第二十八章 霊媒師 三年後ー77
「あれはね、自分と同じでサーバーを使ってるんだ。バラカスの姿が視えない双子、その悲しい現実をどうにかする為、じーじは徹夜で双子専用サーバーを構築したの。本当は、視るだけだったらバラカス作の霊銃で目を撃てば、視えるようになる。痛みもないし身体にも害はない。だけど、生まれたばかりの赤ん坊に、害はなくとも銃を向けるのは抵抗があってね。それで、自分のよりもさらにスペックの高いマシンを作ったんだ。自分が普段使っているのは ”黄泉の国、第98霊力サーバー”、双子達のは ”黄泉の国公式外、第10001と第10002霊力サーバー” 。その2つのサーバーから霊力をダウンロードして霊の姿が視えるように、それはすなわち、じーじの姿が視え、お喋りもし放題にしたんだよ」
そうだったんだ……僕はてっきり単純に、霊の姿が視えるのは、弥生さんの霊力を引き継いだのかと思ってた。
そうじゃなかったんだな。
「最初はね、上手くいくか分からなかった。なんたって、自分がサーバーにアクセス出来るのは【光る道】の欠片を呑んで魂に癒着させているからだもの。サーバーにアクセスするには自分の声が黄泉に届かなければ不可能だ。当然双子はそんな物を呑んでないし、生者のうちは呑む事も出来ないしね。だけど、上手い具合に ”声を飛ばす” という自分のスキルをほんの少し、双子が継いでくれてたの。それに気づいたバラカスが、受け継いだ僅かなスキルにブーストかけまくってねぇ。それで今に至る訳」
なるほど。
霊力がなくとも、霊媒師が出来るくらいにブーストをかけまくったジャッキーさんとおんなじようにしたんだね。
すごい事だよ、愛は不可能を可能にするって本当だ、……本当に、愛情ってすごいよ。
希少の霊力なんかより、もっともっとチカラがあるんだ。
しみじみとそう思い、幸せ家族を眺めていると……空から大きな声が聞こえてきたの。
『おーい! 誠ぉ! みんなぁ! 藤田家連れて遊びに来たぞー!』
この声!?
上を視れば、カーゴパンツにリンゴの赤髪。
社長のママンの朋さんだ!
一緒にいるのは真さんとお婆ちゃん、それに貴子さんもいる!
わぁぁぁぁ!
久しぶりだぁぁぁ! 嬉しいなぁぁ! とすぐに声を掛けようとした。
だけど同時。
ブン!
ブンッブンッ!
電子機器の起動音に似た音が、空に響いたその直後。
電柱のてっぺんくらいの高い位置に、突如現る団体様が____
『『『『『『岡村ぁぁぁぁぁぁ!!』』』』』』
____重なりまくる野太い声が僕の名前を呼んだんだ。
って、みんなぁっ!
視上げれば、そこにいたのは27霊。
揃いの隊服、屈強な男達!
白髪のポニテの中村さんに翔くん、杉野さんに森木さんに大上さんに……みんなみんな勢揃いだ!
ちょ!!
ウソだろ!?
今日はどんだけサプライズが続くんだよ!
一気に涙が込み上げた。
元瀬山の霊媒師達、今は揃って黄泉の国の特殊部隊、バッドアップルの隊員だ。
ああ、みんなの顔が明るいや……優しい笑顔はそのままに、すごくすごく自信に溢れて恰好良い。
嬉しいな……みんなに会えて、すごくすごく嬉しいよ……!
そしてさらにサプライズ!
27霊、みんなの中に紛れ込み、ニコニコ手を振っているのは先代と……瀬山さんもいるっ!
一緒に来てくれたんだ!
あれ? 隣にいる和服姿の綺麗な女性は……もしかして佐知子さん!?
瀬山さんの奥様だ!
スゴイ!
スゴイスゴイ!
空から次々地上に降り立つ面々は、懐かしい霊、しょっちゅう会う霊、お初にお目にかかる霊……と、それぞれだけど、僕らにとって全員大事な霊達だ。
その中でも一番声がデカかったのは、もちろんこの霊。
『ユリィィィィィイイイイイイ!!』
着込まれた黒のツナギ、その背中には【藤田林業】の刺繍の文字が。
孫命、娘も命、義息も命で妻溺愛。
生前は林業一筋55年、死した後は孫守りたさで高い霊力を気合いで取得の真さんだ。
現世に降り立ち開口一発、”コンニチハ!” のかわりに孫の名前を叫ぶ霊。
庭でキョロキョロ、真さんは孫の姿を探してる。
少し遅れて地上に降りた娘と妻は、
『お父さん、声が大きい!』←腰に手をやる貴子さん
『お爺さん、まずはご挨拶をしてくださいな』←ほっぺが膨らむお婆ちゃん
タッグを組んでたしなめた。
それを言われた真さんは『お、おう! 分かってらぁ!』とタジタジだ。
あはは、真さんは霊力も腕力も両方あるのに、家族にはめっぽう弱いからねぇ。
なんてコトを思っていたら、貴子さんが話しかけてくれたんだ。
『岡村さん! お久しぶりです、お元気でしたか?』
そう言って向けた笑顔は輝いていた。
豊かな黒髪、陶器のような白い肌、頬はふっくら健康的で、綺麗な目元はユリちゃんにそっくりだ。
「はい! 元気です! 貴子さんも元気そうで良かった。黄泉の国での暮らしはどうですか?」
かつて夫に殺されて、11年も現世に縛られ続けた霊。
だけど今は黄泉の国で家族と一緒だ。
『黄泉の国はとても良い所です。気候が良いし、食べる物も美味しいし、優しい霊しかいないもの。それになにより、お父さんとお母ちゃんと暮らせるのがとっても幸せ! 黄泉でのんびりと生活しながら、いつかうんと遠い未来にユリ達がやってくるのを待ってるの。とは言っても、今日はその前に現世に会いに来ちゃったけど』
「来てくれるの大歓迎! ユリちゃんも社長も喜ぶよ。今日は朋さんに誘われたの?」
『うん、そうなんだぁ。朋ちゃんは忙しいのに、何かにつけてはこうして誘ってくれるの。ユリの事も可愛がってくれるし、ありがたいと思ってる。今では私達、家族ぐるみで仲良しなんだから』
そっか……そうなんだね。
生きてた頃は色々あったけど、今はこんなに良い顔で笑ってる。
貴子さんは僕の仕事デビューでお世話になった、思い出深い霊だもの。
幸せそうですごくすごく嬉しいや。
ナゴナゴと和やかに、貴子さんとお喋りしてると背後では、
『そんでよ、ユリは一体ドコにいるんだ? 庭にはいねぇようだけど』
ちょっぴりソワソワ、真さんがそう聞いた。
すると社長が、
「ああ、ユリなら部屋で、会社の仲の良い女となんかしてるよ。もう少ししたら来るんじゃねぇか?」
ラフな感じに答えると、
『『『ユリに仲の良いお友達が!!』』』
藤田家全員、それはそれは嬉しそうに、ピカーーッ! な笑顔になったんだ。
本当にさ、ユリちゃんはみんなから愛されてるよね。
もちろん僕も大好きだ。
ユリちゃんも、社長も、朋さんも、藤田家のみなさんも。
喋り声がデカイぞ選手権、一位と僅差の第二位……
『えぇぇぇぇぇぇっ!! 今日は大和いねぇのかよぉぉぉぉ!!』
ガガーンな顔で頭を抱えてしゃがみ込むのは、息子命、義娘命、夫激ラブ朋さんだ。
「しょーがねーだろー! 親父は今日は仕事なんだからっ!」
息子は呆れて突き放す、が、しかし、母は負けじとしがみつく。
『仕事ってドコまで!? 何時に帰ってくる!? せっかく現世に来たんだからよ、顔が視てぇんだよぉぉぉ! 大福もいるし丁度良いじゃねぇかぁぁぁ!』
あーあー、まるで駄々っ子だ。
遠巻きには朋さん率いる精鋭の男達。
バッドアップルのメンバーが、笑いを必死に堪えてた。
「ダァッ! もうウッセェなぁ! 今日の仕事は都内だよっ! 泊まりじゃねぇし、夜には帰ってくんだろ! それまでいりゃあ良いじゃねぇか! だぁぁぁからっ! しがみつくなって!」
『いるっ! 帰ってくるまでずっといる! 絶対大和に会うからな!』
あははは、こりゃあ今日も大福先生に一仕事お願いするようだよ。
でもまぁ、そりゃあ会いたいよね。
大好きな大好きな旦那さんだもの。
とりあえず、”喋り声がデカイぞ選手権” の(だからそんなのナイけどさ)第二位(朋さん)と同率第二位(社長)は、今だけ放っておくとしてだ。
僕はクルッと振り返り、そのまま走ってみんなの所に行ったんだ。
「中村さん! 翔くん! 杉野さんも大上さんも森木さんも大橋さんも近藤さんも林さんも……みんな! 久しぶりぃぃぃぃ!!」
ココロガオドル、胸がドキドキしちゃうくらい、会えたのが嬉しくて嬉しくてたまらない。
みんなも同じに思っているのか、
『岡村ぁぁ!』
『岡村君!』
『岡村ぁぁぁ!』
『岡村!』
『えぇっとー! 岡村くぅぅんッ! はいぃぃぃ!』
野太い声が重なっちゃって中々話が進まない。
たっぷり数分、ひたすら名前を呼び合ってたけど、一段落ついた所で男達の司令塔、中村さんが言ったんだ。
『……岡村、元気だったか?』
やだなぁ、もう。
なんですでに涙目なのよ。
そう言う僕も視界が霞む、鼻の奥がツンとするけど。
「うん、元気だよ。みんなも元気にしてた? 聞いたよ、黄泉ですっごい頑張ってるって。隊結成から2年足らずで ”バッドアップル” は数ある特殊部隊の中でもエースになったんだってね。さすがだなぁ、なんだか僕まで誇らしいよ」
噂は現世まで届いてる。
”バッドアップル” は結成から半年間、訓練もせず現場にも出ず、隊員達が元悪霊という事で謝罪行脚に回ってた。
そんなんだから、あまり期待をされる事なくノーマークの弱小隊と呼ばれてたんだ。
隊長である朋さんは、誰に何を言われてもニヘラと笑って聞き流していたのだが、謝罪行脚のすべてが終わったその翌週。
初の任務に向かった彼らは ”弱小隊” の二つ名を、のしをつけて返上したの。
それからの ”バッドアップル” の活躍は、目を視張るものがあったという。
どんな現場も神がかった霊力とスキルとチームワークで潰していって、今では誰もが知る絶対的なエースとなった。
本当にすごいよ、尊敬するよ。
元々強い霊達だけど、強さに決して驕る事無く、努力に努力を重ねてるんだ。
それだって、嫌々ではない。
かつての長がみんなの事を ”駒” として扱ったのに対し、今のボスは ”自分の子供” と言い切っている。
そんな風に言われたら、そんな風に想ってくれたら、嬉しくて、ありがたくって、応えたいと思うよね。
あはは、僕とおんなじだ。
朋さんと社長はよく似てる、顔も、そして性格も。




