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雪花舞う  作者: 芍薬
12/19

12・かなうのなら

 一晩明けると嵐は去っており、もう見慣れた灰色の空からはちらほらと雪が降る。

 穴ぐらを出た2人は今日も馬上の人となり、雪原を進んだ。

 あと1日走れば町に着くとウィオルが教えてくれた。

 この世界では町と町の間が離れていることが多く、移動には馬や馬車を使うのが一般的だ。


 もうクレイドルにも手配が回っただろうか、と考える。

 この国の中枢にいる人々は、有紗を逃がしたくないらしい。貴重な(イケニエ)であり、知ってはいけないことを知った女。

 わざわざ召喚までしたものに、逃げられては困るのだろうと他人事の様に思う。


 嘆息して天を仰ぐと、有紗の後ろで手綱を握っているウィオルが「どうした?」と静かな声で問う。

 何でもない、と曖昧に首を振った有紗は少しだけ苦く笑った。

 この人は本当に優しくて、お人好しだ。


 だからこそ、町に着いたら今度こそ告げなくてはならないと、そう思う。

 町に着いたら、というのが自分で勝手に定めた期限。

 そう、町に着いたら今度こそさよならしよう。

 優しいこの人は、有紗を放り出せない。だから、はっきりと言葉にしなくてはいけないのだ。


 ウィオルと旅に出て、2日が過ぎた。

 寡黙なウィオルとの二人旅は、天候に悩まされつつも淡々と進んでいる。

 有紗も口数が多くないので、自然と会話は少なくなるが、決して居心地の悪い沈黙ではない。

 ウィオルは話しかければ言葉を返してくれる。


 聖女として過ごした半年ほどの期間。

 あったのは一方的な要請と、それに付随するやり取りだけで『会話』が成立したことなどなかった。

 聖女として形ばかりは敬われ丁重に扱われたが、心の伴わない言葉は空っぽで有紗の中には響かなかった。

 当時は言われるままの日々を過ごすことで精一杯で、周りなど見えていなかったことを、今更ながら痛感する。


 ウィオルと別れることを思うと胸がじくりと痛んだ。

 きっと彼は有紗の正体に感づいている。それでもただのリサとして扱ってくれる。

 その事実が泣きたくなるほど嬉しくて、胸が痛い。


「リサ、外れてる」


 不意にのびてきた手が有紗の外套のフードをかけ直してくれる。

 見上げると、ウィオルはそのまま有紗の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。

 何となく悔しかったのでやり返してやる。

 そしてどちらからともなく、ぶはっと吹き出した。何をやっているのだろう。

 久々に笑ったので、少しだけ涙がにじんだ。


 ああ、このまま。時が止まればいいのに。

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