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霊媒師募集  作者: たまこ
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霊媒師おまけ……バッドアップル-7

アタシ、本物の警察犬って初めて視た。

霊体からだ、デケェなぁ……犬というよりオオカミみてぇだ。

三角の立った耳、黒い鼻はツヤツヤで瞳の色はうす茶色。

表情はキリッと知的で……って、ココだけの話、ランナーよりも賢そうだ。


ジリ……ジリジリジリ……


さり気なく、さり気なーく近づこう。

特別用はねぇんだけどよ。

でも、なんか知らんが、なんでかすごく惹きつけられる。

チョットで良いから話してみてぇ。


ジリジリ……ジリ……ジリリリリ……


雷神号は小川で水を飲んでいた。

大きな口でガブガブと良い飲みっぷりだ。

まわりには誰もいねぇ。

これはチャンスじゃねぇか?

よし、話しかけてみよう。


『あー、喉が渇いたなー。水が飲みたいなー。あっ! こんな所にキレイな水がある! なぁ、隣良いか?』


声を掛けると雷神号は、


『どうぞ、』


と一言、…………なんだよ、良い声してんじゃねぇか。

ま、大和ほどじゃあねぇけどよ。


アタシはちゃっかり犬の隣を陣取って、小川のほとりで膝をつくと両手ですくって水をゴクゴク飲んだんだ。

水は冷たく爽やかで……五臓六腑に染み渡る。


『ぷっはー! 虹の水って美味いんだな。なんか黄泉よりまろやかだ』


水なんてなんでも同じと思っていたけど、ココのが美味く感じるのはさ、みんなと一緒で楽しいからか?

単純にそんなコトを考えてたら、それを読んだか雷神号が言ったんだ。


『虹の小川に流れる水は軟水です。マグネシウムやカルシウム、それらの含有量が低ければ低いほど口当たりが柔らかくなる。そう、あなたの言う通り、まろやかになるんですよ。黄泉の水は虹に比べて硬水だ。それで違いを感じたのかもしれませんね』


………………えっと、

軟水……? 硬水……? 含有量……? 

あぁ、うん。

言ってる意味はワカルけど、でもさ、犬の口からこんな単語が飛び出すなんて思ってもみなかった。

聞いてはいたけど、予想を遥かに超えている。


『マグネシウムやカルシウムが多く含まれる硬水は、特に猫の霊体からだに悪影響を与えます。尿路結石のリスクが高くなるんだ。とは言っても、我々に命は無いから飲んだ所で問題は無いのだけれど、リーが嫌がるんですよ。虹の動物達は全員誰かの大事な家族。その家族に万が一、いや億が一、何かあったら申し訳がないと言ってね』


雷神号は開けた口から息を吐いて笑ってみせた。

スゲェな……この喋り、この落ち着き、目を閉じて話したら、普通に人と話してるみてぇだ。


『雷神号は人の言葉を自在に操るんだな。いや、大したモンだよ。実はリーから聞いたんだ。雷神号は元警察犬で人語を深く理解してると。話をするなら普段通りで問題無いとも言っていた』


話しながら雷神号の霊体からだをモシャモシャ撫ぜてみた。

あまりに人語が完璧で、もしかしたら中にヒトが隠れてるかもと思ってさ。

でも隠れてなかった。

毛皮の下は分厚い筋肉、骨も太くて丈夫そうだ。


『と、朋美さんと言ったか、……な、なんで霊体からだを撫ぜまわす、』


あ、やべ、セクハラだったか?

雷神号、引いちゃってるよ。


『や、すまん。気にしないでくれ。なんだか無性に撫ぜたくなっただけだ』


『そ、そうか。まぁ、別に構わんが。私が人語を理解するのは、子犬の頃から人間と一緒にいたからだ。人間社会に溶け込みすぎて、逆に犬らしさが無いのだよ。私のあるじは警察官で、ずっとコンビを組んでいたんだ。現場ではあるじの指示を聞き取れなければ仕事にならない。私にとって人語の習得は必要だった。ただ、それだけの事さ』


へぇ……謙虚だな。

普通もっと得意になってもおかしかねぇのに。

ランナーなんて何か1つ覚えるたびに、褒めて褒めてと纏わりついてくるのによ。

なんかめちゃくちゃ大人だな、……つーコトは、


『雷神号、そのなんだ。おまえくらいの大人になると、”ヘビごっこ” とかしねぇんだろな。退屈だっただろう? 休憩が終わったら雷神号が楽しめる遊びをしよう。なにして遊びたい?』


だってなぁ、想像がつかねぇよ。

”ヘビごっこ” は雷神号のキャラじゃねぇ、……と思っていたのに。

元警察犬は意外なコトを言い出したんだ。


『なんでもいいさ。何をしても楽しいからな。それと……何か勘違いをしてないか? 私もよくおはぎと一緒に ”ヘビごっこ” 楽しんでるよ。とは言ってもいつも負けてしまうがね。まったく、コンちゃんのウロコを使うのは反則だ』


『えぇぇぇぇ!! その顔で ”ヘビごっこ” をするのか!? マジか! マジなのか!?』


『顔は関係ないでしょう。おはぎ達と仲が良いんです。だから ”ヘビごっこ” も ”ネコごっこ” も ”ウサギごっこ” だってしますよ』


『んぁ!? チョット待て! ごっこ遊びはシリーズ化されてんのか? ネコとウサギもあるのか? それ……どんなアソビだよ……』


『ははは、シリーズはもっとありますよ。あとは ”トリごっこ” とか ”フェレットごっこ” とか ”ハムスターごっこ” とか……上げたらキリがないくらい』


へぇ……! へぇ……!!

スゲェな……!

なにがスゲェって……人語だけじゃねぇ。

謙虚で穏やか、おまけに柔軟性もあるだなんて、…………ひょっとして、向いてるんじゃねぇか(・・・・・・・・・・)



胸がドキドキしてきた。

話せば話すほど惹きつけられる。

言語スキルも、性格も、生前のキャリアもだ。

アタシの勘が ”逸材” だと叫んでる。

雷神号、もし……もしもだよ?

もう1度、一緒に現場に出ようと言ったらどう思う?


喉まで出かかった、……が、ココで、バッドアップル最年少の17才が、フラッと近くにやってきて、小川のほとりで話し込んでるアタシらに声をかけてきたんだよ。


『ボス、さっきからなにしてんだ? 俺もまぜてくれよ。へへへ、実は俺、犬が大好きなんだ。ワシャワシャしたい!』


ワシャワシャって気持ちはワカルが突然だな。

だがしかしチョット待て、アタシの話が終わってからにしろ、……と思ったが、これは良い機会かもしれねぇぞ。


テンション上がって即スカウトと急ぐ前に、今の(・・)身体能力を確かめてからでも良いだろう(警察犬を退いてからブランクもあるだろうし)。


良い所に来た。

ランナー、協力してもらおうか。





『へにゃ! みんなアッチに行ってみようよ! リンゴのランナ(・・・・・・・)とらいちゃんが駆けっこをするみたい!』

 

少し離れた向こうの方から聞こえてきたのはおはぎの声だ。

そのすぐ後には、


わーーーーーーー! ←ケモノ達のはしゃぐ声

おぉーーーーーー! ←ニンゲン達のワクワク声


歓声が泉のように沸き上がり、みんな揃ってテクテクタタタと集まり始めたんだ。



『おっ! スゲェ数のギャラリーだ。ヒトもケモノも注目してる。ランナー、こりゃあ負けらんねぇなぁ、ははっ! みんなにイイトコ視せねぇとよ!』


こういう言葉がプレッシャーになるヤツもいる。

アタシは一般兵じゃねぇ。

みんなをまとめる隊長だから、相手によって言葉は選ぶべきだと思ってる、……が。


『うっははー! すごいな! みんなが俺らに注目してる! こんなの小学校の運動会以来だ! へへへ、雷神号! 俺、絶対に負けないからな! あ、そうだ! ボス、走ってるトコ写真に撮っといてくれよ!』


ランナーはまったくもって問題無しだ。

アタシとしては楽で良い、でも、真面目なキャラのセンタソーは気になるみてぇで ”ボズには敬語!” といっつもいっつも口煩せぇ。

ま、徐々に徐々に変えていくしかねぇわな。


ギャラリー達に手を振るランナー。

雷神号はチョット困った顔をして、対戦相手を視上げてる。


『雷神号、手加減しなくて良いからな。思い切り走ってくれ。だけど、言っておくけどウチのランナーは隊1番の駿足だ。もしかするともしかするかもしれねぇぞぉ?』


そう、ランナーの足の速さはアタシですら目を見張る。

50メートル7秒ジャスト、これを延々維持出来るんだ。


『……なるほど、隊1番の駿足か。それなら、こちらも手を抜いたら失礼になるな。分かった。久しぶりに思い切り走るとしよう』


雷神号はそう言うと、息を吐いて笑ってみせた。

よし、そうこなくちゃ。

元警察犬の身体能力、視させてもらうからなっ!


……

…………


『ランナー、雷神号、よく聞け。ココから真っすぐ、遥か向こうに大きな岩があるだろう? そこまで走ってタッチをしたら元の場所に戻ってこい。どっちが早く戻って来れるか対決だ。用意は良いか? じゃあいくぞ! レディィィィ、ゴッ!!』


アタシの合図に両者同時に走り出す。

大地を蹴って疾風の如く。

ココから岩まで150、……いや200メートルくらいかな。

往復で400メートル、ヒト対イヌの勝負はいかにだ。



『らいちゃーーーーん! がんばってーーーー!』

かけるーーー! 負けるなーーーーー!』


声援が飛び交ってる。

ギャラリー達は大盛り上がりでこの勝負を視てるんだ。

アタシも釘付けだった。

ランナーは無駄な動きが一切なくて、キレイなフォームで走ってる。

相変わらずスッゲェはえぇ……だが、雷神号はその比じゃなかった。

並走してたのは最初の僅か数メートルで、50(メートル)を過ぎた辺りから、雷神号がグッと速度を上げていく。

その差はどんどん開くばかりで、ランナーは置いてけぼりを喰らっちまった。


岩の手前の2メートル。

雷神号はココで更に速度を上げた。

目にも止まらぬ速さでもってイチニのサンで、岩に向かって踏み込むと、


ザンッ!!


オオカミみてぇなデッケェ犬は、四肢を優雅に真っすぐ伸ばして宙を飛ぶ。

ヤバ……なんかキレイだ……思わずポーッと視惚れちまった、……が、次の瞬間。


宙を舞う雷神号は岩のてっぺん、そこに、前足2本をダンッ!! とつけて、その力を利用しての方向転換。

宙で霊体からだをグルリと捻り、着地と同時にコチラに向かって駆け出したんだ。


『えぇぇぇぇぇ!?』


ランナーが叫びをあげた。

そらそうか。

ヤツはまだ岩の手前で、折り返す雷神号とすれ違いだもん。


ス、スッゲェ!

足もはえぇが、岩にタッチのあの動作。

無駄な動きが1つもなかった!

走ってタッチでまた戻る、動きは至極単純だけど、その動作をいかに効率良く、いかに走る速度を落とさねぇでこなすかを、雷神号は自分の頭で考え組み立て実行し、それを完璧に仕上げたんだ。


マジかよ……日本の警察犬、ハンパねぇな……!

ほしい……!

雷神号、喉から手が出る人材、いや、犬材だ!

是非ともウチに入ってほしい!



『らいちゃんの勝ちーーーーー!』


おはぎのはしゃぐ弾んだ声。

あっという間に雷神号はゴールテープを切っていた(持っていたのはマジョリカとセンタソー)。


雷神号は囲まれて、すごいすごいともてはやされてる。

それからすぐにランナーがゴールしたけど、『ま、負けた……』と鼻を垂らして膝をつき、なんでか知らんが虹の土をひたすら袋に詰めていた(高校野球の影響か……?)。



『雷神号!』


声を掛ければ振り向いて……驚いた。

息がまったく上がってねぇよ。


『朋美、……ありがとう、楽しかったよ。誰かとこうして勝負をするなんて……実に久しぶりだった。彼はかけると言ったか。朋美の言った通り、とても足の早い子だ。対戦相手がかけるだったから、思い切り走る事が出来た、』


『そうか、それは良かった。ウチのランナーも相当早いんだけどな。雷神号はその上をいく。生前は警察犬だと聞いたけど、ブランクを物ともしねぇ。大したモンだよ』


雷神号がいつ死んだのかは知らねぇが、虹は平和で物騒事は皆無だ。

それでもこれだけ動けるなんてな。


『ブランクか……確かに、もう何年も現場には出ていない。だが、日々の訓練は生前と同じメニューをこなしてる。毎日毎日、たとえあるじが不在でも、それは変わらない』


ス、ストイックゥ!

ウチのセンタソーと良い勝負だなっ。

でもそっか……ずっと訓練を続けてるんだ。

誰かに強制されてる訳でもねぇのによ。

なにがおまえをそうさせるんだ?


聞いてみた。

訓練を続けた所で、スキルを活かす場所がねぇ。

雷神号は答えてくれた。

その答えというのが……


『なぜかって? 簡単な事だよ。たとえあるじが不在でも、彼の正義が私を動かす。平和な虹では不必要かもしれないが、万が一に有事があれば、私が皆を守りたい。弱きを守り強きをくじく、これが彼の信念であり、私の信念でもある。その為の訓練だ。私達の信念を貫く為のね』


これだった。






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