第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー79
急ぎ地上に降りた。
羽の文字は降り続け、辺りは幻想的な雰囲気だ。
そんな中、厳つい男達が背中をさすり、腰をさすり、『霊体イテー』とか『こ、腰が……』とか渋い声を漏らしてる。
今すぐ消えそうとまではいかないけれど、さっきまで山に潰され燃やされてたんだ。
無理もない、きっと霊体が辛いのだろう。
この後、大丈夫かな?
長と戦えるかな?
先に癒しの言霊を使った方が良いかな?
なんて考えていると、僕に気が付いた男達が一斉に喋り出した。
『岡村ぁぁぁ! 助けてくれてありがとなぁぁぁ!』
『えぇっとー! 感謝しますぅぅ! 中でぜんぶ霊視ましたぁぁ、はいぃ!』
『長のヤロー、本体は蛇の腹だったのかーっ!』
『猫も大活躍じゃないかー!』
『ありがとう! ありがとう!』
と、このくらいは聞き取れたけど、あとはもう何が何だかだ。
大声で大騒ぎの大興奮。
女性が3人集まれば賑やかになる、とはよく聞くが、なかなかどうして、男だって負けてない。
てか良かった……これだけ元気なら心配しなくてすみそうだ。
いつぞやのオタク軍団か? ってくらい騒がしい中、僕らのポニテにいぶし銀、中村さんがやってきて、
『岡村、改めて礼を言う。我々を助けてくれてありがとう』
そう言ってくれたんだ。
「みんなが無事で本当に良かったです。長に消されちゃうなんて絶対イヤだもの。それより霊体は大丈夫ですか? みんな元気そうに視えるけど……実は無理してるとかじゃない? もしそうなら、長が来ないうちにみんなを回復させたいなって、」
『ありがとう、だが大丈夫だ。霊体はなんともない。彰司さんと岡村と猫の霊力が守ってくれたんだ。塊に押し潰されて、火までつけられ、此処までかと無念に泣いた……が、いつまでたっても消滅しないし、苦しさも感じない。大橋と近藤に聞いても何もしていないと言う。それで気付いたんだ。強い霊力が我々を救ってる、傷の霊体を修復し続けているのだとな』
そうだったのか……混ざり合ったマーブル模様、瀬山さんと大福と僕の霊力がみんなを守ったのか。
だから無事でいてくれて、だからあんなに元気なんだ。
えへへ、なんだかすっごく嬉しいや。
でもってあの欠片、みんなに飲んでもらっておいて、本っ当に良かったよ。
あの時はただ単に、絶対失くさないようにするには飲んじゃえば良いんじゃない? くらいのノリだった。
ぶっちゃけ深く考えた訳じゃない。
修復機能が発動するのは、長に喰われた時だけだと思ってた。
まさかそれ以外でも発動するとは考えてもなかったんだ。
これってさ、結果オーライ、超オーライだ。
中村さんは『リスクを仮定し、回避の為に欠片を飲ませたのだろう?』なんて感心してて、それはチガウと言ってみたけど『謙遜するな』と譲らない。
何度言っても信じてもらえず……もういっか。
誤解だけども、ココはひとつ褒められとこう。
誤解なのにちゃっかり褒められイイ気分になっている時だった。
ワクテカ全開の若い声が、ちらりほらりと耳に聞こえた。
この声は翔君?
『あ、まただ。また【弥生さん】だ、』
ん? んー、ん?
なぜココで弥生さんの名前が……?
なんだろ、胸騒ぎがするんだけど。
『どうした、翔』
杉野さんが問いかけた。
それに対して翔君は、
『空から文字が降ってくるだろ? キレイだなぁって視てたらさ、コレ文章になってるんだよね。落ちた順に読んでると【先代好き】とか【瀬山さん好き】とか【大福好き】とか、誰々が好きってのが多いんだ』
そうなの!? と杉野さん以外にも、男達が喰い付いた。
逆に僕は青ざめる。
ヤバ……僕の心が駄々洩れになってる予感。
『他にもあったよ、【社長好き】とか【ジャッキーさん好き】とか【キーマンさん好き】とか……あ、そうそう、さっき俺らのコトも好きって降ってきた! 照れるな、俺も岡村大好きだ! でさ、好き好き言ってる中でも【弥生さん】って人のは他の人よりたくさんあって、【弥生さんカワイイ】とか【弥生さん優しい】とか【弥生さん大好、』
だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
駄目だぁ!
それ以上喋らないでぇぇぇ!
僕は鬼の形相で翔君にダイブをし、その口を塞がせていただいた。
『フガフガ……! ひゃにすんだお!(ナニすんだよ)』
「いいから黙って! 声に出して読まないで! お願いだからーっ!」
し、しくじった……!
これはきっと、さっきのイメージが原因だ。
____好きなコト、好きなモノ、好きなヒト、したいコト、願うコト、ぜーんぶ文字に!
と、念じまくったじゃない!
その結果がコレだ!
僕の中の好きの気持ちを盛大に、空から降らせてしまってるんだ!
恥ずかしー!
『ひゃなせ!(はなせ) おきゃむら……!(おかむら) フガフガフガ……ぶはっ! なんだよ、いきなり口塞ぐなって! ははーん、さては岡村、【弥生さん】って人が好きなんだな? 彼女か? それとも奥さんか?』
翔君はからかうように僕を視る。
ちょ、そういう事言わないで!
「ち、ちがうし、彼女じゃないし、奥さんでもないし、てか人妻だし、ちがうから、そ、そういうんじゃないから、」
動揺が、漏れ漏れだったんだと思う。
『違うならなんなんだ?』と食い下がる翔君を、他の大人達が止めた。
『翔、そのなんだ。空気読め。おそらく岡村の片想いだ。それも報われないパターンのヤツ』
筋肉質の男前、長澤さんが憐れむ顔でそう言った。
か、片想いってなんでバレた?
いやわかるか。
わかるならもうヤメテ、そんな目で僕を視ないで。
僕の願いも空しく、翔君がトドメを刺しにきた。
『えぇ! 片想いなのか!? 希少の子なのに片想い?』
き、希少の子関係ないし、なんでもかんでもそこに結びつけないでー!
と言い返したいのに、テンパりすぎて言葉が出ない。
僕はこの中でも、大人中の大人、いぶし銀に助けを求めガン視した……が。
『ほほう、確かに【弥生さん】ばっかりだ』
めっちゃ楽しそうじゃないかー!
中村さんは僕に優しく(本当に優しい顔だった)微笑みかけると、目線を文字に、熱心に追いはじめた。
ヤ、ヤメテ……武士の情け……せめて声には出さないで……プリーーーーズ!
『なになに、【弥生さん】以外にもあるじゃないか。【みんなを】……? 我々の事か? 【めし】……? ん?……飯? 【たく】……? 米を炊くという意味か? なんだ、よくわからんな。いや待て、続きがあるぞ。【ない】、なんだこれは。続けて読むと…………”みんなを、めし、たく、ない”?
これは…………【みんなを滅したくない】なのか?……岡村、』




