第二十章 霊媒師 瀬山 彰司ー78
大福のヤケドを完治させ、どこもかしこもフワフワモコモコ。
そのフワモコをナデナデナデナデ、これで僕のメンタルも大復活だ。
次は____
滞空する猫又の背に乗って、僕は地上を視下ろしていた。
炎の筒は燃えている。
長はまだ出てきてないけど、それは時間の問題だろう。
1時間後に出て来るか、それとも1分後かはわからない。
だからこそ急がなくっちゃ。
僕は目線を横にずらし、いまだ燃え続ける火の山を視た。
あの中にみんなが閉じ込められて、どのくらいの時間が経っただろう。
どうか無事でいて、どうか持ち堪えて、アナタ達はまだやる事があるんだもの。
全員で長を滅し、悪霊じゃなく英雄として最期を迎えるんだ。
長なんかに消されないで、僕が絶対助けるからね。
「とは言え……どうしたら良いのかな。霊鎖はダメだ、炎が溶かしてしまう」
ビュービューと風を受け、フル回転で考える。
僕が出来る事は少なくて、手立ては本当に限られる。
それでも絶対諦めない。
な、なんてね、さっきの僕は長が怖くて心が負けて、”きっともうダメ”だと思ったクセに。
だけどね、もう負けないよ。
僕には大福がいる、先代も瀬山さんも、”おくりび”のみんなもいる。
そして”日本で一番の霊能軍団、瀬山の霊媒師達”もいるんだ。
あはは、なんだか不思議だな。
みんなを想うだけで心強いよ。
それから1分考えて、それで、僕は一つ思いついたんだ。
「…………駄目で元々。やってみるか」
みんなが梵字に潰される前。
どんなに攻撃してみても、受けた長は、蛇の霊体を解いて編んでの繰り返しで無効化したんだ。
その時、僕は試そうとした事がある。
スキル的に自信がなくて結局はしないまま、グズグズしてたらみんなは危機に陥って、今思えば失敗してもやっておけば良かったと思う。
こういう後悔は嫌だな、もうしたくない。
だから今こそやってみようと思うんだ。
「最初の案とは少し違うけど、やる事は大体同じだ」
大福の背中に跨って、まず最初に山に向かって霊矢を撃った。
両手両五指、1回10発。
3セットも撃てば検証出来るだろう。
速度を持って斜め下。
霊矢は燃え盛る山肌に突き刺さる。
暫く視てたが霊矢が溶ける気配はない。
やっぱりそうか。
あの炎が溶かすのは、”瀬山さんと大福と僕の霊力”が混ざったもので、”僕だけの霊力”は溶かさないというコトだ。
長は”みんなの中にある霊力”を弾くと言ってたもんな。
検証クリア、これなら試せる。
僕の霊力は溶かされないと分かった所で更に霊矢を撃った。
これでもかと撃ちに撃ち、視た目は”火の山”→”針の火の山”へと進化する。
準備その1はこれでいい。
準備その2は、僕だけの霊力で霊鎖を大量に構築し、そのすべてを惜しみなく山に投げた。
霊鎖と霊矢、同じ霊力は引き合ってくっついて、結果、有線接続される。
準備その3、これは僕自身の準備が必要。
思い出せ、瀬山さんはなんて言ってた?
____イメージするんだ、
____構築の済んだ物を次は何に作りかえたいのか、
____強く、強く思い描くの、
そう、イメージだ。
目的は?
みんなを助けたい。
その為にはどうすればいい?
山の中からみんなを出す事は出来ない。
だから山をどうにかどかしたい、消してしまいたい。
そんなコト出来るかな、山はなにで構築されてる?
長の梵字だよ。
山をどかすのは大変だけど、1個1個、梵字をどかすと考えればどうにかなるかな?
なる……かな、…………いや、意地でもどうにかするよ。
どうやって?
梵字を造り変える。
造り変える?
うん、昨日瀬山さんに教わった術。
一度構築された物を別の物に造り変えるんだ。
再構築か。でも勝率5割じゃない。大丈夫? 失敗するかもよ?
だ、大丈夫、だと思う。
2回に1回なら成功するようになったもの。
昨日はさ、霊矢を拘束網に再構築する練習で、まったく違う物に変えるって大変だった。
だから今回難易度を下げようと思うんだ。
それって、どうするの?
それはね____
猫又の背の上で、僕はイメージし続けていた。
こうしたい、という結果だけじゃなく、どうして再構築がしたいのか、その為にはどうしたらいいか、そういったモノを具体的に頭に浮かべ、その思考をひたすら霊鎖に流し込む。
勝率5割。
2回に1回の成功率だ。
大丈夫、1回目が失敗したら、計算上、次の回は成功するんだ。
霊力はいくらでも出せる、何度でも挑戦してやる。
じゃんじゃん霊力を流し込む。
結構な量になったはずだ。
高さは目測10メートル弱、みんなを埋める憎き山は、あとどのくらいで霊力が満杯になるのだろう……なんて、思った時だった。
霊力を流す両手に抵抗を感じた。
これ以上は入りません、といった感覚で、どうやら山は霊力で満たされたようだ。
「よし、イメージ、イメージ大事」
僕は梵字をどうしたいのか、頭の中に思い浮かべる。
どかすんだ、重たい梵字は動かせない、だから軽くしたい。
1個はメロン大の重たい梵字、これを軽く。
僕のスキルじゃまったく違うモノに再構築は難しい。
梵字と似たようなモノ、僕でもなんとかなるような、そんなイメージで、そんなイメージは____
____えいみ、エイミ、すき、
長い黒髪、白い肌、黒のワンピに黒い靴。
弥生さんにそっくりの、ちっちゃくてあどけない、幼い姿が愛らしく、声のかわりに天から文字を降らせる女の子。
その文字は紫色で、羽のようにふわりふわりと落ちてくる……ヤヨちゃん、
「イメージ来たーーーー!!」
脳内で、ヤヨちゃんが可愛く微笑んでくれた。
その瞬間、霊鎖に霊力を一気に流した。
流した霊力は梵字の中で、長の霊力を食い潰して乗っ取って、炎がみるみる鎮火する。
プスプスと黒い煙が立ち上って飛散して、数多の梵字が剥き出しになった。
よし! いいぞ!
「梵字は文字! 文字を文字に再構築!」
イメージを口に出して意味を強めた。
脳内のヤヨちゃんは可愛くって、ちっちゃなおててを天にかざして【シチューたべたい】と降らせてる。
「好きなコト、好きなモノ、好きなヒト、したいコト、願うコト、ぜーんぶ文字に! 文字の雨を降らせてちょうだいーーーーー!」
思いっ切り叫んだ。
霊力に霊力を加え、イメージを流し込み、祈る気持ちで梵字を視つめていた。
頼む……頼む……頼む……たの……あ……変化が始まった。
一つ一つは黒い塊、その表面に刻まれた梵字が薄くなっていく。
同時、塊の黒色が、僕の霊力の赤へと変わる。
変わりながら光を発し、その光も徐々に強まり、眩しくて視てられない程の輝度となった後、失った浮力を取り戻した。
1個、2個、3個、浮き上がる塊は数を増やし、赤くて光ってどんどん天へと昇ってく。
それは短い時間だった。
あっという間に山は崩れ、僕と大福がいる位置よりももっと高く、赤い雲が広がった、そして。
シャンッ!
たくさんの鈴が鳴ったような、そんなキレイな音がした直後。
赤い雲が細かく千切れて、ふわりふわりと降りだした。
色は違うけど、羽みたいなその軽さはヤヨちゃんの話すコトバによく似ていた。
「……はは……ははは……やった……成功した……重たい梵字が羽の日本語に変わった……ははは……はは……やったーーーーっ!!」
『にゃにゃにゃにゃーーっ!!』
空中で羽の文字を浴びながら、僕と大福は大はしゃぎだった。
浮かれる猫はお得な三尾をブンブン振って、浮かれる僕はフワモコ毛皮をワシワシ撫ぜて、思う存分喜びを分かち合った。
下を視れば山の無き跡。
男達が重なるように倒れていた……が、霊体を潰す塊がなくなって、ふらつきながらも全員、その足で立ち上がったのだ。




