第二十八章 霊媒師 三年後ー9
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キーマンさんと嵐さんと、楽しい楽しいショッピング……から二夜明けた月曜日。
今日も今日とて ”おくりび事務所” に出勤だ。
さすがにさ、内勤仕事も三週間目に突入すると、だいぶこのペースに慣れてきた感がある。
月曜から金曜までの週5勤務、最初はちょっと戸惑った。
現場を離れて事務サポしろって言われた時は、”霊力があっても使えない、霊媒師として役に立たない” ……と、やんわり言われた気がしてさ、けっこう嫌な汗掻いたんだ。
でも……たぶんきっとそうじゃない。
社長は……いや、十中八九先代も、僕の知らない僕についてのなにかを知ってる。
僕じゃない僕の事、それから……もしかすると、霊力を使った後に起こる、体調不良も関係するかもしれないよ。
だから今日は、ずっとモヤモヤし続けた、ずっと不安に思ってた、そういうのをぜんぶ社長に聞いてみようと思うんだ。
訳の分からない事ばっかりで怖いけど、でも……知りたいよ。
……
…………
「おはよーございまーす!」
『うなー!』
元気な声で挨拶しながら事務所に入った。
背中にリュック、胸には抱っこのお姫さま。
毎度おなじみいつものスタイル……でもないか。
今日の僕はいつもとちょっぴり違うのだ。
「おはようございまぁ……って、岡村さん、どうしたの!? いつもと恰好が違うー!」
ぱぁぁぁ! っと顔を輝かせ、ユリちゃんがパタパタ走って僕の元までやって来た。
「お、おかしいかな? 今日は私服なんだ。土曜日にキー嵐コンビと買い物行って、2人に選んでもらった服で来たの。現場に出ないし、社長から ”私服で来ても良いんだぞ” って言われてたのを思い出して……ははは、いつもはスーツだからビックリしちゃったよね」
ユリちゃんが予想以上に驚いちゃって、だからなんだか急に恥ずかしくなったんだ。
着てきた服は身体にフィットの薄手のニット。
薄いベージュの鹿の子編みがシンプルだけどキレイなの。
パンツは細身のダークブラウン、ベルトは渋めのオレンジカラー。
バックルはキーマンさんがカスタマイズをしてくれて、いぶした金色、ゴッツイお花の彫刻が施してある。
普段の僕なら尻込みしちゃう……そんなド派手なデザインなのだ。
そして上着はお下がりゲット。
なんと、キーマンさんが自ら刺繍で雪を降らせた、あのポンチョをいただいてしまったのだ!
「いつもとぜんぜん違うからビックリしました! でも似合ってます、すごい素敵! 岡村さんってこういう服も似合うんですねぇ」
ユリちゃんはキラキラした目で服を見て、”これ、鹿の子編みですよね!” なぁんて言ってる。
さすがだな、僕なんて模様編みはぜんぶ同じに見えちゃうから、キー嵐コンビに教わるまで ”鹿の子編み” って名前さえも知らなかったもん。
ユリちゃんに褒めてもらって良い気分。
僕らは2人でキャッキャと大騒ぎをしてたんだ。
そこに遅れてやって来たのは、
ガチャ!
「お! エイミー、大福、モーニン!」
真冬なのにワイシャツ一丁、腕まくりまでしちゃってる社長だった。
「おはよーござーまーす! 社長どこ行ってたの? ああ、外の蔦に霊力を流し込んでたのか……って、それ、ユリちゃんが担当じゃなかった? えぇ? 外は寒いから? 社長が代わりに流してきたの? きゃー! あっまーい! 奥さんラブですわ、ぞっこんですわ」
いつものコトながら、社長の愛妻っぷりにニヤニヤが止まらない。
いいなぁ、僕も将来結婚したら、こんな夫婦になりたいよ(その前にカノジョ……!)。
「なんだよエイミー、今日はやけに洒落てんじゃねぇか! アレか、キーマンと嵐に選んでもらったのか。土曜日はみんなで買い物行ったんだろう?」
僕に向かってニカッと笑い、同時、妻の頭をワシャワシャ撫ぜる社長が言った。
「そうなの! 選んでもらったの! どう? 似合ってる? さっきユリちゃんには褒めてもらったから、次は社長が僕を褒めて!」
「なんだそりゃ! 褒めの催促かぁ? まぁでも、良いんじゃねぇか? 特にそのマントみてぇな、カッパみてぇな上着。雪の模様がキレイじゃねぇか」
でっしょー!
褒めてもらってご満悦。
僕は調子に乗っちゃって、みんなの前でクルッと回転。
もっと褒めてとはしゃいでみせた。
で、
クルクル回転しながらさ、ホワイトボードの前まで移動。
そこでみんながどこの現場に入っているのか、端から順に読み上げたんだ。
「冬とは言え、毎日なんかしらの依頼があるよねぇ。なになに? キーマンさんはA県まで失せ物探し、嵐さんは……T県のダム近くまで出かけてるのか、随分と遠出だな。それから水渦さんはS県で悪霊祓い、ジャッキーさんは現場明けでお休みか。じゃあ今頃は弥春ちゃんと茉春ちゃんのお世話で大忙しかな?」
僕だけだ、霊媒師なのに現場に出ていないのは。
「ありがてぇコトだよな。冬でも仕事があるんだから。……本当は、エイミーも現場に出てぇよな。急に悪かった、事務サポを頼んじまって。でもよ、報告書の電子化とか依頼者に手紙とか、エイミーが入ってくれたから良い事づくめだ。ありがとな。…………それと、土曜に嵐から聞いたんだろ? アイツの現場で、もう1人のエイミーがいたって話をよ。それも悪かったな。俺が嵐にしばらく隠せと言ったんだ。嵐は好きでウソをついたんじゃねぇ。メールでよ、急に ”人違いだった” って言いだしたのは俺のせいだ、許してやってくれ」
あ……聞くまでもなく、社長から話を振ってくれたよ。
そうか、やっぱりなんでもお見通しなんだな。
土曜日にキー嵐で買い物行って、その時に、僕が本当の事を知るって分かってたんだ。
それで……もう、隠す気はなさそうだ。
良かった、話が早いや。
「許すも許さないも、僕は怒ってなんかないよ。社長が口止めしたのには理由があると思ってるから。それと……ここ最近、先代の姿が視えないけど、それも僕絡みなんでしょう? 社長、教えてよ。一体僕になにが起こってるの? 僕のドッペルゲンガー、僕の体調不良、この2つに関連はあるかな、」
直球で聞いてみた。
社長はなんて答えるだろう?
今現在、どこまで分かっているんだろう?
その答えは……
「関連は……あるだろうな、」
短い一言。
でもそれは、確かすぎる肯定だったんだ。
社長の肯定に背中が薄っすら寒くなる。
さっき……”もう隠す気はなさそうだ”、そう察して、どんな話を聞かされたとして構わない、謎のままよりぜんぜん良いと思っていたのに。
今の僕は心臓がバクバクいってる、手のひらに汗を掻いてる、一体なにを言われるのかと弱気になってる、…………でも。
社長は笑っていた。
いつもみたいなふざけた笑顔じゃなくってさ、静かで、それでいて力強いの。
こんな顔を見ていると、なにがあっても大丈夫、社長がなんとかしてくれるって思っちゃう。
しばしの沈黙その後に、
「とりあえず座ろうや、」
そう言って、自分の椅子にドカッと座って僕に手招き。
これきっと、近くに座れってコトなんだろな。
僕と大福、ヒトとネコは言われるままに椅子に座って床を蹴り、シャーッと滑って社長の前に無事到着。
一方、ユリちゃんはオドオドソワソワ落ち着かなくて、
「私も一緒にいて良いの?」
と遠慮がちに聞いてきたけど、もちろん良いに決まってる。
僕は大きく頷いて、それでみんなで輪になったんだ。
……
…………
………………
「話をする前に、エイミーの霊力について確認してぇコトがある。いくつか質問するから答えてくれ。あ、気楽にな。緊張するこたねぇぞ」
いや無理でしょ。
そんな前置き、緊張するに決まってるわ。
でもまぁ頑張るけど。
「改めて聞きてぇのは、今のエイミーのスキルの事だ。出来る事と出来ねぇ事をハッキリさせてぇ。まず、おまえが初めて得たスキル。癒しの言霊と霊矢は問題なく使えるよな?」
「うん、使える」
「じゃあ次。霊視も大丈夫だよな?」
「大丈夫。相変わらず宇宙からのスタートだけど」
「ははっ! おまえは霊力が強ぇからな。視ようとすると大気圏を飛び越えて宇宙にまで飛んじまう、……つーかよ、気合いを入れたら宇宙の果てまで視えるんじゃねぇか? 俺よ、宇宙の果てはどんなだろうと考えだすと夜眠れなくなるんだよ。今度視てきてくれよ。んで俺に教えてくれ」
「や……それはさすがに無理だよ。てか、果てが視えたら社長じゃなくてNASAに情報売り込むわ。そうしたら金一封がもらえるかもしれない……!」
NASAからの金一封って、一体どのくらいもらえるんだろう?
ひゃ、ひゃ、百万円くらいもらえちゃたりしちゃうかな、もっとかな……?
わぁぁぁ……そんな大金どうしよう……!
テレビと冷蔵庫、それから電子レンジも買い換えたい!
ちゅるーも箱買い、ササミはキロ買い、みんなには美味しいゴハンをごちそうしたい!
と、欲にまみれたワルイ顔。
そんな僕に社長は呆れて言ったんだ。
「おまえナニ言ってんだよ。もしもそれが可能なら金一封どころの桁じゃねぇ。一生遊んで暮らせるくれぇはもらえるわ! そしたらおまえ、俺の車のホィールを買ってくれ!……ってイカンイカン。ウッカリ話が脱線だ。そうじゃなくてスキルの確認、次の質問いくぞ。エイミー、【光る道】は安定して呼べるか?」
珍しい、社長の方から軌道修正かけるだなんて。
僕もちゃんと答えなくっちゃ(こんな時だってのに……僕、”おくりび” にすっかり毒されたな)。
「う、うん、呼べる」
「口寄せは?」
「大丈夫」
「再構築は?」
「それ得意!」
「遠方に声を飛ばす事は?」
「問題ナーシ!」
聞かれるたんびに親指立てて答える僕に、社長は静かに「そうか」と呟き、そして今度は、こんな事を言い出したんだ。
「……4年前、エイミーが出来る事と言ったら ”癒しの言霊” と ”霊矢” だけだったよな。それが今ではこんなに出来る事が増えたんだ。スゲェよ、マジで。得たスキルをどこでどう使ったら効果的か。そういうのもちゃんと分かってる、大したもんだ。なぁエイミー、その霊力はどうやって身に着けたんだ? 数年前、W県でジジィと瀬山さんから修行をつけてもらってたよな? でも、そん時にスキルのすべてを習得したんじゃねぇだろう?」
どうやってって……そりゃあ色々頑張ったしさ。
入社4年目、僕もそろそろ中堅枠に入る頃だし、それなりにスキルがないと恥ずかしいでしょ……って……あれ? ちょっと待て、あれ……? あれれ……?
そう言われると……僕はどう頑張ったんだ?
修行らしい修行と言えばW県の時だけ。
先輩方にチョコチョコ質問したけどさ、あとは特別なかったような気がするよ。
霊視が出来るようになったのは……いつだっけ?
あれは……確か3年前だ。
初ソロ現場が僕の実家というミラクルが起きた時。
おはぎにお姫をさらわれて、ガチ泣きするほど心配してさ、気合いで霊視を成功させた。
霊視なんてそれまでずっと出来なかった、どう頑張っても視えなかったのにだ。
それだけじゃない……霊視中はおはぎや大福、虹の国で暮らす仔達の、動物達の言葉まで理解出来た。
そのおかげで、あの現場は随分とやりやすかったのを覚えている。
あれ……?
まだまだあるぞ……
口寄せが出来るようになったのも、【光る道】が呼べるようになったのも、先代みたいに遠方に声を飛ばせるようになったのも……ぜんぶ似たような経緯じゃなかった?
まるで……天から霊力が降りるみたいに、気が付けば、いろんなスキルが身についていた。
僕はそのたび先代に質問してた。
____現場でこんな事があったの! 不思議だよね、なんでか教えて!
先代はいつも笑って、
____なんでだろうねぇ、私も分からないから調べてみますよ、
そう言ってくれたんだ。




