17・もし叶うのなら、君のことを
最終話まで連日投稿です。
体の痛みで目が覚めた。
視界いっぱいに広がる天井に目をさまよわせ、しばしぼんやりしてからハッと体を起こす。知らない部屋だった。
ここはどこだ。彼女は。
「……っ痛う」
予想外に走った側頭部に走る鈍痛と、腹部のじんじんとした痛みを感じてうずくまる。
痛みで思考がまとまらない。考えることはたくさんあるはずなのに。
不意に、脇から胸倉を捕まれた。ぐらりと揺れる視界の向こうに見知った顔が映る。
ひどく機嫌の悪そうな、壮年の男の顔。
いるはずのない上司の姿に、ウィオルは眉を寄せた。
「ボス……?」
「あほたれ。突然辞表を置いていなくなるような奴の上司になった覚えはないわ」
「ここは……?」
ぼんやりと問えば、深々と嘆息したデガンが目の前にあった椅子に腰を下ろした。がしがしと乱暴に頭を掻く。
「お前、教会に捕縛された上で放逐されたんだよ。俺んところに引き取り命令が来た。……ったく何やってんだ」
「捕縛」
脳裏にリサの姿が閃いた。逃げろと言っても逃げられず、立ち竦む姿が。
ウィオルは捕縛された、では彼女は。
「いいか、ウィオル。お偉い神官様から伝言だ。“全て忘れろ”……意味は分かるな」
苦々しげに吐き出されたその台詞で全て分かった。
一人で逃げるには、リサは優しすぎた。
黙っていなくなれないほどには、律儀な彼女を知っていたのに。
本来ならウィオルはそのまま放逐される立場ではないことは、本人がよく分かっている。
巫女を連れ回したその罪を問われない理由。……リサが何か手を売ったのだろう。
交換条件、などという面白くもない言葉が思い浮かんだ。
デガンが引き取り役に任命されたということは、彼も某かの説明をされているのだろう。渋面のまま口を開く。
「なあウィオル。お前これからどうするんだ」
問われ、ウィオルは我が身を見下ろした。見飽きるほど見てきた自身の体。
自分より遥かに小さな体を思い出す。
声をあげることすらできず、涙を溢した顔を思い出す。声をあげて泣いた顔も。
ウィオルは拳をきつく握った。
答えなど、今更だ。とっくに答えは出ている。
「俺は行く」
「……そう言うと思ったよ」
諦めきった顔でデガンは肩を竦めた。
「すまん」
「まあいいさ。諦めた。……なあウィオル」
立ち上がったデガンはウィオルの頭を叩いた。ぐわんと目前に星が散ったウィオルは頭を抱える。
「行くからには振り返るなよ。後はどうにかしてやる」
静かに告げられた台詞に、痛みが引いた気がした。
頭が冷える。
言葉を噛み締めた。自分が放り捨てたものと、拾おうとしているものの重みを静かに感じる。
それでもウィオルは、もう道を選んだのだ。言われずとも振り返りはしない。
きっと泣けずにいるだろう彼女を、迎えに行こう。
彼女を縛るものが少しでも軽くなればいい。そう思った。




