第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー81
炎はいまだ激しく燃えていた。
男達は中の様子を霊視するも、ブロックされて視れないと舌を打つ。
『えぇっとー、さっきまでは視えたのです、はい。岡村君が霊矢をたくさん撃ったのも、ヘビヘビの霊体の中に本体があったのも視えました。ですが……今はまったく視えません、はい……』
森木さんがショボンと肩を落とした。
他のみんなもおんなじで、杉野さんも大上さんも、高野さんも林さんも、みんな霊視を阻まれてしまった。
中の様子がわからないまま、闇雲に突っ込むのは避けたいところだ。
だって罠かもしれないよ。
視えなくて、焦れて突入した所に長が待ち構えてるかもしれないじゃない。
どうしたものか、いっそ僕が視に行くか。
大福に乗っけてもらって、筒の上から覗くんだ。
長は僕には攻撃しない。
これを利用しない手はないだろう。
「あの、僕が視に行きますよ」
小さく手をあげ言ってみた。
僕なら襲われない、いざとなったら霊矢も撃つからと。
だけどそれは止められた。
ポニテのいぶし銀、中村さんがリスクを仮定したんだ。
『……いや、岡村は行くな。それこそ長の思うツボかもしれないからな。上から覗いた途端、魂を喰われ乗っ取られるかもしれん』
「あ……確かに、その可能性はゼロじゃない。じゃあどうしたらいいかな。せっかくココまで追い詰めたのに……」
今回、僕はみんなに同行させてもらってる。
みんなが長に喰われたら、それを引っ張り出すのが僕の役目……だったけど、それに対して策を打たれてしまった。
長の炎は僕の鎖を拒んで溶かす。
____ごめんなさい、次は助け出せないかもしれません、
僕がそう言った時、みんなは一瞬固まった。
だけど声を揃えて言ったんだ。
喰われたって大丈夫。
霊力の欠片が守ってくれるからな。
長の腹で破壊されても、同時に修復してくれるんだ。
霊力の相殺がされてる間にどうにか自力で脱出するさ。
そんな顔するな、心配するな、だって俺達は強いんだろう?
岡村がそう言ったんじゃないか。
救出と言う大事な役目が崩れたというのに、誰一人僕を責めなかった。
それどころか、欠片をくれてありがとうとまで言ってくれたんだ。
僕は……僕はさ、なんでもいいからみんなの役に立ちたくて、無理を承知で一緒に連れてってほしいと頼んだ。
霊矢なら撃てる、少しは役に立つはずだと食い下がり、それでも駄目だと言われるかと思ったら……
『わかった、一緒に行こう。おそらく長の霊力は残り少ない。俺達が削ったのもあるが、さっき岡村はえげつないほど霊矢を撃った。あれで更に削られたはずだ。そうなると長は、何が何でもお前の身体を乗っ取ろうとするだろう。一人でいるより我々と一緒にいた方が良い』
中村さんが許可を出してくれた。
『炎は俺にまかせろ、』
片眉をクイと上げて、咥えタバコで前に出たのは大上さんだ。
享年32才、この中では若い方のガンマニア。
ルーズに切られた髪の毛は、長くもないが短くもない。
細身の霊体の高身長で、口元はいつだって笑っているけど、一重の吊り目は黙っていると圧がある。
”瀬山の制服”をカッコよく着崩して、炎の前で仁王立ち。
”ワイルド”ってこの霊の為にあるコトバなんじゃないかと思うくらいだ。
口の端からタバコの煙を吐き出しながら、鼻歌交じりに構えをとった。
地面とほぼ平行に、上げた両手は段違いで高さが異なる。
一見細いだけに視える両腕の、一番先に黒光りするナニかが視えた。
あれは……ああ、やっぱりそうだよな。
大上さんと言えば拳銃だもん。
握っているのは自慢のデザートイーグルで、リアルを無視した改造品を左右両手に一丁ずつ、いわゆる二丁拳銃というヤツだ。
『おまえら少し下がってろ』
クールにキメたガンマンがそう言うと、みんなは一斉に走り出した。
大上さんから離れようと必死になって、僕も大福もそれにならう。
「大上さんはナニする気なの? 炎に銃を撃ったって消えないと思うけど!」
走りながらまわりのみんなに聞いてみた。
すると杉野さんが、それに答えた。
『言ったろ? 奴はなにかにつけちゃあ銃を撃つ! なんでも銃で解決出来ると思ってるんだ! ま、大抵本当にそうなるがな!』
なんでも銃で解決?
いや待て、ナニそれ、ツッコミどころが山盛りすぎる!
確かに威力は凄かった、さっき撃ったの視たけどさ、爆発炎上してたもの!
でもさ今回炎だよ? 火だし! 物体じゃないし!
撃ったところですり抜けるじゃーん!
さすがに、それは、HAHAHA、……なんて。
半笑いでいられたのは、僅か数分だけだった。
走る僕らの背後から、聞こえてきたのは発砲音____と、セットで謎の音。
ダンッ!!
ゴオオォッ!!
『始まった!』
翔君の弾む声、だがそれを轟音が掻き消した。
音を合図に立ち止まって振り向けば、燃え盛る炎の壁は砂塵にまみれて姿を乱し、右に左に斜めに上下に、激しく大きく揺れている。
なんで? どうして?
リアルを無視した改造は、炎さえも撃つと言うのか?
そんなバカなと目を凝らしてよく視れば、銃口は炎には向いてなく、斜め下を向いていた。
なんで下? 何を撃ってる?
ダンッ!!
ゴオオォッ!!
撃つたびに砂塵が上がった。
強い風が地から天へと吹き上がり、砂も小石も強制的に巻き込んて……いや、巻き込んでるのはそれだけじゃない、炎もだ。
長の火壁は下から風をまともに受けていた。
火に風が加われば、普通は火力が増すはずなんだ。
でも増さない。
風のチカラが強すぎるのと、連続で吹く風が、火の勢いを殺すからだ。
「炎を吹き消す気なんだ、」
独り言ちてよくよく視れば、銃は地面を撃っていた。
二丁拳銃で何十発も、撃って撃って撃ちまくる。
撃った弾の衝撃は、爆風を引き起こす。
その爆風が炎を消しにかかっていた。
ダンッ!!
ゴオオォッ!!
ダンッ!!
ゴオオォッ!!
止まらない銃声と謎の音、その正体が知れた。
ダンッ! と撃って、ゴオオォッ!! と鳴る。
撃った時の爆風が重たい音を出していたのだ。
銃口は休む事なく火を噴いていた。
リズミカルな速足で、炎のまわりの地面に向かって、発砲、発砲、発砲。
上がる砂塵は火に焙られて赤い色が透けていた。
だがそれも、時間と共に変化する。
辺り一面、薄茶だけが広がって、視界はすこぶる悪いけど、もう赤い色はどこにもなかった。
「本当に吹き消しちゃった……」
3階建てのビル相当、そんなドデカイ炎が消えた。
代わり、どこもかしこも砂の霧。
みんなは霊視に切り替えてるからダイジョブだけど、僕はダメ、ぜんぜん視えない。
ど、どうしよう……と、1人でアワアワしていると、ブワンッ! と強い風が吹き、広がる砂塵が彼方に消えた。
今のは大上さん……? いや、風は僕の後ろから吹いたんだ。
銃声もなかったし、じゃあ誰だと振り向けば、そこには中村さんがいた。
両手に大きな剣を持っていて……あ……! 剣圧か……!
『これで岡村も視えるだろう? それから目は擦るな。砂塵で傷付けるかもしれないからな』
そう言ってニコリと笑う。
視界が悪くて不便だろうと、砂塵を圧で飛ばしてくれた。
ありがたいなぁ。
それにさ、”目をこするな”とかも嬉しいよ。
なんだかさ、お父さんみたいだ。
「ありがとうございます。助かりました」
言いながら前を視る。
霧が晴れたその向こう。
僕は思わず息を呑む。
そこには銃を持った大上さんと、すぐ目の前に長がいた。
黙ったまんまで、2人は向かい合っているのだが……ダメだ! 近すぎる!
あの距離で対峙だなんて危険だよ!
喰われても助けられない、自力で出るとか言ってたけどさ、成功するかわからないんだ!
「中村さん、みんなも! 大上さん助けに行きましょう!」
叫ぶように声を掛けた、みんなの返事も聞かないまま、僕は走り出そうとしたんだ。
でもその時、僕の大声を聞いた大上さんが、さらに大きな声を上げた。
『岡村ぁ! まだ来なくていい、とりあえず大丈夫だ。”俺ら全員で滅する”、だったよな? ちゃんと覚えてるよ。少しだけ、長と話がしたいだけだ』
タバコを口に下げたまま、そう言って僕を制したんだ。
少しだけ話がしたいって……長と喋ったってツマラナイよ。
あの人、自分の話しかしないもの。
いいから戻ってきてよ、それか僕らがそっちに行くよ、無茶しないで、お願い、此処まできたのに、もしも喰われてしまったら、僕は一生後悔する事になる。




