第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー95
最後は____
とても呆気の無いものだった。
あれから結局、長は最期まで意識を取り戻す事はなかった。
固く目を閉じたまま、時折顔を歪ませ、時折小さく何かを言って、それを幾度も繰り返す。
邪悪な表情で笑う事も、怒りにまかせ怒声を上げる事も、誰かの魂を喰らおうとする事もなく、頭の蛇も抜け落ちた長は、皺だらけに枯れ果てた、どこにでもいるただのお爺さんになっていた。
貫く薙刀が長と地を縫い付けて、僕達はそのまわりを狭く囲んだ。
それぞれの武器を捨てたのは、
『……もう、大きな霊力は必要ないようだ、』
長の様子に中村さんがそう言ったからだ。
武器を使わず霊力で滅する、みんなはそれに頷いた。
個々によって霊力の色は違うから、長に向けたたくさんの指先が、赤や青、緑に紫、黄に橙と、まるで小さな百色華を思わせて、キレイだなぁなんて……こんな時だというのに、みんなしてため息をついたんだ。
『お前達、準備はいいか?』
こう聞くのも2回目の中村さんは、みんなの顔を順に視た。
『ああ、いいよ』
『今度こそだな』
『いつでもいいぜ』
聞かれたみんなはバラバラとそれに答え、指先に一層の霊力を込め、カウントダウンを待っていた。
そして……これも2回目、5から下がって0で滅する。
そのカウントが始まった。
『____5、』
本当にこれが最後だ。
『____4、』
瀬山さんと先代は、僕らのすぐ後ろにいる。
2人は手を出さない。
最後まで視守ってくれるんだ、……ああでも、瀬山さんは大丈夫かな、視てて辛くないのかな、それがとても心配だ。
『____3、』
《うぁぁ……》
あ……まただ、また長が呻き出した。
意識はないはずなんだけど……もしかしたら夢うつつなのかな、
朧げに、何かを思い出してるのかな、
それは一体なんだろう?
少し……気になるけど、
だけどもう、それを確かめる術はない、
『____2、』
あ…………まただ、
長の目、
固く閉じた皺の目から薄っすら水が滲んでる……
あれは涙か……?
それとも……目の錯覚か?
涙とは言い切れないごくごく少量、
僕にはなんとも判断がつかない、
『____1、』
《…………れた……》
……ん?
長……何か言ってる……?
聞こえるか聞こえないかの微かな声だ、
まさかまた油断させて小蛇で噛む気か……?
いや……それはもうないだろう、
あのお爺さんにそんな霊力は残ってない、
放っておいても消えそうだもの……
じゃあ夢を視てるのか……?
寝言……みたいなものなのか……?
《…………れた……まれ……わた……の》
”まれ” ?
”わた……の” ?
何を言ってるんだ……?
そもそも……意味のある言葉かどうかも分からない、
ただ単に”音”を発してるだけかもしれない、
僕は気にするのをやめようとした、
集中しなくちゃ、カウント0で霊力を発する、
それで長を滅するんだ……そう思っていたのに、
聞こえてしまった、あれは単なる”音”じゃなかったんだ、
《…………うま……れた……しょうじ……わた……わたしの……むすこ……》
え……?
《……わた……の……だいじ……な……むす……こ》
あ、と思った。
長は夢の中で80年前に戻ってるんだと、
瀬山さんが生まれた日に戻ってるんだと、
そう思った、
同時、
『____0、』
中村さんのカウント0で、一斉に霊力が放たれた。
男達の真ん中で、霊力のすべてを受けた長は、ザラザラと砂が零れて流れるように形を崩すと、この世とあの世のその両方から、姿を、存在を消した。




