第二十八章 霊媒師 三年後ー13
~~~東京都T市、”株式会社おくりび" 事務所内・僕視点~~~
生き人3人、猫又1匹____
僕達は顔を寄せ合い、ビジネスホンのスピーカーから聞こえてくる、2人の会話に神経を集中させていた。
本当は、電話は電話で繋げたままにしておいて、離れた現場を社長が霊視で視ようとしたんだ(僕が視るのは止められた、水渦さんの言う通り貧血で倒れちゃうから)……でも。
「……チッ! 視えてこねぇ! ブロックされてる! ブロックしたのはミューズな訳ねぇよな、てことは ”モドキ” か!」
”モドキ” がウォールの印を結んだ……? どうして?
社長は前に ”モドキ” を霊視で視てるのに、その時は視えたのに、なんで今日はブロックするの?
理由があるのか気まぐれなのか。
分からないけど2人の会話はどんどん先に進んでく。
だから社長は霊視を諦め、僕らと一緒に耳を澄ます事にしたんだ。
それにしても……水渦さんはすごいな。
”モドキ” 相手に怯む様子がまったくないよ。
いつも通りの通常運転。
言葉キツめで一歩も退かず、”モドキ” に笑顔を褒められたってガチスルーだ。
本当にすごいよ、……でも、ごめんね。
水渦さんは言わないけど、きっと、心の中は不安なはずだ。
”モドキ” に敵意はなさそうとはいえ、アンノウンには違いないもの。
淡々と質問をする水渦さん。
それによって得た情報に驚かされた。
”モドキ” は4年前を知っていて、それはつまり、そんなに前から存在してたという事だ。
え、でも待って、らしき気配はまったく無かった。
どんなに霊力を使っても、体調不良は起こらなかったし霊力の枯渇も感じなかった。
何言ってるのか分からない、どういう事なの? ハッキリ言ってよ。
不安と焦りともどかしさ、大漁の疑問符が頭の中に層となって積みあがる。
そんな時だった。
少しの間、静かだったスピーカーから再び声が聞こえてきたんだ。
【貴方の話は…………正直言って分からない事だらけです。ですが……4年前のコンビニの話は全て合っています。もっとも……4年前の私達を霊視して、知ってる振りをしてるのでなければの話ですが】
これは水渦さんだ。
淡々としてるけど、訝しみが声の中に入り混じる。
〖そんな事しないよ。してどうするのさ。僕はウソをつくつもりはないもの、……というかウソはキライだ〗
今度は”モドキ” だ。
キモチワルイほど僕の声にそっくりで、ウソが嫌いという所までかぶってる。
そこから、少し長めの沈黙が流れた。
2人とも黙ってしまって、………………でも、かすかに音がする。
スス、スス、という布が擦れるような……そんな音。
スマホがなにかに擦れてる……? その音を拾ってる?
………………ああ、そうか。
多分だけど、水渦さんはスマホを首からぶら下げてるんだ。
ぶら下げたまま動いているから衣擦れの音がするのだろう……って、一体なにをしてるんだ?
さらに耳を澄ませた。
かすかな音を集める為に、耳に手なんか当ててみる……と。
〖…………なに? 僕に触りたいの? いいよ、〗
”モドキ” の声だ!
てか……今、なんて言った?
触りたいとかどうとか言ってなかった?
え、なに? 水渦さん、何をしようとしてる……?
【………………】
水渦さんは返事をしなかった。
でも、衣擦れの音はまだしてる……”モドキ” に触ろうとしてるんだ。
ちょ……待って、大丈夫かな、……この沈黙が不安になる、なにをする気?
疑問符が頭の外まで溢れ出て、水渦さんが心配で、居ても立っても居られなくなったそのすぐ後に____
【…………ヒッ……!】
____短い悲鳴が一瞬聞こえ、
ブチッ、
突如、通話が切断された。
ツー、ツー、ツー、
途切れた回線、スピーカーから聞こえてくるのは等間隔のツー音のみ。
それを聞いた僕と社長はほとんど同時に大声を張り上げた。
「「 大福っ!! 」」
猫又の名前を呼べば、一言『うなっ』と短く鳴いて見事な四尾を大きく一振り、その直後。
ブンッ、
電子音によく似た音をさせたと同時に姿を消した。
たった今、大福は水渦さんを助けに行った。
妖力の強い猫又の、スキルの1つに瞬間移動のそれがある。
僕も社長も大福も、具体的には言葉を交わしていないけど、呼んだ名前に助けを願い、呼ばれた猫はそれを読み取り、僕らの思考は完全に一致したんだ。
だがしかし、事務所の中は一瞬にしてパニックに陥った。
なんださっきの……水渦さんの短い悲鳴が聞こえた後に、そのまま電話が切れてしまった。
彼女は”モドキ” に触ろうとして、それで……それで……!
なにがあった?
水渦さんは無事なのか?
分からない、情報が途切れてしまった……!
ああ……僕はバカだ!
水渦さん1人の時に ”モドキ” と対話をさせるなんて、もっとちゃんと考えるべきだった、なにかあったら僕のせいだ!
居ても立っても居られない、彼女の事が心配で、身の安全を確かめたくて、ジッとなんかしてられない。
「社長! 今から水渦さんの所に行ってきます!」
半ば叫んで僕は駆け出し、だがそれを同じく叫ぶ社長が止めた。
「待てエイミー! 気持ちは分かるが一旦落ち着け! その為に大福が行ったんだろが!!」
「そうだけど! でも心配なんだ! もしも ”モドキ” に酷い事をされてたら、怪我でもさせられてたら、そう思うと……僕は……僕は……!」
社長に当たっても仕方がない、分かっているのに気持ちがどうにも昂って抑える事が出来なかった、……が、同時に血の気が引いていく、目の前が回転しだして気持ち悪い、……あ……視界もチカチカ、ホワイトアウトの前兆だ……
「エイミー!」
僕の名を呼ぶ社長の声がハウってる。
耳の中でワンワン響いて聞き取りにくい……それに……グラリと地面が揺れた気がして立ってられない、ヤバイ倒れる……と思ったその時だった。
自分の身体が大きな腕に支えられ、そのままソファに運ばれたんだ。
「ったく……興奮すんな。無意識か? 霊力ダダ漏れにしやがって。マジで落ち着け、今のおまえは霊力を使うとぶっ倒れちまう。ミューズの所に1人で行って、結果コレじゃあどうにもなんねぇだろ」
薄く開けた視界の中に、印を結ぶ社長の姿がかすかに視える。
ブツブツ文句を呟きながら、社長は僕に回復霊術をかけてくれた。
あ……身体が楽になっていく……霧が晴れて視界もハッキリし始めた。
ホワイトアウトが解消されて、寝ながら社長と目が合った。
途端社長は息を吐き、こう言ったんだ。
「どうやら良くなったみてぇだな。おまえの ”癒しの言霊” ほどじゃあねぇけどよ、これで身体は動くだろう。なぁエイミー。さっきはキツイ事を言って悪かった。でもな、俺はおまえも心配なんだ。それによ、こういう時は冷静さを欠いたらダメだ。救える仲間も救えなくなる」
ぐぅの音も出ない……社長の言う通りだ。
僕は1人で焦ってしまって、霊力の制御も出来なかった。
知らないうちに放出させて、結局自爆をしただけだ、……でも。
「……社長、ごめんなさい。暴走して迷惑かけちゃった。身体を治してくれてありがとうございます。もう大丈夫、落ち着いたから。それでね、落ち着いた所で水渦さんの所に行ってきます。大福が行ってくれたけど、でもやっぱり心配なんだ。霊力は使えないけど、”モドキ” と話くらいは出来るよ。元はと言えば僕が生み出したモノだもの。これ以上迷惑はかけられないし、僕も”モドキ” と話してみたいし」
眩暈の余韻を頭を振って追い払い、ソファから半身起こして腰かけた。
電車とタクシー、それを使って現場に行こう。
「だからよ、迷惑とかそんなワケねぇだろが。おまえが困ってりゃあ俺はとことん助けるつもりだ。たとえ拒否をされてもな。で、ミューズんトコに行くんなら、当然俺も一緒に行く。ランエボ舐めんな、東京からC県なんざ5分もあれば到着だ」
「いや、さすがに5分じゃ着かないよ。てか、着くような運転したら途中で絶対捕まるからね」
「お、なんだよ。貧血で倒れた割にはツッコミは忘れねぇのか。ま、そんだけ言えりゃあ上等だ」
社長の軽口、どんな時でもこの調子だよ。
だけど僕は、この軽口にずっとずっと救われてきた。
今回は体調不良も治してもらって、しばらく頭があがらないや……なんて、密かに笑った時だった。
ユリちゃんが、自分のスマホを取り出して、どこかに電話をかけたんだ。
「ん? ユリ、誰に電話してんだ?」
奥さんラブすぎ、目ざとく気づいた社長が聞くと、
「あ、えっと、水渦さんに」
心配そうに眉を寄せ、そう答えたんだ。
「ミューズに!?」
「水渦さんに!?」
僕と社長は見事にハモッた。
や、でも、電話切れちゃったでしょ、ユリちゃんさっきかけ直したけど繋がらないってぼやいてたの、倒れる寸前聞こえたような気がしたけど。
それを聞くとユリちゃんは、スマホに耳を当てたまま……
「今かけてるのは水渦さんのプライベートのスマホの方です。もしかして、こっちなら繋がるかなって」
なるほど!!
そういうコトか!!




