第二十七章 霊媒師 繋がり-7
顔が、髪と同じくれぇ真っ赤になってる。
色々たくさん話してくれたがナニ照れてんだ。
俺には結局ノロケにしか聞こえねぇ。
『だからよ、ホント悪かったって!(バッシー!)』
生きていれば50代、だけど視た目は俺より年下。
昔のまんまの笑顔でよ、俺をバシバシ叩くんだが、これがマジて痛ぇんだわ。
朋はそこらの女じゃねぇ。
元はヒールのレスラーだから、力が強くてシャレにならねぇ。
「だーっから! イチイチ叩くな! ガキかよ! だけどまぁ……そういう理由なら……百歩譲って仕方がねぇか。確かにな、俺も昔見たんだよ。親父がよ、夜中にコッソリ泣いてるのをさ。親父も同じだ。昔も今も惚れた女は朋だけだ。親父、あんなんで結構モテるけど、誰かに好きって言われるたびに ”私には妻がいますから” って断ってた。だから…………ん? オイ、なにニヤニヤしてるんだよ。嬉しそうな顔しやがって」
なんだその顔、だらしがねぇ。
親父のコト、そんなに好きか?
まぁ……こんなの視りゃあ一目瞭然か。
でもよ、
「なぁ、変な事聞くようだが……朋は、親父が再婚すれば良いと本気で思ってるのか? イヤじゃねぇのか? 自分以外の女を好きになるなんてよ」
もしもだ。
万が一、ユリより俺が先に死んだら、同じ事が言えるだろうか…………いや、無理だ。
俺以外の男の名前を呼ぶなんて、想像だけで気が狂う。
『イヤかイヤじゃないかで言えば……イヤに決まってる。でもな、アタシが死んで、それから17年現世にいただろ。誠の傍にいるって事は、大和の傍にもいるって事だ。ずっと視てきた、アイツがコッソリ泣くトコも、写真に向かって話してるトコも。最初の10年は、絶対に再婚なんかしないでくれと思ってた。でもなぁ、それを過ぎたあたりから、少しずつ気持ちが変わっていったんだ。アタシのヤキモチよりも大和の幸せの方が大事だって、そう思えるようになってきた。17年経つ頃には、早くカノジョ作れ! なんて思えるくらい。まぁ、実際。大和にカノジョが出来たらさ、それはそれでショックだとは思うけど、優先すべきは惚れた男の幸せだからな』
ふーん……そんなモンか。
理屈は分かる……だがよ、俺は心が狭ぇのか、朋みてぇに考えらんねぇ。
これはますますユリより先に死ねねぇな。
絶対ユリより長生きしねぇと、嫉妬に狂って悪霊化しちまうわ。
「で? その ”惚れた男” はどーすんだ? せっかく現世まで来たんだ。内緒もクソもねぇ、こうやって俺にもバレた訳だしよ。朋、親父に会ってけよ」
朋に会ったら親父のヤツ、確実に泣くな。
つーか、朋も泣くだろうけど。
『……ああ、そうだな……そうかな、会った方が良いのかな』
「そりゃ良いに決まってんだろ。……俺だって嬉しかったよ。14年も騙しやがってと思ったけど、それでもやっぱりな。顔視て話が出来るなんて夢みてぇだ」
『そうか……まぁな、大和もずいぶん年を取ったし。ここまできたら、今更再婚なんてしねぇだろう。会っても……大和の邪魔にならねぇかな、……前にも言われたんだよな。”今からでも会ったらいいのに” ってよ、』
赤い顔して目を伏せて、朋はポツポツそう言った。
”今からでも会ったらいい”……そうか。
俺以外にも、他の誰かにおんなじ事を言われのか。
まぁ、誰が視たってそう思うよな。
オネショを誤魔化す子供みてぇだ。
背中を丸めて眉をさげ、上目遣いで俺を視る。
朋はブツブツなにかを言って、だが、急にガバッと顔を上げ、そして俺に言ったんだ。
『そうだ! 肝心なコト言ってなかった! 誠、結婚おめでとう。ユリちゃんには昼間のうちに言ったんだ。でも、アンタにはまだだったよな!』
ぱぁぁぁぁ!
なんだよ、嬉しそうな顔しやがって。
改まるなよ、照れるじゃねぇか。
「ああ、サンキューな」
『ユリちゃん、スッゲェ良い子だよな。さっきも言ったけど、本当はアタシ、誠にも大和にもユリちゃんにも会う気はなかった。陰でコッソリ眺めてよ、それで、数日経ったらマコリン連れて黄泉に帰るつもりでいたんだ』
「ん!? オイ、チョット待て! 今言った ”マコリン” って誰だ? まさか……真さんのコトじゃねぇだろうな」
あんなイカツイ爺さんつかまえて ”マコリン” ってよ……!
『あぁ? そうだよ、藤田の爺さんのコトだ。アタシとマコリン、黄泉の国で仲良しなんだ。もちろん、奥さんのサユリンと娘のタカリンともな!』
「マジか……やっぱりそうだったのか……藤田家と黄泉の国でナカヨシとかよ……もう、聞きてぇコトが山盛りすぎる……とりあえず、先に2つ教えてくれ。ユリが朋を視つけた話と真さんの話だ。朋が連れてきたのか? 真さんをよ」
『うん、アタシが連れてきた。アタシさ、黄泉の国でその……なんだ、一応仕事をしててな。その絡みで田所の事を知ったんだ。アイツ……最悪だ。タカリンを殺めただけじゃなく、ユリちゃんにも酷い事をしてよ。それだけじゃねぇ。テメェが地獄に逝きたくねぇから、善良な5人の霊を犠牲にしたんだ。あんなの野放しには出来ねぇ……で、だったら、娘の仇を取りたがってるマコリンに任せようと思ってな。それで連れてきたんだよ』
そうだったのか……今の話、経緯は分かった。
でもよ、田所の現世での行い、それを ”仕事の絡み” で知ったと言った。
朋は一体なんの仕事をしてるんだ?
それを聞く前、朋は続けてユリの事を話をし始めたんだ。
『誠とユリちゃんが結婚したのはマコリン達から教えてもらった。つーか、その事がキッカケで藤田家と仲良くなった。その時から、アタシがまだ転生してねぇって話は内緒にしてと口止めしてた。マコリンが口を割らなかったのはそういう事だ。……で、ユリちゃんがスヤスヤ寝てる間によ、マコリンと庭でお喋りしてたんだけど……ははっ! そん時に、目が覚めたユリちゃんに視つかった、で、追いかけられた』
「朋は逃げたのか?」
『ああモチロン! だって、コッソリ覗いてコッソリ帰るつもりでいたし。でもなぁ、ユリちゃん必死になって追って来たんだ。”お義母さんですよねぇぇ!” って大声上げてサンダル履きで。なんでアタシとバレたんだって思ったけど、昔の写真を視ただろうし、ネットにもアタシの写真がいっぱい載ってる。それにこんな髪だしよ、そらバレるわな』
言いながら、朋は長い赤髪を指にクルクル巻きつけた。
俺不在の嫁と姑、すっげぇファーストコンタクト。
想像すると笑っちまうわ。
「ははっ! そうだろなぁ。仏壇には朋の写真も飾ってあるし、ユリは毎朝拝んでるしよ」
『マジで? スッゲェ良い子! で、逃げようと思えば簡単に出来たんだけど……あの子、途中で転んじゃったんだ。膝から血ぃ出しちゃって、それでも立って走って来るの。あんなの視ちゃったらさぁ……もう逃げらんねぇよ。即Uターンして抱きしめに行ったわ。ユーレーだからさわれねぇけど』
「ユリのヤツ、無茶しやがって……あとで膝を見てやらねぇと」
『うん、見てやってくれ。自分で手当てはしてたけど、……本当は、アタシが手当をしてやりたかった。……でよ、そっからずーーーーっと説得された。”マコちゃんとお義父さんに会ってあげてください!” って。あの子、泣き虫だな。話しながら泣いちゃって、それでもさ、一生懸命話すんだ。だから、とりあえず誠には会うよって言ったら嬉しそうに笑ってさぁ。……あーあ、敵わねぇや。…………誠、あんた本当に良い嫁さん貰ったな』
眉毛は変わらず下がったままだが、朋はしみじみそう言った。
嬉しそうに目を細め、俺の頭をガシガシと撫でながら。
朋に頭をガシガシされたそのすぐ後。
ギュルルルルルルルルルルルゥゥゥゥッ!!
俺の腹が悲鳴を上げた。
『おわ! なんだ今の音ォ! 腹の虫にしちゃあデカすぎだろ! んぷぷー!』
人を指さしゲラゲラ笑う、相変わらずだ。
あーあ、俺もついついやっちまうけど、母親がこうなんだから仕方がねぇだろ。
「オイ、ガキじゃねぇんだからよ、腹の虫くれぇでそんなに笑うな。つか腹減った。昼に牛丼食ったけど、そんなのすでに消化済みだ。ユリ、まだ呼びにこねぇなぁ……待ちきれねぇからコッチから行くか。まだ途中なら俺も一緒に手伝うし」
畳に手をつき立ち上がる。
ついでに朋の手首を掴んで引っ張り上げた。
『ははっ! さっきと逆だな』
なんでか朋はニヤニヤ笑ってゴキゲンだ。
朋も嬉しいんかな、……なんてったって14年振りだもんな。
もう会えねぇと思ってた、声さえも聞けねぇと思ってた。
なのによ……これぜんぶ、ユリのおかげだ。
「んじゃぁ行くか。今夜のメシはなんだろな。ユリは料理がうまいからビックリするぞ。親父は今夜は遅いらしいから、先にみんなで一緒に食おう」
頷く朋の背中を叩き、道場の玄関口に向かおうとした……そのタイミングだった。
横開きの扉の向こう、”コンコン” と遠慮がちなノックが聞こえ、少し遅れて格子の板が横にスルスル滑り出し……
「あのぉ……こんばんは、岡村です。社長、いますかぁ……?」
『うななぁぁん……?』
ノック以上に弱々しい。
なんでそんなに小声なんだか知らねぇが、少し開いた扉から、エイミーと大福が顔だけヒョコッと出している。
早ぇな、もう着いたのか!
「おぅ! いるいる! 現場は無事に終わったか? 疲れてるトコ来てもらって悪いな! 昼間に電話で話したが、昨日から真さんが来てるんだ。だからよ、親父も一緒に話せるように、大福の妖力を借してほしいと思ってな! ……でだ。実は1人……おまえらに紹介してぇのがいるんだよ。エイミー達は驚くかもしれねぇが、ココにいるのは俺の母おy」
____母親なんだ、
と続けるつもりだった、……んだけどよ、
「あっ! 朋さーーーん!」
『うななーーー!』
んぁ!?
なんだ!?
なんでだ!?
エイミー達は朋の名を呼び両手を振って、激笑顔を向けている。
朋も朋で激激笑顔。
おんなじように両手をブォンブォン振って、
『エイミー! 大福ぅぅ! ひっさしぶりだなぁ!』
キャーーーーー♪ + うななぁぁぁん♪
俺をハブってコイツらだけで駆け寄って、キャッキャウフフとハイタッチをかましてるんだ。
「朋さん、元気だった? みんなも元気? 会えてめちゃくちゃ嬉しい! しばらく現世にいるんでしょ? てかいて!」
『うなな!(ゴチン!)うなななな!(ゴチ!ゴチ!)うななぁん!(尻尾フッサー)』
え? え? え?
『おまえらも元気そうじゃねぇか! アイツらも元気にやってるよ。そういやエイミー、霊視は出来るようになったのか? アイツら揃って心配してるぞ?』
え? え? ”アイツら” って誰だよ、
「ふふ、心配ご無用! 僕、霊視出来るようになったもんねー!」
『マジか! スゲェじゃん! じゃあ口寄せも完璧か?』
「え!? クチヨセ……や、その、口寄せは……こ、これから?(ゴニョニョ)」
『ははーん、まだなんだな? ”これから” ねぇ……んぷっ!』
「ちょっとー! 笑わないでよね、僕は褒められて伸びるタイプなんだから!」
『うな、』
なんだこりゃ……えれぇ話が盛り上がってる………………え?
あぁーーーーーん?




