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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー89

”好きになっちゃった”

そんな事を弥生さんから言われたら……想像した事は何度もあった。

1人でキャーキャー盛り上がり、そしてすぐ”ありえない”としょぼくれた。

その想像通りになったというのに、


「………………ああ、そう」


なんとかして絞り出した言葉は、うんと短いものだった。

急にテンションが下がった僕に、弥生さんはムッとしながら言ったんだ。


「……ナニそれ。勇気出して好きって言ったのに、その態度は酷いくない? アタシの事が好きなんでしょ? 嬉しくないの?」


目が覚めた時、いないはずの弥生さんがいた事で舞い上がってしまった。

所々に散りばめられた、気付くか気付かないかの微かな違和感。

じわりじわりと大きくなって、急にぶわんと膨らんだ。

僕は返事の代わりにため息をついた。


「……なんか失礼じゃない? エイミーちゃん、どうしたのよ。アタシなんか悪い事した? そうなら言ってよ、ねぇ」


ソファに座る弥生さんは、縋るような目で僕を見る。

目が合って、まじまじとその顔を見て、もう一度ため息をついた。


「はぁ…………最低だな」


「……なにが?」


不安そうな顔をして、今度は弥生さんが僕に向かって手を伸ばした。

その爪先は綺麗なピンクで、ネイルが丁寧に塗られていた。

ため息がとまらない。


「なにがって……最低なのはバカすぎる僕自身と、……それからアンタだ」


ピンクの爪を避けながら答え、そして立ち上がる。

少しでも距離を取りたい、そう思ったからだ。


「アンタって……女性に向かって酷い言い方ね」


「酷い? 酷いのはどっちだ。人の気持ちを利用するなんてさ」


「言ってる意味がわからないわ」


「意味がわからない? よく言う。分かってるクセに。弥生さんを(・・・・・)バカにするな」


語気強めで吐き捨てた。

あまりにも気分が悪い。

人の恋心をなんだと思ってる。

僕は大きく息を吸って吐き出した。

そうでもしないとブチキレそうだからだ。


「はぁぁぁ……完全に騙された。すごいな、この短時間で僕の過去を霊視したのか? 悔しいけどほぼほぼ完璧だった。でもチガウ。アンタは弥生さんじゃない。あの人はもっと可憐に下品だ。”意味がわからないわ”、じゃない。ココは”ナニ言ってんのか全然ワカンネ!”だよ。それにね、弥生さんは料理をするんだ、だからネイルはしない」


目の前の弥生さんモドキは、言われてすぐに手を隠した。




「ああもう、思い返せば怪しいトコいっぱいあったな。“お願いします”? チガウチガウ、“頼むよぉぉ!”だ。それに水渦みうずさんの事は”クソ水渦みうず”って呼ぶはずだし、僕んちに来れないからって水渦みうずさんのアパートに行こうなんて絶対に考えないよ。2人はすっごい仲が悪いんだ。水渦みうずさんに頭を下げるくらいなら、弥生さんは余裕で野宿を選ぶだろう」


いや、野宿よりかはどこかの飲み屋で一晩中飲むのかな?

あの人、底なしにお酒を飲むから。

どっちにしたって水渦みうずさんはないわ。


「な……なに言ってるの? 女が野宿なんて……出来ないよ。普段はクソ水渦みうずと仲が悪いけど、こういう時は女同士で協力し合うのが、」


まだ言ってるよ。

いきなり”クソ水渦みうず”に呼び方変えたけど今更だ。

その小芝居を見るのも嫌で、僕は途中で遮った。


「女同士で協力? ナイ、ナイナイナイ! 残念! 霊視が足りてないよ! 水渦みうずさんと弥生さんを同じ部屋にいさせたら、10分もしないうちに取っ組み合いが始まるからね。

あ゛ーーーーー、もーやだー! バカバカバカ! お前なんて大嫌いだっ! 本気で告白したのにっ! 僕の本気を返せっ!」


本物の弥生さんだと思って告白したシーンが勝手に脳内で再生された。

オートで、アゲインで、エンドレスで、ループで。

ああ……もうやだ。


悶絶する恥ずかしさと悔しさを紛らわす為に、僕はズカズカと部屋の中を見てまわった。

まずは窓だ。

大きいけれど、ガラスの向こうは何もない。

建物も道路も信号も民家もなんにもだ。

ただただ果てなく白い世界が広がっている。

開けてみようとガタガタしたけど、固く閉ざされ開いてくれない。

振り返り部屋を見る。

テレビもない、お茶セットもない、トイレもシャワーもない。

小さな玄関に黒いドアはあるけれど、開くかどうかもわからない。

そしてあるはずの靴もない。

此処はリアルのビジネスホテルじゃない、ただのハリボテだ。


「はぁ、」


ため息をもう一つ。

おさ霊力ちからは残り僅かじゃなかったの?

僅かでもこのくらいは出来ちゃうの?

こ、こわ……僕達はとんでもないのと戦ってたんだな。

脱力しながら振り返ると、ソファに座ったままの弥生さんモドキがいた。

腹立つ、いつまでもその姿でいるな。


「いい加減にしてよ、気持ち悪い。元の姿に戻ったらどう? アンタは弥生さんじゃない、おさだ」


ため息がとまらない。

ため息1つで、1つの幸せが逃げるというけど、それでもやっぱり止まらない。

目の前の弥生さんモドキ……おさは、綺麗な顔を歪ませた。

口角を、グィィと極端に上げる。

そうだ……この上げ方、顔だけのおさもしてたっけ。

だからだ、さっき視た時、違和感を感じたんだよ。

弥生さんはもっと可愛く笑うもん。







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