15・空を仰ぐ
長い一週間が過ぎた。
馬上での有紗はいつも何処か遠い場所を見ていた。
その視線を追い掛けてみるも、あるのは雪原から荒野へと景色を変えた景色ばかりだ。
有紗の心の中は掴めずとも、お互いの距離は少しずつ近づいた。
この関係は何だと言葉で問われたら返答に困るが、居心地は悪くない。
二人きりで荒野を駆けていると、追われていることなど忘れそうになる。
彼女とこうして、旅をしながら生きていくのも悪くない。
そう考えている自分に気がついて、ウィオルは苦笑いする。
今まで、誰かと共に歩く人生を想像したことがなかったから、何処かこそばゆい。
「ねぇウィオルさん」
声をかけられて見れば、視線を足下に落とした有紗がいた。
俯いた鼻の頭が寒さで赤くなっている。
「あとどれぐらいで町に着く?」
「ああ、あと1日くらいかな」
「……そう」
目的の港町まで、あと僅か。
あの逃走からめっきり笑わなくなった有紗は、またふつりと黙りこむ。
ウィオルは黙ってその頭に手を置いて、ぐしゃぐしゃと掻き回した。フードがぐしゃっとなったが、気にしない。
ウィオルは有紗の頭を撫でながら思索に耽る。
時折寄る町で聞き集めたところによると、追手は今ウィオル達がいる場所よりも西の方を中心に探し回っているらしい。そちらの方角には王都がある。
あとどれぐらい猶予はあるのだろう。
きっと国外までは追いかけてこれまい。
だからこそ相手はウィオル達が国外に出る前に決着をつけようとするだろう。
ウィオルが無意識にわしゃわしゃとし続けていると、下の有紗が不意に肩の力を抜いた。こてんともたれてきたのを受け止める。
「どうした?」
「少しだけ、このまま」
疲れたのだろうか、目を閉じる彼女が馬から落ちないよう片腕で抱える。
痩せたな、という感想は胸の内に留めた。
言葉の代わりに吐いた息が白く凍えた。
鼻先をちらちらと雪花が舞う。
曇天を見上げ、また息をつく。
旅が終わったら、そしたら自分はどうするだろう。
辿り着いたその町で、力仕事でもしようか。それも悪くない。
そこまで考えて、自分の未来図に当然のように有紗を描き込んでいることに気がついた。
出会ってからたった二週間ほどなのに、ずっと長く一緒にいる気がしていた。
ちらりと腕の中の彼女を見遣る。
乗り掛かった船だ、何処に辿り着こうとも最終地点まで行ってやろうではないか。
そしていつか、彼女が笑えるようになればいいと思う。
現状を楽観視しているわけではないが、そう思った。




