霊媒師おまけ……バッドアップル-2
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『わざわざ来てくれてありがとう。それじゃあまた、……あっ、そうだ! もうあやまらなくていいからね、どこかで会ったら普通に声を掛けてちょうだい』
最後にこう言って、寺田さんは笑ってくれた。
アタシ達は何度も振り向き頭を下げて、寺田さんがとうとう視えなくなってから、全員で瞬間移動をかけたんだ。
ブンッ____
着いた先はとりあえずアタシんち。
古い旅館を思わせる日本家屋のドデカイ家だ。
この家は14年前、黄泉に来てすぐアタシが構築した。
参考モデルは現世の清水家……そう、あえてそっくりに建てたんだよ。
広い庭には芝生と梅の木。
間取りもなにもおんなじで、幼い頃の誠がこさえた床のキズ、柱と壁のドハデな落書き、大和に頼んで作ってもらった収納棚も、こだわりのキッチンも、レスラーサイズのデッカイ風呂も、みんなみんなみーんなおんなじ!
コッチに来てすぐの頃。
黄泉の国には大和も誠も当然いなくて、淋しくて仕方がなくて、だから現世に寄せたんだ。
家で過ごせばココは現世と見まごうほどで、この家は……当時のアタシを支えてくれた大事なオウチ、…………なんだけど。
月日は流れ……その間にこの家は、増築に増築を重ねて3倍のデカさになった。
現世の家も結構デカイがその比じゃねぇ。
黄泉の暮らしに慣れてきて、荷物も色々増えてきて、そのたびに指をパチパチ鳴らしまくって部屋を増やしてきたんだよ。
現世と違ってお金も手間もかからないから、ウッカリ調子に乗っちまった。
それでも、去年までは2倍のデカさに抑えてたんだ。
でもさぁ……
____我々に家など必要ありません、
____どこか霊目のつかない所で野営します、
____大丈夫です、野営には慣れてますので、
____何十年も現世の山ではそうしてきました、
____我々に家など贅沢の極み、
____野原にテントで十分です(キリッ!
コイツらを黄泉の国に連れてきた日。
住む場所をどうするかと話したら、全員一致で野営すると言い出したんだ。
まぁ、野営が悪い訳じゃねぇ。
好きでそうしたいなら止める気はなかった。
でもよ、なんか違ったんだよな。
生前はキャンプ好きでした! とかじゃなく、”ちゃんとした家に住むのは罪である” ”自分達には分不相応” と思ってるのが視え視えだった。
なにかにつけちゃあ、自分達を粗末に扱いたがる。
本人達は気づいちゃいねぇが、粗末に扱う事で安心感を得ようとしてるふしがあるんだ。
気持ちは……ま、分からなくもねぇがよ、そういうのって意味がねぇ。
乱暴な言い方をすれば、そんなのただの自己満足だ。
そうじゃねぇだろ。
おまえらがするべきは、特殊部隊で悪霊達を滅してよ、弱き生者を救う事。
そこに全振りするんだよっ!
初日から説教炸裂。
アタシはだんだんイライラしちゃってムカついて、その勢いで指をパチパチすっげぇ鳴らして、1人1部屋、要は全部で27部屋増築したんだ。
んで、
『今日からおまえら全員ココに住め! ココはアレだ、バッドアップルの寮だ! 文句があるならかかってこい!』
とまぁ、それがトドメで当初の3倍のデカさになった。
今じゃすっかり大所帯でよ、毎日うるせぇったらねぇんだわ。
家っつーか、寮っつーか、とにかくホームに帰ってきた。
青い芝生の大きな庭で、横一列にビシッと並ぶ野郎共。
誰一人として無駄口を叩かねぇ、大したモンだよ。
だけどなぁ……ぶっちゃけ、アタシが目指してる理想の隊はこうじゃねぇ。
ケジメはもちろん大事だが、もっとこう……壁を取り払ってだなぁ、なんでも気軽に話が出来る、そんな隊にしたいんだ。
お互いを知れば知るほど行動パターンが読めてくる。
これからこの先最低100年、ずっと一緒に現場に出るんだ。
色んな星で色んな悪霊を相手にしなくちゃいけなくて、そんな時、仲間の動きを読み合う事が出来ればさ、仕事の質が上がるんだ。
より安全により確実に完遂が可能になる。
あーあー、もうちょっとなんとかならねぇかなぁ。
コイツらだけで喋ってる時、けっこうわちゃわちゃしてるのに、アタシが来るとビシッと整列、敬礼だ。
間違いじゃあないんだけどさ、隊としては合ってるけどさ、でもさ、でもさ、もうちょっとなぁ…………なんてコトを考えながら、アタシはヤツらの前に立ち、端から端まで真面目な顔を順に視た。
そして声を張り上げる。
『おまえらぁッ!!』
いつもの倍腹に力を込めた。
なんと言っても今日は特別、すべてをやり遂げた日だ。
そらぁ気合いも入るだろ。
『現世時間、去年の初夏から始まって現時点で約半年強! 先程の寺田さんをもって、被害者全員に対する謝罪行脚が終わった! 謝罪計画の試算では休みなく行動しても1年はかかるだろうと踏んでいた、……だがしかし! その半分の時間でもって終わらせた! 流れ作業になる事はなく、すべての被害者に誠心誠意の謝罪が出来たと思っている! 寝る間も惜しみ、来る日も来る日も頭を下げた! ……本当に、よくやり遂げた。途中で誰も腐らずに、己の罪と向き合って、罵倒されてもぶん殴られてもひたすら謝り続けてよ。犯した罪は消せねぇが、おまえらは禊を済ませた。これからは前を向いて歩くのみだ』
言い終えて息を吸う。
改めて、ヤツらの顔を端から視れば、どいつもこいつも泣くのを必死に堪えてるんだ。
そうだよな、そうなっちゃうよな。
罪の重さにもがき苦しみ、忘れる事は出来ねぇだろうが、それでも、ようやくついたひと段落だ。
…………あ、この中では最年少の17才、とうとうランナーが泣き出しちまった。
背中を丸めて肩を震わせ、声は出さずに両手で顔をゴシゴシ拭いてる。
それに気づいた両隣。
センターソンとJINの2人は真っすぐアタシに向いたまま、泣きじゃくる17才の背中をさすり続けていたんだ。
『ボス、』
泣く子の背中を撫ぜながら、センターソンがアタシを呼んだ。
『なんだ』
短く返せば、ヤツはアタシと目を合わせ、
『この半年強、我々の謝罪にご同行いただき深く感謝申し上げます。こうしてすべての被害者達に謝罪出来たのもボスのおかげと思っています。本当に、……ありがとうございました!!』
こう言ってガバッと頭を下げたんだ。
直後、
____ありがとうございましたっ!!!
横並びの野郎共も、おんなじように頭を下げた。
『おう、本当におまえら良くやったよ。誰一人弱音を吐かなかったもんな』
思い起こせばハードすぎる毎日だった。
現世と黄泉を行ったり来たりで、ひたすら土下座をしてたんだ。
でもよ、コイツら全員アタシの部下で、平たく言えばアタシの子供だ。
子供が悪いコトをして、それをあやまりに行くと言ってんだ。
親のアタシがついていくのは当たり前、……本当は、すべての謝罪について行こうと思ってた。
でも、途中でアタシは2日間だけ、謝罪行脚を抜けたんだ。
現世でやらかす性質の悪い田所《悪霊》を、マコリン連れて滅しに行ったあの時だ。
つか……コイツらはスゲェよ。
上司不在で縛るモノはなんにもねぇのに、ダレる事なく謝罪に出向き、誠心誠意の土下座をしたんだからな。
『……本当にありがとうございました。ボスには下げなくていい頭を下げさせてしまい、大変申し訳なく思っています』
あ、ココに温度差だ。
”下げなくていい頭” とか言うなや。
何度も言ったじゃねぇか。
”子供の不始末は親の不始末” だって。
おまえら全員アタシの子供だ。
そりゃあな、この中の半分近くはアタシよりも年上だけど、でもよ。
『あー、チョット待てセンターソン。でもっておまえらも聞け。あのな____』
繰り返し同じコトを話した。
今回だけじゃねぇ。
これからだって何かがあれば、親のアタシはどこへだって飛んで行く。
それが隊でそれが仲間でそれが ”バッドアップル” なんだと力説したんだ。
……
…………
『つーコトでよ、アタシはもっとおまえらと色んな事を話してぇ。他の隊はどうか知らんが、ウチはウチのやり方でいく。もっと壁を取っ払って、腹ぁ割っていきてぇんだ。話す時もガッチガチの敬語なんていらねぇよ。大体アタシもこんなだし。分かったか?』
ザワ……ザワザワ……
ザワザワザワ…………
あ、コイツら戸惑っちゃってるよ。
ダイジョウブかな……分かったのかな……とにかくクソ真面目な連中だから心配だ。
と、思っていたら、白髪ポニテの年長者。
センターソンがグッと顎に力を込めてこう言った。
『ボスのおっしゃりたい事はよく分かりました。壁を取り払い、もっと本音で……という事ですね。壁に関しては……その、壁を作っているつもりはありませんでした。以前の長に仕えていた頃と比べ、我々は相当フランクです』
『それで!?』
思わず突っ込んだ。
フランクじゃねぇだろ、ガッチガチだろ!
『それから、腹を割って本音で話す……これに関しても、以前の長には決して本音は語らなかったし悟られないよう必死でした……が、しかし。ボスに対してそのような気持ちは持っていません。我々はこれでもフルオープンです』
にわかには信じられねぇ。
上司と部下で一線も二線も引かれてる感がハンパねぇし。
でもセンターソンは、……いや、JINもランナーもウッディもエイーグルも……どいつもこいつも激笑顔で頷いている。
てコトは……マジか……マジなのか……!




