第二十六章 霊媒師 誠と真-2
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1月中旬、第三月曜日。
結局、土曜のうちにドレスを決める事は出来なかった。
俺とユリと親父の3人。
あれも良いこれも良い、でも待てやっぱりこっちも良いと、散々悩んで迷いに迷っているうちに、タイムアップになっちまった。
ドレスの試着は予約制、しかも時間が決まってる。
2時間ちょっとの短い時間じゃとてもじゃねぇけど決められねぇよ(俺のは5分で決めたけど、野郎はこんなモンだろう)。
ユリはそれを気にしちまって「優柔不断でごめんなさい」と言っていたけどそりゃ違う。
一生一度の結婚式で、主役はユリだ。
とことん悩んで納得するのを選べばいい。
なぁに、問題ねぇ。
2回目の試着の予約は今週末に取れたしよ、前回着たすべてのドレスは写真に撮ってあるからな(俺も親父もスッゲェ撮った)。
今週はそれを見ながらゆっくり一緒に考えよう。
つーかよ、ユリ以上に親父がめちゃくちゃ盛り上がってる。
次の試着も着いて来る気満々だ。
ま、良いけどよ。
来たら来たで美味いメシを食わせてくれる、モチロンぜんぶ親父のオゴリで!
「マコちゃん、なに笑ってるの?」
朝の8時の会社の事務所。
ユリは不思議そうに小首を傾げて俺のそばにやって来た。
そして子供がそうするように、俺の顔をのぞき込んだすぐ後に、
「……ん? あれ? え? えっ!? これって! や、やだマコちゃん! なんでこんな! 会社のパソコンなのに恥ずかしいよぉ!」
ほっぺを真っ赤にうろたえた。
「これか? 良いだろ! こないだのドレスの写真、そのうちの1枚をデスクトップに設定したんだ。せっかくいっぱい撮ったからな。これからしばらく日替わりで変えようと思ってよ、」
ははっ!
嫁の写真を壁紙設定、我ながら良い考えだ。
これならいつでもユリが見れる、……つっても、俺が現場に出なければ、毎日事務所で一緒だけどよ。
ま、良いじゃねぇか。
ヨソの女を壁紙にしたら問題あるけど、自分の嫁なら問題無しだ。
なのによ、
「マ、マコちゃん、ダメだよぉ! だって、ほら、その、みんなに見られたら恥ずかしいもん! そ、それに、ここは会社だし、」
両手をバタバタさせながら、耳まで真っ赤にさせている。
なんだよ、ダメか?
「ま、会社だけど社長は俺でウチは基本自由な社風だ。それによ、ジャッキーの机を見てみろ。弥生の写真とマジョリカの絵を飾ってんだろ。それと同じだ。……つーかよ、嫁の写真うんぬんよりも、弥生の机の酒瓶の方が気になるわ。自由すぎるだろ、ったく」
「ま、待ってマコちゃん! 弥生さんを叱らないで、お酒の瓶が机にあるのは、あるのは、あるのは……お、お祓い! お祓いに使うからだよ、」
「それにしてもなぁ、一体何本置いてあるんだ。こりゃあ今度注意しねぇとな」
「マ、マコちゃん!」
「んー? なんだぁ? 弥生を叱らねぇでほしいのかぁ? じゃあ、ユリの写真はこのままでいいよな? 良いなら叱らねぇ」
「えぇ……! マ、マコちゃん、それとこれとは話が違うのでは……」
「そうかあ?」
「そうだよぉ」
ははっ!
ユリはおもしれぁなぁ。
弥生の机に酒はあるけど仕事中に飲むで無し、ホントはよ、叱るつもりはまったくねぇ。
なのにユリは焦ってる、弥生を庇ってしどろもどろになっている。
可愛いな、可愛いからついついイジワル言っちまう。
困った顔が愛しくてたまらねぇ、……とニヤケテいたら、いつの間に出勤したのか、エイミーが事務所の中に入って早々、
「あっまーーーーーーーーーい!」←ニヤニヤニヤ
『うっなーーーーーーーーーん!』←ニャニャニャ
大福と一緒になって、俺以上にニヤケテたんだ。
鼻の頭を真っ赤にしながらニヤニヤしているエイミーは、自分の席にリュックを降ろして俺とユリを交互に見たあと、
「話は聞かせてもらいましたよ。朝からめっちゃ甘かった。仲良きことは美しきかなですね、いやホント。で、実は僕達、5分前には事務所に到着してたんです。ドアを開けようと思ったら、社長のデカイ声が聞こえてさ、って……ちょっと! 僕にも見せてくださいよ! ユリちゃんのドレスの写真!」
『うっなーーーーん!』
ワクテカ顔でそう言ったんだ。
ユリは慌てて「えっ! ちょっと待って! は、恥ずかしいです!」両手をブンブン振っていたけど、俺は俄然ノッてきた。
「なんだよ、そういうコトか。良いぜ、見せてやっても。ただしハンカチ用意しろ。スッゲェ綺麗だから、尊すぎて涙がでるぜ? 言っておくが冗談じゃねぇからな。ウチの親父は夜中にしみじみ写真を見ながら泣いてたからよ」
これはマジな話だ。
ま、無理もねぇや。
ユリは本気で可愛いからな、あと……それだけじゃねぇ。
昔親父が若い頃、今の俺と同じように、母ちゃんとドレスを見に行ったのを思い出したと言っていた。
____母さんもな、ユリちゃんと同じくらいドレスが似合ってた、
____綺麗すぎて……私は泣いてしまったんだ、
ってよ。
親父が泣いたと聞いて、エイミーはふっと目を伏せこう言った。
「大和さん、泣いちゃったのか……僕、気持ちがワカル気がするよ。今までずっと息子と2人暮らしでさ。その息子はデカくてゴツくてイカツくて、そんなのとずっと一緒にやってきて、ココでいきなりユリちゃんみたいな可愛い娘が出来たらさ、そりゃあ嬉しくて泣いちゃうよ」
ちげーわ、そーじゃねーわ、母ちゃん思い出したんだっつの。
つーか失礼なヤツだな。
ホントはよ、反論しようと思ったんだが、100%否定しきれねぇからココは黙って聞いていた。
確かに今まで野郎の2人暮らしでよ、花がねぇトコこの上なかった。
ユリが来てから家の中がスッゲェ明るくなったんだ。
「ユリちゃんのドレス姿……見たら僕もガチ泣きするかも。でも見たい、絶対見たい! 大丈夫、ハンカチあるし、みんなの分のおやつもあるし、もちろんお茶も煎れちゃうし、だから見せて! 僕にも幸せ分けてー!」
『ななーーーん!』
両手をあげて飛びつく勢い、ははっ!
そんなに見てぇか!
「よっしゃ! じゃあ、幸せを分けてやる! みんな俺の席に集合だ。メモリーには百枚以上入ってるからな、見ごたえあるぞ! あ、そうだ、写真を見たらエイミーの意見も聞かせてくれよ。ドレスがよ、どれもこれも似合っちまうから決められねぇんだ」
ドレスの写真を恥ずかしがってたユリだけど、女子力のあるエイミーの意見が聞けるならと乗り気になった。
お茶も菓子も用意して、椅子を寄せてみんなで集まる。
なんだよなんだよ、楽しくなってきたじゃねぇか!
この後、本来なら交通費の精算をするはずだったエイミーは、そんなモンはそっちのけで写真を見てた。
時々鼻をズルズルしながら「綺麗だね、良かったね、嬉しいなぁ」と、何度も何度も言っていた。
去年の春に。
エイミーはユリの過去を……母親が殺された、あの夏の日を霊視した。
ユリにとって一番辛い出来事だ。
それを視たから、知っているから、だから余計に感情が刺激されてしまうのか____
____写真を見続けてる途中、
エイミーはハンカチを取り出すと後ろを向いた。
そして自分の目に強く、強く押し当てたんだ。




