第二十六章 霊媒師 誠と真-12
~~~1月中旬、第三土曜日・ユリ視点~~~
す、すごい……!
けっこう大きなテーブルなのに、お皿がいっぱい所狭しと並んでいるから天板がほとんど見えない……!
カルボナーラにボンゴレに、魚介たっぷりクリームソース、薄生地のマルゲリータにミネストローネ、バーニャカウダにアクアパッツァ、ブルスケッタにパニーニに……、
「すみません、カルパッチョを追加でお願いします(ニコッ)」
きゃー! マコちゃんが追加オーダーしたー!
こ、これ以上は無理だよ、テーブルいっぱいだよ、もうお皿置くスペースがないよぉぉ!
いつものコトではあるけれど、ウチの家族はいっぱい食べる。
ドレス選びであっという間に時間が経って、気づけば14時、3人ともサロンを出てからおなかが同時にグーグー鳴って、イタリア料理のお店に来たの。
着いて早々、あれもこれもとオーダーすれば、次から次へと運ばれてくる。
途中、店員さんが半分笑って半分ビックリしながらも、空いていた隣のテーブルを合体させて、広くしてくれたんだけど……ふはは、それでもぜんぜん足りてない。
「ユリちゃん、おなかすいただろう? 遠慮しないでたくさん食べなさい。足りなかったら、どんどん頼んでいいからね」
お、お義父さん……!
ダイジョウブ、十分足りてる……!
「ユリ、あとでケーキも食べたらいい。甘いの好きだろ?」
マ、マコちゃん……!
好きだけど、好きだけど……さすがに今日は食べられないよ。
さっきからこの調子。
2人してたくさん食べろと勧めてくれる、……あ、ありがと、でもね、あのね、私けっこう食べてるよ。
だってほら、おなかもパンパン……って、こ、これは、あんまりよろしくないのでは……だって、せっかく選んだ綺麗なドレスが入らなくなっちゃうかも……!
「なんだユリ、そんなコト気にしてんのか。大丈夫だ。太ったらワンサイズ大きなドレスにしてもらえば良いだろ!」
えぇ!?
そんなのダメだよ!
そういう問題じゃないもん!
「良い考えだな。もしくは同じドレスで素材違いはないのだろうか? プロレスのタイツのようなストレッチタイプなら伸縮性があるからね。多少太っても大丈夫だ」
お、お義父さぁん!
ストレッチ素材のウエディングドレスなんて聞いたコトがないよぉ!
ふは……ふははははは!
2人共、ヘンなコトばっかり言うから笑っちゃう。
ああ、楽しいなぁ、嬉しいなぁ、幸せだなぁ。
大好きなマコちゃんとお義父さん、こうして一緒にゴハンを食べて、笑い合っていられるなんて夢みたい。
結婚式も楽しみだなぁ。
あんなに綺麗なドレス……着るの初めてだ。
あのドレスを着てマコちゃんのお嫁さんになるの。
南の島で式を挙げる、……その時は、ママも爺ちゃんも婆ちゃんも呼んで、家族みんなでお祝いするんだ。
「あー、美味しかったねぇ。ユリちゃん、おなかいっぱいになったかい? 誠もあれで足りたのか? ……私? 私は腹八分に抑えておいた。この後、身体を動かすからね。あんまり満腹だと動けなくなってしまう。そうそう、私はこれから行く所があるから。すぐ近くに格闘ジムがあってね、せっかくだから寄って行こうかと思うんだ。夕飯はジムの子達と食べてくるから、今夜は2人で食べなさい。じゃあね、」
おなかいっぱいゴハンを食べた後。
お義父さんを路上で見送りマコちゃんと2人になった。
この後はどうしよう、そう言ってマコちゃんを見上げると、
「せっかく都内にいるからな。このまま2人でデートしようぜ」
そう言って、手を繋いでくれたんだ。
デ、デ、デート……!
マコちゃんとデート……!
どうしよ、嬉しくて手にいっぱい汗掻いちゃう……!
マコちゃんとは毎日一緒。
オウチでも会社でも、朝から晩まで毎日毎日一緒にいるの。
いい加減、少しは慣れても良い頃なのに、いまだに毎日ドキドキしてる。
だからこうしてデートだって言われると、いつも以上にドキドキするし、いつも以上にときめいちゃうよ。
「ユリ、どっか行きてぇトコあるか?」
ど、どこでも……!
マコちゃんと一緒なら、どこに行っても楽しいもん!
それからしばらく、街の中を2人でブラブラ歩いたの。
私の服を見たり、マコちゃんのプロテインを見たり、本屋さんでは2人で一緒に本を探して買ったりと、楽しくて嬉しくて、特別なコトをしている訳じゃないのに、でも、私にとっては特別で、こんなに幸せでいいのかなぁって思うくらい。
「なぁユリ、この先にお茶の専門店があるみてぇだ。草花すりつぶしたみてぇなよ、ハーブティーだっけ? 置いてあるかもしれねぇから行ってみようぜ」
ハーブティーにすっかりハマったマコちゃんが、私の手をぎゅっと握って歩き出す、……あ、あの、ま、待って、その前にね、
「マコちゃん、……あのね、ごめんね、その前に……ト、トイレに行きたい、」
うぅ……なんか恥ずかしいなぁ。
でも行きたい、さっきからガマンしてたし、これ以上ガマンして、万が一のコトになったら……うん、もしそうなってもマコちゃんなら引かなそう、でもダメ、私が恥ずかしいからやっぱり行きたい。
「なんだよ、そういうのは早く言え。そうだな……あ! あそこにあるデパートで借りようぜ」
……
…………
………………
はぁぁ……間に合ったぁ。
良かった、万が一のコトにならなくて……(今度からもっと早く言おう)
トイレから出て手を洗う。
濡れた手を拭いているのは、マコちゃんからもらったハンカチ。
赤色のハートの刺繍が可愛いの。
前に一度、ハートが好きだと私が言って、それを聞いたマコちゃんは、ハートがついてる色んな物を買ってくる。
誕生日でもクリスマスでもない、なんでもない日に ”たまたま見つけた” そう言って、次から次へと買ってきちゃうの。
だから今では持ってる物のほとんどがハート模様。
最近ではお義父さんまでハートの小物を買ってきてくれるんだ。
「ふはははは、私はもう19才なのに。こんなに甘やかされて良いのだろうか、」
鏡を見ながらリップを塗って、思わず出ちゃった独り言……なんだけど、私、ぜんぜんまわりを見てなかった。
誰かいたら恥ずかしいな、1人で笑って1人で喋って、ヘンな子だと思われちゃうよ。
鏡の並びに人はいない、……ここまではセーフ。
あとは個室に誰かがいなければ……独り言、聞かれてないと思うんだけど……おそるおそる振り返る。
確かめて、誰かが入っているようなら、出てくる前にすぐ出よう。
髪もとかしたいとこだけど、そうも言ってられないし。
ソロリソロリとおっかなびっくり後ろを向いた。
誰もいませんようn、………………!!!!
……………………!!!!!!!
……………………!!!!!!!
……………………!!!!!!!
なんで……なんで……!?
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……!?
振り返ると人がいた、
こんな所にいるはずのない人がいた、
なんで、どうして、パニックで頭がうまく働かない、
足が震える、歯が嚙み合わない、ガチガチと小刻みに勝手に身体が震えだす、
悲鳴を上げたいのに声が出ないよ、マコちゃん、お義父さん、マコちゃん……!
怖いよ、なんで? どうして? ここは女子トイレだよ、ううん、それよりもなんで、なんでこの人が……!
いつの間に入ってきたのか、
目線を後ろに飛ばしてみると個室には誰もいない、
ここには私とこの人しかいない、待って、待って、待って……!
いつ出てきたの?
どうしてここにいるの?
偶然?
ううん、違う、偶然に女子トイレに現れるなんてあり得ない、
分からない、分からない、怖いのに、怖すぎて悲鳴も出ない、喉がピッタリ張り付いて呻き声さえ出てくれない、
その人は、……ううん、ソイツはニヤニヤしながら、一歩、また一歩とこちらに向かって歩いてくる、
足音がしない、無音のまま近寄ってくる、
怖いよ、来ないで、吐きそう、……なんで、なんでなんで……?
とうとう目の前までやってきたソイツは、
____ユリ、ミィツケタ、
____俺に会えて嬉しいだろう?
____お父さんだよ、
ニィッと笑って私の顔を覗き込んだんだ。




