霊媒師エピローグ・岡村英海視点
楽しい時間はあっという間だ。
社長のオウチで開催されたバーベキューは大成功で、美味しいお肉とお魚と、尽きない話に花が咲いての大満開。
食べて喋って飲んで騒いで、後片付けすら楽しめた。
ああ、本当に楽しかった。
またみんなで集まりたいな。
その帰り道。
約束通り、僕の隣を歩いているのは水渦さんだ。
少し前では四尾の猫又、ゴキゲンな大福が弾むように歩いてる。
「水渦さん、今日はすごく楽しかったね」
空を見れば満月で、青みがかった月の光が足元を照らしてくれた。
彼女は前を向いたまま、
「そうですね。とても楽しかったです」
ぶっきらぼうに言ったけど、発した言葉は明るい色を帯びていた。
僕と水渦さんは付き合って2年になる。
だがしかし、いまだ呼び名は変わらなくって、”岡村さん” と ”水渦さん” だ。
デートもするけど、ツーマンセルの現場のようないつもの空気で、一般的なカップルみたいに甘い感じのそれではない。
だけど、僕はそれが心地よくもあったんだ。
2人の間に流れる空気は自然なもので、背伸びはしない、無理もしない、ただただ一緒にいれたら良いと思っていた、…………なんだけど。
2年の月日で僕は36才で水渦さんは31才。
ま、まぁ、年は関係ないけどさ。
最近色々思うんだ。
思うって……ん、例えばたけど、志村家の賑やかさとか、清水家のラブラブさとか、瀬山家の超ラブラブさとか、……要は、家族って良いなぁって。
今日の集まり、水渦さんはどう思ったのかな。
そんな事を考えながら、僕は密かに水渦さんをチラ見した。
伸ばしかけのセミロング。
ピンですっきり、キレイにまとめてる。
横顔は凛として、口をしっかり結んでるんだ。
…………ん、もしかして、またキレイになったんじゃないのかな。
この人、会うたびにキレイになるよ。
それはそれで良いコトだけど、僕はなんだか心配になってしまう。
昔のままでも良かったのにな、ああでも、あの頃は偏食だったし、あれはあれで健康が心配だ…………と。
あれやこれやと考えてたら、僕はどうやらチラ見どころかガン見をしていたみたいでさ、途中、水渦さんは立ち止まり、眉毛を寄せてこう言ったんだ。
「…………岡村さん、さっきからジロジロ見てどうしたのですか? 前を見て歩かないと転びますよ」
あぅ……怒られてしまった。
しかも転ぶって、子供じゃないんだから。
「あ、えと、ごめん。や、その、なんていうか……水渦さん、会うたびにキレイになるなぁって思ってたんだ」
ウソじゃない。
今まさにそう思ってた。
だから素直に言ったというのにこの人は。
「…………なにを言ってるんですか。ウソはキライです」
「え、なんでウソだと思うのよ。本当にそう思ってたんだってば」
「……………………(ジーーーー……プイッ)」
「えぇ!? なに? なんか怒ってるの? なんで?」
「知りません」
水渦さんはプイッと顔を僕から背け、そのままスタスタ歩いてく。
僕は慌てて横に並んで言ったんだ。
「んもー、なんでよー、好きな人がキレイだからそう言っただけじゃない!」
「…………!! だ、だからそういう事は言わないでください!」
「なんでー!」
「なんでもっ!」
”なんで?” と ”なんでも!”
僕らはしばらくこの二語だけで会話をしてた。
すぐに終わると思っていたのに、いつまでたっても終わらない。
で、後から僕は気がついたんだ。
ははーん、この人は褒められて照れてるんだなって。
だから僕は、早足の彼女に追いつき手首を取って止まらせた。
で、で、”照れてるんでしょー” なんて、社長ライクにふざけてみようと思っていたのに…………止まった彼女が僕に向いたその瞬間、あまりにキレイで言葉が出なくなったんだ。
なめらかな白い肌、切れ長の涼しい目元、まとめた髪は大人っぽくて、月の明かりがベールとなって落ちている。
しばし僕らは黙ったままで見つめ合う。
お互いに言葉が出なくてぎこちなくって、だけどその時、なんだか胸がスゥッとなって、余分な言葉も考えも、なにもかもが消えてなくなり、最後にたった1つだけ、シンプルな気持ちが残されていたんだ。
ああ、さすがの僕でもこれならうんと分かりやすい。
そうか、この気持ちを彼女にそのまま言えば良いのか。
手を握るでも絡めるでもなく。
彼女の手首を掴んだまんま、素敵な指輪もないというのに、
「水渦さん、僕と結婚しませんか?」
と、1つしかない気持ちを伝えた。
水渦さんは固まってしまった。
目を見開いて、赤くなったり青くなったり、そうかと思うと周りをキョロキョロしてみたり(いや、アナタに言ってるからね?)と挙動不審マックスだ。
やがて彼女は涙をボロボロ溢しだす。
水渦さんは泣きながら、
「…………正気ですか?」
と短く聞くから、
「もちろん、」
僕も短く答えたの。
彼女はさらに泣きながら、僕の目を見て言ったんだ。
「…………私なんぞで良いのでしょうか?」
「水渦さんが良いんだよ」
「だけど私は醜女だし、」
「なに言ってるの、……アナタはすごく綺麗だよ」
「………………だからウソはキライです、」
「ウソじゃない、ウソじゃないけど……でも、もしもアナタの言う通りだとしても、それはなんにも関係ない。見た目じゃなくて、優しいアナタが好きなんだ。アナタは僕がキライ?」
「いいえ、いいえ……!」
「そうか……良かった。僕はアナタと一緒にいたい。だから結婚したいんだ。でも、……ん、よくよく思えば、自分で言ってアレだけど、アナタの方こそ僕なんかで良いのかな。僕は ”希少の子” で……この先、それによって色んな事があるかもしれない。もしかしたら、アナタに迷惑をかけるかもしれないもの、」
本当にそうだ。
今は良い、でも、これから先に有事が起きたら、状況は一変するかもしれないんだ。
水渦さんを悲しませる事になるかもしれない。
そこだけは、心の隅に引っかかってる。
それを思うと心が重い……が。
少し前まで泣いていた水渦さん。
だけど今、彼女はスッと背筋を伸ばし、
「それこそ関係ありません。貴方に掛けられる迷惑ならば、その全てを喜んで引き受けましょう。申し上げたはずです。貴方は私が守りますと。この先ずっと、生きている間もその後も。永遠にです」
涙の跡をつけたまま、迷いもなくそう言った。
その顔は、いつかの海のカフェで見た……あの時とおんなじだ。
「……ありがとう。これから先、色んな事があると思う。だけどきっと、そう言ってくれるアナタとだったら乗り越えられると思うんだ。アナタは僕を守ってくれると言ったけど、僕だってアナタを守る。だからこれから一生一緒にいてください。僕はね、アナタが思っているそれ以上に、アナタの事が好きなんだ、」
…………僕はたぶん、今のこの彼女の顔を、ずっと覚えているのだろうと思った。
そのくらいに美しく、そのくらいに純粋で、彼女は涙を溢れさせなんどもなんども頷いてくれたんだ。
____その時、
空の上からなにかがはらりと落ちてきた。
なんだろうと良くみると、赤青黄色、緑に紫藍色と、それは綺麗な花びらだった。
色とりどりの花びらは、螺旋を描いて優しくゆっくり舞っている。
月夜のもとの幻想的な光景に、思わず息がもれてしまう。
フラワーシャワーによく似たもの。
これはどこから……とみてみれば、少し前でお姫が止まり、フワフワ四尾をゆっくり左右に振っている。
その四尾が揺れるたび、そこからキレイな花びらが噴水みたいに舞い上がっていたんだよ。
そうか……この花びらは姫だったんだ。
祝福、してくれてるんだ。
「大福! ありがとね、すごくすごく綺麗だよ! ねぇ、大福も聞いただろう? 僕は水渦さんと結婚する。家族になるんだ。僕と、水渦さんと、そしてもちろん大福とも」
大きな声でそう言うと、猫又は僕らに振り向きコクコクと頷きながら、
『うなっ!』
と一言短く鳴いた。
力強くて可愛らしい鳴き声は、
澄んだ空の高くまで響き渡ったのだ____
霊媒師 エピローグ・岡村英海視点__了
次回は『霊媒師エピローグ・水渦視点』になります。
あと少し、お付き合いいただけると嬉しいです。




