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霊媒師募集  作者: たまこ
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第二十六章 霊媒師 誠と真-19

まったくよ……なんなんだコイツは、


『うぐっ……うっ、うっ、うぅ、うぐっ、いてえよぉぉ……』


おまえが昔、生きていた頃、

貴子さんとユリ、自分の家族に散々暴力ふるったくせに、


『なんでだよぉぉ……どいつもこいつも……俺をバカにしやがって、』


実際バカじゃねぇか、

惚れたはずのテメェの嫁と可愛い娘を、

壊すなんざバカ以外のなんでもねぇよ、


『カヒュ……ゴフ……ゴフュ! あ、く、苦し……辛い……助けて、』


”助けて” ?

おまえは今 ”助けて” と言ったのか?

苦しいから、痛いから、

その苦痛から逃れたくて助けを乞うのか?

生前、何度も自分の家族を殴り、

そのたびに ”助けて” と ”許してくれ” と乞われたおまえは、その乞いを1度でも受け入れた事があるのか?


ねぇだろう?


あるワケねぇよな。

あればきっと、貴子さんは死なずにすんだ。

あればきっと、死して尚ユリを苦しめたりしねぇ。


『……チィクショォォ……いてえよぉ……なぁ……もうやめてくれ、助けてくれ……頼む……お、俺はユリの父親で、……そ、そうだ、おまえにとっても俺は義理の父親じゃないか、親は大事にするもんだ、だかr』


ガッッ!!!


田所が言いかけた事。

それがどうにも胸糞悪く、俺は拳をコイツの顎に叩き込んだ。

おまえが俺の義理の父親?

キッショイ事言うんじゃねぇよ。

俺に義理の親父はいねぇ、いるのは義理の爺さんだけだ。


「…………はぁ。なんかよ、おまえと話すと疲れるわ。常識が通じねぇ、倫理も善意も通じねぇ、優しさも思いやりも持っちゃいねぇ。失う物がなにもねぇから人の痛みが分からなくって、自分の事が最優先。テメェの欲を満たす為なら、家族だって踏みにじる。ユリの辛さを少しでも分からせたくて、俺はおまえを殴ったけどよ。いまだにミリも分かってねぇ。打ってもまるで響かねぇ。”いてえ、いてえ、助けてくれ” とバカの一つ覚えだ、はぁぁ」


ため息も出ちまうよ。

ここまでクズで、ここまで下衆は滅多にいねぇ。


田所は俺のぼやきを聞いてるんだか、いねぇんだか。

地面に潰れて痙攣を起こしてる。

本当はよ、こんなレベルの悪霊くれぇ、一発で滅する事も出来るんだ。

ただ、それじゃあ俺の気が済まなくて、コイツに犯した罪の重さを分からせたかった。

でもよ、コイツは駄目だ。

この後どんなに殴ったって、”どうして俺がこんな目に” と自分本位に嘆くだけ。

それじゃあ意味がねぇ、……だが、この手のタイプの悪霊だって今まで散々現場で視てきた。

馬鹿で勝手な過剰な程の利己主義者。

こういうヤツはプライドばっかり高くてよ、案外気持ちは弱いんだ。


俺は____


やり方を変える事にした。

その為の準備をするため、人差し指と中指を揃えてテメェの額に当てた。

慣れた作業だ。

視たい物を頭の中でイメージさせて、欠片を集めて映像にする。

俺が今見たいモノ、視るべきモノが……今、頭の中に大きく展開された。

その映像を黙って俺は視続けた。

足元にはヤツが転がり『いてえ、いてえ』と呻いてる。

まったくよ、身勝手な野郎だな。

人には暴力ふるっておいて、自分がされたらこのザマだ。

無様な男だ、…………本当に、昔から無様だな(・・・・・・・)


……

…………

………………


『チクショォ……鼻が潰れちまった……あ……あぁ……陥没してる……ひ……ひっく……え゛……え゛っぐ……いてえよ、』


まだ言ってら。

おまえさ、それホントにいてえのか?

いてえ割にはさっきから喋りっぱなしだ。

口が減らねぇ、無駄に喚いて泣き入れて、同情引く気満々か?


『なんでだよ……俺の人生、どこでどう間違えたんだ……田舎から上京して……東京でならすべてがうまくいくと思ったのによぉ……くだらねぇ女に騙されて……ガキが出来ちまった。それからすべて悪い方に転がったんだ、……チクショォォォォォ! 良い事なんて何もなかった! しかも最期はあんな死に方、俺は……俺は……!』


ここで言葉を止めた田所。

潰れた鼻を両手で押さえてワナワナと震えてる。

なんだよ、急に黙って。

自分語りはそれでしめえか?

じゃあよ、俺が続きを話してやる。


「オィ、なにガタガタ震えてるんだ。もしかして、思い出したのか? 自分の最期の瞬間をよ。……おまえ、殺されたんだな」


隣にしゃがんで近づいて、あえての小声で薄ら笑いで言ってやる、……と、田所は固まった。

寝たままの恰好で、目を見開いて唖然としてる。


「おまえの着てる服、それ舎房衣だろ。受刑者が刑務所内で着る服だ。余程の理由がない限り、人は死ぬと、死の直前まで着ていた服をそのまま引き継ぐ。おまえは獄中で殺されたんだ。それをユリに隠したかったのか? さすがに恥ずかしかったのか? 胸のよ、ポケット部分がちぎられてるのは、その位置に名札が縫い付けられてたからだ。”56番・田所(しゅう)” ってな」


なんの事はねぇ。

コイツの過去を霊視で覗き、それをそのまま話しただけだ。

だが田所は気味悪そうに眉毛を寄せて、かすれた声でこう言ったんだ。


『……なぜ知ってる、……俺の下の名前は……ユリから聞いたとしても、舎房衣の事、名札の事……そうだ、俺だけの呼称番号まで知っている、ユリは知らないはずなんだ。アイツは今まで1度も面会に来なかった、知ってるはずがねぇんだよ。それだけじゃねぇ、……おまえ、俺の最期の事も知っているのか、』


終始声は小さくかすれ、特に最後は蚊の鳴くような声だった。


「ああ、知っている。まだまだあるぜ? 田所(しゅう)、生きていれば47才。H県で生まれたおまえは、両親と年の離れた姉と4人で暮らしてた。両親共にデカイ会社の役職持ちで、姉は起業で成功してる。おまえの実家、裕福だな。家もデケェし高級車もあるじゃねぇか。小せぇ頃からなんでも買ってもらってよ、わがまま放題のお坊ちゃんだ」


『……おまえ……俺の実家の事まで……なんで知ってるんだよ……』


眉を寄せる田所は、半身をノロノロ起こして俺を視た。

その顔は土色で、濁った汗が額に浮いてる。


「なんだって良いだろうよ。教えてやる義理はねぇ。言っておくが、こんなモンじゃねぇぜ? おまえの事はなんでも知ってる。赤子の頃から死んだ時まで全部だ。ホントによ、とんでもねぇガキ時代だな。次から次へとほしいモノを買ってもらって飽きたらポイだ。我が儘もヒデェな。あそこに行きてぇ、ここに行きてぇ、小遣いはガキのクセして万単位。おまえの周りに人はたくさんいたけどよ、ダチはいねぇみてぇだな。みんな揃って金目当て。そりゃあチヤホヤされんだろうよ。あんなに金をばら撒きゃな。でもよ、うわぁ……イテェな、おまえ、陰でバカにされてんぞ」


マジでキチィわ。

金を遣って王様みてぇに振舞ってるけど、陰じゃボロクソ言われてる。

知らぬは本人ばかりなり、ってヤツだ。


これを聞いた田所は背中をプルプル震わせながら、


『……ヤメロ……ヤメロ……』


羞恥で顔を赤黒にして、呪文みてぇに繰り返してた。


「この頃が、おまえの人生のピークだったんだろうな。金はある、取り巻きもいる、女だってとっかえひっかえだ。でもよ、1人だけ、どんなに金をチラつかせてもなびかねぇ女がいた」


『……ヤメロ……ヤメロォォ……』


なんだよ、死にそうな顔しやがって……って、もう死んでるか。

殴られるよりテメェの過去のがいてえのか?

だろうな、ここからはおまえの人生下がる一方だ。


「高校の後輩みてぇだな。黒髪の真面目なタイプでしっかりした子だ。今までにいないタイプで落とそうとしたけどよ、まったく相手にされなかった。挙句の果てには ”そのお金は先輩のお金じゃない、親のお金でしょう?” って、みんなの前で言われちまって、その言葉にキレたおまえは、後輩をボコボコに殴りつけた、……はぁぁ……クズが、視ていて胸糞だわ」


この件がきっかけだった。

大勢の見ている前での暴力、しかも、相手はか弱く無抵抗の女の子だ。

結局親が土下座して金で解決したんだけどよ、この日以降、田所のまわりから人がいなくなったんだ。

いくら奢ってやると言っても誰一人ついて来ねぇ。

口さえきいてくれなくて、そう、田所は王様じゃあなくなった。


せめて、……せめてこの時。

自分の非を認めてよ、心を入れ替え反省すりゃあ、今はぜんぜん違ったろうよ。

でもしなかった。

コイツの為に頭を下げた親に向かって、”示談の金をケチったからこうなったんだ!” と、のたまったんだ。

筋違いも甚だしいが、ハッキリ言って親もわりいよ。

金やモノを与えるだけが愛じゃねぇ。

人を傷つけるな、意地の悪い事をするな、思いやりを持て、悪い事をしたらキチンと謝れ、そういう事を教え込むのが親の役目だ。

それらすべてが欠けたまま18才になったコイツは、暴力沙汰の事件以降、地元に居ずらく良い機会だと、進学を建前に上京したんだ。

ま、大学に通ったのは半年だけで、すぐに辞めてしばらくは、仕送りだけでブラブラしてたが。

それから少しして、いい加減仕事を探せと姉から叱られ、仕送りを止められた。

切羽詰まった田所は、渋々仕事をなんとか見つけ働き出した。

が、その事が後の悲劇へと繋がっていく、……そうだ、この翌年。

同じ会社に貴子さんが入社した。



「貴子さんを初めて見た時、おまえは驚いていたよな。黒髪の真面目なタイプのしっかり者。貴子さんは、高校時代にお前が殴ったあの後輩に……雰囲気が似てたんだ」


視たままをそのまま言えば。

田所は顔を上げ、震えながら大きく首を振り続けていた。







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