第二十七章 霊媒師 繋がり-11
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大和もアタシも固まったまま、ただただ視つめ合っていた。
嬉しくて幸せで、言いたい事がたくさんあって、なのに言葉が出てきてくれない。
ウソついててゴメンナサイとか、誠を育ててくれてありがとうとか、大和のレスラー引退試合は視に行ったんだぞとか、……まだまだたくさんあるのにさ、声を出せばぜんぶ嗚咽になっちゃいそうで、だから黙って大和の瞳に映るアタシを、夢みる気持ちで視てたんだ。
大和も……同じなのかなぁ?
さっき、アタシの名前を呼んだきりだ。
「朋、親父。2人でゆっくり話してこいよ」
見かねた誠がこう言った。
いつまでたっても突っ立ったまま、喋りもしなけりゃ手も重ねない。
”せっかく会えたのになにやってんだ”、とか思ったんだろうな。
息子の言葉にハッとしたのか、大和は涙をゴシゴシ拭くとアタシに向かって言ったんだ。
「朋ちゃん、私の部屋に行こう」
…………コクコク、
頷くだけで精一杯だ。
嬉しくて幸せで、でもなんだか緊張もする。
ずっと昔、生きていた頃。
大和と初めてデートをした日も、こんな風に緊張したっけ。
だいじょうぶかな……アタシ、こんなんでうまく話せるのかな。
話したいよ、あやまりたいよ、今でも好きって伝えたいよ。
2人で……もとい。
2人と1匹、アタシと大和と大福と、廊下を前後に並んで歩く。
前にいるのが大福で、丸い尻から伸びる尻尾がアタシと大和を繋いでるんだ。
長い尻尾は腰にクルンと絡みつくけど、近くにいないと取れちゃいそうで、だから、後ろを歩くアタシらは、ふこふこ尻にぴったり寄って歩いてた。
そうなると、必然的に目線の先には丸い尻。
大福は歩くたんびにフリフリしちゃって、それを視てたらなんだかおかしくなってきたんだ。
おまけにさ、繋いでない空いてる一尾が尻に合わせてユラユラ揺れて、尻尾の先がアタシと大和の顔をペシペシするんだよ。
毛皮だからくすぐったいしクシャミが出そうだ。
だからといって離れたら、大和と話が出来なくなるからずっとガマンをしてたんだけど……
「………………」
『………………』
フリフリ……ペシ!
さっきからずーっと当たってるぞ、
フリフリーン……ペシッ! ペシッ!
まぁ痛くはないけど、ないけど、ないけどさぁ、
フリフリフリフリ……ペシペシペシペシ!
ちょ、待て、連続技はよせ、
ペシッ! ペシッ! ペシーン!
だから、尻尾、尻尾、尻尾ーーー!
……
…………
「『………………ぷっ! あははははは!』」
もう無理、これにはチョット耐えきれなくて、アタシも大和も同時に笑い出したんだ。
「大福ちゃん、尻尾がくすぐったいよ」
『それワザとだろ、さっきから100%ヒットしてるじゃねぇか』
笑いながら文句を言えば、大福は顔だけニュゥッと振り返り、
『うなぁん?』
とおすまし、文句なんかどこ吹く風だ。
『まったく、マイペースな猫又だな』
アタシがぼやくと大和はすかさずこう言った。
「朋ちゃんによく似てるよ」
『え!?』
それは一体どういう意味だ?
……と、聞く前に大和の部屋に着いてしまった。
まん丸餅をチラチラ視ると、なぜかゴロゴロ喉を鳴らしてゴキゲンだった。
ホント、マイペースな猫又だ。
でも……ありがとな。
なんだか少し緊張がとけたみたい。
これならきっと話せるよ。
大福、本当にありがとな。
ガチャリと小さな音をさせ、大和がドアを手前に引いた。
「朋ちゃん、大福ちゃん。さぁ、中に入って」
言われて ”うん” と頷いて、大和の後ろを着いていく。
中に入ると懐かしい匂いがした。
木と畳と大和の匂いだ……優しくて柔らかく、楽しかった生きてた頃のすべての記憶を呼び起こす。
部屋……前と少し変わったな。
写真が増えた。
横長の低い棚には大きなテレビと、その左右には所狭しとフレームが立ち並び、ヨチヨチ歩きの小さな誠、成人式の紋付き袴のイカツイ誠、……あ、ユリちゃんの写真もある。
誠と並んで笑うほっぺがピンクに染まって幸せそうだ。
ユリちゃん、可愛いなぁ。
本当はアタシ、……もっと子供がほしかったんだ。
誠は元気な男の子だから、2番目は女の子がいい! なぁんて思ってた。
でも……授かる前に死んじゃって、願いはもう叶わないと諦めてたのに、今になって娘ができた。
それもとびきり優しい子、泣き虫だけど強い子だ。
あとの写真は……ははっ、アタシばっかり、息子達よりたくさんあるよ。
試合の写真、家での写真、デートの写真もたくさんで、中でも1番目立つのは結婚式の2人の写真だ。
この頃の大和、若いなぁ。
なんだか幼い、小僧みたいな顔してる。
「そんなに視ないで、恥ずかしいよ」
写真ばっかり視ているアタシに、顔を赤らめ大和が言った。
『なんで? 家族の写真だもん。ぜんぜん恥ずかしくないよ。でも……アタシの写真多くないか?』
「……! う、うん。ごめんね、引いたかい? でもね、こうしてたくさん飾っていると、朋ちゃんが近くにいてくれるような気がしてね。私はいつだって、……アナタと一緒にいたいんだ」
『……!! そ、そうか……ひ、引かないよ、引く訳ない、……引くどころか嬉し……』
あ……
え……
2人してマヌケな声で呟いた。
その途端、アタシの耳がジンジンしだして、でも、大和の耳も真っ赤になって、それにお互い気づいてしまって目が合って、慌ててすぐに俯いた。
いい年した中年夫婦がなにしてんだよ! ……と、頭ん中では思うのに思うだけでどうにもならない。
少し黙って、おそるおそる顔を上げると大和も同じでもう1回目が合った。
それから……どちらかともなく腕を伸ばして、ゆっくりと、本当にゆっくりと、互いの手を重ね合おうとした……その時。
ヌゥッと大きな丸い顔が、アタシと大和の間に入って『うなん……!』と短く鳴いたんだ。
だ、大福!
わ、わ、忘れてた!
そだよ!
今ここには猫又もいてたんだ!
は、恥ずかしいっ!
ガラでもねぇコトしちまった!
ぜんぶぜんぶ視られてた!
あわわわわわ!!
隊の中では冷静沈着、アタシがテンパりゃ部下が危険に晒される……っつーのに、今のアタシはテンパリまくりだ情けねぇ!
そんなアタシに大福は、鼻を近づけフゴフゴ匂いを嗅いだ後。
ぼふん!!
変化2回目、虎の子サイズの猫又はダンプサイズにデッカクなった!
あまりにデカクて部屋の中に収まらねぇ!
なに考えてんだと焦ったが、そのあとすぐに意図が分かった。
『うなぁ、うなななな……うな!』
上の方から(天井ヨユーではみ出してるから顔は視えねぇ)猫又の声がした。
それと同時、部屋にある尻がモゾモゾ動き出し、三尾を残して豊満バディが外に出た。
窓から視れば芝生の庭にドーン! と霊体を横たえている……んで。
『……すやぁぁ』
大福……寝ちゃったよ。
マイペースにも程があるナ。
残されたアタシ達。
部屋の中は元々畳で、その上をふこふこ三尾が絨毯みたいに敷き詰められて、立っても座っても、部屋ん中ならどこに行っても尻尾に触れる状態だった。
尻尾は腰から離れてしまった……けど、これなら大和、アタシの姿が視えるはずだ。
『大和……アタシが視えるか?』
念の為聞いてみた。
猫又の尻尾に触れてるかぎり大丈夫だと思うけど、もしも視えなくなっていたら……そう思うと確かめずにはいられなかった。
大和は、アタシの声に反応した。
ああ……良かった、まだ魔法はとけていない。
大福、ありがとな。
気を遣って2人きりにしてくれたんだ。
なにから話そう、まずは……そう、あやまらなくちゃいけないな。
『大和、……アタシ、』
言いかけた、ゴメンナサイと口にしようと思ったのに。
大きな一歩で大和がアタシの前に来た。
視上げた顔は真面目そのもの。
その顔が降りてくる。
徐々に距離が削られて…………あ、と思ったその瞬間。
大和がアタシにキスをしたんだ。




