第二十八章 霊媒師 三年後ー17
____電話の話と重複するかもしれませんが、
そう前置きをした後に、水渦さんは ”ペルソナ” の事を話してくれた。
まず、”ペルソナ” が最初に現れた時。
私は彼の気配を一切感じませんでした。
悪霊達に囲まれていたから紛れたのでは? と思われるかもしれませんが違います。
囲まれた時だからこそ、一層周りに注意を払わなければいけません。
少しの油断が怪我に繋がり、そこから綻び劣勢になるかもしれないもの。
ましてや、今日の現場はソロでしたから、いつも以上に神経を張り巡らせていました。
それなのに……姿を視るまで気づかなかったのです。
いつの間にか参戦していました。
襲い来る悪霊達に霊矢を撃ち込み、まるで息をするように……涼しい顔で滅し続けていたんです。
主な武器は霊矢。
ですが、その形は私達が使う物とまったく違いました。
一本が大きく、鏃はより鋭利に尖ってた……命中率は九割九分、ほとんど外す事はありません。
稀に外す事があっても、彼はその霊矢を無駄にする事はありませんでした。
視た事のない印を片手だけで結び切り、指先から放電すると地面に刺さった霊矢に当てて、霊力を流し込みました。
何をしているのだろう……不思議に思って視ていると、霊矢は形を崩し拘束網へと形状を変化させ、僅か一瞬後、その網は悪霊を縛り上げました。
そして、”ペルソナ” はすぐに背中を向けたんです。
拘束中の悪霊を視る事もなく、早々に他の敵に霊矢を撃ちつつ、その片手間で、空いてる方の手指を軽く曲げた……直後。
拘束網が燃え上がり、瞬く間に悪霊は灰となって飛散しました。
なんと言うか、……無駄な動きが一切ありませんでした。
大きな霊力を効率良く、上手く使って短時間で全滅させるんです。
あんな戦い方……視た事がありません。
霊力もある、技術もある、周りを良く視て状況判断も的確で、相当に戦い慣れている印象を受けました。
水渦さんの話を聞いて、僕は背筋が冷たくなったんだ。
社長からも聞いたけど、”ペルソナ” は片手だけの印も結ぶ。
僕が驚いたのは、片手で結んだ霊力の使い方だ。
外した霊矢に放電し、自分と霊矢を電気でもって有線接続。
そこから霊力を流し込み、霊矢を拘束網に再構築するだなんて……これもまったく一緒だよ。
瀬山さんから教わったんだ。
霊矢を外したら、こうやって次の武器に再構築する。
そうすれば霊力の無駄にならないし、戦いをより有利に進める事が出来るのだと。
再構築は誰もが出来る訳じゃない。
ウチの会社で出来るのは僕と先代だけ……それなのに “ペルソナ” も同じ事が出来るんだ。
ぼやく僕に頷きながら、水渦さんは次に、”ペルソナ” と話をした時の事を話してくれたんだ。
一番最初に ”ペルソナ” を視た時は、私も岡村さんだと思ったんです。
外見は岡村さんそのものですし、霊体に陽炎の揺らめきが無いのもあったから。
もしかしたら、社長に言われてヘルプに入ってくれたのか? そう思いましたが、どうも様子が違う……疑問に感じたのはまず第一に服装でした。
いつもの岡村さんなら、仕事中は必ずと言って良いほどスーツを着ますよね。
____これが1番無難なの、
____下手に私服を着るよりも間違いないから、
それなのに私服姿で現れた……この段階で不信感を抱きました。
休みの日に突如呼び出された可能性、これを考えない事はなかったのですが、あの程度の現場ならソロで十分対応可能、それは社長も分かっているし、私自身がヘルプ要請をしていないのです。
となると、ヘルプの可能性は無いと判断出来ます。
おかしいと思い岡村さんらしき方を観察していると、次から次へと違和感が沸いてきました。
霊矢を撃てば命中率は九割九分、普段より高いスコアである事。
撃ちながらも常に微笑んでいたのですが、それがまるで張り付いた笑顔であった事。
また、岡村さんは霊矢を撃つ前に ”大変恐縮では御座いますが撃たせて頂きます”と言う事が多いですよね。
ですが、それも無かったんです。
そんな様子に違和感はこれでもかと膨れ上がり、それで会社に電話をしたんです。
幸い、悪霊達は頼んでもいないのに ”ペルソナ” が滅し続けてくれていたし、何か情報はないだろうかと思いまして。
電話はかけてみて正解でした。
社長から聞いた話と自分の勘、それと岡村さん自身が事務所にいたのも決定打となり、目の前のあの方は岡村さんではないと確信が持てました。
その後は知っての通り、直接 ”ペルソナ” に話しかけに行ったのです。
言葉を交わす為。
近くで視ると顔はやはりそっくりで、異なる所がありません。
同じ声同じ口調で ”ペルソナ” 曰く、4年前に私と出会った、その証拠にと当時の話も流れるように語っていました。
私は勝手に、”ペルソナ” が生み出されたのはつい最近の事だと思い込んでいたのです。
ですがそれを覆され、少なくとも4年前から存在していた事が分かりました。
ねぇ、岡村さん。
今までに ”ペルソナ” の存在を感じた事は無かったと言っていましたよね。
ならば、これまで彼はどこにいたのでしょう?
一般的に……と言って良いのか分かりませんが、式神を例えにするなら、大抵は術者の中にいる事が多いですよね。
私の中にも式のハヤブサがいますが、あの仔の気配はどんな時でも感じます。
これは……不勉強な私の根拠の無い憶測ですが、”ペルソナ” はただ単に生み出された者ではないと思うのです。
もっと別のルート、別のルーツ、……分からないけど、そんな気がしてなりません。
そして ”ペルソナ” は、岡村さんとは違う確固たる人格を持っています。
視た目や似たような言葉選びに騙されそうになりますが、”ペルソナ” は、……岡村さんと同じ顔で、岡村さんなら絶対に言わないであろう事を口にします。
…………そうです。
”ペルソナ” との会話は、電話で伝えた事以外にもあるんです。
私が彼に触れようとした時、彼もまた私に手を伸ばしてきました。
触れた瞬間、氷のような冷たさに私は驚き、ちょうどそのタイミングで会社のスマートホンが充電切れになりました。
その時に話した事。
それが、岡村さんなら言わないであろう事でした。
え?
何を言ったのかが知りたい?
そうですよね、気になりますよね。
ですが……申し訳ありません。
内容につきまして、今は控えさせていただきます。
いつか、話す事があるかもしれません……が、今はまだもう少し秘密にさせてください。




