第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー82
「中村さん……!」
そう言われたら見守るしかないけれど、それでも心配でいぶし銀の顔を視た。
『岡村、大丈夫だ。さっきもな、助けに行こうとしたんだよ。でも、こう手で制された』
中村さん達も行こうとしてたんだ……砂の霧で視えてなくて、わからなかった。
大上さん、長に言いたい事があるのだろう。
いや、ない訳ないか……山ほどあるんだろうけどさ、でも。
『この距離だ、イザとなったら全員で飛んでいくさ。なに、心配するな。おそらく時間はかからない、』
え……? そうなの? 手短に話す感じなのかな……?
中村さんが前を視て、みんなもとっくに前を視てて、僕は大福の毛皮に触りながら同じく前を視た。
長、また姿が変わってる。
蛇のストックが乏しくなったのだろうか?
今度は霊体がない。
今の長は、最初に視たのと同じ、顔だけになっていた……が、まったく同じではない。
髪の代わりに無数の蛇を頭に生やし……そう、ギリシャ神話で似たキャラがいたようなと……と、そんな姿だ。
宙に浮かんで揺れてる長は、大上さんと目線を合わせて睨みつけている。
炎を消されて相当怒っているのだろう。
暫しの無言、先に話したのは大上さんだった。
『アンタ、俺の名前を知らないだろう? 俺らのコト、使い捨ての駒だと思ってるんだもんなぁ。名前なんかに興味はないか。まあいいや、改めて自己紹介してやるよ。俺の名前はキアヌ・〇-ブス、永遠の32才だ』
………………はいぃ?
俺の名前はキアヌ・〇-ブス?
や、ちょ、ナニ言ってんの?
大上さんだよねぇ? 大上拓さん、享年32才だよねぇ?
なんでキアヌ?(すっっっごいカッコイイけど)
ま、年は合ってる。
でも永遠の32才ってナニ?
まあモノは言いようかもしれないけどさ。
てか、本当に話したいコトあるの?
テキトウすぎじゃない?
顔、半笑いじゃない?
まさかの自称キアヌ・〇ーブス。
僕はポカンで、翔君は霊体をくの字に笑ってる。
大人達は『また言ってるよ』と頭を掻いて苦笑い。
『また』ってナニ?
突っ込みたいのは山々だけど、とりあえず僕らは2人を視守った。
いつでも走れる準備をしながら。
空気を読まないガンマンが、1人で”ひゃっひゃ”と笑っていた。
長はダンマリ、相当苛ついているのが分かる。
ヤバイな……ガチギレ必至、怒りにまかせて喰らいに来るに決まってる。
もう僕の鎖じゃ助けてあげられないんだ。
話したい事があるのはわかるけど、心配でたまらない。
大上さんは両手に持った拳銃を、クルクル回して遊ばせながら、軽い感じで話を始めた。
『なんだよ、無反応? 淋しいじゃねぇか。俺みたいなバリ日本人がハリウッドスター名乗ったんだ。笑うなり突っ込むなり、なんかないのか? って、ないか。アンタの頭の中は”瀬山の家”でいっぱいだもんな。もうとっくに死んでるのに執着しすぎだ。しかも俺ら巻き込みやがって。執着するなら一人でしてりゃあ良かったんだよ。お前の連れションに付き合わせるな、イイオトナなんだから便所くらい1人で行け』
挑発的だ。
言葉のすべてに棘があり、大嫌いが溢れてる。
長は黙って宙に浮いてるけど、いつ怒り出しても不思議じゃない。
視ていて胃が痛くなる。
『話がしたいと言ったけど、アンタに対する恨み辛みを全部言うには、とてもじゃないけど時間が足らない、それにそんな気分じゃない。あのな、俺は今、最高にゴキゲンなんだ。アンタにビビッてクソ悪霊になり果てた俺達に、スゲェ奇跡が起きたんだからな、』
楽し気な大上さんが僕を視て、そして目が合った。
ガンマンはニヤっと笑うと、すぐに長に向き直る。
『奇跡とは岡村の事だよ。霊視も出来ない希少の子は、とんでもないチカラを持っていた。俺達の為に泣いて怒って戦って、一生懸命守ってくれた。岡村の優しさが、クソ悪霊から人に戻してくれたんだ。仲間と一緒に向かう相手が罪のない生者じゃなくて、アンタだって事がたまらなく幸せだ。アンタの命令はもう聞かない。俺は俺の頭で考えて、俺の判断で引き金を引く、』
ジャキッ!
言ったが早いか大上さんは、重くて鈍い音をさせながら、銃を長に突き付けた。
二丁拳銃、右も左もどっちもだ。
同時、こちらにいる森木さんが足を踏み込み、薙刀を槍投げの要領で投げた。
薙刀は速度を持って宙を飛び、放物線の終着点、長の頭に斜めに刺さる。
長い柄は長を貫通、刃先は地中の深くに埋まり……まるで晒し首のように、長はその場に固定された。
大上さんは長を視たまま軽く手を上げ、森木さんに感謝の意を表す。
そして薙刀刺さる傷口を、じっくりと視て、
『もう修復液も出ないのか、』
そう呟いた。
額に付けた銃口を、グイィと強くめり込ますも、長は動じなかった。
頭の蛇を泳がせながら皺の顔を歪ませる。
黒いはずの瞳の色は白濁気味で、表情は読みにくいけど、多分あれは笑ってる。
だって口角が上がってるもの。
口元は大袈裟なくらい極端な三日月を造っていた。
『そもそも____お前の名なぞ興味がない。ましてや、機嫌が良かろうと悪かろうと知った事ではない。わざわざ危険を冒してまで話す事か? 頭の悪い者は好かぬ。だが、私にとっては好都合。その汚れた魂を寄越すがいい。喰ろうて霊力にしてくれる、』
口角が更に上がった。
皺の肌が無理に横に伸ばされて、不気味な面相を作り出す。
これはモタモタしてられない、すぐにでも行かなくちゃと、身体を前にした時だった。
『俺を喰う? ああやれよ』
僕は耳を疑った。
気が強い霊だとは思ってた。
だけどその近距離で言う事じゃない。
いくら固定されていても、口だけで喰らうのだから。
売り言葉に買い言葉? だとしても此処は退くべきだ、でないと喰われる。
『ほう……随分と聞き訳がいいな。……ふむ、まだ僅かでも忠誠心が残っているのか?』
そんな訳ないだろうと、僕は脳内で突っ込んだ。
対峙するガンマンは、その突っ込みを遠慮なく表に吐き出す。
『はぁ? アンタこそ頭が悪いな。さっきの話聞いてたか? 忠誠心なんて最初からねぇよ。アンタ、自分の状況視えてんの? マル改のデザートイーグル、ドタマに二丁突き付けられてんだぜ? アンタが俺を喰らうより、引き金を引く方が早い。今のアンタじゃ防御しきれねぇだろ』
呆れた顔の大上さんは、置かれた状況を分からせようとしてるのか、銃口が埋もれる程に力を込めた。
そしてこうも続ける。
『アンタの霊力、もう残り僅かだろ。変化がだんだんショボくなってるもんな。まさか消耗品の俺達に、ココまで追い込められるとは予想もしてなかったんだろうよ。ま、それに関しちゃ俺達もビックリだがな。
アンタの強みは攻撃よりも絶対的な防御にある。猛毒の小蛇をあの量で構築出来るのは大したものだと思うよ。蛇の霊体の編み変えもそうだ。あんな事をされたらこちらの攻撃はすべて無効化される。だが、それらを封じられ、霊力を消費するだけで補充が出来ない状況じゃあ、もうアンタもお終いだ。アキラメロ』
これ以上ないくらい冷たい目をしていた。
”アキラメロ”と言った時、引き金の指がピクリと動く。
このまま滅してしまうのか?
”全員で”とは言ったけど、最後のトドメは誰かが刺すんだ。
ダイジョウブ、そう考えればみんなも納得するだろう。
リアルを無視した改造品、その威力を視せつけられた。
あの銃で撃てば、ほんの少し指に力をいれれば、長は消える。




