第二十七章 霊媒師 繋がり-4
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次の日。
俺は1人で会社に行った。
昨夜、田所とケリをつけ、真さんをユリに会わせて深夜メシ(&ドーナツ)。
積もる話やなんやらかんやら、気づけば夜が明けていた。
あんなにはしゃいだユリはというと、窓から光が差し込むにつれ、カクンカクンと船を漕ぎだし「寝ない寝ない」と土俵際で踏ん張ってたが、最後は電池が切れたみてぇに突然ストンと寝落ちした。
それから、俺も少し仮眠を取って、親父の作ったメシを食い、スーツに着替えて車のキーを手に取った。
「真さん、俺は今から会社に行くけど、帰ってくるまで待っててくれ。ユリはこのまま寝かせておく。起きたらよ、今日は1日ゆっくり休めと伝えてくれ。間違っても出勤するなと念押しも忘れずにな。じゃあ行ってくる」
おぅ! と手を上げニカッと笑う、真さんに見送られての出勤だ。
エンジンかけてクラッチ踏んでギアを入れ、ランエボはいつも通りに走り出す、…………んだけどよ。
なんか、助手席にユリがいねぇとスースーするな。
____マコちゃん、お茶飲む?
ユリは毎朝そう言って、水筒を溢さねぇよう気を付けながら、俺にお茶を寄越すんだ。
俺は前を向いたまま、缶コーヒーをゴクリと飲んだ。
ユリと結婚する前は毎日数本飲んでたし、茶よりもなによりコーヒー好きで、なのによ、……あれ?
マズくはねぇけど、前より美味く感じねぇ。
運転もそうだ。
つい数か月前までは、毎日こうして1人で車に乗っていた。
好きな音楽聞きながら、鼻歌交じりにゴキゲンで走ってた。
けどよ、今の俺、ゴキゲンじゃねぇや。
ユリがいねぇと物足りねぇ、ユリがいねぇと淋しく感じる。
家を出てから15分、……早ぇな、もうユリに会いたくなった。
好きで好きでたまらねぇ。
仕事を終えたらケーキを買ってすぐ帰ろう。
愛しい嫁に会う為に。
……
…………
……………………
最速だった。
仕事を終えて、定時のチャイムが鳴ると同時にセ〇ムをかけて、ダッシュで車に乗り込んだ。
途中でケーキをホールで買って、それ以外は脇目もふらずにアクセル踏んだ。
安全運転、これは当然意識はするが、ありとあらゆる裏道抜けて、通常なら1時間以上かかるトコロを55分で家路に着いた。
んで、
「ユリィィィィ! ただいまぁッ!」
真チックに嫁の名を呼び玄関に飛び込んだ。
すると、家の奥から色んな音が聞こえてきたんだ。
バタン!←部屋のドア開けた音か?
ザザッ!←これは部屋を出た音?
ゴチッ!←!?
タタタタタタターーーー!←廊下を走る音、
足音を響かせながら、
「マコちゃぁぁぁぁん!」
珍しく大声上げる、愛しい嫁が飛び込んできた。
「ただいまぁぁッ!」
小せぇ身体をギュッと抱きしめそう言うと、
「おかえりなさぁぁい! マコちゃん、今日はなんで置いてっちゃったの? 一緒に会社行きたかったのに!」
眉をハの字に恨めしそうなユリの声。
んぷ!
むくれてるむくれてる、顎にウメボシ出来てるわ。
「なんでって、よく寝てたしよ。それにせっかく真さんが来てくれたんだ。甘えねぇでどうする。仕事なんかしてる場合じゃねぇやな」
言いながら頭を撫ぜれば、途端にほっぺを真っ赤にさせた。
そのほっぺを指でつまみ「お土産だ」とケーキを出せば、大喜びで子供みてぇに笑ってる。
ああ、この顔だ。
ユリの笑顔は疲れもなにも吹き飛ばす。
大事な大事な俺の嫁、やっと会えた(半日でも俺にとっては長ぇんだ)。
着替える為に部屋に向かう、廊下を2人で並んで歩く。
「真さんはどうしてる? 親父はもう帰ってきたか?」
「爺ちゃんは裏の道場にいる。お義父さんは少し帰りが遅くなるって連絡があったよ」
「そうか。あ、それとよ、今夜はエイミーと大福がウチに来る。エイミーに電話して真さんが来てるコトを話したら、俺が頼む前に大福連れて来てくれるって」
「わぁ! 岡村さんと大福ちゃんが来てくれるの嬉しい! 大福ちゃんがいれば爺ちゃんとお義父さんでお話が出来る、ありがたいなぁ」
そうだな、本当にありがてぇよ。
エイミーは今日、現場に入ってたんだ。
日中、進捗確認も兼ね電話をしたら「順調です! もう少しで終わるから帰りに寄ります!」なんて、頼もしい事を言ってくれたんだ。
スゲェよな、成長したな、もう新人じゃねぇよな。
頼れる仲間、立派な霊媒師だ。
部屋に入って着替えを済ませ、ふとユリを見ると……気のせいか?
なんだかソワソワ落ち着かねぇ。
「ユリ、どうした? ……(ピコーン!)あ、分かった。ケーキが気になってんだろ!」
間違いねぇ、ユリは甘いモンが好きだしよ。
なんと言っても育ち盛りの19才だ。
気持ちはすでにケーキに向いても不思議じゃねぇ。
「ち、ちがうよぉ! ケーキも楽しみだけど、今はそうじゃなくってね、………………マコちゃん、眠い? 昨日あんまり寝てないけど、……もう少し起きていられる?」
なんだ……?
まるで昨日の俺のセリフだ。
ユリはモジモジ上目遣いで俺を見る。
「いや、眠くはねぇよ。今日は電話もメールも少なくて、会社で居眠りしてたからな! んで? 眠くなければどうしたって言うんだ? なにかしてほしい事があるのか? 言ってみろ、なんだってしてやるよ」
大袈裟に胸を拳でドコドコ叩いてそう言えば、ユリはぱぁっと目を輝かせ、そして俺にこう言ったんだ。
「良かった……あのね、コッチ来て。ゴハンの前に会ってほしいヒトがいるの」
「会ってほしいヒト? お客さんか?」
「んと、えと……うん、会えば分かるよ。ふはは、私ね、今日頑張ったんだ。偶然会えて……というか視つけてしまって、逃げる背中を追いかけて、それでたくさんお話してね、いっぱいいっぱい説得したの」
「……? 誰を視つけたんだ? なにを頑張ったんだ? 誰になにを説得したんだ? 分かるように説明してくれ」
アタマの中がハテナでいっぱいになった。
言ってる意味が分からねぇ。
ロクな説明もないまま。
ユリは俺の手を引いて「コッチコッチ」と玄関を出て、グルリと回って裏の道場へと導いたんだ。
「道場? 会ってほしいヒトって真さんか? もう昨日会ってんじゃねぇか」
不思議に思ってそう聞くと、ユリはニコニコ、でも繋いだ手は湿ってる。
いつもの倍汗を掻いてる。
「マコちゃん。(道場の)扉を開けて。中で待っててもらってるの、」
誰が待ってるんだ?
俺を待ってるのか?
ユリは聞いても答えねぇ。
焦れた俺は、誰が中にいるのかを自分のこの目で確かめようと思ったんだ。
ガラガラッ!
横開きの大きな扉。
そこに手をかけ一気に開けた。
「…………え、」
中にいたのは真さん、……と、もう1人。
え……ウソ……だろ?
いやでも、
派手なビジュアルだった。
腰まで伸びた赤い髪。
筋肉質で高身長。
開いた胸元、そこに挟まる小さな栓抜き。
顔は俺に瓜二つな女が立ってる。
……
…………目を疑った。
だってよ、生まれ変わったと聞いていたのに。
もう二度と会えねぇと思っていたのに。
でもよ、確かにそこにいるんだよ。
「…………朋、」
口から零れた女の名前。
女は口を尖らせて、目を真っ赤にさせて言ったんだ。
『…………誠、元気そうだな』
間違いねぇ、つーか、こんな女は2人といねぇ。
間違えようもねぇけどよ……そこにいたのは清水朋美。
俺の母親だった。




