第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー91
「先代! 瀬山さん! 僕……僕……ごめんなさい、ヘマしちゃった。長の小蛇に噛まれたんだ。来てくれて嬉しい、めちゃくちゃ嬉しい……! ……あっ! そうだ、あの、みんなと大福はどこにいるの? 無事だよね?」
良い年して大泣きだった。
気が張っていたのがプツッと切れて、安心して緩んでしまって、僕はダメな大人になっていた。
『大丈夫、泣かないの。みんなも大福ちゃんも山にいるよ。岡村君の身体もだ。みんなは長の本体の方を拘束中だよ。ここにいるのは半分本物、もう半分は幻影だからね』
ああ……良かった……僕は先代の言葉にホッとしたんだ。
長は嘘つき、言ってる事はデタラメだから、きっとみんなは無事でいると踏んでいた。
でもそれはあくまで予想だもの。
こうやって教えてもらって、ようやく心から安心出来た。
『岡村さん、ごめんね。また父が迷惑をかけたね』
悲痛な顔で僕に謝るのは瀬山さんだ、ううん、瀬山さんは悪くない。
血が繋がっている事と、長の罪はまったくの別物だ。
僕は長が大嫌い、でも瀬山さんは大好きだもの。
その大嫌いな長。
いい加減弥生さんの姿を解いてくれと思うのに、美女ビジュアルのまんまで唇を噛み締めている。
『彰司……持丸……何故だ……どうやって此処に入った……私の霊力で造った、私の霊力に反応する、私の霊力でなければ干渉は不可能なはず……』
長……すごい悔しそうだ。
どうやって突破したんだろ……ま、僕にとってはどうでもいい話だ。
2人が来てくれただけで胸がいっぱいだもの。
だけど、それに瀬山さんが答えた。
ただの回答じゃなく、親子の会話になっていく。
『父様……お忘れですか? 私はあなたの息子です。良くも悪くも血の繋がった親子なんですよ。父様と私の霊力はよく似ています。だから干渉も出来るのです』
見た目は儚げな少年だ。
細い肩、薄い背中、澄んだ瞳はあまりにも清らかで、息子であると改めて訴える姿に泣きそうになる。
『息子……? ああ……そうらしいな。だがそれも昔の話だ。裏切者のお前を息子とは認めない。それよりも、私とお前の霊力が似ていると言ったが、完全に一致はしていないはずだ。なのにどうやって此処に来た、』
ギロリと息子を睨む。
弥生さんの猫の目が虎の目に変わる。
『…………簡単です。父様の霊力より、私の霊力の方が強いのですから。父様が構築された空間、これを私の霊力で一部再構築しました。故に出入りは自由、改変も拡張も自在、そしてもちろん破壊もです』
悲しそうな目だった。
こんな事言いたくないと、そんな色が濃く滲んでいた。
それに対し長は目を吊り上げて睨みつけている。
『お願いです……これ以上罪を重ねないでください。私も父様も生きていた頃、一緒に現場に出た事がありましたよね? その時、悪霊に向かって仰ったじゃないですか「往生際が悪い、」と。同じ事を言わせないでください。どうか潔く、罪を認めて見事滅されてください』
瀬山さんの懇願に沈黙だ。
視てられない、瀬山さんがあまりにも辛そうなんだもの。
『平ちゃん、』
長を真っすぐ視つめる瀬山さんが、先代に声を掛ける。
『ん、』
なんとも短い返事だ。
先代は不貞腐れた少年の顔で、親子を視続けていた。
『岡村さんと一緒に先に戻ってて。私はもう少しだけ父と話したいから』
『んー、そう? こんなヤツと話したって時間の無駄だと思うけど』
あ……先代、話し方がいつもと違う、なんか、こう、若い。
『あはは、ごめん。……僕もね、そうかなって思うよ。でも、最後だから』
あ……瀬山さんもだ。
自分の事、”僕”って言ってる。
きっと昔、うんと若い頃はこうだったんだろうな。
2人は今、昔に戻ってるのかもしれない。
『ショウちゃん、本当に大丈夫かよ。またコッソリ大泣きするんじゃないのか? 長と話すと決まって後で泣いてたもんな』
『そ、そんな事ないよ! 大丈夫、心配しないで』
『ふぅん、ま、いいけど。じゃあ先に戻ってる。ショウちゃんが作った道使えばいいんだろ?』
『うん、平ちゃんと岡村さんなら通れるから。ごめんね、勝手な事言って』
『そんなのいいよ。そのかし早く帰って来いよ? わかったか?』
『う、うん。約束』
あらら、これじゃあどっちが年上か分からないや。
でもすっごく仲良さそうだ。
『行こう、』
僕に向かって手を差し出した先代は、ちょっぴり恥ずかしそうだった。
若い頃の話し方を僕に聞かれて照れているのかもしれない。
若い姿の先代が、僕の手を引き窓に向かう。
それを長が怒鳴り止める。
『待てっ! 岡村は私のものだ!』
振り向けば、真っ赤な目で僕を視る長と、後ろ姿の瀬山さん。
先代は面倒そうに『いいよ、行こう』と無視をする。
そこに長が更に怒鳴った。
『何故そこまで邪魔をする……! 生き人ならいざ知らず、持丸も彰司も死人ではないか、貴様らは黄泉に逝けるのだろう? それなら大人しく黄泉で暮らせば良い。現世で何が起ころうとも貴様らに関係のない事だろうが……!』
はー、と雑なため息をついた先代は、空いてる手で耳をほじっているのだが、真面目に聞く気はなさそうだ。
長は当然話続ける。
聞いてようと聞いてなかろうと関係ないみたいだ。
『ましてや、せっかく希少の子として生まれたのにも関わらず、30年もそれに気付かない愚か者を庇う必要があるか? もっと早くに気付き修行をしていれば、今頃凄まじい霊媒師になったであろうに……! 30過ぎて今更修行をした所で高が知れている。ならば私が身体を貰って、希少の霊力を生かしてやろうと言うのだ……! 感謝されてこそ、邪魔される言われはない! 消されて当然の小僧なのだよ!』
あれま、スゴイ言われようだな。
突き抜けすぎてて腹も立たない……と思ったのは僕だけだったみたいで。
この後、先代が暴走した。
あ、と思った時、先代は僕の手を離していた。
一瞬で移動したのか、弥生さんの姿をした長の前にいる。
パーソナルスペースなんて知った事か! な、近距離で顔を斜めに詰め寄った。
『消されて当然? ソレ、オマエの事だよな?』
それは凄みのある声と口調だった。
あれ……? えっと……先代だよね?
『私ではない、だから、』
長が言いかける、が、それをバッサリぶった切る。
『岡村は”おくりび”の三男坊だ。俺の大事な大事な息子なんだよ。俺の息子が消されて当然? ふざけんなヘビ野郎。オマエこそ今すぐココで滅してやろうか?』
や、ちょ、先代……?
僕のコト呼び捨てになってるよ?(ぜんぜん良いけど、ウェルカムだけど)
それと今、社長と弥生さんと水渦さんとジャッキーさん(ガチギレ時)を混ぜ合わせた感じになっちゃってますけど、いつものキャラと全然違うんですけど、ちょ、先代?
『……き、貴様、持丸、誰に向かって口を聞いている、』
怒りで顔を真っ赤にした長が声を震わす。
が、先代の勢いは止まらない。
『誰に向かって? オマエだよ、オマエ!! 目の前で! オマエ視ながら話してるんだ! それくらい分かれ! つか大物っぽく振舞うな! 腹立つー!!』
フンガー!!
先代キレまくりだよ、もうキャラ崩壊だよ。
『岡村くんが作ったスィートポテト! んまいねぇ♪』
なんてニコニコ笑う、かわゆすキャラが行方不明になりました。
こりゃあ、若い頃の話したがらない訳だわー。
このフンガーキャラを収める事が出来るのは、親友である瀬山さんしかいないのだが、扱いは慣れたものだった。
『平ちゃん、落ち着いて。岡村さんがビックリしてるよ。僕、手短に話すから、話したら山に戻るから、そしたらみんなに滅してもらおう? 若者達が頑張ったのに、最後のトコだけ年寄りがしゃしゃり出たら嫌われちゃうよ! いいの?』
腰に手をやり諭すように。
瀬山さんはどこまでも優しくて、先代は『若者達が頑張ったのに』にめっちゃ反応してたんだ。
『あっ、そうだよな! 悪い、俺、カーッとなった! 中村にも怒られるトコだったよ。ごめんショウちゃん。そんじゃあ、先に戻ってる! 早く帰ってきてな! 岡村、行くぞ!』
大反省の先代は、瀬山さんに素直に謝り僕の手を取った。
まだ僕を呼び捨てにしてるけど、テンパってるのか気付いてない。
瀬山さんは小さく手をフリフリしてて、それでも、飛び掛かる長を片手で止めた。
『トゥ!』
僕の手をしっかり握り、先代は窓から飛び降りる。
いきなり床がなくなって、「わーーーーーっ!」と叫ぶヘタレな僕に、先代はゲラゲラと笑っていた。
下を視れば、たくさんの花が咲くキレイな道が視えたんだ。
あれが瀬山さんの作った道なんだな。
それにしても……僕は昔、お花屋さんでバイトをしてたのに、あの花は視た事がない。
不思議だな……赤、青、黄、紫、ピンク……多色に咲き乱れるその花たちは、時間で色を変化させていた。
どれだけ視てもちっとも飽きない、あれはこの世の花じゃない。
そうだ……前にジャッキーさんから聞いた事がある。
たしか花の名前は【百色華】だったはずだ。
黄泉の国だけに咲く、特別な花。
「キレイだなぁ」
山に帰る道のりを、僕と先代は虹の色を楽しみながら戻っていったのだ。




