14・積もりゆく
恐れていた事態になった。
とうとう、ウィオルを取り返しのつかないところまで巻き込んでしまったのだ。
残された手段は、逃げ続けるだけ。
雪原の町を出て、1日。ウィオルは未だ馬を駆けさせている。
追っ手を警戒してのことだろう。短い休憩を挟むのみで、進みを途絶えさせない。
「ウィオルさん、もう充分だから」
下ろして、ついてこないで、と拒絶しても約束を楯に断られる。
馬を走らせながら、穏やかな声で諭された。
「今離れても、あまり意味がない。それなら約束通り港町に向かう方が有意義だ」
港町には他国からの貿易船が集まる。つまり、他国への道が拓ける。
そう言い聞かされては、有紗も黙る外ない。
それでもこの男に国を捨てさせることは、有紗の気持ちが許さなかった。これ以上何かを捨てさせるわけにはいかない。
辿り着いたのは、大河に沿うように建設された町だった。
消耗品を補給するため、町には立ち寄る必要がある。
一つ目の町と比べて大きく発展した町で、一晩の宿をとった。
有紗は夜営に慣れておらず、疲労が溜まっていることはウィオルにはお見通しだったようだ。
言われるままにベッドに潜り込み目を閉じたが、中々眠りは訪れなかった。
この世界に来てからのことが脳裏を巡り、後悔ばかりが思い出される。
ぐるぐるとしていると、扉の開く音がした。
ウィオルは少し飲みに行くと言っていたから、帰ってきたのだろう。
ぎし、と床の軋む音。
目を開ける気になれなくて、有紗は狸寝入りを決め込んだ。
一歩、二歩、三歩。
しゃがみこむような気配の後、ベッドの片側が沈む。
この部屋は夫婦という名目で借りたので、ベッドは一つだ。
深く被ったフードは、二人の年齢差を誤魔化してくれたらしい。然程怪しまれることもなく、ウィオルが書き付けた偽りの名前は受理されて、この部屋に案内された。
恐らく、必要以上に近づかないようにしてくれているのだろう。
体が触れることはない。
ふわりと感じたのは微かな酒臭と、仄かな体温。
生身の人の気配に、有紗は泣きそうになった。
この冷たい世界で確かな体温を持ったヒト。
有紗が、巫女じゃなかったら。きっと会うこともなかった。
ねえ、少しくらい夢見てもいいでしょう。
当たり前にこの世界に生まれて、武骨な衛士に恋をする。
そんな日々を、想像することくらい。
手繰り寄せた幻想は、そこでプツリと途切れた。その先を想像するには有紗は経験不足で、疲れすぎていた。
不意に、髪に手が置かれてすくみそうになった。
酔っているのだろうか、ぐしゃぐしゃと掻き回される。
赦された気がした。この場所に居てもいいと。
この世界に来てから言い聞かされたように、カミサマなんてモノがもし居るのなら。
もう少しだけ、このまま。そっとしておいて欲しかった。




