第二十八章 霊媒師 三年後ー10
昔に比べて出来る事は増えたけど……でも、正直言って、それがうんと特別だとは思わなかった。
だって、僕だけじゃないもの。
現場でピンチで切羽詰まって、なんとかしなけりゃならない時の霊力の覚醒。
弥生さんも嵐さんも、ほかのみんなも1度や2度は経験があるだろう。
この仕事は特殊だし、霊媒師によって持ってる霊力が違うから、疑問が沸いても正確な答えは見つけにくいんだ。
突然の霊力の覚醒……これもそうだし、他のコトにしてってさ、多分こうだろう、おそらくそうだろう、……としか言えない部分が多々あるの。
だから……今まで僕はなにかあるたび、たくさんの質問を先代にしてきたけど、そのすべてに確かな答えを貰った訳じゃなくってさ。
でもね、それはぜんぜん良いんだよ。
僕は結局先代が大好きだから、嬉しいコトも楽しいコトも、疑問に思うコトなんかもさ、聞いてほしくて話せば幸せ大満足だ。
褒めてもらって浮かれてはしゃいで、それ以上……深く考える事はなかったんだ。
「……そうか。確かにな、持ってる霊力は人それぞれだ。追い詰められての覚醒もあるだろう。過去に俺だってあったしな。でもよ、エイミーの場合はその数が多いんだ。だが、ジジィ曰くエイミーは ”希少の子”。ウチの会社の誰より霊力を持ってる、だから……そういうモンなのかなって、俺は軽く考えてた。それがおかしいと思い始めたのは……やっぱり、エイミーの体調不良が頻発し始めたあたりだよな、」
社長は言いながら、デスクの引き出しからドーナツを取り出した。
それを机にポンと置き、”まぁ食えや” と笑ったのだが……僕もユリちゃんも、なんとなく手を付けないままでいた。
「度重なる体調不良が気になって、その事をジジィに聞いてみたんだ。霊力を使うと決まって起こる貧血に酷似した症状。だが、霊力を使わなければ健康そのもの。実際、病院で検査をしても身体的には問題なしと言われたらしい、おかしいよな、なにか心当たりはねぇか? って。その話をしたのが三週間前、弥生達が会社に来た日だ」
あ……ジャッキーさんが言ってたヤツだ。
社長と先代、話があると2人揃って別室に行ってしまった……そう聞いたんだ。
「ジジィにそれを話した時。ヤツは幽霊のクセしやがって、サッと顔を青くしたんだ。でよ、”あの子はしばらく現場に出さないように、絶対霊力を使わせないで”、そう言ったんだよ」
先代が言ったんだな……僕に霊力を使わせるなと。
それって、……その指示には、どういう意味が隠されてるの?
続きが知りたいのに、社長はここで黙ってしまった。
僕は辛抱できなくて、こう詰め寄ってしまったんだ。
「先代は他にはなんて? 僕に今なにが起きているのか、社長も先代も知ってるんでしょう? ここまで話したんだ、もうぜんぶ教えてほしい。僕、なにを聞いても大丈夫だから」
社長は僕をまじまじと見て、小さく小さく息を吐いた。
そしてようやく口を開くと、
「エイミー……分かってる、ちゃんと話すよ。本当はな、もうしばらくは内緒にしておくつもりだったんだ。現場から遠ざけて、霊力を使わせねぇようにして、その間にジジィと色々策を練る予定だった。なのにおまえに話した意味、……それは、そうも言ってられなくなったからだ。先週、嵐の現場に ”エイミーモドキ” が現れたって聞いてよ。ヤツはだいぶチカラをつけてる、悠長にしてられねぇ状況だ」
ゾクリ……鳥肌が立った。
社長は話してくれるっぽいけど、今……最後になんて言った……?
”ヤツはだいぶチカラをつけてる” ……?
どういう意味なの?
ヤツ……って僕のニセモノの事だよね……?
僕と同じ顔をした、アンノウンな僕モドキ。
今度は僕が黙ってしまった。
社長はそんな僕を見て、重く続きを話してくれた。
「これはジジィから聞いたんだが……エイミー、覚えているか? 昔、ジジィがエイミーんちに泊まった事があっただろう。ジジィと大福がしばらく黄泉の国に逝っててよ、帰って早々、おまえに会いに行った時だ」
覚えてる、もちろん覚えてるよ。
あの日は楽しかった……先代と一晩中お喋りをしたんだ。
僕が作ったゴハンを食べて、特別な日だけに飲む、ちょっとお高いメロン紅茶を2人で一緒に楽しんだ。
「ジジィ曰く、その話をしたのは明け方頃だと言っていた。エイミーは寝落ち寸前。おまえは半分夢の中にいたようだが、その時に言ったのが……」
____岡村君の霊力、
____ある程度で止めてしまわないと……
____私が止めます、
____キミを守りますから……
言われて記憶を辿ってみる、……最初は思い出せなかった。
そんな事、言われたっけ……なんて、頭に靄がかかってさ。
でも、……時間をかけて丁寧に手繰り寄せれば、おぼろげながら先代の優しい声が脳内再生されたんだ。
「…………思い出した。そんなような事、言われたかもしれないよ。あの時は寝ぼけていたし……そのあと特に、先代はなにも言ってこなかったんだ。だからすっかり忘れていたけど……」
僕が思い出した事で、社長はさらに話を続けた。
「……いいか? 落ち着いて良く聞けよ。嵐が視た ”エイミーモドキ” は、おまえのソックリさんなんかじゃねぇ。エイミー曰く ”僕の見た目は量産型” ……つってたけどよ。似たビジュアルは百歩譲っていたとして、そこに加えて霊力まで持ってるなんて、そんな偶然あり得ねぇだろ、…………”モドキ” の正体、それはな、もう1人のエイミーだ」
「もう1人の僕……? いや待って、それこそないよ。僕は先代みたいに自分のカラダを分ける事は出来ないもん。まさか、それも覚醒した霊力だって言うの? 知らない間に出来るようになったとか……?」
可能性はゼロではないけどゼロに近い。
だって、霊視や口寄せ、【光る道】を呼ぶのだって、現場でそれが必要になり、どうしても霊力が欲しいと望んだ後に覚醒したんだ。
僕は今まで、自分がもう1人たら良いと望んだ事は1度もない。
社長は頭に汗を滲ませ、
「チガウ、そうじゃねぇ。モドキはな、おまえの霊力が生み出した、おまえ以上の霊力を持つ、もう1人のおまえなんだ」
そう言い切った。
え……?
ちょ……待って、少し待って、
言ってる意味が頭に入ってこないんだけど……
言葉の意味を理解しようと、頭の中で社長の話を反芻してみる。
僕が作り出したもう1人の僕……?
そんなの、作った記憶は欠片もないよ。
無意識に作ったの……?
そうだとして、嵐さんの前に現れた ”僕モドキ” は一体どんな感じだったのだろう。
嵐さんの話によれば、顔と背格好は僕そのものだと言っていた。
霊力でもって拘束網を構築してさ、暴れる二尾のキツネを捕まえ、嵐さんのコントローラーを手渡したとも言っていた。
社長から電話がくるまで、僕本人だと信じて疑わなかったそうだ。
なんだか……キモチワルイよ。
僕は、”僕モドキ” を実際に視た事がない。
実体はあるのかな、……それとも、社長曰く ”霊力がヤツを生み出した” と言うくらいだから、実体はなく霊体なのかな、触った感じはどんなだろう? 冷たいのかな、あたたかいのかな、性格は僕と同じなのだろうか?
黙ったまんま、僕は考え込んでいた。
なにを聞いても大丈夫、そう言ったのに、ぜんぜん大丈夫じゃないや。
テンパってる、気持ちがすごく動揺してる。
「エイミー、大丈夫……じゃなさそうだな。とりあえずドーナツ食え。そんな気分じゃねぇだろうが、今こうしている間にも、ヤツは少しずつおまえの霊力を吸い取っているはずだ。一気に奪われる訳じゃねぇけど、念の為高カロリーを補給しとけ」
あ……そうか、そういう意味だったんだ。
なんでこの人、こんな話をしている時に甘いオヤツを出すのかなって思ってた。
違ったよ。
こんな些細な事でさえ、意味のあるものだったんだ。
「……ありがとございます、じゃあ……薬だと思って1ついただきます」
社長は僕がドーナツを食べるのを確認すると、今度はこんな事を言い出した。
「エイミーは ”モドキ” を視たのか? 先週の嵐の現場、それを霊視すれば姿を確認出来るはずだが」
「……ううん、それが視てないの。嵐さんはね、僕に視ても良いと言ってくれたんだ。だけど……どうしても、仕事以外で誰かの過去を、ましてや仲間の過去を視るというのに抵抗があって……」
「なんだ視てねぇのか。過去ったって数日前だし、プライベートを視る訳でもねぇのによ。でもまぁ……エイミーらしいっちゃらしいな。おまえは昔、中々霊視が出来なくて、その原因がソレだもんな。誰かを霊視する事に罪悪感を抱いちまうから、心が拒否をしてたんだ。はぁ、ミューズを見てみろ。今でこそ覗かねぇが、昔はバンバン視てたってのによ。こういう所に性格が出るんだよなぁ」
はは……ははは、社長の言う通りだ。
こればっかりは個々の性格があるからねぇ。
と、ココで1つ疑問が沸いた。
この質問をするって事は……
「社長は視たの?」
直球で聞いてみた。
「ああ、霊視では視た」
「そうなんだ! ねぇ、どんなだった? そんなに似てた?」
そういうの早く言ってよぉ! 心の中で突っ込みながら、僕は早口で捲し立てた。




