12・かなうのなら
一晩明けると嵐は去っており、もう見慣れた灰色の空からはちらほらと雪が降る。
穴ぐらを出た2人は今日も馬上の人となり、雪原を進んだ。
あと1日走れば町に着くとウィオルが教えてくれた。
この世界では町と町の間が離れていることが多く、移動には馬や馬車を使うのが一般的だ。
もうクレイドルにも手配が回っただろうか、と考える。
この国の中枢にいる人々は、有紗を逃がしたくないらしい。貴重な犠であり、知ってはいけないことを知った女。
わざわざ召喚までしたものに、逃げられては困るのだろうと他人事の様に思う。
嘆息して天を仰ぐと、有紗の後ろで手綱を握っているウィオルが「どうした?」と静かな声で問う。
何でもない、と曖昧に首を振った有紗は少しだけ苦く笑った。
この人は本当に優しくて、お人好しだ。
だからこそ、町に着いたら今度こそ告げなくてはならないと、そう思う。
町に着いたら、というのが自分で勝手に定めた期限。
そう、町に着いたら今度こそさよならしよう。
優しいこの人は、有紗を放り出せない。だから、はっきりと言葉にしなくてはいけないのだ。
ウィオルと旅に出て、2日が過ぎた。
寡黙なウィオルとの二人旅は、天候に悩まされつつも淡々と進んでいる。
有紗も口数が多くないので、自然と会話は少なくなるが、決して居心地の悪い沈黙ではない。
ウィオルは話しかければ言葉を返してくれる。
聖女として過ごした半年ほどの期間。
あったのは一方的な要請と、それに付随するやり取りだけで『会話』が成立したことなどなかった。
聖女として形ばかりは敬われ丁重に扱われたが、心の伴わない言葉は空っぽで有紗の中には響かなかった。
当時は言われるままの日々を過ごすことで精一杯で、周りなど見えていなかったことを、今更ながら痛感する。
ウィオルと別れることを思うと胸がじくりと痛んだ。
きっと彼は有紗の正体に感づいている。それでもただのリサとして扱ってくれる。
その事実が泣きたくなるほど嬉しくて、胸が痛い。
「リサ、外れてる」
不意にのびてきた手が有紗の外套のフードをかけ直してくれる。
見上げると、ウィオルはそのまま有紗の頭をぐしゃぐしゃと撫で回した。
何となく悔しかったのでやり返してやる。
そしてどちらからともなく、ぶはっと吹き出した。何をやっているのだろう。
久々に笑ったので、少しだけ涙がにじんだ。
ああ、このまま。時が止まればいいのに。




