第二十七章 霊媒師 繋がり-6
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「マコちゃん、お義母さん。私、これからゴハン作ってきます。出来上がったら呼びに来ますから、ゆっくりお話ししてくださいね♪ さ、爺ちゃん行くよー」
祖父と孫、揃ってブンブン両手を振って道場を後にした。
残された俺と朋は、”ああ” とか ”たのむ” とか、そんな言葉を口にして畳の上に胡坐をかいた。
向かいに座った俺達は、黙って数秒目を合わせた後、
『ユリちゃん、スッゲェ良い子だな!』
開口一発、姑が嫁を褒めた。
「ああ、 マジで良い子だよ」
異論なんかあるはずねぇから、俺もそれに同意する。
『ホントはさー、アタシのコトはもう少しナイショにしておきたかったんだ。だけどさー、昼間にさー、ユリちゃんに視っかっちゃったんだよ! あはは、アタシとした事がウッカリウッカリ』
自分のオデコをペシペシ叩いておどけてるがよ、”ナイショ” ってなんだよ。
「…………………………」
『あはははは! はは……はは? ア、アレ? 誠、どうした? キゲンが悪いのか? それとも、久しぶりに母ちゃんに会えて泣きそうなのか? しょーがねーなー! おまえももういい年だし、あんな可愛い嫁さんがいるんだからシッカリしろ! なっ!(バッシーン!)』
痛ッ!
なんつー力だ、女の力じゃねぇな!
つか、相変わらずふざけてばっかだ。
昔となんも変わっちゃいねぇ。
会うの、14年振りだぞ?
俺が二十歳になった時、”もう逝くわ” と旅立った。
あん時よ、言ったじゃねぇか。
____黄泉の国に逝ったら、
____アタシはすぐに生まれ変わる、
____だからこれで最後だな!
ってよ。
俺はそれを信じてた。
もう朋はいねぇんだ、現世にも黄泉にも……生まれ変わって、知らねぇどこかで幸せにやってると思ってたんだ。
なのに……いや、生まれ変わってねぇならねぇでそれで良い。
でもよ、じゃあ言えよって話だろ。
『オイってー! なにムズカシイ顔してんだよ! あ、分かった。腹が減ったのか? もう少し我慢しろよ。ユリちゃんが呼びにくるまでさ』
チッ……!
確かに腹は減ってるが、今はどうでもいいんだよ。
こうやって、茶化してふざけて誤魔化して、今までのコトを煙に巻くつもりか?
させねぇよ。
俺はな、怒ってるんだ。
「朋、」
名前を呼んだ、……いつからだろうな?
朋を、”母ちゃん” じゃなく、”朋” と呼び始めたのは。
『んー?』
短い返事、力の抜けたマヌケな顔が俺を視る。
この目…………
____誠ォ、勉強ばっかしてるとバカになるぞー
____天気も良いし、外に遊びに行こうぜー
____女の子には優しくしろ、その方がモテるから
____んー? 悩み事かぁ?
____大丈夫、なんとかなるから心配すんな、
あの頃とまったく一緒だ。
死んじまって、すぐに黄泉には逝かなくて、俺の隣で毎日毎日笑ってた。
なんでもかんでんも笑い飛ばして、今の俺を作ったのは朋のこの目と気楽さだ………………はぁ、なんだかな……思い出したら調子が狂った。
怒ってるのがバカらしくなる。
「朋、とりあえず説明しろ。なんで内緒にしてたんだ、」
14年も騙された、……が、怒っても時間が戻る訳でなし。
まずは話を聞こうじゃねぇか。
朋の話はこうだった。
……
…………いやな、
最初は生まれ変わるつもりでいたんだ。
だからアタシも、”これで最後だ!” なんて言った訳だし。
でもよ、思った以上に黄泉の国が楽しくてなぁ!
なんでもあるんだよ。
高級なダンベルもベンチプレスも、服も靴も美味いモノも、ねぇモンがねぇんだ。
店だけじゃねぇ、綺麗な場所も遊ぶ所もたくさんあって、100年あっても回り切れねぇ。
向こうでの生活は基本自由でよ。
その為の金もいらねぇ、なんでもタダで手に入るんだ。
家もな、好きな場所に好きなように建てていいから、向こうじゃアタシ、ココよりデッケェ家に住んでる。
黄泉のヤツらも良いヤツばっかで、もー毎日毎日楽しくてさぁ!
生まれ変わるのやーめた、ずっと黄泉で暮らすんだー! って。
あはは、悪い!
心変わりしたんだよ。
あぁ?
だったらなんで知らせなかったって?
そりゃあ……アレだよ、アレ。
色々あるんだよ。
あぁ?
その色々を具体的に?
あぁ……そうだな……それ、やっぱり話さなくちゃダメ?
あっ! オイ! 怒るなよ! ちょ、ヤメ、ヤメ……分かった! 分かったから! 話すからオデコを叩くなーーー!
……って、誠のソレ、ソウルアーマーだっけ?
や、スッゲェ良いな!
昔だったら姿は視えてもアンタはアタシにさわれなかった。
でもさ、アーマーつけてりゃさわれるじゃん。
こうやって、アタシもアンタにもさわれるし。
あはは、頭ツルッツル! 大和と一緒だ!
あははは! あはは、ははは……サイコーだ、マジで、マジで良いわ。
で?
内緒にしてた理由だよな。
んー……こんなコト、息子に話すの恥ずかしいんだよな。
あぁん?
照れてる顔がキメェとか言うんじゃねぇよ。
母親に向かってナマイキだぞ!
あのな、んー……あのな。
理由は、その、えと、……大和の事が好きだからだよ。
アタシは今でも……誠の父親、大和に心底惚れている。
あんなにイイ男は2人といねぇ。
強くて優しくて面まで良くて、アタシと誠を心から愛してくれる。
もうな、好きで好きでたまらねぇ。
何年経っても気持ちは褪せねぇ。
それどころか年々好きが大きくなってる。
あぁ?
だったらなんで会いにこなかったかって?
言ってるコトが矛盾してる?
ははっ!
これだから素人は。
誠もまだまだガキだな、分かってねぇよ。
いいか?
アタシが死んだのは20代前半の小娘の頃だ。
当然、当時大和も小僧でよ、2人とも若かった。
あの頃が1番幸せだった……大和と誠、こんなイイ男2人と暮らせるなんて、幸せ過ぎてバチが当たるんじゃねぇかと思ってた。
バチ……だったのかなぁ?
浮かれすぎたのかなぁ?
アタシは事故で死んじゃって、大和はスゲェ泣いていた。
誠の前じゃ笑ってたけど、大和のヤロー……死んじゃうんじゃねぇかってくらい落ち込んでたんだ。
アタシはそれ視て悲しくなった。
泣き止んでほしくて、笑ってほしくて、……でもさ、大和にアタシは視えないから、なーんにもしてあげられないの。
それが辛くて悔しくて、アタシもこっそり泣いていた。
アタシ……なんで死じゃったんだろう。
なんで大和はアタシのコトが視えないんだろう。
大和にさわりたい、くっついて一緒に寝たい。
涙を拭ってやりたい。
ゴハン作って食べさせたい。
生きてた頃なら当たり前に出来てた事が、ぜんぶ出来なくなったんだ。
で、思ったんだよ。
死者のアタシじゃ大和を幸せに出来ねぇなって。
淋しいけど、そんなのヤダけど、それが現実だ。
大和には幸せになってほしい。
泣いて暮らすなんてしてほしくない。
だからさ、誠が二十歳になった時、良い機会だと思った。
黄泉の国に逝こう、それで生まれ変わるって言おう。
その事は誠の口から大和にも伝わるはずだ。
アタシがいなくなれば、大和は他の誰かを好きになるかもしれねぇ。
カノジョが出来て、いつかそのうち再婚してよ、その方が大和は幸せになれる。
そうした方が良いんだって、……思ってさ。
ははっ!
分かったか!
だから内緒にしてたんだ!
誠には本当の事を言おうかと思ったけど、でもよ、二十歳すぎて大人になって、母親よりも友達や彼女といた方が楽しいに決まってるじゃん。
高校生になった辺りから、そんな空気もバシバシ感じて……ああ、こうやって親離れをしてくんだな、もう3才の幼子じゃねぇんだなって。
もうアタシがいなくても大丈夫だと確信した。
生まれ変わったって、ウソついたのはあやまるよ。
でもよ、大和も誠もいつかは死んで、黄泉の国にやってくるんだ。
その時に驚かせれば良いって、サプラーイズ! なんて。
アタシはそれを、けっこう楽しみにしてたんだよね。




