【第28話】祝福の泉へ(2) 祝福の泉の洞窟 (挿し絵あり)
翌日、日が昇り始めた頃に目が覚める。
しっかりと装備をチェックし、洗浄を掛けて顔と寝ぐせをすっきりさせる。
洗浄って本当に便利だ。
「うおお、朝は冷えるなあオモチよ」
洗浄を掛けた後、ブルリとなった。
「にゃーうん」
まだベッドで寝ぼけていたオモチも、部屋を出る頃には目が覚めていた。
毛づくろいを終えて、今はベッドの上でスフィンクス座りをしている。
忘れ物がない事を確認してチェックアウトをする。
馬車の停留所近くでは朝早くから屋台が出ていると聞いていたのでその足で向かう。
着いてみるとやっている屋台は3軒ほどあって、全部売っているものが違った。
馬車の確認をした際に、まだ30分ほど時間があると聞いて屋台に向かう。
まず左の屋台に行く。
「具だくさんのミネストローネだな」
一杯250円で、大きな木のお椀に入れて手渡される。
「空間収納用にそのうちお椀を買いますか」
「いいと思うにゃ。空間収納に入れたら熱々のままだからにゃあ」
オモチの空間収納は時間が止まるタイプのようで、保存が可能なのだ。
首都の城下町では保存したいと思うほどのものとは出会っていなかったのだが、
ここにきて必要性を感じた。
「まあ、味の好みの多少は我慢して、少し入れておいた方がいいな」
「そうにゃね」
「お兄ちゃん、そりゃあひどいぜ」
「あ、これの事じゃないです、首都の屋台の話です」
「へえ、首都ねえ」
「これ首都にはない味だし、おいしいです」
「そうか、ありがとな」
屋台のオヤジも本気じゃない、ただの雑談のようだ。
「首都は色々高いっていうからな~。家には年老いた母親と、
俺の家族が住んでいるから無理だけど、でも死ぬ前に一回は行ってみてえなあ」
屋台のオヤジは元気よく、その気もなさそうだけど威勢だけでそう言う。
「家族旅行したらいいと思いますよ」
「今食べるだけで精いっぱいだからなあ」
「なるほど」
人間、意外と思うほど制限はないんだけどな。殆どは自分が掛けているもんだ。
説明する時間も固定概念を解いてあげる時間もないので言わないけど。
「また戻ってくるなら、買ってくれよ」
「分かりました」
せめて売り上げには貢献しよう。
とりあえず隣の屋台でサンドイッチを2つ買い、オモチに収納してもらう。
これはお弁当とする。
その向こう側にあったドリンク屋で容器ごと買いたい旨を伝え、多めにお金を支払った。
熱々のミネストローネを冷やしながら10分ほどで食べオヤジにお椀を返却する。
馬車乗り場の共同トイレに行ってから馬車に乗り込んだ。
ちらりと周りを見ると、もうそこそこの人の往来が始まっている。
「メルスの町、出発するよー!」
御者が大きな声を上げるが外にいる人は誰も反応しない。
すぐに俺とオモチだけを乗せた馬車は動き始めた。
「昼前には着くよ。モンスターが来たら駆け抜けるからその時は声を掛けるから、
どっかに掴まってもらっていいかな」
「分かりました」
俺は冒険者の姿をしていたが、客に仕事はさせないようだ。
それとも弱そうに見えたか。しかし事実自分が強いと喧伝するほど自信はない。
レベルも、スキルの件もあるし。
俺はため息をついて意識して肩の力を抜いた。
幸いモンスターは出ずに昼前にメルスの町についた。
馬車から降り、とりあえず広場まで移動してからベンチに座った。
ベンチに座って、そういえばお尻痛くないぞと気付く。
そういえば、国境までの馬車も、今乗ってきた馬車もかなり揺れていたが、
なんともなかった。
「あ」
ステータスのお蔭か。
「ケイタどうかしたのにゃ?」
「いや、ステータスの恩恵の大きさに気づいて」
「うにゃ?」
そうなの?と首をかしげる。体まで傾いて、余計かわいくなっている。
「罪な猫だ」
「にゃう」
無言でオモチを抱きしめる。
5分ほどそうしていると、ふとここはどこだ、そうだ泉に向かっていたんだと気づく。
オモチを愛でるのに集中しすぎて意識が飛んだようだ。
「立札とかないのかな」
「それは人に聞いたらいいにゃ。すいませーん」
オモチが町娘を呼び止める。
町娘はオモチの頭を撫でながら、泉の場所を教えてくれた。
「ちょっと体使ってないからムズムズするね。泉までは走ろうか」
「いいにゃよ。」
おもちは左手を握りしめ、右手を・・・
「では!」
「あ! まって! あれをするにゃ、えいえい・・まってにゃー!」
俺は少しだけ走ってオモチにイジワルをする。
後ろから静止を求めるかわいい声が聞こえる。
オモチは四足歩行で走れば余裕で俺を追い抜けるのだが、
今は焦って忘れているのか、とてとてと2足歩行で慌てて追いかけてくる。
両手を上げ、顔が><になっていてとてもかわいい。
「ひどいにゃ~~><」
「俺を萌え死なすつもりか」
表情筋が仕事をしておらずニヤケ顔が解除できない。
顔を見られないように素早くオモチを抱き上げ、抱きしめる。
「悪い、忘れていた」
すりすりと頬ずりをしながら謝罪をする。
声が完全に笑っていたのでいじわるだったのがバレたのか、ポフポフ叩かれる。
「うう~」
数分間、頬ずりをしたりしてオモチを堪能する。
「絶対悪いと思っていないのにゃ・・・」
「ふふ」
もう!とほほを膨らませてまたポフポフと叩いてきた。
痛くないので甘んじて顔面で受け止める。
そのまま前足の間に顔をうずめてぐりぐりすると「にょふ」と変な声が聞こえた。
しばらくして気が済んだのか、出発の儀式をせがんできた。
「じゃあ泉を目指して、出発だー」「「おー!」」
泉までは町の人が歩いて1時間ほどの距離との事。
初めての道だったので少しゆっくり走って30分ほどで到着した。
「泉広いな、そして人が多い」
「これは泉の流れた先にある湖部分にゃ」
湖の周りには丸太などでテーブル、いすなどが所々に作られていた。
また、釣りをする人や、シートを敷いて座ってくつろいでいるカップルなども見られた。
「祝福の泉って、魔物を避ける力があるのか?」
「そうにゃ。さすがケイタにゃ」
みんなのびのびしているもんな。
「あっちの、あの大きな岩の所に行くにゃ」
オモチの示した場所は、湖のちょうど反対側にある大きな灰色の岩だった。
「じゃあこっちから行こう」
湖から下流に伸びている小川の上にはちょっとした橋がかけられていたので、そこを通るようにしてみた。
大したこともない橋だったけど、オモチが喜ぶかなと思って。
「魚居る?」
「う~ん、見えないにゃあ」
橋の上から二人して小川を覗き込む。
こんな浅い場所にはいないだろうなと分かってはいるけど、
探させてみた。昔親戚の子供に同じことをさせたことを思い出す。
「・・・じゃあ行こうか」
「うにゃ」
ゆっくりと風景を楽しみつつ岩の前にたどり着いた。
「この岩は洞窟の入り口になっているにゃ、何もないからそのまま進むのにゃ」
そういうとオモチは岩の中に消えていった。
俺は手を突っ込んでみる。何の抵抗もなく、手が岩に突き刺さったようになった。
ゆっくり頭を打ったりしないように手で探りつつ、すり足で岩の中に身を滑らせていく。
少しして視界が開け、すぐに目の前に通路が伸びているのが確認できた。
「ファンタジーだなあ」
「じゃあ行くにゃ」




