第二十六章 霊媒師 誠と真-3
「や、やだ! 岡村さん、泣かないでくださいよ、……もう……岡村さんが泣いちゃうと、な、なんだか、私まで泣いちゃいます、(ぶわっ!)」
あーあー、なんだこりゃ。
2人して泣いちまった。
ユリとエイミー、両方とも真っ赤になってる。
ズルズルと鼻を鳴らして向かい合い、ハンカチ片手にボロボロだ。
「ユ、ユリちゃん! 本当におめでとう……!(ぶわっ!)入籍した時も嬉しかったけど、こうやって綺麗なドレスを着てるの見ると感無量だよ。(グズグズ)……ああ、貴子さん達にも視せたいなぁ。みんな喜ぶだろうなぁ、嬉しくて泣いちゃうだろうなぁ、特にお爺さんはヤバそうだ…………」
エイミーは言いながら、今度はソワソワキョドってやがる。
ま、エイミーと真さんは今までイロイロあったからな。
チェーンソーで襲われかけたり、生身の身体を乗っ取られたり……ははっ!
扱いが雑過ぎて笑っちまうわ。
でもよ、真さんは不器用だから分かりにくいが、大事な娘を救ってくれた、エイミーにはスッゲェ感謝してるんだ。
マジで分かりにくいがな。
藤田の家族にドレス姿のユリを視せてぇ、そう言ったエイミーだったが、それで思い出したのか、こんなコトを聞いてきた。
「あ、そう言えば、結婚式はどうするの? 藤田家のみなさんは? もちろん来てもらうんでしょう?」
「ああ、もちろん呼ぶつもりだ。藤田の家族が来ない事には話にならねぇ。ユリの綺麗な姿を視せてやらねぇとな。で、式なんだけどよ。悪いが今回家族だけでする予定だ。真さん達は死者だろう? 霊力がなければ姿が視えねぇ。となると、親戚縁者を呼ぶ式じゃあ、ややこしい事になりかねねぇ。だからな、ウチの親父と藤田家だけの小せぇ式をするつもりだ。式の後はどっか店を借り切って、”おくりび ”の面子で集まりてぇと思ってる。その時はエイミー、来てくれるか?」
本当はな、全員式に来てほしい。
だが仕事の依頼もあるし、うまいこといかねぇんだ。
「もっちろん、行くに決まってる! みんなでお祝いしなくっちゃ! ね、大福!」
『うなっ!』
「ははっ! そう言ってくれると思ったよ。ありがとな。そうそう、それでよ、式の事でひとつ頼みがあるんだわ。エイミーに、つーか主に大福にだな」
「お姫に?」
『うなぁ?』
エイミーと大福は顔を視合わせキョトンとしてる。
死者と生者の小さな式は、俺達だけでは成り立たない。
大福の、三尾の妖力が必要なんだ。
頼みの内容はこうだ。
式は海外、南の島のキレイなチャペル(ユリが惚れ込んで選んだ)。
参列は家族だけ、……なんだけど、俺の親父は霊力が無いから、藤田家を口寄せしたって姿が視えねぇ。
せっかく家族で集まっても、親父だけ蚊帳の外になっちまう。
そこで大福だ。
前みてぇに、三尾の妖力で生者と死者を取り持ってほしいんだ。
霊力が無くてもお互いの姿が視えて声が聞けて、家族で笑い合えるようにしてほしい。
「頼めねぇか? 大福の妖力でもって、俺達家族を繋いでほしいんだ」
頭を下げてそう言うと、大福は長い尻尾をブンブン振って『うなっ! うなな!』と返事をくれた、……が、なんて言ったんだ?(俺は猫語が分からねえ)
エイミーは ”ぐぬぬ” と渋く口を結んで悩んでる。
だよなぁ、エイミーは重度の大福中毒だ。
大福が好きすぎて、離れる事がイヤなんだろう。
でもよ、頼む!
エイミーはしばらくウンウン唸っていたけど、でも、結局は折れてくれた。
「し、仕方がないですね。お姫と離れるのは淋しいけど、たぶん夜は号泣すると思うけど、良い式にしてほしいもん。家族でワイワイ話してほしいよ。……うん、分かりました。大福も一緒に連れてってください。え? 本ニャンはそれで良いのかって? ダイジョウブ、大福も同じ気持ちです。取り持つ気満々です。てか初海外に浮かれちゃってるよ、いーなーお姫」
「おぉ! 悪いな! でもありがとよ、これで安心だ! 大福も悪いな、よろしく頼むわ。でも大丈夫かなぁ、俺、『うなうな』言われても猫語はサッパリ分からねぇから、……少し習うかな」
猫語を習う、それを本気で考えた。
そうでなけりゃあ、猫も人もどっちも不便だ。
結婚式は半年後、それまでどうにかするしかねぇと思ったその時。
タンッ!
大福が床を蹴って俺の肩に飛び乗った。
そしてチラッとエイミーを視て、俺の耳に顔を近づけ小さな声でこう言ったんだ。
『……ゴニョ……誠、猫語は覚えなくても良いわ。向こうに行ったら私が人語で話すから。覚えてない? 私がキーマンと話した時の事。日常会話に問題ニャイわ』
……ハッ!
そういうやそうだった!
キーマンに流暢な人語を話してたっけ!
人語で俺に囁いて、”ウニャリ” と笑った大福は、トンッ! と床に飛んで降りると、そのまま真っすぐユリに元へと歩いてく。
そして『うなうな』鳴きながら、スリーンスリーンと霊体を擦り、ユリの鼻をペロリと舐めた。
くぅ……大福めぇ、やるじゃねぇか。
しかし忘れてた。
アイツはジジィも一目置いてる猫又で、ヒトの言葉をヒト以上に使いこなす強者だ。
これで一安心だな。
頼むな、大福。
引き続きユリ写真のスライドショーを再開させて、”これも良い”、”こっちも良い”、”いやいやこれも捨てがたい” と大騒ぎをしていると、
「毎度ー! 三毛猫急便でーす! 荷物取りに来ましたー!」
玄関先から大きな声、宅急便屋の兄ちゃんが来た。
「はーい! 今行きまーす!」
ユリも負けじと大きな声で答えると、梱包済みの箱を抱えて事務所をパタパタ出ていった。
それを見ていたエイミーがワクワク顔で俺を見ながら、
「社長、もしかして……! 今持っていった荷物って、ジャッキーさん?」
そう聞いてくるもんだから、俺はクールに片目を瞑って答えてやった。
「ああ、ジャッキーの次の現場に依代フィギュアを送るんだ。行き先はH道、今は雪がすごいんだろな。こういう時、遠隔は便利だよなぁ。寒さの影響受けねぇからよ。って、寒さだけじゃねぇか。暑くてもおんなじだ」
「ですよねぇ! 天気なんて関係なし、どこでも行ける、どこでも祓える。ウチの会社って定年あるんでしたっけ? 年を取って体力が厳しくなっても、在宅だからそれも関係なし。死ぬまで働けるよ。てか死んでからもやろうと思えば働けるか。先代みたいに」
「ははっ! そうだな、死んだって本人にやる気があれば働ける。終身雇用どころじゃねぇや」
「あははは、そうですねぇ。今度ウチの求人に、”終身後の再雇用アリ” って追加しとかなくちゃ!」
野郎2人でゲラゲラと笑い合い、笑いの波が引いた頃、ふと、エイミーが声を潜めてこんな事を言い出した。
「あ、そうだ……僕ちょっとお話がありまして、……ユリちゃんは……(キョロキョロ)、宅急便のやり取りでしばらく戻ってこないですよね? じゃあ今のうちに社長に話しておこう。その話ってのが……(ゴソゴソ)これなんですけど見てください、」
エイミーが差し出したのはスマホだった。
その画面にはSNSの呟きが載っている。
「なんだ? これ、エイミーのツイッ○ーか? 知らんかった、こんなのやってたんだな」
「違いますよぉ、僕のじゃありません。僕はSNSは苦手なんです。見てるのは楽しいけど発信は……だって、どうせ猫のコトしか呟かないし。あ、でもアカウントは持ってるんだ。勇気がなくて一度も使ってないけど。それよりココ、ココ見てください。この写真、ウチの会社ですよ」
「あぁ? ウチの会社だぁ?」
そう言われて覗き込む……と、そこには確かにウチの会社の外観写真が載っていた。
茶色いレンガに蔦が絡まる、見慣れたいつもの社屋なのだが……
「これがどうした、つか誰のアカウントだ? ウチの面子の誰かか? それとも、……ん? ん!? ここの端っこに写ってるの、ユリじゃねぇか!」
建物の内側。
そこには遠目にではあるけれど、花壇に水をやるユリの姿があった。
ジョウロ片手に下を向いた横顔で、長い髪をゴムで1つにまとめてる。
顔は……はっきりとは見えねぇが、ユリを知ってるヤツが見れば、それが誰だか一発で分かるだろう。
「……ね、社長も分かるでしょう? これがユリちゃんだって事。このアカウントはウチの会社の関係者じゃない。誰か知らない人です。ハッシュタグを見ると ”蔦の絡まる建物”、”偶然見つけたファンタジー”、 ”花の妖精”……とかだから、たまたま通りかかった人が写真を撮ったんだと思うんです。撮るのは良いんだ。こういうの、ウチの会社じゃよくあるし。でも……今までに上がった画像は人が写っていれば、顔にボカシを入れてくれてた。でもこの方は加工もなにもしていない、」
確かに、撮った写真をそんまんま載せている。
こういうのは世間的にもウルサクなってきてるのに、なんだって無加工なんだ。
しかも……よりによって俺の嫁を。
「僕の気にしすぎかもしれないけど、この角度じゃほぼほぼ個体識別は出来ないと思うけど…………コレ、写っているのが僕や社長なら良いんだ、男だし。でも、ユリちゃんは女の子だから心配になったんです。それにココ、ウチの会社の看板も入ってる。この建物の敷地内で花に水をやってるなんて、勤務先はココですって言ってるようなものだよ。これを昨日発見して、今日はちょうど出社日だから社長とユリちゃんに報告する気でいたんだ。でも____」
エイミーはそこで言葉を詰まらせて、パソコン画面に目をやった。
「ユリに心配かけたくなかったんだな?」
「そうです。ドレスの写真であんなに幸せそうにしてるのに、同じ写真繋がりで怖がらせたくなかったの。だから先に社長だけに報告しようと思って……タイミングを見てたんです」




