第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー86
◆
薄い意識の中を彷徨っていた。
身体がダルくて目が開かない。
閉じた目には何も映らないというのに、頭がグルグル回ってる。
回転性の眩暈だ。
まるで船酔いみたいでキモチワルイ。
あれ……僕……どうしたんだっけ?
確か……カウントの途中だったはず……長をみんなで滅そうと、武器を構えてたんだ。
それで……?
ああ……そうだ、カウントもあと一つとなった所で……何かに、いや……長の小蛇に首を噛まれた。
それから……意識が遠のいて……みんなの怒鳴り声と……翔君の泣き声が聞こえて……あと……長の声が……頭の中に直接聞こえたんだ。
長は僕に『捕まえた』と言っていた。
捕まえたって……どういう事?
僕は小蛇に噛まれたけど、こうして今、自我を持ってる。
という事は魂を喰われたんじゃないのだろう。
小蛇には毒があるけれど、長は僕を傷付けられない。
だから大丈夫なはずなんだ……眩暈はするけど、身体はやけにダルいけど。
……
…………ちゃん、
………………えい……
……………………えいみ……ちゃん、
誰かが……僕を呼んでいる?
身体を揺さぶられ、眩暈の頭が更に回って吐き気を催す……が、気持ち悪いはずなのに、僕の胸はバクバクと躍り出し、それどころではなくなった。
「エイミーちゃん、大丈夫か? しっかりしろ」
心配そうな色を帯び、僕の名前を何度も呼ぶのは、酒に焼けたハスキーボイス。
出来る事なら毎日だって聞きたい声だ。
僕は気持ち悪いのを我慢して、気合を入れて目を開けた。
「あ、目ぇ覚ましたっ!」
僕の顔を覗き込む、猫のような大きな目と視線が合った。
やわらかそうな白い肌、通った鼻に、グロスの塗られた艶の唇。
華奢な肩は儚げで、いつもの黒いワンピース。
伸びかけの短い髪が僕に向かって垂れていて……
「…………弥生さん、……どうして?」
頭が混乱する。
驚きと喜びと胸の高鳴り。
いるはずのない好きな人が「良かった……」と大きく息を吐いていた。
「なんでアタシがいるかって? 先代に呼ばれたんだよ。たまたまW県近くの現場に入ってたのが昨日終わってさ。帰ろう思ったら、修行中の事故でエイミーちゃんが倒れたから来てくれないかって頼まれたんだ。ほら、先代も瀬山さんも幽霊だし野郎だろ? 応急措置はしたけど、看病の仕方が分からなかったんだって」
ソファの上にドカッと座り、そう言った弥生さんはケラケラと笑った。
僕はと言えば、小さなベッドに寝かされているのだが……ココ、どこ?
「ココか? 山の近くのビジネスホテルだよ。W県に着いてから、山までタクシーで迎えに行って、その足でホテルに来たんだ。エイミーちゃんを運んだのはタクシーの運ちゃんでさ、”酔っぱらった弟を休ませたい”って言ったら、部屋まで運んでくれたの」
そ、そっか。
弥生さんにも運転手さんにも迷惑かけちゃったね、ごめんね。
「ぜんぜん! とりあえず、大した事なさそうで安心したわ」
事情が分かった所で、僕はベッドの上で半身を起こした。
弥生さんは無理するなと言ったけど、なんとなく落ち着かないし、眩暈もだいぶ治まった。
中を見れば飾りのない四角い部屋で、あるのは弥生さんの座っている小さなソファに小さなテーブル。
窓は一ヶ所、大き目だけど曇っているのか薄暗い。
テレビとかお茶セットとか、余計なモノは一切無い、そんな部屋だった。
「ねぇ、弥生さん」
話しかければ「なんだぁ?」なんてお気楽だ。
その顔がやけに眩しく、話しかけておきながら目線を外してワザとらしい咳をした。
「……や、その、長……、長はどうなったか聞いてる? それからみんなは? 大福はどこにいるのかな、」
弥生さんがどこまで聞いているかは分からない。
だけど僕は霊視が出来ないから、聞いてるかぎりの事でいいから知りたかったんだ。
長を滅する、それはみんなの切願だ。
カウントもあと一つという所で、僕がヘマをしたんだ。
小蛇なんかに噛まれてしまって、一撃を中断させてしまった。
僕なんかは放っておいて、滅してくれてればいいんだけど……




