第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー92
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……
…………ら、
………………かむ……
………………………………おかむ……
『……村っ!! 岡村っ!! 目ぇ開けろってぇ!! 岡村ぁっ!!』
泣き叫ぶ少年が僕を呼んでいる……
幼さが微かに残るこの声は……
「か……ける……?」
意識が朦朧とする……
僕は……長のフィールドから出る為に、瀬山さんが造ってくれた百色華の道を先代と2人で歩いてたんだ。
花を視ながらしばらく歩いて、それでさっき……花が風に煽られて、虹の花びらがあたり一面、吹雪みたいになって、キレイだなぁって先代と言い合って____
『あっ!! 岡村が目ぇ開けた! 意識が戻ったぁ!!』
『うんなーーーーーーーーー!!』
薄まった意識が緩やかに戻る。
ゆっくり目を開けると、そこに百色華は無く、代わり、顔をグシャグシャにした翔君と愛しの猫又が僕を覗き込んでいた。
「……翔君……大福……ココは山……? 僕……戻ってきた……?」
地面に背中をつけたまま、僕がそう独り言ちると、
『『『『岡村ーーーーーーーーーーっ!!!』』』』』』』』』』____
大音量の野太い声がこれでもかと僕に向かって降ってきて、あっという間に視界は男達の泣き顔で埋め尽くされた。
『良かった……! このまま還って来ないのかと気を揉んだぞ!』
『えぇっとーーーー! はい! 良かった! はい! はいぃぃぃ!』
『大丈夫か!? どっか痛いとかないか!?』
『心配で心配で死ぬかと思ったぜ! もう死んでるけどさ!』
あはは、みんな良い大人なのに泣いちゃってるよ。
やだな、大袈裟、まったく、本当にさ、参っちゃう、ああ、そんなに泣いて、ああもう……みんなごめんね……ありがとう。
「ごめん、僕ヘマしちゃった」
言いながら身体を起こそうとすると、たくさんの手がササッと伸びて、僕を支えてくれたんだ。
どの手も大きくゴツゴツしてて、そして氷のように冷たい。
助けを借りて起き上がる。
本当は1人で平気だけど、優しさが嬉しくて甘えてしまった。
僕は一人一人の顔を視て、ああ、帰ってきたんだなぁ、なんてニマニマしてたんだ。
そしたらさ、あろうことかポニテのいぶし銀が……
『お前のヘマじゃない。私がもっとしっかりしていれば良かったのだ、すまない』
そう言って頭を下げたんだ。
えっ! ちょ! やめて!
一気に目が覚めた僕は冷や汗をかいた。
だって中村さんが謝る事じゃないもの!
「ち、違うよ! 中村さんのせいじゃない! 僕が油断したの! カウントも残り1つで、まだなのにもう滅した気になったのかもしれない。ごめんなさい、最後の最後まで気を抜いたらダメなのに」
『気が抜けたのは私かもしれん。そんなつもりは無かったが、現にお前を危険に晒した』
だから、私が悪い、
ちがう、僕が悪い、
男2人で謝り試合。
埒が明かないこの試合。
引っ込みどころを見失った僕達を収束させたのは大上さんだった。
『あーあー、どっちも悪くねぇよ。そうだなぁ、じゃあよ、森木のオッサンが悪かったってコトで良いんじゃねぇか?』
半笑いのニヤケ顔。
大上さんは自慢のデザートイーグルを、長に突き付けたままそう言った。
いきなりの無茶振りに森木さんが慌てたのは言うまでもない……のだが。
『えぇ!? えぇっとー、私ぃ!? えぇっと、えぇっと、……ふむ、そう言われると私が悪いような気がしてきました。ここは素直に謝りましょう。ゴメンナサイです、はい』
コッチこそ、えぇ!?
謝っちゃうの? 森木さん悪くないのに? いいの? それでいいの?
僕を含めた全員が汗を掻きつつポカンとし、でも耐えきれない17才が霊体をくの字に笑い出すと……もうダメ、限界。
翔君につられた僕達も、目尻に涙を滲ませて、ひーひー言いながら、バカみたいに大口を開けて、腹を抱えて笑っちゃったんだ。
この時おそらく____
みんなは頭の片隅で同じ事を考えてたんじゃないかと思うんだ。
長を滅する、これはもちろん忘れてない。
だけど、それでも、こんな時だけど、たくさん話そう、たくさん笑おう……だってもう時間がない。
別れの時は、すぐそこまで迫っているのだから、と。




