第二十六章 霊媒師 誠と真-15
『あのドレスはレンタルか? それとも、金持ちの社長に買ってもらうのか? どっちにしても全然似合ってなかったな。白いドレス? ふざけんな!! おまえのような疫病神が着て良いと思ってるのか? ふひひひひ……ユリちゃぁぁぁん、図々しいにも程があるだろぉぉぉ。殺人者の娘は着れませぇん。身の程を知れ、』
ドレス……マコちゃんもお義父さんも似合うって言ってくれた、
あのドレスを着てマコちゃんのお嫁さんになる、…………そう思って、思ってたのに、……”身の程を知れ”……そう……なのかな、着たら……駄目なのかな、
きっと、マコちゃんもお義父さんも、”そんな事はない” そう、言ってくれると思う。
でも、気持ちが折れてしまった……だって。
『良いか? 絶対におまえを逃がさない、おまえも俺の道連れにしてやる。ふひひ……玉の輿だったのに残念だったなぁ!! ああでも、その前に1度くらいはダンナに挨拶しておくか。ダンナも視えるんだろう? おまえの会社、祓い屋だって言うじゃないか。知ってるよ、あの近辺を彷徨う霊達が教えてくれた。父親として会っておかないと。心配するな、ちゃあんと挨拶してやるから。お前が恥をかくように、まずは小便でもひっかけてやろうか!』
やめて……やめてよ、そんな事しないで、
もう嫌……なんでこんな人が父親なんだろう、……私の父はお義父さんだけ、そう思うけど、気持ちはそうだけど、それでも、私はこの霊と血が繋がっている。
こんな霊と……こんな最低な霊と……!
『そんな事をしたら驚くだろうなぁ……ふひひh、もっと色々してやるからな、祓われそうになったら逃げてやる。なぁユリ、俺の事嫌なヤツだと思うか? 最低な父親だと思うか? いいぜ、思っても。思えば思う程、それはおまえに跳ね返るんだ。おまえは俺の娘だからな……という事は、おまえも最低な娘って事だ。ドレスなんか似合うはずがねぇ、』
この霊の言う事なんか聞いちゃ駄目だ、……頭では分かってるのに、早くマコちゃんの所に行きたいのに、なんでか身体が動かない。
ああ……嫌だな……これも覚えてる、……この霊は人の気力を吸い取るの。
グズグズと動けないまま暴言を聞いていた。
聞けば聞く程削られる、気力がどんどん減っていく。
『……ああそうだ、これも教えといてやるよ。白いドレスが似合わない、いや、着る資格がない理由をだ、』
着る資格がない……?
それ……どういう意味……?
『その理由はな、おまえは昔_________』
……
…………!?
聞くに堪えない内容だった。
その話を半分も聞いた所で、私はとっさにウォールの印を結んだんだ。
◆
「……マ、マコちゃん……マコちゃん……ごめ、……ごめんね、心配かけて、ウォールも……ごめんね、」
トイレの中で何があったのか____
ここまで話してくれたユリは、しゃくりあげて泣いていた。
細い体を子供みてぇに丸めてよ、両手で何度も目を擦り、ユリはちっとも悪かねぇのに一生懸命あやまってんだ。
「ユリ、こっち来い」
会社の事務所で向かい合わせに座ってた、キャスター付きの回転椅子をそれごと寄せて近づけた。
ユリの膝が俺の膝にコツンとぶつかり、2人の距離が近くなる。
「そんな事があったのか……俺の方こそごめんな。あんなに近くにいたのによ、おまえを守ってやれなかった。1人で怖かっただろう? 苦しかっただろう? 本当にごめんな」
情けねぇ……俺がもっとしっかりしてればユリを守ってやれたんだ。
後悔してもしきれねぇよ、俺はあの時、呑気にネックレスを見てたんだ。
「ううん、ううん、ち、違うよ、マコちゃんが悪いんじゃない……だって……生きてると思ってた……まだ50代にもなってないもの……だからまさか……霊となって……しかも女子トイレに来るだなんて……誰も想像出来ないよ、」
そう言ってユリは笑おうとした……が、失敗に終わった。
顔はひきつり涙は止まらず呼吸も浅い。
まったくよ、怖いくせに無理すんな。
辛い時は ”辛い” と言って騒げば良いんだ。
近い距離で泣いてるユリを、そのまま腕に抱きしめた。
ココは会社で俺は社長で、……けどよ、構うもんか。
ユリの不安を少しでも減らしてぇからよ。
「…………マコちゃん……ごめんね、……ありがとう、……マコちゃんは私を責めないんだね、ずっと話せなかったのに、……オウチでも……態度がおかしかったと思うのに……」
「なに言ってんだ、責める理由がねぇよ。俺こそごめんな。ユリがよ、中々トイレから出てこなくてよ、でも男の俺が中に入る訳にもいかなくて、アクセサリー屋の店員に見てきてもらったんだ。こんな事なら入っちまえば良かった」
「え、ダ、ダメだよ……! そんな事したら大騒ぎになっちゃう。他の人にはあの霊の姿は視えないんだもの、通報されて拘束されて……あ……もしかして……それを狙って女子トイレに現れたのかな、マコちゃんが入ってこれないから……」
「……チッ! そうかもしれねぇな……どこまでも卑怯なヤツだ、悔しいが効果はあったしな」
少しずつだがユリは話してくれている。
事情が徐々に分かってきた……だが。
…………本当は気になっていた。
さっきの話の一番最後。
父親は、一体ユリになにを話したんだろう。
ユリはまだその話にふれてこねぇ。
俺に聞かせたくねぇんだろうな。
だからわざわざウォールの印を結んだんだ。




