【第27話】祝福の泉へ(1) 出発
旅立ちを教会の人に報告してから2週間が経過した。
なかなかフローラさんから離れられなかったけど、
あれから一か月とキリもいいのでいい加減さっさと出発し、さっさと帰ってくることにした。
旅の準備については、とっくに終わっている。
朝一の馬車で出発するために、今日は早起きをしている。
「じゃあクリフトさん、フローラさん、みんな、行ってきますね」
「気を付けて。必ず戻ってきてくださいね」
「はい、時間が掛かっても必ず」
「みんなまたあうのにゃ」
「じゃあね、オモチちゃん」
皆がオモチをなでたり、俺と握手をする。
フローラさんとは今朝部屋の中でお別れをしたので、ずっとにっこり笑って俺を見ているだけだ。
お腹を大事そうに手でおさえている。
フローラさんには多分出来たと言われている。
そういう魔道具があるらしい。
俺は最後にフローラさんにぎゅっとハグをして、行ってくると伝えて教会を後にした。
◇◆◇◆◇◆
南門から出てすぐの場所にある、馬車乗り場には沢山の馬車や人がいて、
それぞれの御者らしき人が行先が書かれた板を持っていたり、看板を2枚用意してサンドイッチマンをやっていたり、馬車の分かりやすい場所、足元などに置いてボーッとしている人など色々だ。
教会のシスターさんたちが調べてくれた情報によると、まずは数日掛けて国境の町へ入り馬車を降りたら、徒歩で国境を越えライバリという名前の国に入る。
国境を超えるとすぐ隣に町があるので、そこに入ってから違う馬車に乗って、メルスという町へ行けばいいらしい。
国境をはさんでの町へは、徒歩数分程度で、地域の住人達は普通に行き来が許されているらしい。
俺はもう一度確認の為にノートを開く。
●馬車で国境の町へ
ピリカ王国→中継の町いくつか→サワコタの町
●徒歩で国境越え
(ピリカ国)サワコタの町→(ライバリ国)グンリカイの町
●グンリカイの町→メルスの町
まずは国境の町のサワコタ行きの馬車を探す。
すぐに見つかったが、もう出発するとの事で、急いで105.500円を支払い乗り込んだ。
情報通り、かなり高い。 が、これは安心料でもある。
これを払わずに死んでしまうよりはマシ。オモチは子猫なので無料でいいと言われた。
馬車の中は通路をはさんで、両側に向かい合わせに座るタイプの乗り合い馬車だった。
俺は後ろから乗り込んでそのまま後ろの方に座った。
「間に合ってよかったな、オモチ」
「ギリギリだったにゃ」
乗客は6人で席はガラガラで、かなり余裕をもって座れた。
すぐに御者からの説明が始まる。
「これから大体10日の日程で国境の町、サワコタへ向かう。
こちらは護衛の冒険者たちだ。Bランクのパーティーだから
今回ちょっと割高になってしまったが、その分安心だ」
まばらに歓声が上がる。
俺を含めて7人なのでこんなものだろう。
「Bランクパーティー竜牙のリーダのトージと申します、道中はよろしく」
トージさんは、うん、転移者かな。
思いっきり日本人だ。
年は40台後半か。
全身筋肉、オールバックの黒髪で、いかにも戦闘職って感じだ。
バスターソードを背負って、腰にはショートソードを下げている。
そのオーラはどこかオオカミを思わせた。
トージさんもこちらを見てうなずいていたので間違いないだろう。
俺もうなずき返した。
パーティーメンバーが2人いて、この2人はこちらの世界の人間っぽい。
一人は獣人の剣士でバスターソード背負っていて腰にはロングソードを下げている。
もう一人の男は人間で小さな弓と腰にショートソードを下げている。
矢筒が見えないので、置いているか、収納しているのか、魔法の矢なのか!
この二人からも特殊部隊かと思うほどの強い圧を感じる。
馬車が走り出して少しして、トージさんがこちらに歩いてきた。
結構揺れているのに、普通に歩いてくるのがすごい。
「こんにちは、ちょっといいかな?」
肩には茶色い模様があるケットシーが乗っている。
「こんにちは、ケイタです。こちらはオモチです
なれない馬車で立っていられそうにないので座ったままですいません」
「いや問題ない、俺はトージ、こいつはナツだ。
ケイタは今年の、と聞いているぞ。よろしくな。」
そういってトージさんは右手を出した。
オーラが違う。声も渋くてかっこいいなと思った。
握手をした瞬間、何かが駆け抜ける。
茶色い模様のナツちゃんだった。
腕の上をトトトと歩いて俺の左の太ももの上に乗った。
右の太ももの上にはオモチが座っていて、二匹は目線が合うと、
「よう」と手をあげて、そのままかわいくハイタッチをした。
ハイタッチをした際に、黄色い星がポーンととんだ幻覚を見た。
二人とも猫形態だ。
にゃあにゃあにゃにゃにゃと会話を始めてしまった。
しばらく二人で目じりを下げていたが、ふと気づき握手したままだった手を放す。
「泉か?」
「はい」
「そうか、じゃあ問題はないだろうが、気を付けてくれよ」
「うす、ありがとうございます。」
「そう硬くならなくていいぞ。じゃあまた後で」
「トージ、ナツはもう少ししたら戻るぞ」
「分かった」
俺の膝の上でにゃあにゃあとおしゃべりが続く。
もはや人の言葉ではないので、何で爆笑しているのかもわからない。
ひたすら癒されるだけだ。
しばらくすると二人は手を挙げて「にゃあにゃ」と言ってナツちゃんは帰っていった。
「・・・友達だったのか?」
「近所の兄ちゃんだったにゃ。同じ派閥で小さいころからよく遊んでくれたのにゃ」
「派閥があるんだ」
「そうにゃ・・・」
そういって、ちょっと暗くなるオモチ。
「へぇ。そういえば兄ちゃんって、オスとかメスはないんじゃなかったのか」
「ボクらは性別をボクらで決められるにゃ。ナツ兄ちゃんはオスになっていたからナツ兄ちゃんなのにゃ」
「へぇ・・・」
昼頃に休憩場所についたとの事で昼休憩になった。外に出てみると町だった。
どこかのサービスエリアのように、停留所には屋台や定食屋があった。
「おーい、ケイタこっちに来い」
トージさんからお呼ばれしたので小走りで向かう。
「そこの定食屋に入るがお前もこないか」
「行きます」
「よし」
お昼は先輩転移者のトージさんにおごって貰った。
それから装備の事、スキルの事を聞かれて、説明して、アドバイスを貰った。
戦闘に不安を覚えていることを聞いたトージさんは色々教えてくれた。
要約すると、いい武器と出会うのは運だが、レベルはどこまで行っても自前だから、
とにかくレベルを上げよう、という事だった。
日本でのガチャがあるゲームを思い出して、確かにと思った。
パーティメンバーの2人もレベルは大事と言った。
暇な時はとにかくレベル上げをしようねと。
その後、馬車に乗ってまた進みだす。
道中モンスターの襲撃は15回ほどあった。
森の近くなんか特に襲われた。
俺も参加してモンスターを倒した。
レベル上げだ。
ウォーターバレットだけを連打していた俺に、まあこのランク帯のモンスターなら、
それでも行けるだろうが・・・。と言われた。
パーティメンバーの2人は、トージさんとおなじ、黒目黒髪の俺の強さに
興味があったようだった。ちょっと落胆したようにも見えた。
まあ俺はこの世界の既存の低級水魔法を得意になって連打しているだけだもんな。
やはり俺は弱い。今は。
何度か目の戦闘で思わずそんなにダメだったかと聞いたら弓の男性より、
北の方にある、モンスターがよく降りてくる山のふもとの村人達の方がよっぽど
うまくやるし、ぶっちゃけ弱いと言われてしまった。
戦闘に不安を感じつつも、魔法を連打する自分にちょっとした自信があったので、
ショックを受けてしまった。
でも、それは東の森で攻略がストップして泉を目指している行動が決して間違いではないと再認識できたので良しとした。
トージさんは俺が落ち込んだと思ったのか、チョーシに乗って死んでしまうことを懸念した先輩としての優しさだったと教えてくれた。
ありがたいと思った。
そして日程通り10日で国境の町サワコタについた。
トージさん達とはここでお別れだ。
「じゃあ、またな」
「はい、また」
握手をして別れる。
俺らの足元では猫たちも握手するマネをしながらお互いの健闘を祈り合っていた。
◇◆◇◆◇◆
「今日はもう馬車は無いそうだから、一泊しようか」
「わかったにゃ」
さっそく徒歩で国境を越えてすぐのグンリカイという町に入った。
早めに宿を抑え町に繰り出す。
屋台は見かけなかったので食堂に入った。
おすすめの肉料理を2人分頼んで出来上がるのを待つ。
「オモチちゃんや、派閥ってそんなに仲が悪いのかい?」
「ん~昔から悪いにゃ」
「そっか。まあ人間でも派閥で別れると、とたんに険悪になるって事があるからなあ」
オモチがしかめっ面になったので、まずったなと思い話題を変えようとしたが、先にオモチが口を開いた。
「・・・でもうちのママと、校長先生は仲が良かったにゃ」
「校長先生は違う派閥なんだね」
「そうにゃ。校長先生もママも・・・、それぞれの派閥の偉い人のいう事をしっかり聞いて、裏では仲良くお酒を飲んでたにゃ。ふたりとものんべえにゃ」
二匹のかわいらしいケットシーが並んでお酒を飲んでいる姿を想像してよだれが垂れそうになった。
「へぇ、なんかいいねそれ」
「うん、・・・校長先生にはいつも影で良くしてもらったのにゃ」
「へぇ」
「なつかしいにゃあ」
先に頼んだブドウジュースが来た。
コップを傾けてオモチに飲ませてやる。
「おいしいにゃ。ケイタも飲んでほしいにゃ」
「ん。・・・おいしいね」
「えへへ」
その後何かの鳥の煮物の定食が来たので頂いてから宿に戻った。
「明日は寝坊しないように起きないといけないから、もう寝ちゃおうか」
「二人でベッドで寝るのは久しぶりにゃ」
「そうだな」
フローラさんの事を思い出す。
そんな俺を見ながらオモチは続ける。
「まあオモチとしては、ふたりがやっと男女の関係になってうれしかったにゃ」
「ええ? あはは。
・・・まあ確かに長かったからなあ。
いや、だってこんなオッサンでお腹出てて、そんな自信はないよ。
フローラさんすごい美人だし」
「ケイタはかっこいいにゃよ」
オモチはベッドの上でふみふみと寝床を作りながらそう言った。
「・・・ありがとさん」
こいつ本気で言っているのか?とか考えながら、明かりを消し横になる。
「うに、おやすみ、ケイタ」
「おやすみ。オモチ」
目を閉じたらすぐに寝てしまった。




