデザインを変えて貰っているので・・・大丈夫だと思います」
俺はそういいながら、杖屋の主人を見る。
「はい、こちらになります」
主人が木の箱をパカリと開けてみんなに見せた。
長方形の木箱の中にはしっとりとした、高級感のある布に指輪が21個、綺麗に並べられていた。
魔石や、それを支えている銀色のリングがキラキラと光を反射している。
「これは高いのでは・・・」
思わずと言った声のトーンで誰かがそう言った。
「値段の事は気にしないでください。
もう買っちゃっているので、貰ってくださいね」
どうしよう、こんなに高価なものは受け取れないよ。
口々にそんなことを言って困惑させてしまったようだ。
そこで常識ある発言はやめてほしい。
確かに普通なら引くシチュエーションではあるけど、みんななら大丈夫だと思ったのに。
「みなさん、今はただ受け取る様にお願いします。ケイタさんの気持ちですので」
クリフトさんはみんなに受け取るよう言った。
本当にいいのかな、悪いよね
いつもはクリフトさんの鶴の一声で空気が変わるのに、今回はなかなか変わらなかった。
あれ、本当に受け取らない感じの空気?
想定外の事に固まっていると、杖屋の主人が近づいてきて小声で、お待ちしますよと言ってくれた。
説明不足だったか。いや、これはちょっとしたサプライズなので・・・。
でもこの空気を変えるには、俺が話をしないとダメかと思い、みんなに考えていたことを話すことにした。
「ちょっと、泥臭い話になるかもしれないんですけど」
そう言ってから、少し考える。
でもみんなが俺の言葉を待ってくれている事に意識が行ってしまい考えがまとまらない。
「人間は、いつ死ぬか分からないですよね」
小さく、え?とか息を飲む音が聞こえた。
「生き方の1つに、心が追いついていなくても、状況的に、そうだなって思ったら、行動だけしておくっていうのがあります」
皆が?という顔をしている。
でもすぐに何人かは、ああ、という顔をした。
「自分の心は、その後でも間に合うけど、行動はそのタイミングしかない、とかっていう時間的要素も絡む話、なんですけど」
分かっていなそうな人も結構いるようなので、少しだけ補足をする。
「例えば、ここではあんまりいい例えではないかもしれないけど、
前に住んでいた場所で、ええと、親孝行したいときに親はなし。
っていう言葉がありました。
自分が親になって気付いて、感謝して、それを返そうと思った頃に、既に親は死んでいるっていう話です」
みんなは黙って聞いている。
「返せるときに返しておきたいし、・・・返せるときに、やっぱ返すべきなんですよね」
「それで、さっき前置きした、泥臭い話っていうのがですね・・・」
考えがまとまらない。
もうめんどうだから言ってしまおう。
「俺が死んだとき、俺の持ち物は、その場にいる人に拾われてしまいます。でもそんなの嫌です」
みんなが、ん?という顔をする。
「知らない人に持って行かれるのはなんか嫌だし、悔しい。
それだったら、持っている財産の少しでもいいので、俺が生きているうちに、
今のうちに、俺が感謝したい人に、確実に手渡したいかなと。」
みんなの表情からして、この考えは結構、賛同を得られたようだ。
いや、賛同というか、わかりやすかったというだけかな?
「まあ・・・俺も人間ですからね、顔も知らない他人より、知ってるみんなにあげたい。
そんな、しょうもない考え・・・・なのと!」
え、まだあるの? という顔をする人達。
思わず笑ってしまう。
「今、すごいお金を持っていて、そわそわしています。
このそわそわを、みんなに解消してもらいたいです」
という所を落としどころに、爆笑とまでは行かずとも、笑ってくれる人がいると思ったけど、誰も笑わなかった。
「んえ?」
なぜか数人が、床にうつぶせになっている。
「え?」
「・・・こら、それはダメですよね? 気持ちは分かりますけど」とクリフトさんが言うと、
床にうつぶせになっていた数人は、つい、とかもう無理とかいいながら起き上がってくる。
お辞儀の教会バージョンかな?
・・・いやまあ、マンガで見たことあるんだけど、これ、五体投地だよね。
今はそんな空気ではないので控えるけど、後で誰かに聞こう。




