第二十七章 霊媒師 繋がり-12
____特殊なスキルが無いかぎり……
……
…………
………………
生者と死者が触れ合う事は叶わない、
アタシと大和もそれはおんなじ、
…………おんなじなんだけどな____
距離のない近さの中で唇が重なり合う。
感触はないけれど、重ねるだけの子供みたいなキスだけど、……このキスは、今までずっと隠し持ってた淋しい気持ちを一瞬で溶かしてしまった。
心臓がドキドキする、力が……抜ける。
長い長いキスを終え、少しだけ顔を離した大和が言った。
「……朋ちゃん、おかえり」
大きな目を真っ赤にさせて優しく笑う、懐かしい大和の笑顔だ。
生きてた頃、ずっとずっとこうして笑ってくれていた。
大和の笑顔が大好きで、大和が笑うと嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
『…………ん、ただいま……で、良いのかな……?』
おそるおそるだ、こたえたけど……14年もウソをついてた後ろめたさが、アタシの声を小さくさせた。
「良いにきまってる。だってここは朋ちゃんの家だもの。そして私の大事な妻だ、……朋ちゃん、朋……朋ちゃん、…………会いたかっ、」
言い終えないうち、ゴツイ腕がふわりと広がりアタシの霊体を包み込む。
アタシも腕を大きく広げ、大和の背中でクロスに絡めた。
ああ……知らなかった。
生者と死者は触れ合う事は出来ないけれど、互いの腕が互いのカラダをすり抜け重なる……まるで溶け合うみたいになるんだな。
大和が……すごく近い。
『大和……』
「朋ちゃん」
意味もなく呼び合った。
大和が生きてる間にさ、こんな日がくるだなんて夢にさえ思わなかった。
今なら……言えるかな。
『……大和……大和……ごめんな……』
あやまらなくちゃ、ずっとウソをついていた。
結婚して家族になって、ウソは絶対つかないと約束したのに。
「どうしてあやまるの……?」
溶け合ったままで顔は視えない。
大和の声が戸惑っている。
『…………アタシ、大和にウソをついてた。生まれ変わったって……この世にもあの世にも、”清水朋美” はもういないってウソをついてたんだ』
「ん……そうか、でも…………ウソで良かった。ウソだからこそ、今こうして会えたんだもの」
『……怒らないのか?』
「怒らないよ」
『……どうして?』
「愛してるから」
『………………』
「ずっと……ずっと会いたいと思ってた。朋ちゃんが夢に出るたび嬉しくて、抱きしめてキスをしたいと思うのに……目が、覚めてしまうんだ。だから今夜アナタに会えて……夢の続きを見てるんじゃないかと思った。だから急いでキスをしたんだ。どうか、どうか目が覚めませんようにと願いながら」
丸めた背中、耳元に響く声。
アタシはぜんぶが嬉しくて、涙が溢れてとまらなくて、……こんな顔、視せられないから大和の胸に隠れるように溶けたんだ。
『……大和、夢じゃないよ。夢みたいだけどチガウの。やっと会えた、やっと言葉を交わせた、やっと視てもらえた…………大和、大好き……大和……すごい愛してる、大和……大和…………うわぁぁぁぁぁぁん!!』
限界なんかとっくに超えて、これ以上のガマンが出来なかった。
大和の胸で泣いて泣いて、ウソをついた事も、先に死んじゃった事も、ゴメンナサイがたくさんあるのに、それ以上にアイシテルがいっぱいあって、それをぜんぶ、正確に伝えたいのに言葉が詰まって伝えられない。
大和はアタシにかぶさるように抱きしめながら、昔みたいな優しい声で言ったんだ。
「朋ちゃん……朋……朋美、アナタはちっともかわらない。昔から泣き虫で、すぐにこうして泣いてしまう。良いよ、好きなだけ泣いたら良い。大丈夫、泣き止むまでいつまでもこうしているから」
なんだよ、もうなんだよ……大和こそ、昔とちっともかわらない。
そうやってすにぐアタシを甘やかす。
それと……アタシは泣き虫なんかじゃない。
アタシが泣くのはここでだけ、大和の前だけだ。
大福の尻尾はふっかふかだ。
真っ白で……柔らかくて……良い匂いまでするんだよ。
部屋中白で溢れてる。
畳もベッドも棚もテレビもなにもかも、尻尾に埋もれてなんにも視えない。
まるで……雪の上にいるみたいだ。
アタシと大和は向かい合わせに寝転んで、時々キスを交わしながら……話をしてたんだ。
……
…………
「ねぇ、どうして朋ちゃんは ”生まれ変わった” なんてウソをついたの?」
アタシの頬を大きな片手が包み込む。
息が触れ合う近い距離、大和は不思議そうにそう聞いた。
『……ん、それな……最初は……んと……本当にそうするつもりだったんだ。急いで生まれ変わったら……その……もしかしたらギリギリ、もう一度大和と結婚出来るかなぁって……』
大和に触れたい、大和と話したい。
その願いを叶える為には命がなくちゃダメなんだ、だからアタシ……本気で生まれ変わろうと思ってた。
「朋ちゃん……」
『でも……結局そうはしなかった。あのな、黄泉の国ってな、すっごーーーく良い所なんだ。住人は誰も彼もが優しくて、遊ぶ所も綺麗な景色もたくさんあって……100年あっても回り切れないくらい。こんなところが存在するのか……まるで夢の世界だ……って驚いた。その時に思ったんだよ。こんなに楽しい黄泉の国、大和と一緒に視てまわれたら幸せだろうなぁって。それで……考え直したんだ。生まれ変わらないで、黄泉で大和を待っていようって、』
大和が来たらあれもしたいこれもしたい。
誠達とも一緒にさ、アッチに行ってコッチも行って……と、想像するのが楽しみで、アタシの家には ”家族みんなでお出かけ案” の企画書が、山のように積みあがっている。
「そう……黄泉の国という所は、そんなに良い所なんだねぇ。私もいつかは逝けるのかな、朋ちゃんと……綺麗な場所を視てまわれるのかな、」
『もちろん、大和なら黄泉の国にこれるさ。ただ、来るのはずっと先で良い。せっかく生きているんだもの。この世でしか出来ない事をたくさんしてさ、笑って生きてほいんだ、…………って、そう……、そうずっと願ってて、願ったからこそ……”清水朋美は生まれ変わった” とウソをついちゃったんだ』
「………………」
『……アタシが死んじゃった時、大和はまだ20代の半ばでさ。アタシが黄泉に逝った辺りでやっと43才だ。まだまだ若くて、人生はうんと長くてこれからなのに……大和はずっと独りでいるのか? 恋人もつくらない、再婚もしないで、誰かを抱きしめ愛し愛される……そんな幸せから離れた場所で、アタシに縛られ生きていく……それは大和にとって良い事なのか? ん……良いか悪いかは……正直言ってアタシにはよく分からなかった。でも……淋しいんじゃないかって……思ったんだ。だから、アタシは早々に生まれ変わった、この世にもあの世にもどこにもいなくて、大和を縛るものはないんだよって……思わせたかったんだ』
アタシは……カッコつけだ。
今言った事にウソはない……ぜんぶ本心だ。
でもね、仕事の合間に時間を視つけちゃ現世に来てさ、こっそり大和を眺めるたび、隣に誰もいない事にホッとしたのも本当なんだ。
アタシが死んで毎年毎年、年に1度、W県に来る事だってそうだ。
もしかしたら……今年は来ないかもしれない、新しい恋人と新しい時間を過ごすのかもしれないと……不安で不安で仕方がなかった。
W県のS浜、2人の思い出の場所。
アタシはそこで、前の日から大和が来るのを待っている。
待ってる間はワザと大きな独り言、
____今年は来るなよな!
____いい加減カノジョをつくれ!
なんてさ。
でも、大和は毎年来るんだよ。
隣には誰もいない。
リンゴをひとつ手に持って。
遠くから、大和の影が視えるとさ……アタシは、泣いて泣いて、泣きながら大和に駆け寄ったんだ。




