第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー85
『お前達、準備は良いか?』
ポニテのいぶし銀、中村さんが輪になるみんなに最終確認をする。
頭から蛇を生やした最終形態。
霊体は無くて、顔だけがそこにある。
頭を貫く薙刀は、地中深くに突き刺さり、まるで姿は晒し首だ。
僕ら全員で突き付けた武器、その数は28。
ギチギチに重なり合って、隙間もなくて、逃げ道なんてどこにもない。
万が一、長が自爆覚悟で来ようとしても、この体勢さえ崩さなければ、先に撃つのは僕らの方だ。
絶対負けない、なんてったって”日本で一番の霊能軍団”と、新人霊媒師の僕が(なんかおまけみないだな)取り囲んでいるのだから。
『いつでもいいぜ』
『やっとだな』
『今までに喰われた奴らも、これで救われる』
それぞれがそれぞれに返事をした。
長の嘘に騙されかけた僕も「準備OKです」と答える。
結局、皆で揃ってトドメを刺すことにしたんだ。
今まで受けた理不尽も暴力も強制も、今まで感じた悲しみも辛さも絶望も、最後の一撃に混ぜ込んで浄化させようと決めた。
滅した後は、せーのでみんなで笑おうとも約束した。
そしてその後は……僕がみんなを解放するんだ。
僕はその時、うまく出来るだろうか。
心は込められる、これはダイジョブ、自信があるよ。
お疲れさまでした__うん、きっと言える。
ありがとうございました__これも、言える。
でも、泣いてしまうだろうな。
この霊達は、沢山の事を教えてくれた。
特に中村さん、生前は新人霊媒師の教官だもの。
駆け出しの僕にあれやこれやと教えてくれた。
さっきだってそうだ。
長の嘘を分かっていながら、【悪霊に付け込まれたらどうなるかを今学べ】と、あえて僕の好きにさせようとした。
あれは……僕のこれからを心配してくれたからだ。
現場で困らないように、怪我をしないように、命を落とさないように。
そしてもうひとつの理由も教えてくれた。
____岡村に何かを教えれば、
____岡村がそれを生かしてくれたら、
____我々の魂は消えて尚、
____お前の中で生き続ける、
____そんな気がするんだよ、
そう言われると、そうかもしれないなぁと思う。
魂が消えてもさ、僕が覚えている限り、みんなは僕の中に存在するんだ。
いよいよだ。
みんなの顔つきが変わった。
グルリと狭く取り囲み、長に向かって隙無く武器を突きつける。
極近の全包囲、
絶対に外さない、
撃つは一瞬、
長を滅する、
これですべてが終わるんだ、
輪の中心では、長が黙り込んでいた。
さすがに観念したのだろうか?
目を伏せて、口も閉じて、頭の蛇も頭をダラリと垂れていた。
緊張が走る中、中村さんがカウントを取り始めた。
”5”から下がって、最後の”0”で撃つ。
『____5、』
長かったな、やっとだな、
『____4、』
翔君が歯を食い縛って泣いている。
辛かったよね、悔しかったよね、キミは本当に素直な良い子。
僕に兄弟はいないけど、弟だったら良いのになって本気で思うよ。
『____3、』
大人達はさすがだよ。
思う所はたくさんあるはず、それでも涙は視せずに鋭い顔だ。
でもきっと、すべてが終われば泣くんだろうな。
『____2、』
中村さん、……僕にはね、たくさんの師匠がいるんだ。
先代、瀬山さん、おくりびのみんなに大福もそう。
もう一人、大事な師匠が増えてしまった。
ありがたいな、感謝だな。
出来れば、この先もっと色々教えてほしかったな。
『____1、』
長……瀬山さんのお父さん。
損得だけが物差しで、愛情を理解出来ずに否定する。
僕がこの霊と分かり合う事はないのだろう……あ、
今、……長と目が合った、
伏せていたはずなのに、
白濁の皺の目が僕を捉えて離さない、
なんだ?
…………何か……言ってる?
口が、長の口がゆっくりと動く、
声は無く、
何を言っているのか、
それが何なのかが知りたくて、
ほんの少し身を乗り出して、
その口を、
あの口を、
ジッと視つめて、
シュッ、
何かが飛んできた。
とても小さな何かだ。
早くて何かは分からなかった、____でも。
「……痛っ」
首に鋭い痛みが走った。
途端、ジンジンと熱を持ち、痛いのか熱いのかわからなくなる。
グラリと視界が回る。
カウントゼロまであと一つ。
それなのに何が起きた?
意識が急激に薄くなる。
遠くから声が聞こえる。
____岡村っ……しっかりしろ……なにがあった……
____これは……蛇……小蛇が残ってた……岡村を噛んだんだ……
____大橋と……近藤……岡村を視ろ……
____他の者は長を……絶対に逃がすな……
____だが滅するなよ……滅すれば岡村が……
みんなの怒鳴り声、翔君の泣き叫ぶ声、
耳の中がワンワンして、すごく頭に響くんだ、
その頭の端の方で、やけにはっきりとした声が聞こえた、
その声は低くて、ザラついて、不愉快で、
『岡村、……捕まえた、』
長の声だった。




